ひとりかくれんぼ 2
テスト期間中に何やってんだと思いつつも投稿。
息抜きは大事だよね。
香也乃と友人になってから浩一の生活は一変した。
とはいっても別に生活のリズムが変わったわけではない。
ではどこが変わったのか?そう、それは浩一が香也乃の友達になった日の次の日の朝の事だった。
「おはよう浩一君」
浩一が玄関の扉を開けてまず目に入ったのは香也乃の姿だった。
「…………なんでいるの?」
「久しぶりに友達と登校するというのをしたくなってな」
「香也乃さん昨日帰ったのうちと逆方向だったよね?」
「その通りだが……何、心配はいらない。 この程度の労力は想定済みだ」
「そういうことを言ってる訳じゃないんだけど……」
浩一は呆れたように息を吐きながら長く友達がいなかった反動なのだろうかと思いを巡らせる。
そんな浩一のことなどお構い無しといった様に香也乃は彼の手を引いた。
「じゃあ行こうか。 早く行かないと人混みの中を歩くハメになる」
そう言って香也乃は浩一を促した。
浩一は苦笑しながら歩き始める。
驚きはしたが別にいっしょに登校するという彼女の望みを否定する気はない。
浩一も誰かと登校するのは久しぶりだった。
――――こういうのも悪くない。
そう思いながら二人、学校に向かうのだった。
前言撤回。
歩き始めてしばらくして浩一の頭に過ったのはそんな言葉だった。
突き刺さる視線、視線、視線。
二人と同様に早めに登校している者たちの視線だ。
まだ早い時間なので登校する生徒は少ないのだけが救いだ。
香也乃はそんなことは気にしないといった風に機嫌よく歩いている。
精神をすり減らすのは浩一ばかりだ。
「浩一君」
声をかけられ顔を上げた浩一の目の前には香也乃の顔。
近い。
だが香也乃のとってはそんなことは些細な事柄なのだろう。気にした様子もなくそのまま話し始めた。
「すまないが今日の昼、例の場所で会えるか?」
例の場所。
浩一が思い当たったのは昨日香也乃に連れていかれた場所。 屋上だ。
「別にいいけど……」
「どうした言い淀んだりして? なにか問題が?」
気づいてないのか。
浩一は心の中でため息を吐いた。
先ほどから二人に視線を浴びせかけている学生たちのひそひそ声が大きくなっている。
中にはもうひそひそとは言えない声量で話している人もいる。浩一が少し自重しろと叫びたくなるほどだ。
浩一と香也乃は別に内緒話をしていた訳ではない。加えて香也乃の声はよく通る。
つまり廻りのギャラリーにも二人の会話は聞こえていたのだ。
今まで誰も寄せ付けなかった学校の有名人が異性と仲睦まじくしている。
端から見ればどう思われるかは一目瞭然。
思春期の少年少女たちにとってこれ以上の娯楽はそうそう無いだろう。
たとえ真実がどうだったとしてもだ。
「いや問題ないよ。 昼に例の場所ね」
廻りのざわめきが一層大きくなった。
もはやなにも言うまい。
浩一は極力廻りのざわめきを耳に入れない様にしながら学校に急いだ。
気にしない。それが最大の処世術だと実感した時間だったと後に彼は語った。
「はぁ……」
香也乃と別れて無事に教室まで辿り着いた浩一は机に突っ伏して大きな溜め息を吐いた。
――――疲れた。
まだ一時間目どころか朝のホームルームすら始まっていないのに浩一は既に疲労困憊になっていた。主に精神的に。
「よっ! ずいぶんとお疲れじゃないか」
「祐司……」
疲れているとわかっていながらいつもと変わらず声をかけてくるのは親友故の気安さから来るものだろう。
浩一も頭を上げ話を聞く体制になる。
「聞いたぜ、昨日の事!」
「ああ、そういえばお前昨日は早退したんだよね」
祐司と沙織は昨日病院で最後の検査を受けるために早めに帰宅していた。
それゆえに昨日の騒動の時には居らず、今朝話を聞いて飛んで来たのだろう。
「確か東谷だっけか相手?
