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怪奇見聞録  作者: 那智
6/11

発端 後日談

ちょっと短め。

「俺が寝てる間にそんなことが・・・」


浩一は驚きと共に呟いた。

その日浩一は病院の談話室で祐司と沙織との数日ぶりの会話を楽しんでいた。

話題は主にお互いの体調と例の神社のことだ。

そこで浩一は眠っている間に起こったことを祐司と沙織に聞いたのだが聞かされたのは予想外の出来事だった。


「土砂崩れか・・・」


「神社には被害なかったみたいだけどね」


崩れたのは崖の付近だけだったらしい。

被害が少なくて喜ばしいことだが。


「あの穴は埋まっちゃったわよね」


「結局わからないことだらけだったな。 くそっ、スッキリしねぇな」


祐司は不満そうだがおそらく全部わかったとしてもスッキリはしないだろう。

自分が知っているだけでも十分胸糞悪い話なのだから。

だが知っていることは話しておくべきだろう。二人も当事者なのだから。


「そのことなんだけどさ俺、一応仮説立ててみたんだけど聞く?」


幽霊に教えてもらったとはさすがに言えないのであくまで自分の予想だと誤魔化して提案する。

二人は無言で頷いた。




それから二人には神社で視たことやわかったこと、それについての自分の考察もすべて話した。

ただ一つ最後に子供達とした約束を除いて。

話をしている間、二人ただ黙って話を聞いていた。


「口減らし・・・」


沙織は信じられないというように呟いた。

祐司も無言で顔をしかめている。

無理もない。自分達のような親に愛されて育った子供にとっては親が子を殺すなんてことはニュースでたまに聞く程度のことでありそれこそおとぎ話のように遠く感じられる。


「しかもそれ、ここら地域一帯がグルになってやってた可能性が高いんだ」


「マジかよ・・・」


「あくまで可能性だけどね。 予想の範疇は越えないよ」


「生きてる人間が一番怖いってよく言うけどこういう話聞くと本当なんだって思うわね」


予想だとは言ったがこの考えはかなり真実に近いだろう。もっとも真実を確かめるすべは無いのだが。


「本殿の中に名簿みたいなのがあって、それには村の名前と人の名前っぽいのがたくさん書かれててね。 昨日ここの付近にあった村の名前をパソコンで調べたんだ。 そしたらその名簿の中に書いてあった村の名前がいくつか見つかったよ」


