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怪奇見聞録  作者: 那智
2/11

発端 1

処女作ですので何かと拙い部分がありますが完結目指してがんばります。

何事も始まりにはきっかけがある。

それが良いことでも悪いことでもだ。

そのきっかけというものはドラマや映画でやるような劇的なものばかりじゃない。

むしろ普段気にもとめないような些細なことがきっかけになることのほうがはるかに多い。

だからそういうのを意識するのは大変だし正直言って無駄だ。

・・・でもこれだけは覚えておいてほしい。

その些細なことが原因で人生が一変してしまうことがあるということを。





それはある夏の日のことだった。


気温は炎天下、神代浩一はうだるような暑さの中にいた。

季節は夏真っ盛り。

日射しはカンカンと照りつけ気温も三十度を優に越えている。体感温度はそれ以上だろう。

こんな日は冷房の効いた部屋で過ごしたいと誰も思うような日だが彼にはそうするわけにはいかない理由があった。


待ちに待った夏休み、といっても遊んでばかりでいられる訳ではない。

存分に楽しむには夏休みの宿題という障害を乗り越えなければいけないのだ。


その障害のひとつである自由研究。

浩一が炎天下の下にいるのは自由研究の為だ。

自由研究と言うだけあって特に内容に指定はない。

適当に無難な内容を書けばたいした苦労もなく終わるだろう。

そう、普通ならば。


浩一も最初はありきたりな内容でとっとと終わらせようとしていた。

だがふと浩一は思った。


どうせやるんだったら自分が楽しめることをやったほうがいいんじゃないか?

