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第5章第5節

お待たせしました。第5章第5節投稿しました。


「てぇいやあああ!!」


「ふっ!!」


 学園都市アルカザムの外縁部。都市部からやや離れたこの場所で、2人の女性がそれぞれの得物をぶつけ合い、火花を散らしている。

 一人は猫のようなしなやかな肢体と耳を持つ獣人の女の子、ミムル。

 もう一人は細剣を舞うように振るいながら長い漆黒の髪を風になびかせた少女、アイリスディーナ・フランシルトだ。

 2人が戦っている場所からやや離れた場所では、ノゾムやマルス達、そしてミムルの友人であるシーナ達が2人の戦いを見守っている。


「それにしてもやっぱり凄いね、アイリスディーナさん。ミムルの動きをきちんと捉えているよ……」

 

「でもミムルの奴も中々やるな。アイリスディーナに押されているが、致命的な攻撃はしっかり避けている」


 アイリスディーナの力量に感心しているトムだが、マルスもまたミムルの身体能力に感嘆している。

 ノゾムやシーナ達もまた2人の戦いを、固唾を飲んで見守っていた。


 なぜシーナ達がこの場所にいるのか、それについてはやや時間を遡ることになる。







 終業のチャイムとともに、授業を終えた生徒達が教室から出てくる。

 ノゾムとマルスもまた他の生徒達と同じように教室を出ると、正門へと向かって歩いていた。

 

「じゃあ、今日もあの場所で訓練するのか?」


「ああ、アイリスディーナ達も来るから正門で待っていようぜ」


 ノゾム達は放課後の日課である外縁部での訓練をアイリスディーナ達とするため、学園の正門で待ち合わせをすることになっていた。

 ノゾム達が正門に着いた時、アイリスディーナ達はまだ来ておらず、2人は世間話をしながら時間をつぶしていたが、2人が世間話をし始めてからしばらく経った時、エクロスの校舎からソミアがブンブンと大きく手を振りながら彼らの所に走ってきた。


「ノゾムさ~~ん!!」


「おっ、ソミアちゃんの方が先に来たか」


「お待たせしました! 姉様は……」


「まだみてぇだな。もう少し待ってみて、それでも来ないようならちょっと教室まで行ってみるか?」


「そうだな。その方が良いと思う」


 ノゾムもアイリスディーナが遅い事が少し気になってはいるがあまり騒ぐことでもないと思い、マルスの意見に賛成する。

 その時、3人に話しかけてくる声があった。



「あら? 貴方達……」


 そよ風のような声が3人の間に流れ、その風に誘われる様に彼らは声のする方へと視線を向ける。


「シーナ……?」


 ノゾムが声のする方に顔を向けると、そこには青く長い髪を風になびかせたエルフの少女、シーナ・ユリエルがいた。


「こんにちはシーナさん!!」


「ふふ、こんにちはソミアさん」


「そういえばシーナは1人? トムやミムルは?」


 屈託のない笑顔で元気に挨拶してきたソミアにシーナも頬を緩ませて挨拶をする。

 ノゾムは彼女の傍にいつもいる彼女の親友とその恋人の姿が見えない事に気づいて、2人はどうしたのかと周囲を見渡しながら問いかけた。


「まあ、その……」


 シーナは何か頭の痛い事があったのか、こめかみを抑えながら視線を逸らした。心なしか疲れたような表情を浮かべている彼女に、ノゾム達は首を傾げていた。


「そ、そういう貴方達こそどこにも行かず、正門で何をしているの?」


「ああ、アイリス達を待っているんだ。外縁部で訓練をする約束をしているからね」


「そ、そうなの……」


 改めて質問してきたシーナにノゾムが答えるが、彼女の返答にはどこか歯切れが悪い。


「……ねえ。放課後はいつもアイリスディーナさん達と訓練しているの?」


「まあ、毎日ってわけじゃねえけどな。大体週に2、3日はやっているぜ」


「そう……」


 マルスの言葉を聞いた後、しばらく口元に手を当てて何かを考えていたシーナだが、

意を決したように顔を上げると、ノゾムにある頼み事をしてきた。


「ねえ、もし良かったら何だけど、その訓練に私たちも参加して良いかしら?」


「え?」


 彼女の頼みとは、外縁部での訓練に自分たちも参加させて欲しいというものだった。


「私たちも訓練はしているけど、正直3人じゃ出来ることも限られているし、3人とも出来ることがそれぞれ違うから実践ではバランスがとれて良いんだけど、たまには他の人と訓練するのも経験になって良いと思うの。それで3人で話したのだけれど、もしよかったら私たちも参加させてくれないかしら?」


