カイト
カイトはじっとこちらを見つめて、
「ハルナ、おいで。」
と、優しい微笑みで手を伸ばしてくる。
当然、テレビの中なので私の目の前に手を差し出されるわけではないけれど、酔いもまわってきてドキドキが激しくなる。
「ねえ、ハルナ。何か話そう。俺にはハルナしかいない。だから、ハルナに俺の事を知ってほしいし、ハルナの事をもっと知りたいんだ。」
懇願してくる本物。
これが現実なら、ドキドキしすぎて卒倒していたのに。
彼氏も、カイトに目元が似ていたから、頑張ってアプローチして付き合った。でも、似ているからこそ、彼氏は偽物だと痛感する事がしばしばある。それでも猫をかぶり、嫌われないように必死な自分…これが現実。
そう考えていると、色々、現実が物悲しくて
ハァー
と、大きなため息をついてしまう。
「ハルナ…。どうしたの?何かあった?」
テレビの中のカイトは、またまた心配そうに見つめてくる。
ここで、ふっと現実に戻り、一体何の番組なのか気になりだした。
リモコンを手に取り、番組表のボタンを押す。
…
…
反応しない。どうやら電池が切れたようだ。仕方ないのでパソコンで番組表を検索する。
この時間は、やはり、カイトが出ているバラエティ番組をしている。
「ねえ、ハルナ?」
カイトは少し退屈そうに呼び掛けてくる。
しかし、さっきからカイトが話しかけてくるだけで、番組としては面白くない。
とは言え、カイトが名前を何度も呼んでくれるのが嬉しくて、ニヤニヤしながら画面を見つめてしまう。
カイトは少し引いたような顔で
「ハルナって面白いね。でも、少し話を聞いてくれる?」
ああ、何かのCMね、と思い、酔い覚ましのコーヒーを入れにキッチンへ向かう。
ついでにCM中だからとトイレを済ませ、コーヒー片手に座椅子に戻る。
「ハルナ、コーヒーも好きなの?」
とても良いタイミングにこのセリフ。
本当に話しかけられているようで思わず、ドキンと心臓が高鳴る。
おつまみのバタピーをパクつきながら、熱々のコーヒーをふーふーする。
瞬間、口から、ピーナッツの欠片が飛び出て、思わず拾おうとしたら、コーヒーがこぼれ
「あっつー!!!」
っと悶絶してしまう。
こぼれたコーヒーは、ごく少量で、そこまで熱くはなかったが、若干の酔っ払いと化した私は、1人でも…いや、むしろ1人だから、やたら大げさなリアクションをしてしまう。
カイトは画面にしがみつくような格好で
「ハルナ、大丈夫?」
と、心配そうに覗き込む。