仮契約
「やあ、初めまして。お嬢さん?」
私は猫又の姿のまま、ハンカチを握りしめる女子学生に話しかける。
彼女は動揺することなく、私の姿を冷静に探し、私の姿を視界にとらえたと同じに彼女は地面へとしゃがみ込む。
ほわほわとした、不思議なオーラをまとう彼女からは霊力は全く感じない。
それなのに彼女からは、動揺をしているような雰囲気には見えなかった。
……全く、猫又として長年生きていると不思議な小娘と出会うものだ。
と考えながらも、良い暇潰しになることを願いながら私は彼女にこう聞く。
「……ここは男子校なはずだが?」
「そうですねぇ~、猫さん。私はこのハンカチをここの学生さんに借りたのです。……その瞬間、何故か恋に落ちました。人が恋に落ちる瞬間って、良くわからないものなんですねぇ」
と私の問いに対して、彼女はのんびりのほほんとした口調でそう答える。
こう言う娘を不思議系と言うのだろう。
この娘はきっと、私と仮契約を結ぶだろうと……長年猫又として生きてきた、私の勘がそう言っている。
まあ、この小娘ともたまには話に行くとするか。私がずっと一緒にいることになるのは、きっと彼女が恋する相手側の男子になりそうだしな。
この小娘と話すのも、なかなか暇潰しになるものよ。……そのハンカチの持ち主に興味を抱いてしまったし、それに……何よりも“あの男子生徒”のことが気になるからな、観察対象として。
「恋に落ちる瞬間など、人それぞれなのだ。人の心理とはいつの時代になっても良くわからないものよ、お嬢さん。心理を学ぶのではなければ……深くは考える必要はないのではないか?」
「そうなんですか〜。あっそうそう、猫さんってば聞いて下さいよぉ〜」
と私の言葉に、彼女はのんびりと返事をした後、何かを聞いてほしいと頼んできたので、「良かろう」と私は返事する。
「このハンカチ、ここの今の会長さんのものらしいんですよ、猫さん」
と彼女はとんでもない爆弾発言をしてくれた。何故、ハンカチの持ち主がわかっていて、ハンカチを返す事が出来ていないのだ?
と言うか、そもそも何故ハンカチの持ち主が誰だということを、知ることが出来たのかが、謎過ぎる。この小娘は言葉が足りなさすぎるのだな。
小娘もそのことに気づいたのか、付け足すようにこう続けて言った。
「この高校にお兄ちゃんがいるんですよ。だから似顔絵書いてメールで送ったら、『キラキラ集団……じゃなかった、桃原高等学校の現生徒会長だよ』って教えてくれたんです」
とその説明に、私は「なるほどな」と彼女の話に相づちをうつ。
これはこれは、仮契約しがいのある内容だな。この小娘と仮契約をするか。
「時に小娘よ」
「私と仮契約をしないか?」