 確かに、シーナ達のパーティーはそれぞれの前衛と後衛の役割がハッキリしている。

 前衛で撹乱を担当するミムル。

 そのミムルの後ろで弓矢による正確な射撃で前衛への援護を行うシーナ。

 さらに最後尾で魔法による各種援護と、視野の広さを利用して指示を行うトム。

 各々の役割がハッキリと分かれているため、非常にバランスが良く、戦略を立てやすいが、同時に柔軟性にはやや難がある。

 各々の役割が固着しやすく、代わりとなれる人間がいない。

 つまり、一人でもやられてしまえば、そのまま砂上の楼閣のように、パーティーそのものが一気に崩れかねない危険性も孕んでいる。

 実際、黒い魔獣と初めて戦ったときは、真っ先に指示を出す立場のトムがやられてしまい、危うく全滅しかかった。いや、ノゾムがいなかったら本当に全滅していただろう。

 ノゾムの冷静かつ素早い判断能力を間近で見ていたシーナは、今自分たちに必要なのは、敵を撃退するための強大な力ではなく、彼のように様々な状況にも対応できる対応能力と判断し、ノゾムにこの話を持ちかけたのだ。


「なるほど……いいんじゃないかな?一応アイリスに聞いてみるけど。マルスはどう思う?」


「いいんじゃねえか。シーナもミムルもかなり出来るみたいだし、俺は文句ないぜ」


「よかった……ありがとう」


 ノゾムが答えるまでやや緊張した面持ちで返答を待っていたシーナだが、ノゾムの了承の言葉を聞くとホッとしたように肩の力を抜いて微笑む。まだアイリスディーナ達に了承を取ってはいないが、少なくともノゾム達が納得してくれた事で一息つけたのだろう。

 元々容姿はアイリスディーナに引けを取らない彼女。ちょっと前までは固い氷のような表情しか向けられていなかったせいか、その自然な笑みにノゾムもちょっとドキドキしてくる。

 ノゾムが別の意味で緊張しそうになった時、なんだか呻くような声が聞こえてきて、3人は声のするほうに視線を向ける。


「うう……まだ頭が痛い、ちょっと居眠りしたくらいで暴力なんてひどいよ……」


「でも元を正せばミムルがインダ先生の授業で居眠りしていたのが原因だと思うけど……」


 やってきたのは頭を抱えたまま、ウンウン唸っているミムルとそんな彼女の隣を歩きながら呆れた様な視線を送るトムだった。


「でもでも!いくら何でも教科書の角を脳天に全力で振り下ろすことはないんじゃないかな!? オマケにトムまでインダ先生と結託して放課後までに反省文を20ページも書かせるなんて!」


 なんだか心外だと言うように声を上げるミムル。どうやら彼女はインダ先生の授業中に居眠りをしてしまい、その罰を受けていたらしい。

 ノゾムが隣にいるシーナの方に“これが理由?”というような視線を向けると、彼女は苦笑いをしながら肩をすくめる。


「でも僕としてはあのインダ先生の事だから、放課後は職員室か面談室で説教コースだったよ?それでもよかったの?」


「うう…………」


 どうやら罰である反省文はトムが提案したみたいだが、ミムルの表情を見る限り、そうでなければもっと酷い目に遭っていたらしい。

 インダ先生は2階級の担任をしながら忙しいジハード・ラウンデルに代わって1階級の授業も兼任することもあるなど、非常に優秀な教師ではあるが、生真面目で厳しいことでも知られている。そんな先生の授業で居眠りしたミムルの自業自得であるのだが……。


