真白の中で
冬をモチーフに、独白っぽい感じで。
雪よ。
白く積もって溶け落ちるまで…どうか私を包んで。
彼の人に会える頃、芽吹くように目覚めるから。
白い淡雪がふわふわ舞う…冬。
銀の世界の中、貴方に出逢った。
吐く吐息が空へ昇る様が嬉しくて、ひとりはしゃぐ私を見ていた。
その優しげな表情が忘れられない。
寒空の下、一人温もりを纏っていた人。
濡れたような黒い髪が白く染まり始めていた。
―驚いた―
どれだけそこでそうしていたのか。
どれだけの時間…私を見ていたのか。
私もまた、長い間ひとりでいたから。
小さなブランコ、滑り台、雪のクッションが乗ったベンチ。
そして真ん中に大きな古い桜の樹がある公園で。
言葉はなくて、ただ見つめ合って。
聞こえるのは雪が重なっていく音。
―さらさら―
風もない、澄んだ冷たい空気。
外灯に照らし出されていく空間。
伸びる影は重なることなく、ただそこにあるだけ。
視線を交わしているだけなのに、次第に熱くなる胸の奥。
周りの雪さえも溶かしてしまいそうで…大きく息を吸っては冷やそうとした。
それでも熱は引いてくれなくて。
―熱い―
ずきりと痛む躰が私の動きを押さえつけ、彼に近付くなと言っている。
踏み出しそうになる足が指先から冷えていく。
微笑んでいたはずの貴方はいつの間にかマフラーに口元を埋めていて。
それでも逸らさない視線はどこかくすぐったさを思わせた。
ポケットに仕舞い込まれた両手は握られているのだろうか。
―もっと傍に―
近付いたら去ってしまいそうで…声を出せば消えてしまいそうで…。
軋む躰のまま、心だけが貴方の傍へ寄り添っていく。
意識だけ飛んで行きそうで、ふと我に返る。
このまま気を失えば、恐らく二度と光を見ることはない。
彼にあいまみえることもなくなる。
この冬を跨ぐことの難しさ…この躰のもどかしいこと。
出逢った貴方にもう一度…
―会いたい―
だから、そっと…腕を、指を動かして…笑って…。
ここで、この場所でもう一度、貴方と過ごしたい。
その気持ちを込めて、人差し指を桜の樹へ向けて指した。
貴方は少し驚いて目を見開いた後、その目を細めてそっと…頷いた。
通じたのかわからないけれど、何かが確かに伝わった。
交わした視線が解かれて、貴方は大きな足跡を残して行く。
―永遠―
終わらない冬だと、やむことのない雪だと思っていた。
私の頭に積もった雪が溶け出して、雫に変わって頬を流れる。
まるで涙の様だった…。
そうして静かに目を閉じて思う。
この躰がまた温かくなれば、今度はきっと…貴方に近付ける。
胸に点った灯がきっと、ぬくもりをくれるから。
―春―
雪が溶けた頃、私はきっと眠りから覚める。
そしてまたここへ来て、桜の降る下ではしゃぐから。
どうか私を見つけて、そしてまた微笑んで…。
そうしたら私は貴方に言うわ。
『一緒に桜を見ましょう?』
って。
幻想的な雰囲気を出したかったはずなのに、なかなかうまくいかない現実。
言葉は難しいです。。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。