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第4章第17節

お待たせしました。

第4章第17節、更新しました。

「ギ、アアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 黒い魔獣がトムを地面に押し倒し、彼の腕に喰らいついた。魔獣の牙が肉を貫き、激痛にトムが悲鳴を上げる。


「トム!!!! この! 放せええええええ!」


 ミムルが悲鳴を上げながら、魔獣に踊りかかるが、彼女のナイフは魔獣の鎧の様な皮膚に阻まれ、空しく弾き返される。魔獣は必死にトムを助けようとする彼女には見向きもしない。



「ふっ!!」



 後ろから追いついたノゾムが、ミムルと魔獣を挟んで反対側から突っ込んできた。

 ノゾムの狙いは魔獣の顎の関節。抜いていた刀を納刀しながら、上顎と下顎の繋ぎ目に気術“破振打ち”を叩き込む。


「グギャウ!!」


 顎に打ち込まれた気と衝撃波は、構造的に脆い間接を破壊、顎の力が抜けた魔獣は、咥えていたトムの右腕をポロリと落としてしまう。

 更にノゾムが追撃する。

 両手を腰だめに構え、気を圧縮。そのまま気術“震砲”を魔獣に叩き込んだ。

 叩き込まれた震砲は黒い魔獣を吹き飛ばすことは出来なかったが、至近距離で放たれた強烈な気の奔流は魔獣をひるませる事に成功し、その隙にミムルが地面に倒れ込んだ恋人を抱えて離脱し、ノゾムも魔獣との距離を空けながら、シーナと魔獣の間に入る。



「トム! トム!! しっかりして!!!」


「うぅう……」



 ミムルが涙を流しながらトムに呼びかけているが、状態は芳しくない。激痛と出血によるショックで意識が朦朧としており、かなり危険な状態であることは傍から見ても分かった。



「グビャッ、ゲヒャァウ!!!」



 黒い魔獣はノゾムに顎を破壊されたせいで下顎が閉じず、舌を出して呂律の回らない声を上げている。

ノゾムがシーナの方を見ると、彼女は呆然としたように立ち尽くしていた。



「おい! おい!! しっかりしろ!!!」


「わ、わたし、私…………」



 彼女はどう見ても混乱していて、とても戦える状態ではなかった。

 ノゾムが声を張り上げながら彼女の頬を叩く。



「く、しっかりしろ!! シーナ・ユリエル!!!」


「………………あ」



 頬を叩かれたことで、彼女の目に光が戻ってきた。

 ノゾムは彼女が我を取り戻したことを確かめると、再び黒い魔獣と向き合う。魔獣の方は顎を破壊されたことが堪えているのか、むせながら地面に血と涎を吐いており、動きが止まっている。



「逃げるぞ!! 気をしっかり持て!!」



 ノゾムがシーナに有無も言わさず言い切りながらミムルの方を見ると、彼女も何度も首肯して同意した。彼女もトムがやられたことでかなり動揺している。


 

「よし、すぐにここから離れて……なっ!!」



 ノゾム達がこの場を離れようとした時、目の前で起こった光景に目を疑った。

 先程ノゾムに顎を破壊された魔獣の顔に縦の線が入ったと思うと、メリメリと音を立てながら魔獣の頭が縦に裂け始めたのだ。



「い、いったい何が……」


「あああ…………」


 ミムルが呆然とした様子で見守り、シーナが恐怖に引きつった顔を浮かべている中、黒い魔獣は更にその容貌を変えていく。

 自分の周りに己の血を撒き散らしながら魔獣の頭から首までが縦に裂け、裂けた傷口に無数の牙が生え始めた。かつて頭があった場所は一際大きな牙が3本生えて巨大な口を作り上げ、首の側面に巨大な眼が1対出現する。