ようやく浩一にも春が来たか!」
「いやそういうんじゃ無いんだけど……」
「そうなのか? でもみんな噂してるぜ」
それを聞いた浩一は再び突っ伏した。
「うへぇ。 俺目立ちたくないのになぁ……」
「あっはっは! ドンマイドンマイ!」
笑い事ではないと浩一は睨むが祐司はどこ吹く風だ。
「それで? 本当のとこはどうなんだ?」
一頻り笑ったあと祐司は不意に真剣な顔になって顔を寄せてきた。周りに聞こえないための配慮だ。
浩一も睨むのをやめ小声で答えた。
幸いにして周りも騒がしいので浩一の声は祐司にしか聞こえないだろう。
「俺が視えるって知ってた。 あの人も視えるみたい」
「マジか」
「うん。 多分自分と同じ人が欲しかったんじゃないかな」
なるほど、と祐司がうなずく。
「俺は視えないからな。 そういうことなら俺が口出しすべきじゃないな」
「いや心配してくれるのは嬉しいよ」
「はは、俺もそう言ってもらえると嬉しいぜ。
……なぁ浩一。 お前達がこれから何をするか知らねえけどあんま危ないことすんなよ?」
「あー、うん。 善処するよ」
「うわ、不安」
浩一と祐司は顔を見合わせて笑った。
内緒話はこれで終わりと祐司は浩一から離れた。
「あー、そうだ。 昼休みにサッカーでもしないか? 体なまってしかたねぇんだよ」
「悪い。 昼は香也乃さんとの先約があるから」
「な、名前呼び……だと……!? 会って1日で……!?」
祐司は戦慄し、浩一は突然固まった祐司に疑問を抱きつつ授業の準備を始めるのだった。
昼休み。
朝の約束のとおり浩一と香也乃は屋上に来ていた。
入り口からは死角となる位置に腰を下ろした。
「それで話ってなに?」
「まずこれを見てくれないか?」
香也乃は手に持っていたファイルを浩一に差し出した。
ファイルを受け取った浩一が中を見てみると数枚の紙が挟んであった。
どうやらどこかのサイトのページを印刷したものをホチキスで纏めたもののようだ。
一枚目のページにはこう書かれている。
ひとりかくれんぼ
聞きなれない単語に眉を顰めた。
「ひとりかくれんぼ? なにその寂しげな遊び?」
「遊びじゃない。 それは降霊術の一種らしいんだ。
最近ネットで話題になってる・・・ね」
パラパラとページを捲るといくつかのページには体験談のようなものが載っていた。
香也乃が何を求めているのかを察しつつもあえて浩一は尋ねた。
「それで・・・なにをしようっていうの?」
「率直に言おう。 私たちもやってみないか?」
予想通りの言葉に浩一はため息を吐いた。
会ってから一日しか経ってないが彼女がこういうことを冗談では言わないことはなんとなくわかる。
香也乃は本気でこのひとりかくれんぼという名の儀式をやりたいと言っているのだ。
だが本気で言っているからといって無責任にやるわけにはいかない。
夏休みに浩一たちの身に降りかかったあの出来事。
まだそれほど日が経っていないこともあり浩一には未だに昨日のことのように思い出せる事だ。
浩一は無意識に手首の鈴を撫でた。
「どうして?」
「・・・・・・私はな、今まで何かに熱中したことがないんだ」
香也乃はポツリと語り始めた。顔には僅かに笑みが浮かんでいる。
「私は昔から勉強も運動もさほど努力しなくても人並み以上にできた。 昔の友達に勧められた遊びやゲームにはのめりこむことはできなかった。
興味が持てなかったんだよ。 正直人生がつまらなかった。 あの頃は何故自分は皆と違うのかいつも悩んでいたものさ」
「その言い方だと今は興味を持てたものができたってこと?」
「その通り。 ある日私は自分の見ている世界が他の人とは違うことに気づいた。
何だかわかるかい?」
「・・・・・・幽霊が視えることに気づいたんだね」
「そのとおり」
香也乃は笑みを深めた。
「私が理解しようとしてもしきれない存在はあれが初めてだった。 だからこそ私はオカルトに魅せられた。
まぁ、そのせいで友達はだいぶ減ったけどね」
