第6章第4節
すみません。ちょっと内容を変更しました。
回想部分は読みづらいと思い、簡略化してエピソードは過去編として別の節で投稿します。
昼食直後の授業。空腹を満たした生徒達にとって、この時間での講義は鬼門である。
胃に押し込まれた食べ物を消化しようと消化器官に血液が集中し、結果的に頭に巡る血が少なくなって眠くなってくる。
訓練場で体を動かすような授業ならともかく、この時の授業が淡々とした講義だと、講義の内容よりも睡魔と戦う方に集中力を割かなくてはならない。
10階級の教室で講義を受けている生徒達もまた例外ではなく、襲い掛かってくる眠気を必死に耐えながら、落ちてくる瞼の隙間から見える黒板の文字を必死に書き留めていた。
「知ってのとおり、精霊達は時にその身がもつ非常に強力な力を示すときがあります。火山の噴火、突発的な地震、極端な干ばつや豪雨。その様な大きな自然災害のいくつかは、精霊が引き起こしたと考えられているものもあります」
今、10階級の授業を担当しているのはトルグレイン先生。錬金術のエキスパートで、とある研究機関の研究員も兼任している優秀な教師だ。
穏やかな瞳と、縁付きの眼鏡をかけた優しそうな青年だが、あまり自己主張が得意ではないような雰囲気を感じる。
「そんな強大な力を持つ精霊ですが、彼らにもまた欠点と言えることがあります。揺蕩い、虚ろであるがゆえに、基本的に私達や渡り鳥のように長距離を移動することが出来ません。精霊が移動できるのは、あくまで彼らが存在できる領域に限られます。」
そう言いながら、先生が黒板に精霊と土地の関係を図示していく。
「それは森や泉といった精霊に適した、特定の環境を持つ土地ですね。エルフが精霊魔法を使う時に、その土地ごとの精霊と契約しなければならないのもこれが理由です」
森のような図と、精霊を現すモヤモヤっとした雲のようなものを黒板に書いたトルグレイン先生。
彼は書いた精霊と森に互いに矢印を引っ張る。
「土地が精霊の苗床となり、数を増していく精霊達によって、土地がさらに根付いた精霊の色に染まっていく。そして、その土地が再び精霊を活性化させる。精霊が活性化した土地は、このように循環を繰り返し、私達はその中で成長した食物や動物などから、様々な恩恵を間接的に受けています」
図を描き終わったトルグレイン先生はくるりと振り向きながらピッと人差し指を伸ばすと、ちょっと強めな口調で“ただし!”と言った。
「精霊が自分のテリトリーを離れて移動する手段がないわけではありません。何らかの憑代に憑依したり、自分の存在を保持するための何かを纏うなどの方法もあります。まあ、後者の方法が出来るのは、よほど強い意志を持つ精霊に限りますが……」
そう言い切ると、コホンと咳き込むように口元に手を当てた。
「さて、講義の途中ですが……」
優しそうな目が鋭くなり、目標を補足する。手に持ったチョークを無造作にかかげると、トルグレインは一気に腕を振り抜いた。
「あた!」
先生が放ったチョークは見事にノゾムの頭に直撃。粉々に砕け散ったチョークで髪の毛が白くなり、舞い散った粉を吸い込んでしまって、ノゾムは思わずむせ返る。
「ノゾム君、起きましたか?」
「ハ、ハイ……」
ちょっと強めの口調で言葉を投げかけるトルグレイン。流石に目を覚ましたノゾムが慌てて返事を返す。
周りのクラスメート達がクスクス笑いを押し殺している声が聞こえてきて、ノゾムはちょっと恥ずかしそうな顔をしながら俯いた。
ノゾムは能力抑圧の影響で実技の成績が致命的で、筆記試験で必要単位を補っている。普段の講義での居眠りなどできないのだが、やはり今朝の夢の中でのティアマットとの戦いで消耗していたのだろう。
体が眠っていても脳が休めなかったために、思わず居眠りしてしまっていたようだ。そんな眠りの中で見ていた夢はつい最近の事だったが。
