会長様の君に1
あやつの孫は雨霧季雨と言う。そう今、私の目の前にいるあるこの青年が季雨であり、仮契約を交わした小娘の想い人であることは恐らく間違えないだろう。
第一に私があやつの血縁を間違えるはずがない。特に季雨はあやつの遺伝子を強く引き継いでいるからな、間違えようがないとも言えるのだけれど。
においさえも、あやつと季雨は酷似しまっているのだ。……生まれ変わりだと勘違いしてしまうほどにな。
しかし、季雨はあやつの生まれ変わりではないのはわかっている。
季雨が産まれた時、あやつはまだ生きていたのは間違えないのだから。
季雨の名付け親はあやつで、私は頭を抱えながら悩む姿を見ていたから。
私はあやつではなく、季雨を彼自身として見てやらなくてはならない。
勿論、私は始めからそうするつもりだ。……誰かの身代わりをすることがどんなに辛いことか、私は痛いほどわかっている。
だから私はけして、あやつの名前で季雨を間違えて呼ぶことは許されない。
「季雨」
「部屋へと戻ろうか。私はお前の側に居る、お前を一人にはけしてしないよ」
私はそう言うと、季雨は口元だけぎこちなく緩ませ、私を抱っこする。
……悪くないな。あやつは抱え方が雑だったからあまり抱っこされるのは好きではなかったが、季雨の抱え方は丁寧だ。
あやつと季雨の違いを早速見つけたぞ。ふむ、こやつらの似てないところを探すのも、良き暇潰しになりそうだな。
「……そうだな」
私の会話に対して、季雨はそう返事をする。その時にはもう無表情に戻っていたけれど、何処か晴れやかな表情をしていた。
ふふ、お前は隠しているつもりだろうが、私にはわかっているぞ。……本当は一人でいることを何よりも嫌う奴であることを。
私の定位置は決まったも同然だな。