「やっと終わったのね。ミムル、時間かかり過ぎよ」


 シーナはミムルに“ようやく来たのか”と待ちくたびれたような声をかける。


「しょうがないじゃん! 反省文20ページも書いていたんだから!!」


「それがイヤなら真面目に授業を受けなさいよ……」


「ま、真面目に受けていたよ!「まあ、10分位で寝ちゃってたけどね……」ちょっとトム!」


 なんとか言い繕おうとするミムルだが、恋人であるトムまでが彼女の揚げ足を取りはじめる。


「……それじゃほとんど受けていないのと同じじゃない。それじゃノートも取ってないんでしょう? 今日の場所、試験に出るかもしれないって言っていたわよ」


「うっ……いいもん!トムにノート見せてもらうから!!」


 裏切った恋人を涙目でキッと睨みつ、ウ~ウ~と唸りながらトムに詰め寄るミムル。

 トムもちょっとやりすぎたのかと思ったのか、頬を掻いて苦笑いを浮かべながらミムルの要求を了承した。


「はは……まあ、いいよ。ミムル」


「トム、恋人を甘やかしすぎよ」


「へん!トムはいつも私の味方だから良いんだよ!!」


 トムが自分の味方に戻ったせいか、勢いを取り戻したように胸を張り、得意げな顔をシーナに向けるミムル。

 元々は本人の自業自得なのだが、彼女はトムが自分の味方であることの方が重要らしく、反省文と授業中の居眠りのことはもう本人の頭にはないらしい。この様子では次の授業でもまた居眠りをするだろう。

 シーナが現金なミムルに頭を抱えていると、今度はアイリスディーナ達がやってきてノゾムに声をかけてきた。


「ノゾム、待たせてすまない」


「ご、ごめんね。待たせちゃって……」


「いや、いいよ。それほど待っていないから」


「そうだな。退屈はしていなかったな」


 少し遅れたことを謝るアイリスディーナとティマだが、ノゾムもマルスもシーナ達と話をしていたのでそれほど待ったという気はせず、彼女達に気にしない様に言う。


「アイリス、実はシーナ達が訓練に参加させてほしいって言ってきたんだけど」


「ん?そうなのか?」


 ノゾムがシーナからの頼みをアイリスディーナに伝える。


「ええ、もしよかったら参加させてくれないかしら?」


「……私はいいと思うよ。アイは?」


「私もいいと思う。ノゾムも了承したのだろう?」


 ティマもアイリスディーナも特に断る理由はなかったので、快くシーナの提案を受け入れた。

 シーナの方も自分の提案が受け入れられたことにホッとしており、ようやく本当の意味で肩の力を抜いていた。


「良かったわ。それじゃ、よろしくね」


「あ、あの話、受けてくれたんだ!」


 ミムルは先ほどトムの一声で元気を取り戻してはいたが、やはりインダ先生に叩かれた場所が痛いのか自分の頭をさすっていた。しかし、アイリスディーナ達の話を聞いてパッと弾かれたように顔を上げる。


「まぁね。一緒に訓練する人が増えればいろんな経験もできるし、訓練の幅も広がるからね」


「よし!そうと決まれば善は急げ、だね。じゃあ行こう!すぐ行こう!!急いで行こう!!」


 自分達の提案が受け入れられたことに機嫌を良くしたのか、ここに来る時までは頭を押さえてウンウン唸っていた様子は欠片も見えない。恋人であるトムの腕に自分の腕を絡めると、もう一方の手でマルスの腕を掴み、彼女は一気に駆け出した。


「ちょ、こら!!」


「ミ、ミムル! うわ!」


「あ、マルス君!?」


「ちょっと、待って下さ~~い!!」


 男二人を引き摺りながら、いきなり駆け出したミムルに驚いてティマとソミアが慌てて後を追い始める。


「はあ、まったくもう……」


「はは! 楽しそうだな。よし、私達も後を追おう」


「えっ? わ!」


「ちょっとアイリス!?」


 いきなりはしゃぎ始めたミムルに呆れていたシーナだが、アイリスディーナはそんなミムル達が楽しいのか、自分達もとノゾムとシーナの手を掴むとミムル達を追って走り始めた。