ノゾムが起きたことを確認したトルグレインが講義を再開し始める。
パンパンと頭に突いた粉を叩き落としながら、壇上に立つトルグレインを眺めるノゾム。
彼の講義に耳をたてながらも、ノゾムの脳裏には、今しがた見ていた夢が脳裏に過っていた。
彼が見ていた夢はあの森で屍竜と再戦してから1週間ほど後の出来事だった。
ノゾム・バウンティスはソルミナティ学園始まって以来の劣等生である。
この話が定着し、そしてノゾムが他の生徒たちから蔑視され続けることになった理由は2つ。
1つは能力抑圧による影響。魔力、気を含めたあらゆる能力の低下は、競争の激しいこの学園においては致命的だった。事実、最下位まで落ち込んだ成績は、バカにされても無理のないほど酷いものだった。
もう1つは彼の幼馴染であり、恋人だった女子生徒をノゾムが捨てたという噂。その噂が流れた時からの彼女の態度から、周囲の人達はその噂が真実と考え、これによってノゾムの評価は決定的なものとなってしまう。
アイリスディーナ達は既にこの噂が全く根拠のない出鱈目な話であることは理解している。
しかし、彼の口から直接この話を聞いたことはない。
なぜノゾムがこのようになったのか。
アイリスディーナを含めて、この場にいる誰もが気になっていた事だ。その事でアイリスディーナは焦燥感に駆られ、当事者であるリサ・ハウンズと衝突したこともあった。
もちろんノゾム自身が彼女達に対して真実を話せなかったという事もあるが、彼女達も真実が気になりながらも、ノゾム本人に対しては一歩踏み込めなかったことも事実だった。
でも、それももう終わりにするつもりだった。あの森で、ノゾム自身の秘密を知り、彼女達は宣言した。“もっとあなたのことが知りたい”と。
彼女達が行動を起こしたのは、ノゾムが目を覚ましてから数日後。彼がどうにかベッドから起き上がれるようになった頃だった。ノゾムの前にはアイリスディーナが真剣な顔をして立っている。
彼女の周りにはティマやマルス、シーナといった仲間達がおり、皆一様に緊張感を持った表情でノゾムを見つめていた。
「ノゾム、聞きたいことがあるんだ……」
「えっ? な、何?」
みんなの迫力に押されるように、ベッドの上で身を起していたノゾムがやや後ろに下がる。
「あの、リサ君との話なんだ……」
「ああ……」
アイリスディーナの一言でノゾムは彼女達が何を聞きたいのかを理解した。目を閉じ、まるで覚悟を決めるようにゆっくりと息を吐き出す。
ノゾムにとっても辛い過去。昔の幸せだった時を覚えているから、尚のこと心が痛む。
ノゾムが吐き出すように呟いた一言に、アイリスディーナ達は周囲の空気が一気にその重みを増したように感じた。
ノゾムの表情はほとんど変わらない。変わらないからこそ、彼が胸を搔き毟るような思いを感じていることは手に取るように分かる。
アイリスディーナ達も胸を刺すような痛みを感じながらも、じっとノゾムの言葉を待ち続ける。どうしても、彼のことが知りたいから。もう一度、きちんと向き合うと誓ったから。
「……そうだな。どこから話そうかな」
それはノゾムもまた同じ。頭に浮かぶのは甘く、そして辛い思い出。その思い出を噛みしめるように、ノゾムはゆっくりと口を開いた。
「俺とリサが付き合っていたってことはもう知っているよね」
「ああ……」
「俺とリサ、ケンは幼馴染で、一緒の村で育った。リサだけは村の外の出身だけど、小さい時に彼女のお母さんと一緒に村にやってきたんだ」
ノゾムがまず話し始めたのはリサとの出会い。彼女が自分に話しかけてきた時の事だった。
「初めて会った時は、俺が川で釣りをしていた時。声を掛けられて、振り向いたら彼女がいた」
ノゾムは今思い出しても、あの時ハッキリと胸が高鳴ったのを覚えている。