そうしたほうが良いものが出来そうな気がするし。


けれどもあまりにもふざけたものだと自由研究として認められない。それでは本末転倒だ。

なので自由研究という枠組みの中で自分の好奇心を満たせることをしようという結論に至った。

丁度彼には興味を抱いていることがあった。


町の外れに神社がある。

そこはなんのへんてつもない唯の神社。

管理する人がいなくなってしまい荒れ果てていることを除けばどこにでもあるような神社だ。


その神社には名前がない。

正確には殆どの人がその神社の名前を知らないのだ。


さらに言うなら何を祀っているのか、いつ建てられたのか等、わからないことが多い。


その中でも彼の関心を引いたのはある噂だった。


―――あの神社で幽霊を見た。


この噂は浩一が子供の頃からありこの町で育った人は一度は聞いたことのあるものだ。

だがオカルトが否定されつつあり昨今ではテレビでまともな心霊番組すらも放送しない中このような噂が流れ続けるということに彼は期待を抱いていた。

その噂は真実なのではないか、と。

でなければ十数年も同じ噂が流れ続けていることに説明がつかないし、そうでなくても噂が流れるだけの何かがあることは確実だと思えた。

それに神社について調べるのは町の歴史を調べる立派な自由研究。

宿題をする上でも好奇心を満たす上でもその神社について調べるのはちょうどよかったのだ。


そういうわけで浩一は神社の前まで来ていたのだが


「あっついなぁもう」


早くも若干後悔し始めていた。









Tシャツが汗で肌に張り付いて気持ち悪い。タオルも既に汗まみれ。

肩にかけたバックからペットボトルを取り出し中身を一気に喉に流し込む。

喉の渇きは癒えても暑さを誤魔化すまでにはいかず浩一はため息をついた。


気を取りなおして前を見る。

目の前には長い石造りの階段。この階段を登った先に目的地である神社がある。


「あれ? そこにいるのって‥‥」


「ん? あ、浩一じゃんか!」


日差し避けの帽子を被りなおし階段を登ろうとしたところで後ろから声をかけられた。

振り返って見るとそこには茶髪の少年と長い黒髪をポニーテールにした少女の姿。

どちらも浩一にとって見知った顔だ。


「裕司。 それに野島さんも‥‥」


そこにいたのはクラスメイトの小畑裕司と野島沙織だった。

裕司とは小学生から同じクラスでクラスの中でも特に仲がよい。

沙織は裕司と付き合っていて、浩一とは特に親しいわけではないが裕司を通して何度か話したことはあった。


「こんなところでなにしてんだ?」


「自由研究。 ここの神社について調べようと思ってね」


「もうやってるの? 私たちなんて何も手をつけてないのに」


「早く終わらせたほうが後で思いっきり遊べるでしょ。 二人は‥‥聞くまでもないね」


「ははは、お察しの通り俺達はデートだよ。 と言っても散歩してるだけだけどな」


裕司は笑いながら言っているが沙織はまだ恥ずかしいのか顔を赤く染めている。

付き合い始めて三ヶ月は経つのに初々しさが残っていることに毎度ながら浩一は微笑ましさを感じていた。

突然裕司が何かを思いついたように顔を上げた。


「なあ、自由研究でこの神社を調べるんだよな。 俺達も一緒にやっていいか?」


「ちょ、ちょっと裕司!?」


「え? いやまぁ俺は別にいいけど。 ‥‥いいの?」


浩一はちらりと沙織を見る。

彼女は少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「もう! デートはどうするのよ!」


「特に行くとこなかったんだからいいじゃねーか。 それに浩一の言った通りとっとと宿題終わらせちまったほうがいいだろ」


「そうだけどさ~」


祐司は女心の勉強が圧倒的に足りないと思う。これでクラスの誰よりも早く恋人ができたのだから驚きだ。

この辺をなんとかしないと近いうちに別れてしまうのではないか。めんどくさいから言わないが。

そう思いつつ浩一は二人の言い争いをぼんやりと眺めていた。


そのあとも少し言い合っていたが結局沙織が折れ、三人で自由研究をすることになった。


「っていうわけでよろしくな!」


「はいはい」


「う~。 この埋め合わせはちゃんとしてもらうんだからね!」


「ははは、あたりまえだろ」


始める前に二人に言っておかなければならないことがあったことを思い出す。


「二人とも。 一緒にやるにあたって一つ条件がある」


「なに?」


「イチャイチャ禁止ね」


「「‥‥はい」」


イチャイチャ禁止令発令。

二人のやり取りを微笑ましく思える浩一も四六時中やられたらさすがにキツイのだ。








浩一たちが少し長めの階段を登りきると本殿が見えてきた。

この暑さの中決して楽とは言えない階段登りをしたため先ほどよりも汗をかいてしまっていた。


「ふぅ、ここが‥‥。 ずいぶんと荒れてるな」


「管理してる人もいないから。 たまにボランティアの人たちが掃除するぐらいみたいだし」


もっともボランティアでも掃除するのは稀らしくゴミが散乱し石畳の上も土で汚れている。その様子からしばらく掃除がされていないことが窺えた。


「荒れてるのはいいとして‥‥普通の神社ね」


「でも知ってるでしょ? この神社のうわさ」


祐司と沙織は口をつぐんで境内を見渡した。


「ん?」


浩一もそれに釣られて広い境内を見ていると神社の奥になにかを見つけた。

目を凝らして見てみるとまわりにはゴミや土が散乱しているのにそこだけが妙にきれいで違和感があった。

それに‥‥。


「おい。」


浩一の方に肩に手が置かれた。振り向くと祐司と沙織が浩一を怪訝そうに見ていた。


「なにぼーっとしてんだ? 早く行こうぜ」


「わかったから急かさないでよ」


そう言って二人が歩き始めた。

浩一は自分も行こうと歩き出しかけ、その前にもう一度奥を見た。

先ほどの妙な感じは感じられなかった。

浩一はそのことに首を傾げながらも二人を追いかけるのだった。



「ボロボロだね。 その内倒れちゃうんじゃないの?」


沙織は鳥居を見上げ呟いた。


「ずいぶん昔の物らしいし仕方ないだろ」


「でも危ないじゃない」


浩一は二人の会話を聞きながら鳥居をくぐった。


「っっ!」


その瞬間文字通り空気が変わった。気のせいではない。

鳥居をくぐるまでは立っているだけで汗がにじんでくる暑かったはずなのに今はひんやりとした空気が流れてきている。


