優しい彼
クスッ
カイトが笑っている。指の隙間から覗き見るが、優しい笑顔が素敵で頬が熱くなるのを感じた。
「ハルナ、俺はもう半年もずっとここから見てたよ。まあ、悪いとは思ってたけど。今まではどうする事も出来なかったし。だから、気にしないで。」
半年?
こんな片田舎の一般市民を巻き込んでのドッキリにしては、ずいぶん時間をかけて企画しているのね。と、感心してしまう。
そして半年間も盗撮されてきたかと思うと、困惑する。
困っている私を見てカイトが笑って言った。
「覗き見しようとか、そんなんじゃなくてさ、俺も半年前、突然ここに閉じ込められたんだ。最初は訳が分からなかった。でも、この部屋で過ごすハルナを見て、色々気づいたんだ。」
そっか。
半年前と言えば、このテレビを買った頃だ。盗撮用のカメラはコレに付いていたのね。
展示品処分でも、このサイズのテレビがサンキュッパなんて安すぎると思ったのよ。
電気屋で買った時からドッキリで騙される対象になっていたのね。
電気屋で、このテレビを買った時の事を思い出した。
「安いー!」
ってテレビの前でハシャギまくって、電気屋のお兄さんもドン引きな感じで買ったっけ。
それも撮影されていたかと思うと、今すぐ死んでしまおうかと即決したくなる。
「俺は仕事の時は、ここにはいない。でもハルナがテレビを見てると、あ、今見てるって感じる事ができる。それでね、この半年間色々試してみてね、今日みたいにテレビの中の俺を見てくれてる時は、コッチから話しかけることができるって気づいたんだ。」
「へぇー」
理解力の低い私は、抜けたような返事しかできない。
「でも、中々話しかけてるのに気づいてもらえなくてさ。ふふっ。今日は、俺、すごく嬉しいよ。」
嬉しそうに微笑む理想の彼。ドッキリでも何でもいいくらいキュンっとしてしまう。
「あああああ、だっダメダメダメ!でもっ、本当にダメなんですっ!こんな汚い部屋とか、汚い私っ…とか。テレビで晒されるのは、本当に困りますから。」
あたふたと、大袈裟に両手を顔の前で振る。
カイトは、少し考えてから、優しく話しかけてくる。
「大丈夫だよ。安心して。」
メロメロになりそうな優しいカイト表情に、もう騙されてもいいやって思ってしまった。