彼女を異性としてはっきりと自覚した瞬間は別の時だったけど、考えてみればこの時からノゾムは彼女が気になり始めていた。
「その時、彼女はこの村に来たばかりだった。ケンとはもう友達になっていたけど、あまり友達もいなかったみたい」
だから、自分に声をかけてきたのかもしれないとノゾムは付け足した。
偶然そこにいたのが自分だっただけではあるが、少なくともそれから彼女やケンと過ごした時間がノゾムにとって楽しいものであったことは間違いなかった。
「その後、一緒に遊ぶようになって、色々あって彼女の夢を聞いて……その夢を支えたいって思ってこの学園に入学することを決めた」
今考えても無茶ではあった。この大陸で最高峰の学園の1つであるソルミナティ学園。
各国から入学希望者が殺到し、さらにエクロスの様な才有る者達を子供の頃から教育していることを考えれば、そこで学び続け、進学し続けることがいかに難しい事かは少し考えればすぐに分かる。
リサやケンは幸いすぐにその才を開花させたが、ノゾムはそうではなかった。幼馴染との差は入学後、すぐに表れ始める。
「確かにこの学園に来て自分なりに頑張ったつもりだったけど、成績も思うように伸びなかったよ。リサやケン達の様に強くなれなかった。でも2人とも毎日訓練に付き合ってくれたし、思うように行かない俺を元気づけてくれた。リサ達の他にも力を貸してくれる友達もできたから、何とかなると思っていたんだ……」
確かにこの学園での生活は上手くいかず、ノゾムの剣術も、気術も、魔法も思うように伸びなかった。努力だけはしていたから身体能力は多少マシだったが、それでも胸を張って自慢できるものではなかった。事実、魔法で身体強化をしたケンやリサはノゾム以上の動きを易々と可能としていたのだから。
それでも、彼らはノゾムを見捨てたりはしていなかった。一緒に勉強し、上手く魔法が使えないノゾムに必死に魔法の使い方を教えようとしていた。
この学園に来てからリサの友達になったカミラもノゾムの鍛練に付き合ってくれた。何だかんだ悪態をつく女の子だけど、劣等生のノゾムにも優しくできる女の子だったのだ。
これなら何とかやっていける。そんな思いをノゾムは持っていた。
しかし……。
「そんな時、俺のアビリティ……能力抑圧が発現した」
ノゾムに発現した能力抑圧。これにより、ノゾムは致命的な枷を嵌められてしまう。
「能力抑圧が発現して、俺の体は今まで以上に思うように動いてくれなくなった。いくら力を込めても押し負ける。相手の一撃に耐えられず、剣を持ち続ける事も出来ない。元々苦手だったけど、魔法は全く使えなくなった」
今まで以上に動きが鈍くなったノゾムの身体。普通の生活ならともかく、戦いの中を潜り抜けるには大きなハンデを背負うことになってしまった。
制限された気量ではまともに打ち合えない。ただでさえ苦手としていた魔法は、もはやどんなに詠唱を重ねてもノゾムの意思を具現することはなくなっていた。
「それでも何とかしようと無茶を繰り返したよ。その時はケンもリサも何とかなるって言ってくれて、鍛練に付き合ってくれた」
能力抑圧が発現した当初、クラスメート達はノゾムを可哀そうな目で見ていた。
しかし、次第に無茶な鍛練を繰り返しているノゾムを見てコソコソと陰口を言うようになっていく。彼らにとっては、ノゾムが無駄な努力をしているようにしか見えなかったからだろう。
それでもノゾムは諦めなかったし、幼馴染達とカミラも、そんなノゾムを見捨てようとはしなかった。
「でも、いつの間にかあの噂が流れていて……全てが変わってしまった。噂の内容は、いまさら言うまでもないだろ」
突然すべてが逆転した日。あの時、ノゾムを支えてくれていた最後の拠り所すらノゾムに罵声を浴びせてきた。