「ちょっと待って!速い速い!」


「急がないと見失ってしまうからな! 頑張ってくれシーナ君!」


「ハハハ……」


 いきなりの事態の変化について来ることが出来ていないのか、時折足がもつれそうになっているシーナだが、アイリスディーナは構わず走り続ける。ノゾムはもうどうしようもないのか、彼の口からは苦笑いしか出てこない。

 だがその時、ノゾムは自分に妙な視線が向けられていることに気付いた。


「ん?」


 向けられている視線の元を辿っていくが、ハッキリと特定できない。しかしノゾムはこの視線に覚えがあった。


(これって……)


「ノゾム、ボーっとしている暇はないぞ。もっと急がないと見失いそうだからな!」


「……え?」


 視線の主の姿を探そうとしていたノゾムだが、自分の手を引く力がいきなり強くなったので、慌てて自分も足を速める。

 結局3人が外縁部に着いた時は、ノゾムもシーナもへとへとになってしまい、アイリスディーナだけは久しぶりに童心に帰れたのか、ニコニコとして機嫌が良かったりした。






「てええい!」


「ふっ!」


 そんなこんなで一休みした後、まずは互いの戦いの肩や力量を知ろうという事になり、初めにアイリスディーナとミムルが模擬戦をすることになった。

 獣人の特徴である高い身体能力で翻弄しようとするミムルだが、アイリスディーナの即時展開による高速魔法と隙のない剣術を破ることが出来ずにいた。

 初めの方はアイリスディーナも様子見のため自分から攻撃を加えることはしていなかったが、ある程度打ち合ってミムルの力量を見極め始めたのか、徐々にアイリスディーナから打ち込む機会が増えてきた。


「せい!」


「わっ!!」


 アイリスディーナの細剣がミムルの頬をかすめる。さらにアイリスディーナは即時発動で魔法を展開、風がミムルを中心に渦を巻き、生じた風の壁の内側にミムルとアイリスディーナが閉じ込められる。


「まず!!」


 ミムルの口から声が漏れる。

 生じた風の壁は2人と周りの空間を完全に切り離してしまっていて、この狭いスペースではミムルは持ち前の素早さを十分活かせない。

 もちろんそれがアイリスディーナの狙いであり、彼女はこの機会を逃さなかった。

 アイリスディーナは続けて身体強化の魔法を使い、一気にミムルとの間合いを詰めると、驟雨の様な突きの嵐を見舞う。


「はああ!!」


「わっわわっわ!!」


 ミムルも持ち前の反射神経で突きの嵐をどうにか捌こうとするが、身体強化で強化されたアイリスディーナの突きはただ速いだけでなく、一撃一撃に十分体重の乗った重いものであり、ミムルは徐々に押されていく。

 やがて限界を迎えたのか、ミムルの手からナイフが弾かれ、喉元に剣を突きつけられた。


「勝負あり……だな」


「……はあ、そうだね。私の負けみたい」


 ミムルが自分の敗北を認めると、アイリスディーナは細剣を鞘に納め、ミムルも弾き飛ばされたナイフを拾う。


「お疲れ様。いい勝負だったね」


「ありがとうノゾム」


 帰ってきた2人にノゾムが水筒を渡す。


「ありがと!あ~あ、でもやっぱり勝てなかったな~」



 流石にAランクのアイリスディーナに勝てるとは思っていなかったが、それでもやっぱり悔しいらしく、ちょっと肩を落としているミムル。普段はピョコピョコ元気に動いている耳もフニャっとしていて項垂れているようだった。

 

「でも凄かったよ、ミムル。アイリスディーナさん相手にあれだけ粘れたんだから自信持っていいと思うよ」


「そ、そうかな?えへへへ……」


 しかしやっぱり立ち直りは早いミムル。トムがちょっと褒めるとすぐさま笑顔になり、項垂れた耳も元気になる。それでも恋人に褒められて照れているのか、彼女の顔は心なしか赤くなっている。


