進む君1
季雨に笑みが増えた。
季雨が良く出かけるようになった、……あの小娘はどうやら霊力を打ち消してしまう体質らしい。彼女のおかげで狐の嫁入りを呼んでしまう回数も減った。
だが……副風紀に笑みが消えた。何もかも失ったような屍のようだ。
副風紀は諦めたのか? ……風紀のことを。と、考えていると目の前に副風紀が居て、屋上を呆然と眺めていた。
あ……こいつ、死ぬ気だなとなんとなくそう思い、私は人型に化け、副風紀が次にする行動を阻止するべく腕を掴んだ。
「何をしてる、副風紀」
と、私がそう言うと、ぎこちない動きでこちらに向く副風紀。……その目には私は映ってはいない。
「……死ぬつもりでした。風紀委員長に避けられているような気がして、それが何故か辛くて。辛い理由は僕にはわからなくて……、でも気づいちゃったんです。僕、風紀委員長が好きなの、どんなに避けられようと彼が好きなの……。
記憶がなかろうと、風紀委員長がどんな存在であろうと……僕は!彼が必要なんです、だから必要とされないなら死んでしまおうと思って……」
と、感情の籠っていない声でそう言っている副風紀を見て……私は重ねた。
かつて体験した、自分の淡い恋が終わった頃の私の姿と……副風紀の姿を。
◇◆◇◆
何を会話しているのかは分からないが、幸せそうに微笑む季雨。
私はそんな季雨の姿を見て、穏やかに微笑んでいると……そんな本人が急に振り返り、真剣な表情でこう言った。
「……牡丹が椿に話があるって、明日彼女に逢いに行こう……」