「誰も彼もが俺を罵ったよ。リサも俺に対して憎しみをぶつけてきた。ケンは俺に対する態度を変えなかったけど……」
凍てついたノゾムの心。無意識の内に歩むこと止め、約束を叶えるのではなく、その夢を逃げるための道具に堕としてしまう。
師やアンリの存在が無かったら、間違いなくノゾムは壊れていただろう。
だが、ケンは態度を変えなかったことも大きかった。今考えれば、リサが一緒にいないほんの少しの時間でも幼い頃を共有した彼と普通に話が出来た事はノゾムにとっては一時の救いだった。
「でもそれも、偽りだった。あの噂を流したのは、ケンだったんだから……」
しかし、それすらもケンの思惑の内だった。ノゾムが以前ケンを問い詰めた時、彼ははっきりとその事実をノゾムに突きつけている。
「何で彼はそんな事を……?」
「……多分、ケンは俺がリサの夢を実現するには邪魔だったからこんな事をしたんだと思う。碌に自分の身を守れない俺は冒険をしたいというリサの夢の中では足手まといにしかならないだろうから……」
強くなっていくリサとケン。そんな中で置いて行かれたノゾム。結局、彼は全てを失うことになる。
「俺自身が強くなれば、もう一度リサが振り向いてくれるんじゃないか。そう考えたから、危険な森に1人で入ったり、師匠の無茶な鍛練にも耐えられた。結局、それも俺の逃げだったけど……」
今はもうその逃避を自覚できているが、あの時はただ暗闇の中でもがくしかなかった。
自分自身の逃避を自嘲するノゾム。
今までの自分をこうして振り返ると、本当に情けないと思える。酒場で酔いつぶれているダメ人間の何ら変わらないように思えた。
「そう考えると、師匠の鍛練はあれで良かったのかも。生き延びるので精一杯の日々だったから、余計なこと考えずに済んだし」
他に余計な事を考える余裕がない日々だったからこそ、ノゾムは自棄になって道を外さずに済んだのだ。
事実、シノと初めて出会った時、ノゾムは自暴自棄になったまま森に入り、魔獣に殺されそうになっていた。
たとえ森に入らずとも、街に留まっていたら何か騒動を起こしていたかもしれない。
今更ながら、自分の師との修行の日々を思い出して苦笑するノゾム。楽しくも辛い日々だったが、やや辛さの方が勝ったのか、乾いた笑いが口から漏れている。
「なんで怒らないんだ! これは明らかにお前に対する裏切りだぞ!」
ノゾムの自嘲と苦笑。怒っているように見えないノゾムを見てマルスが声を荒げる。他のみんなもノゾムに向けられた理不尽さに怒りを覚えていた。
そんなマルスの言葉に、ノゾムは黙って首を振った。
「怒っていないわけじゃない。ケンに真実を言われた時は呆然としていたけど、その後メチャクチャに暴れたくなった。実際、能力抑圧を解放してキクロプスの集団を全滅させてしまったし……」
ノゾムが一度暴走しているという話にアイリスディーナ達が驚きで目を見開いた。
普段はその身に秘めた龍の力はおろか、自分の気術すら自制しているノゾム。彼が激怒したとはいえ、怒りのまま力を振るった事があったことに驚いているのだ。
この時、暴走してキクロプスを屠殺したことで、結果的にノゾムは自分が取り込んだティアマットという存在に対して、非常に強い恐怖と不安感を持つことになる。
「怒りはあるんだよ。多分、ケンにもリサにも自分自身にも」
そんな言葉とは裏腹に、ノゾムの顔には苦笑が浮かんでいる。色々と切羽詰まっていたノゾムだが、多少とはいえそんな風に言葉にできるようになったことがせめてもの救いだった。
しかし一拍の後、ノゾムは自分の身体を自分で切りつけた様な悲痛な表情を浮かべた。
胸の奥から異物を取り出すような息苦しさ。それを捻り出すように、ノゾムはゆっくりと言葉を発する。
「でも、それ以上に……悲しいんだ」