「次は俺とノゾムがやろう。ちょっと相手してくれ」


「いいけど、ちょっと待って」


「マルス君……」


「……分ってるよ……」


 マルスが次は自分がやると言いだし、ノゾムに相手を頼み、ノゾムも了承する。

 ティマはマルスがまた無茶をするのが心配なのか、消え入りそうな声で彼の名前を呼ぶ。

 彼も今日の模擬戦でちょっと無茶をしたことは分かっているが、未だに心の中には焦りがあるせいか、ティマの懇願にも似た声に答えるものの、彼の声も少し硬くなってしまっていた。

 ノゾムとマルスが向かい合い、互いの得物に手を掛ける。

 マルスはその大剣を鞘から抜き出して正眼に構え、ノゾムは腰を落として鞘に納めたままの刀の柄に手を添える。


「どっちが勝つかな?」


「う~ん。マルス君の方が身体能力は高いけど相手があのノゾム君だからね……」


「彼が幻無を初めとした攻撃用の気術を使えばどうなるか分からないけど……」


「あれは殺傷力が強すぎるからな。今までの組手で彼がそれを使ったことはないんだが……どうしてシーナ君達が彼の技を知っているんだ?」


 ミムルが勝つのはどっちかという予想を聞いてきて、トムとシーナの予想はやはりノゾムがどのような気術を使うかによると答えるが、その言葉に対してアイリスディーナがどうしてノゾムの気術の事を知っているのかをつい尋ねてしまった。


 その言葉にシーナ達が固まる。

 

 アイリスディーナの疑問ももっともであり、事実、傍にいるソミアもティマも視線をシーナ達に向けていた。

 彼女達はノゾムがどうしてシーナ達と親しくなったのかを知らない。

 ノゾムとシーナ達は黒い魔獣の一件についてジハードから口止めされており、アイリスディーナ達にはこの件について話せない。

 だがアイリスディーナ達もこの件は気になって仕方がないのだ。

 黒い魔獣の一件が起こる直前、明らかに様子のおかしかったノゾム。

 いくら問い詰めても答えてくれない彼の様子は明らかに無理をしており、ただ事ではない事は分かったがそれから先はまるで透明な氷の壁に遮られているように踏み込めない。

 この件から2週間経ち、時間と共に徐々に元に戻りつつあるように見えるノゾムと彼女達だが、彼らの胸の奥に残るわだかまりは解決しないまま蓋をしている状態であり、未だに消えてはいない。

 内心あまり踏み込むべきではないと思っていたアイリスディーナだが、何故シーナがノゾムの気術を知っているのかという疑問が心に生じた瞬間、思わず尋ねてしまっていた。

 そして今、アイリスディーナがつい洩らしてしまった一言でその蓋が僅かではあるが開いてしまい、結果として妙に気まずい雰囲気になってしまっていた。


「まあ、色々あったのよ……」


 自分達をじっと見つめてくるアイリスディーナ達に対して、シーナが漏らすように呟く。


「色々……?」


「そう、色々……」


 それっきり黙り込んでしまう2人。

 他のみんなも何も言えずに口をつぐむ。ノゾムとマルスはアイリスディーナ達のやり取りが見えていないのか、互いに睨みあったまま相手の出方を窺っている。

 やがてノゾムがジリッと体の重心をさらに落とすと、マルスも大きく息を吐いて気を全身に廻らせ始める。

 ノゾムもまた足に気を集中させ、踏み込もうした瞬間、その戦いに待ったをかける声が響いた。


「ちょっと待ってくれんかな」


 決して大きい声ではないが芯に響くような声に、そこにいた全員がハッとして声のする方に振り向くと、ソルミナティ学園の制服を着た男子生徒がこちらに歩いて来ていた。


「……お前」


「ようノゾム。ちょっと時間くれへん?」


 金色の髪と、同じ色の耳と尻尾。糸のように細い目と端正な顔に浮かぶ微笑が魅力的だが、逆にそれが何を考えているか分からない胡散臭さを漂わせており、右手には細長い袋に包まれた何かを持っている。

 3学年2階級、フェオ・リシッツア。

 以前、ノゾムと廊下でぶつかった狐尾族の青年がそこにいた。




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