「なにここ‥‥? ずいぶんと涼しいね‥‥」


「涼しいのは嬉しいけど‥‥。 なんだか不気味だな」


異様な雰囲気に三人の汗はとっくに引いてしまっていた。

全員でもう一度境内を見渡す。

特に変わったところはない。 が、なんとなく落ち着かない。

まるで誰かに見られているかのようだ。もちろん境内には三人しかいない。

だが確かに感じる視線。そのことに三人の心に恐怖を植えつけた。


「‥‥今日は境内をぐるっと廻るだけにしようよ。」


沙織もなにか感じるものがあるようで辺りをしきりに見回している。


「そうだね。 気になるところをメモして明日にでも図書館に行って詳しく調べようか」


そういうことなら紙が必要だ。

浩一はちょうどメモ帳としてノートを持ってきていたのを思い出した。

鞄から筆記用具と共にノートを取り出す。


「メモ帳はなかったのか?」


「あいにくね。 でもこのノート少し使ってほったらかしだったからちょうどいいかなって」


浩一の手にあるのはどこにでもあるようなA4のノートだ。

だがそのノートは通常のものよりもいくらか分厚い。


「でも・・・もったいなくない?」


「放置するよりはましだよ」


それも理由のひとつだったが浩一はどうせなら書ける量は多いほうがいいと思いそれをチョイスしたのだ。

多い分には何の問題も無い。

続けて筆箱の中からシャーペンを取り出した。これで準備は万端だ。


「さて、じゃあ始めようか」


浩一の言葉に祐司と沙織を頷き、三人は歩き出した。







浩一たちは境内を見て廻り気になる場所を本にメモしていった。

二時間ほどかけて半分ほど見て廻ったが変わった所は殆ど無い。

気温の低さなどの疑問点があるがこれは何日か確かめなければ確証は持てないので後回しにすることにした。


そしてここに足を踏み入れたときに気配を感じた場所まで来たのだった。

そこには小さな地蔵があった。多くの不自然さと共に。


入り口から見えたようにそこの石畳だけゴミや汚れが少なく比較的きれいになっている。

だがそれだけではなかった。

入り口からは見えなかったが神社の影になっている所からまるで道を作るように汚れが無い場所が一本の線になって本殿の裏にまで続いていた。


「‥‥‥‥」


「‥‥これは普通じゃないよな」


浩一は何も言わずに頷く。

その線にあたる部分だけ汚れていないというよりどちらかというとそこだけ掃除されて汚れが無くなっていると言ったほうがしっくりくる光景だ。


だけど誰が?

なんのために?

そしてこの地蔵は?

全員の脳裏に疑問がよぎる。


「この先になにかあるのかな」


沙織は線の続く先を見ながら呟いた。

浩一の頭には様々な憶測がよぎっているがどれもしっくりくるものは無かった。


「見に行ってみようぜ。 俺達はこの神社を調べにきたんだからな」


その言葉に浩一は頭に浮かんだ疑問を振り払う。

裕司の言うとおりだった。この先なにがあるのかは見てみればわかる。

三人は線をたどっていくことにした。



その線は神社の裏手の山にまで続いていた。

山に入る直前で線は獣道となって続いている。

三人は獣道に入り奥に進んで行った。草木を掻き分けしばらく進むと若干木々が開けた場所に出た。

そこはある程度開けていたが奧には切り立った崖があり行き止まりになっている。線はそこで消えていた。


「あっ。 あそこ何かあるよ」


浩一はあたりを見回した。すると崖の近くの草が生い茂っている場所に何かを見つけた。

近づいて草を掻き分けると不自然に土が盛り上がっている場所があった。

その土のうえには大きな板のようなものが被せてある。


「‥‥蓋? いや‥‥どっちかっていうと扉かな?」


どうやら穴にはめ込んでいるようだが木はすでに朽ちていて殆ど扉としての意味をなしていない。

扉の隙間からは穴の大きさが人ひとりが入れるぐらいの大きさがあることが見てとれた。

裕司と沙織も近づいてきてそれを覗き込む。


「いかにもって感じな場所ね‥‥」


「ああ。 絶対ここになにかありそうだな。」


浩一が扉を開けようとそれに触れると腐っていたのかばらばらになって下に落ちた。

覗き込むと穴はそこそこ深く下のほうには大きな横穴が開いている。


「‥‥中に入ってみるか?」


穴を見つめながら裕司が言った。


「ここまで来たんだから最後までみたいと思わないか?」


「ちょっとなに言ってんの!?」


沙織の言葉も届かないほど裕司は興奮していた。祐司は昔からこういう冒険染みたものが好きなのだ。

無論浩一も嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。

だが少し考えこんでからやめておこうと答えた。

裕司は不満げに顔をしかめた。


「中は暗いのに明かりも持たずに入るの? 入るんだったらちゃんと準備してからにしようよ」 


そう言われてしまえば裕司も何も言えず引き下がるしかなかった。


道を引き返した三人は今後のことを話し合った。

裕司は明日にでもあの穴を調べたいと言っていたが、浩一と沙織のある程度神社について調べてからにすべきだという意見にしぶしぶ同意した。

結局明日は図書館で調べものをし、明後日に改めて穴の中を調べることになった。

帰る際、鳥居をくぐると暑さが戻ってきた。日は傾いてきていたがまだ暑かった。


浩一は前を歩く二人を眺めながら考え事をしていた。

なぜ境内が涼しかったのか、なぜ放置されているにもかかわらず汚れていない場所があるのか、そしてあの穴はなんなのか。

考えても答えはでてこない。疑問を頭の隅に追いやり二人の後を追う。


――――チリン


階段を降りようとした直前のことだった。

浩一はとっさに振り向いたが誰もいない。それに加え見える範囲にも鈴はなかった。

浩一の全身の鳥肌が立った。なぜなら鈴の音は浩一の耳元で聞こえたのだ。


ありえない。

ここは視界が開けている。耳元で鈴を鳴らしすぐさま隠れると言うのは不可能だ。

だが聞き間違いにしては音がはっきりと聞こえすぎていた。


「おーい! なにしてんだー? はやくしろよー!」


浩一は自分を呼ぶ声に我に返り恐怖から解放された。

もう一度周りを見て何もいないことを確認してからすぐに二人の下に駆けていった。

走りながら気のせいだ、ただの空耳だ。そう自分に言い聞かせた。

だが脳裏には鈴の音がこびりついていた。



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