 肥大化していた体は更に肥大化し、足の爪も大きく鋭くなり、もはや狼のような風貌は無く、完全な化け物としての姿に変わる。



「ギガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 巨大な口を左右に開いて、魔獣が咆哮を上げる。



「……………………」



 ノゾムはそれを見て4人同時の脱出は不可能と判断した。とても怪我人を庇いながら逃げられる相手ではない。



(少なくとも、こいつを食い止めるための囮か殿が必要になる……ミムルはトムのカバーをするし、シーナは……今の彼女には無理だろう……となると俺しかいないか……)



 ミムルはトムの事で頭が一杯だろうし、ちらりと見たシーナも同様だ。とても殿が務まるとは思えない。

 自分達が1人も欠けずに生き残る。そのために一番可能性が高い手段……。



「おい、シーナ」


「えっ?」


 ノゾムはさらなる変容を遂げた魔獣から目を離さない様に懐から一枚の地図を取り出すと、後ろ手でその地図をシーナに渡す。



「この辺一帯の地図だ。そこに書いてある小屋に行けば治療道具が一通り置いてある。そこでトムの治療をしたらその小屋で一晩明かして、明日陽が昇ったら街に戻って、この魔獣の事を報告しろ」



 ノゾムはシーナに有無を言わせない口調で指示を出す。指示をした場所はシノの小屋。この近くで唯一治療ができる場所だ。

 人数の少ないこの状況では、この場で魔法などを使って、怪我をしているトムの治療を行う余裕はない。彼の状態が一刻を争う以上、無駄な時間を使うことは許されなかった。



「で、でも。それじゃ貴方が…………」



 シーナの視線はノゾムとトムの間を行ったり来たりしている。彼女の瞳は揺れており、責任感と罪悪感の板挟みでどうしようもなくなっている様だった。

 だが今この場で彼女を気遣ってやれるほどの余裕はノゾムにはなかった。



「この場で囮か殿になれるのが俺しかいないんだ! それにトムの状態を見ろ! 俺の事なんて気にしているほどそっちに余裕はないだろうが!! なら自分の仲間を優先しろ!!!」



 まだ逡巡しているシーナを怒鳴りつけるノゾム。その大声にビクンと体を震わせるシーナだが、ノゾムは構わず気を全開にして全身に強化を掛ける。高まった気を感じたのか、目の前の魔獣が身を低くして身構えた。


 ノゾムは足を振り上げると、その足を全力で地面に叩きつけた。

 それと同時に地面に気を送り込んで爆散させ、魔獣の視界を塞ぎ、シーナ達の逃走方向を知られないようにするために土煙を巻き上げる。



「行け!!!!」


「……ゴメン! ノゾム君!! ここはお願い!!」


「ッ!!!」



 ノゾムがそう叫ぶのと同時にミムルがトムを背負って走り出すが、シーナはそれでも一瞬迷いを見せた。

 目をギュッと閉ざし、耐えるような表情を見せたが、振り切るように踵を返して森の中に消えて行った。


 土煙の向こうでは完全に変容を終えた魔獣が、土煙が巻き上がったのと同時にノゾム達めがけて駆け出していた。

 

 だが、ノゾムはそれも織り込み済みだった。

 ノゾムはシーナの様子を最後まで見ることはせずに、土煙めがけて突っ込みながら、腰のポーチに手を伸ばし、取り出したものをノゾムは土煙越しに魔獣に投げつける。


 投げつけたのは閃光玉と音響玉。以前持っていた爆雷玉は高価すぎて、経済状態のよろしくないノゾムは買えなかったが、前者2つは回復薬と同じように購入することが出来ていた。

 ノゾムが投げつけた閃光玉と音響玉は突っ込んできた魔獣の目前で炸裂。凄まじい閃光と炸裂音を周囲に響かせた。



「グギャン!!!」



 目の前で炸裂した閃光と炸裂音に足が止まる黒い獣。その脇をノゾムは全力で駆け抜け、シーナ達とは反対方向の森の中に飛び込んだ。

 この魔獣相手に時間を稼ぐために正面からの戦うのではなく、反対方向へ誘導するための囮になることを選択したノゾム。ただ、シーナ達を追いかけられたら堪らないのでワザと魔獣の目に付く様に真正面から突っ込んで駆け抜けた。



