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12 魔女っ子エルザ、再び登場。

第一話で、散々な目に合った、黒魔導師のエルザに再び出会います。


あれから彼女はどうしていたのでしょう?

ロンは午前中の修行を終え、ギルドの受付に足を向ける。


昨日は目ぼしい依頼が無かったので、今日の分の稼ぎが無い。何か新しい依頼がないか、受付のミナに確認しに来たのだ。


受付には先客がいた。

黒いローブに、赤い髪。黒魔導師のエルザだ。


ロンが近づくと、受付のミナが気がつく。


「おはようございます。今日の訓練は終了ですか?」


ミナはにこやかに挨拶する。何時如何なる時も、受付にはミナがいる。若いのによく気がつくし何より良く働く。見ない日は無い。


ミナに続き、エルザもロンに気がつく。

「っあ」と、小さく呟いたあと、少し気まずそうにペコリと頭を下げる。


「あの、えっと。おはようございます、チェイニーさん。その節は、その、お世話になりました。」


不粋なロンは、エルザの気まずそうな顔に気がつかない。


「お! おはようエルザ。久しぶりだな。もう、おしっこチビッたりしてない?」


たちまち、顔を真っ赤にして激怒する、エルザ。


「わわわ! 私は! おしっこなど! チビって.......」


そこで、突然うな垂れる。


「チビって... いる... のだ。」


すっかり消沈して肩を落とすエルザを見て、自分の不用意な軽口に閉口する。


「いや、悪かった。僕の配慮が無かった。あの散々な初陣じゃ、しょうがないよ。僕だって、きっとああなってたさ。」


慌てて取り繕うとするが、もう遅い。さらにミナが受付から冷ややな視線を向けて来る。まるで刺さるようだ、痛い。


「いえ、いいのです」ポツリと呟くエルザ。


「チェイニーさんは、門番さんの所でも、庇ってくれましたし、私がちびった事を、言いふらたりしませんでした。」


そこでエルザはさらにうな垂れる。


「あの後、私、二回も、ちびったんです...。」


「お、おう...。」


「そこでついた、不名誉な二つ名が、『おしっこチビリ』なんです。」


どうやら話しを聞いてみると、魔物を前にすると緊張と恐怖のあまり腰を抜かしてしまうようだ。さらにヘタリ込んでいる所に仲間からの怒声と、魔物の咆哮を浴びて緊張と恐怖が頂点に達するとやってしまうらしい。二回目に至ってはそのまま失神してしまい、おしっこまみれのままギルドに担ぎ込まれて他の冒険者だけでなく、ギルドの職員にまでこの失敗が露見する事になったという訳だ。


「それ以来、どなたもパーティを組んでくれなくなってしまいました。」


「おしっこチビリ」は役に立たないだの、験が悪いだのと言われパーティに入れて貰えない。だからと言って単独で依頼こなそうにも初心者中の初心者で、山野に自生する薬草の知識も乏しく、採取依頼も受けれない。


最近は専ら、草むしり依頼をこなして、なんとか糊口をしのいでいるらしい。


「ですが、私の草むしりって評判が良くて! なんせ、こう見えても魔術学園を首席で卒業してますからね。草むしりなんて朝飯前ですよ。風の魔法で草を刈って、炎の魔法で焼いちゃうんです。そうすると、お庭が、あっという間に綺麗になるんです! ついでに、お芋も焼けちゃうんで、近所の子供も大喜びで...」


そこまで言って天を仰ぐ。その目からは大粒の涙が溢れ落ちる。いくつも、いくつも。


「うぅ... ぐしゅ... うわ〜ん!」


堰を切ったように号泣する。慌ててミアもロンも慰めようとするが、溜まっていた感情が溢れ出してしまったら、もう止まらない。


「うわ〜ん! こんにゃ、こんにゃハズでは無かったのに... うぅ... 頑張って学園を卒業して... ヒック... お父さんと、お母さんに...うわ〜ん! 」


ロンは何故こうなったと戸惑いながらも優しくエルザをなだめる。


「よしよし、まあまあ。なんだ、薬草採取するってんなら、僕と行こうじゃないか。僕はこう見えても、薬草の知識は豊富なんだ。色々と教えてあげるよ。」


「うう...ぐしゅ... いいんですか? 私おしっこチビリですよ。嫌われ者ですよ?」


「まあ、僕も似たようなもんだからな。コレも何かの縁だよ。何か、丁度良い依頼がないか聞いてみよう。」


そう言って受付の方を見る。ミナは一つ頷いて、依頼表を開ける。


「ミナ、何か採取系の依頼はないの?」


「ええと、ですね。ここの所、主だった薬草採取の依頼はロンさんが片付けちゃってますからね。...あっそうだ。魔鉱石の採掘依頼なら何件か来てますね。」


ロンは、「うーん」と唸りながら依頼表に目を落とす。


「魔鉱石ね。僕は魔鉱系の探知は苦手なんだよね魔力低いから。...ん? まてよ。」


そう言って、エルザに振り返る。学園首席って言ってなかったか?


