そして俺はクズで無能な女神の部屋に。
いよいよ本編です。ご覧ください。
「安藤涼真くん。君は選ばれた人間だ。」
俺はそう声をかけられ目を覚ました。自分の状況を確認すると、光に満ちた何もない空間で椅子に座っていることがわかる。
「……いきなり変な空間に閉じ込められる不幸に選ばれた人間ですか?」
動揺しながらも、俺は、唯一視界に入る俺よりも上等の椅子に腰かけた女に、皮肉な響きを交えて尋ねる。
「そうだな。いきなりこんなところに連れてきたことは詫びよう。すまなかった。」
「……ところでここはどこで、あなたは誰なんですか。」
当然の疑問だと思う。この不思議な空間に来るのは初めてだし、この女の顔も見たことがないのだから。
「そうだな。君ら風に言えば……そう、神だ。神の中の1人といった方が正確だな。名はアメリオラシオン。アメリオと呼んでくれ。そしてここは私の部屋だ。」
「俺をどうするつもりですか。」
アメリオは少し黙って考え込む。
「君はさっき、ここにいることを『不幸』と言ったな。断じてそれは違うぞ。こちらでも多少は調べてある。君にとってはいい話のはずだ。」
ほう。少し面白そうな気もしてきた。
そう思ったとたんにアメリオがこちらに歩み寄ってきた。顔が近い。彼女は艶めかしい唇を開き、そっと耳元でささやいた。
「率直に言おう。君は異世界で、魔王になるのだ。」
……は?いせかい?まおう?なんで俺が。てか顔近すぎだろ!
アメリオの吐息が俺の耳にかかって妙にドキドキする。
クスリと笑って彼女は自分の椅子に再び腰をかけた。
「いやー実は最近調子に乗って勇者を転移させすぎてしまったのだよ。そのせいで勇者軍と魔王軍の均衡が崩れてな。こないだもお偉いさんに叱られたのだ。だから罪滅ぼしに魔王でも送ってやろうかなと。」
……淡々と、自慢げに話しているが、こいつ、クズだ。……結構美人だけど。
コン、コン。
ノックの音だ。どこから鳴っているんだろう。あたりを見回したがドアどころか壁すらない。
キョロキョロしている俺を見て笑いをこらえながらアメリオは言う。
「ほら、お前の部下が迎えに来たぞ。」
アメリオの指差す先には絵にかいたような悪魔が2体もいた。ドアもできている。いつのまに。
「魔王さま、お城までお送りいたします。」
そういうと悪魔は俺の体を持ち上げ、またもどこから出したのかよくわからない籠へ乗せる。
「いや待てよ!なんでそんな無理やり。ちょ」
救いを求める目でアメリオを見ると、彼女は紙切れを差し出し、にっこりとこう言った。
「私に話があるときはこの呪文を唱えるといい。体には気を付けるのだぞ、涼真。」
……仕方ない。もともと俺は日常から逃れたかったんじゃないか。
そう開き直った俺はアメリオに手を振り、悪魔とともに部屋を出た。
そして俺は異世界に転移した。
ありがとうございました。
次回からいよいよ異世界での話になります。ご期待ください。