重苦しい沈黙がアンリの部屋の中を包み込む。皆一様に苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
怒りのあまりノゾムに詰め寄ってしまったマルスもばつの悪そうな顔で歯を食いしばっている。
ノゾムの悲痛な思いに黙り込むしかなかったアイリスディーナ達。
しかし、ノゾムにとっては彼女達がそこまで怒りや無念さを感じてくれていることを申し訳ないと思いつつも、内心嬉しさを感じていた。自分の為に怒ってくれた事、想ってくれている事を感じ取れたのだから。
「ありがとう。みんな」
硬くなってしまった彼女達の顔を少しでも何とかしようと、ノゾムは努めて明るい声で思ってくれた彼女達に礼を送る。
ハッとして顔を上げるアイリスディーナ達に笑いかけながら、ノゾムは話を続けた。
「ケンにとってはリサが一番大事なんだと思う。一緒に交わした約束も、リサの背中を守ろうというものだった」
確かにあの時のノゾムはリサの足手まといでしかなかった。
冒険を夢見るリサを助けようと誓ったのに、これでは本末転倒だろう。
「それに、ケンもリサの事がずっと好きだったからさ。リサと俺が付き合い始めて身を引いてくれたけど、内心はずっと俺の事を恨んでいたみたいだし……」
幼い頃の約束とリサに対する想い。
ケン本人ではないノゾムには彼が何故自分を陥れたのか、その理由の全ては分からない
だが、ノゾムの脳裏に自分が噂を広めた張本人であると宣言した時、ケンは“彼女に出会ったのは僕が先だった。彼女を好きになったのも僕の方が先だった!!”と言っていた。
その事を考えれば、どんな形であれ、ノゾムとケンが衝突するのは必然だったのかもしれない。
自分で自分の想いに蓋をすることは困難だ。ノゾムの様な多感な時期の少年少女達には特に難しいだろう。
だけど、自分自身に否がなかったのかと言われれば、ノゾムは胸を張ってそうだとは宣言できない。
どんな結果にしろ、ノゾムもリサも相手と向き合おうとせず、逆に相手を逃げるための道具としたのは間違いないのだ。
ノゾムは彼女の夢を逃げるためのお題目とした。リサはノゾム自身に対して憎悪をぶつけることで目を背けようとした。
「俺達、本当の意味で一緒じゃなかったんだ……」
今更ながら、ノゾムはそう感じる。
夢、希望、そんな思いを抱いてきたこの学園。でも、それは実現できなかった。理由はどうあれ、ノゾム達全員が、互いに背を向けてしまったから。
「それで……ノゾム君は、どうするんだ? このままにしておくのか?」
「……分からない。リサはあの噂の流したのがケンだとは知らない。知らない方がいい事もあるけど……少なくとも、俺はこのままでいいとは思わない」
いくら悲しさに沈んでいても、ノゾム自身、リサやケン達がこのままでいいと思っているわけではない。
今のリサもケンも、以前の自分と同じように逃避しているだけなのかもしれない。
自分自身の逃避に気付き、仲間達の手を借りて一歩踏み出ししたノゾムには、今の2人がなんとなくそう感じられた。
「もう少し待ってくれないか? どう2人と向き合うかもう一度きちんと考えたいんだ。もしかしたら、色々相談するかもしれないけど……」
先日、アイリスディーナ達と向き合ったように、今度はリサ達ともう一度向き合わなければならないだろう。だが、ノゾム自身、心の奥底にどうしても不安は感じてしまう。
「……分かった。その時は微力を尽くすよ」
「ええ、私もそのつもりよ」
恐々と窺うように訪ねてきたノゾムに、アイリスディーナとシーナは真っ直ぐ彼の眼差しを受け止める。周りにいる他の仲間達も、皆一様にしっかりと頷いてくれていた。
「……ありがとう。みんな」
みんなの返答を聞いて、ノゾムは胸に湧き上がる想いを感じながら、只々深く頭を下げていた。