「エルザって、まさか魔力探知って出来る?」


「え、あ、ハイ。魔力の各種属性探知までは出来ます。」


「え、なに!? うそ! 属性探知も出来んの?」


「よし」と一人頷いて、ロンは依頼表に再び目を落とす。


「よし、ミナこれだ。カラボス山の眠りの洞窟。ここの魔鉱石採掘依頼を受けるよ。ここなら、強い魔物もいないし、なによりエルザ向きだ。」


「ハイ。受付ました。お気をつけて! エルザちゃんも頑張ってね。」


「え!? あ、ハイ、頑張ります、え?え?」


急な展開に思考が追いつかないエルザ。


「よし、出発だ。何ボーっとしてんの。行くよ、エルザ。先ずは、道具屋で準備を整えよう。」


やっと状況を理解したエルザは、顔をほころばせて大きく頷く。


嬉しすぎて、チョット、それこそ、もう本当にチョットだけチビった事は、秘密だ。



道具屋にて、ロンが薬草や傷薬を物色している姿を眺めながらエルザは不思議に思う。


「チェイニーさんって、白魔術師ですよね? どうして傷薬ばっかり探しているんですか? 魔力の回復薬はあっちですよ。」


「あぁ、そうか。エルザは知らないのか。僕は、白魔術師は辞めたんだ。今は別の職業をやっている。」


「あ、そうなんですか。道理で、チェイニーさんから魔力をあまり感じ無い訳です。」


「うん、まあね」と答えながら、魔力は前から低いけどねと心中で呟く。


「そう言えば、あまり見た事のない、服装ですね。何の職業に転職したんですか?」


その素朴な質問に、言葉を詰まらせるロン。


「う、今やってるのは、まったく新しい職種なんだ。素手で魔物を殴って倒すんだよ。」


「そんな職業きいた事が無いですね。何て言う職業何ですか?」


「名前は今考えているんだ。」


「え!? まさか、その職業って、チェイニーさんが考えたんですか!」


「うん、そうなんだ。それで、敵を拳で殴るので、職業名を「ぶん殴り屋」ってのに、しようとしたんだケド、止められてね。」


「ええ、それは止めた方が良いですね」と、エルザにもバッサリ切られる。


「え!? じゃあ、どうすれば良いのさ!」


ロンの悲痛な叫びにエルザは暫しの黙考の後。


「拳で攻撃するのですよね? それなら拳士とか、拳術士とかじゃないですか? 剣を扱うから剣士なんですし。槍を扱う方は槍術士って呼ばれてますよね。」


「あ、ホントだ。何でそんな簡単な事を、思い付かなかったんだろう。」


そこで、はたと気付く。


「あー。でも、僕は戦闘職の奴等には、あまり快く思われて無いからなぁ。似たような名前を付けたら怒る連中が、居るかもしれない。」


と言いながら腕を組む。しかし、エルザは事もなげに答える。


「拳法師とか拳法家とかはどうですか? 私達、魔導師とか魔術師のような魔法使いって、研究家が多いから、魔法師とか魔法家って呼ばれますよね。

チェイニーさんって、自分で新しい職業を考えたんですよね? それって、拳一つで戦うって言う、戦法を研究する人でもある訳ですよね。

だから、拳法師とか拳法家。」


すっかり商品を物色する手が止まってしまう、ロン・チェイニー。この子は天才か? いや、自分とグリエロが馬鹿なだけか。


ともかく、素晴らしい。


「エルザ、スゴイぞ! じゃあ、どっちにしよう!? 語呂が良いのはどっち?」


え!? そこまで、丸投げなの? とも思う、エルザだが。何か認められるのは嬉しい。


「じゃあ。拳法家で。」


ロン・チェイニーは拳を振り上げる。


「よし! 僕は拳法家ロン・チェイニーだ!」



ここ、フーケ世界の片隅の、小さな街ウンドの、さらに片隅の道具屋の片隅に、とうとう拳法家が誕生した。


とうとう、念願の職業名が決まりました。


拳法家


です。


いつも読んでくださり、誠にありがとうございます!


ロン・チェイニーと、新しい相棒エルザを是非とも応援してあげてください。


よろしくお願いします。

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