そう言うと香也乃は自虐気味に笑った。
「それから私はいろんなことを調べ実際にやってみたよ。 さすがに心霊スポットに行くのは許してもらえなかったがその代わり家で手軽にできる降霊術はすべて試したよ。
でも何も起こらなかった。
幽霊は視えても怖い話の体験談で語られているようなことは私の身には一切起こらなかった。
それでも諦められなかった。 中学生になって新しい生活が始まってもオカルトが私の頭から離れることはなかった」
だから友達いなかったんだ、という言葉を浩一は飲み込んだ。
余計なことは口にすべきじゃない。
「そこで見つけたのが君さ、浩一君」
「俺が幽霊と一緒にいるところを見たんだね」
「そう。 だけど君に声をかけた理由はそれだけじゃない。
あの神社に関する噂、神社に倒れていた君たち、その数日後に起こった土砂崩れ、そしてあの日神社の前に立っていた君。
私は思ったんだ。 もしかしたらこの出来事全部が関係しているんじゃないかとね」
「勘が鋭いね・・・。 その通りだよ。
だから俺に声をかけたの?」
「ああ。 君は世にも不思議な出来事を体験したんだろう?
なら君と一緒にいれば私も同じような体験ができるんじゃないかと思ったんだ」
「なるほどね」
幽霊が視えるからという理由で友達になろうと言われた時は理由が薄いと思ったがなるほど。
そういう理由なら突然のあの行動にも頷けた。
ずっと求めていたモノへの手がかりを見つけたのなら浩一だってそれに飛びつくだろう。
「だから頼む。 私と一緒にいてくれないか?
もちろん無理強いはしない。 浩一君が嫌だというなら引き下がる。 君が望むならもう二度と君に近づかない。
だけど少しだけでも考えてみてほしい。 お願いだ」
そう言って香也乃は頭を下げた。
正直言うと浩一はここまで頼み込んでくる香也乃に驚いていた。
彼女は浩一が考えていたよりもずっと真剣に考えていたのだ。
だからだろうか?浩一の答えは彼自身が思ったよりもすんなりと出た。
「わかった。 付き合うよ」
「本当か!」
顔を上げた彼女の顔は昨日と同じような満面の笑み。浩一は見てて飽きないなと思った。
「俺も同じ気持ちなんだ。 俺ももっと知りたい。
それに香也乃さんと一緒にいれば退屈しそうにないしね」
「そう思ってくれるならありがたい」
「じゃ、これからよろし――――」
その時何かがぶつかる音が聞こえた。浩一と香也乃は音のした方向を向き硬直した。
そこには二人の女子生徒の姿。二人とも見覚えがない。リボンの色を見るにおそらく一年生だろう。
あ、これやばい。浩一の頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
「あっ、べ、別に邪魔するつもりはなくって・・・・ご、ごめんなさい!」
女子生徒たちはそう言うと脱兎の勢いで逃げ出した。引き止める暇もなかった。
「はぁ・・・」
浩一は頭を抱えため息を吐いた。
「勘違いされたんじゃね・・・これ?」
「かん・・・ちがい?」
「そ。 あの人たちがどこから聞いてたのかは知らないけど・・・」
香也乃はどういうことなのか理解が追いついてないらしい。
浩一は考えられる中で最悪の予想を口にした。
「告白シーンだと勘違いされた可能性がある」
「なっっ!!!」
香也乃の顔が真っ赤に染まる。
浩一も自分の顔が熱くなるのを自覚しながら最後のほうのやりとりは告白に了承したみたいな言い方だったなと考えた。
「まぁ、勘違いされてないことを祈るいかないね」
「そ、そそそそそうだな!」
「・・・・・・無駄な望みだろうけど」
浩一は香也乃に聞こえないように呟いた。
朝のことを考えれば答えはわかりきっている。思春期の学生にとっては最高の餌だ。
再びため息を吐く浩一を慰めるかのように鈴が鳴った。
次回でようやく怖いシーンを書けそう。
でも最近書きたいものが急増して困る。
もう一個連載増やそうかなー。