出会い
ハンカチの持ち主のにおいは記憶した。
あとはその者と出会うだけ、そして……私がその者を小娘に導くのみ。
小娘と出会う運命ならば……私とその者が出会うことも必然であるからな。
私は思案しながら、学園内を歩いていると……とある場所だけが晴れながらも、その場所だけが雨が降っておる。
……狐の嫁入りか。
珍しいものよ、久しく見たなぁ。吃驚することに、とある青年を中心にして降っておる……成程、私は導かれたと言うことか。そしてこの青年を導けと言うのだな。
あの小娘と出会ったことが必然だったのではなく……、この青年に出会うことが私にとって必然だったと言うことか。
私を“椿”と呼んでいた男も……そのような摩訶不思議な体質を持っていたからな、……奴は私の真名を知っているはずなのだ。
その男には、目に入れても痛くないってくらい愛でていた孫がいたはずだ。
と私は考えながら、その青年の側へと足音を立てずに近づいていくと……。
「来てはいけない、猫又よ。…………まだその命が惜しければの話だが」
と青年は言う。
ああ、懐かしいことよ。あの男の声と姿形そっくりだなぁと考えながらも、私は側によることをやめはしなかった。
そんな私に青年は吃驚したような表情を見せた後、私に呆れたようにこう言う。
「……惜しくないのだな、猫又よ」
と悲しそうに青年はそう言った後、私の方へと振り返り……目だけで驚きを表現するかのように、限界まで青年は目を見開いた。
そして声を振り絞る。
「……“椿”!!」
やはりか、私が仮契約しか出来ないのは……まだ、“椿”と言う名に縛られているからで、あの小娘と仮契約が成立したのは……主の未来に関わることだったから。
……呼び方も、あやつにそっくりだな。
これだから、あやつの血縁には敵わない。何故だろうか、……こ奴らを放っておくことが私には出来ないのだ。……出来ていたら気まぐれな私のことだ、もうとっくにやっておる。
……特に気まぐれな猫又中でも気まぐれな私を代々、契約するとは……あやつの血縁には参ってしまうな、本当に。
「何だね、小僧。随分とあやつに似てきたではないか。……まあ、あやつと違って落ち着きのある青年に育ったものよ、反面教師ってヤツだろうかね。すまぬな、力を一気に失ったばっかりに……お主を一人ぼっちにしてしまってな」
その声で、その名を呼ばれてしまえば……嘘なんかつける訳がなかろう?
私があやつらの前から姿を消した理由を、嘘がつける訳もなく……。
私が望むのは、あやつの血縁の幸福。
……だが、時にあやつの血縁の幸福の為ならば、嘘をつかなければならぬ時だってあるのだ。どんな手段を使おうと……私はこの青年の幸福を望むのであればの話だが。
少なくても、あやつの息子よりは幸福を祈っておるのは間違いがないのだが。
あのハンカチのにおいを記憶したと同時に、仮契約が終了後は……この青年の命が尽きるまで、この私の時間はこの青年のものとなることが私の“必然”となったと言うことだから。
支えべき者ではなければ、私はまたあやつらの前から姿を消すことになる。
私はあやつの息子ではなく、……どうやらあやつの孫と契約すべきなようだ。