浩一の言葉が途切れた。

地下で見た地蔵の数を思い出したのだ。

この地域一帯のことだとしてもあれだけの数の子供達が『口減らし』されたと考えるとなんとも言えない気持ちになる。

既に過去のこと、どうしようもないことだ。頭ではわかっている。それでも心のモヤモヤは晴れない。

左手首の鈴を撫でるとチリンと音を立てた。


「そういえばその鈴どうしたんだ?」


「え? これ?」



祐司の視線の先には浩一の左手首に付けている鈴。

確かに突然手首に鈴を付け始めた人がいたら気にもなるだろう。

浩一はどう答えるか一瞬考え――――誤魔化すことにした。


「見舞いで貰ったんだよ。 お守りみたいなもんかな」


「見舞い? もう誰か来たのか?」


「あ・・・うん、まあね」


子供達のことを二人に言うつもりはなかった。

二人には視えないし、すでに終わっていることを蒸し返すことになると思ったからだ。

浩一は言うなれば取り憑かれている状態だ。

このことを二人が知ればいらぬ責任を感じてしまうかもしれない。それは避けたかった。

それが自己満足だとしても。


「それより二人とも退院はいつ? 俺はあと一週間ぐらいで退院できるけど」


それ以上追求されるのは避けたかったので浩一は話題を変えた。

さっきから話題が二転三転しているが気にしない。


「俺たちはもうちょいかかるな」


「どうして? 二人は俺より早く目を覚ましたんだからむしろ俺より早く退院しても不思議じゃ無いはずだよ」




「それなんだけどね・・・なんていうのかな? 体のダルさが抜けないのよ」


「それで念のため精密検査受けてみようって話になったんだ。

 そういえばお前は大丈夫なのか?」


「うん。 特に体がだるいってわけでもないし」


「いいなぁ。 俺もとっとと退院して遊びたいよ。 退屈でどうにかなっちまいそうだ」


「早く退院したいなら安静にしてないとダメよ」


沙織の言葉に祐司はしぶしぶといった感じで頷く。その様子を見て浩一は頬が緩ませた。

神社を調べ始めたのはほんの一週間前。怪異に遭遇したのは4日前のことだ。

たった一週間ほどのことだったが3日間眠っていたことを踏まえても浩一にとって長く奇妙な一週間だった。

それがようやく元の日常に戻った気がした。




ほんの少しの差違を残して。






病室に戻る途中、気づくと浩一の前を老人が歩いていた。

別に病院では珍しくもない光景。だが浩一はどこか違和感を感じた。

首を捻っていると前から看護師が歩いてくるのが見えた。

急いでいるのか早足だ。


看護師とすれ違う。

その時には浩一は違和感の正体を理解した。

老人の体は看護師の体ををすり抜けたのだ。

その光景に驚くでもなく納得し病室に戻った。

病室に戻ると浩一はベッドに寝転がった。


「視えるようになっちゃったな・・・」


一度幽霊を視ると視やすくなるというのをどこかで聞いたことがある。

つまりそういうことなのだろう。

これがほんの少しの差違。それがこれからの浩一の人生でどんな意味を持つのか。

今はまだわからなかった。




一週間が経った。

予定通り一週間で退院した浩一は神社の前に来ていた。

来たはいいが土砂崩れのせいか境内に続く階段には立ち入り禁止と書かれたテープが張り巡らされていて中に入ることはできない。

なので浩一は階段の上、神社があるであろう場所を眺めていた。

神社からはつい先日まで感じていた奇妙な雰囲気は感じなくなっていた。

もうこの神社で幽霊を視たという話を聞くことは無いだろう。


どれだけの時間神社を眺めていただろうか。

しばらく眺めていたがだいぶ太陽が低い位置に来ているのに気づき時間を確認した。

4時半過ぎ。

ここに来たのは3時頃なので少々長居し過ぎたようだ。


「帰ろっか」


浩一は誰に言うでもなく――――しいて言うなら子供たちにだろうか――――呟き踵を返す。

服の端を引っ張られた気がしてそちらを見ると鈴を付けていた少女が浩一の手を握ってきた。

暖かくはなくひんやりと冷たい手。

それは生きている者の手ではなく死んでいる者の手。

だが浩一はその手を苦笑しながら握り返した。

まるで兄妹のように寄り添い歩き出し――――最後にもう一度神社を一瞥する。

そこには何の変哲も無いただの神社があった。

それを少しの間見つめ浩一は帰路についた。


その姿を見つめる影に気づかぬまま。


「やはり彼は幽霊が視えているみたいだね。

 ようやく見つけたよ。 私と同じ人間を・・・」


そう呟き影も去っていった。






夜。

部屋の中にはカリカリとシャーペンを動かすだけが響いている。

浩一はメモ帳代わりにしていたノートに今回体験したことの全てを書きこんでいた。

シャーペンを動かす手を止める。


「ふう。 こんなもんかな」


浩一は一息吐いた。

ずっと手を動かしていたせいかペンを握っていた手が痛んだ。


何故こんなことをしているのか。

答えは簡単だ。この出来事を忘れないために記録しているのだ。

浩一は思う。

これから自分は幽霊が視えるというだけで何かに巻き込まれるかもしれない。

その時、過去の記録があれば冷静に対処できるかもしれないだろう。

考えすぎならそれでいい。

だが怪異は自分が思っているよりも身近なものだった。今回のことでそれがよくわかった。

だからいざというときのために準備して損は無いだろう。備えあれば憂いなしというやつだ。

そしてこれが一番の理由なのだが――――嬉しかったのだ。


もともと浩一はオカルト好きだ。

だから昨今怪異が否定されていく中で怪異に遭遇したことに喜びを覚えた。


だから記録しようと考えた。


だから怪異と繋がりを持った。


だから――――『次』を考えた。




最後にもう一度読み返してから浩一は本を閉じた。

それから本を机の上に置きベッドに倒れこむ。

体をベッドに預けリラックスしていると眠気が襲ってくる。

徐々に眠気が強まっていく中これからの人生はどのようなものになるだろうかと浩一は考えた。


―――答えは出ない。


だが少なくとも退屈はしないだろう。

浩一は期待と少しの不安を胸に眠りにつくのだった。


ようやくプロローグが終わりました。

次の話からは日常シーンや会話をもっと増やしていくつもりなのでさらに精進していきたいです。

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