「ギエエエエエエ!!」



 ノゾムの采配は当たり、巨大な口から恐ろしげな咆哮を響かせ、黒い魔獣はノゾムの跡を追いかけ始めた。







「ギガアアアアアアアアアア!!!」


 咆哮が大気を震わせ、巨大な魔獣が駆ける足音が、ノゾムには地面すらも揺らしているように思えた。


「ハア、ハア、ハア、ハア!!」


 ノゾムが囮として魔獣を引き付けてから10分余り、彼の魔獣からの逃走劇は未だ森の中で行われていた。

 ノゾムと魔獣の能力差を考えれば、本来なら彼は1分足らずに魔獣に追いつかれ、食い殺されていただろう。彼が逃げ延びていられた理由は単に地の利がノゾムにあったからだ。

 彼がシノに修行と称して散々走りまわされた森。時に魔獣に襲われ、命からがら逃げ延びるなんて事が常だった場所だ。この場所についてノゾムは街の狩人達よりよく知っている。

 ノゾムが逃走に選んだのは、森の中で背が低く、ある程度成長した木々が生い茂る場所。木々の間隔が狭く、肥大化して巨大な体躯となった黒い魔獣はその体格が災いし、生い茂る木々に邪魔をされ、ノゾムに追いつくことが出来ずにいた。

 だがノゾムも魔獣を完全に振り切ることは出来ず、両者の距離はほとんど変わっていない。

 このままの状況で不利なのは明らかにノゾムだった。



(もう少しでこの場所を抜ける。だけどあの場所に行くまでまだ時間がかかる。この距離だと辿り着く前に追いつかれるかもしれない……間に合うか?)



 チラリと振り返って相手の様子を窺うと、相変わらず巨大な口を全開に開いて追いかけてくる黒い獣がいる。



(だああああ! しつこい!! いい加減あきらめてくれーーー!)



 ノゾムが目指している場所。そこに辿り着くにはまだ距離がある。そこに辿り着ければ逃げ延びるチャンスはあるが、今のままではその前に追いつかれる可能性が高い。

 その時、ノゾムの脳裏にあるものがよぎった。



(……そうだ! アレを使えば足止め出来るかもしれない!! 問題はまだアレが動いてくれるかどうか……)


 ノゾムが走る方向を変える。目的の場所へは多少遠回りになるが、それでもあの足止めがあれば確実に目的地に辿り着ける。しかし、足止めができなければ確実に追いつかれ、戦うことになる。


「ッ!!」


 ノゾムが僅かに顔を歪める。考えたのは能力抑圧の解放。確かにあの魔獣と戦って勝つには必要だろう。

 しかし、ノゾムは迷いを未だ振りきれていなかった。

 目に付いた命を惨殺し、殺しつくす自分自身。昨日の光景が頭によぎり、何より自分が一度その衝動に身を委ねてしまったことが、彼に力の解放を躊躇わせ続ける。

 

 ノゾムが逡巡していると、目の前の光景が変化した。

 生い茂っていた木々の間隔が広がり、周りには幹が太く、背の高い木々が生え始めている。


(っ! くそ!!)


 未だに抑圧の開放ができないノゾム。彼は真っ直ぐにある場所を目指すが、後ろからは黒い魔獣が追ってきており、その距離を縮めてきている。



 やがて平坦な地面は途中で切れており、急な坂が目に入ってくる。

 ノゾムはその坂を全力で駆け降りる。

 足を踏み外して転んでしまったら、下まで一直線に転がり落ちてしまい、大ケガは免れないのだが、今は速度を緩めるわけにはいかなかった。

 黒い魔獣もノゾムを追いかけようと坂を下ってくる。


 ノゾムと魔獣との距離がさら縮まり、遂にノゾムの直ぐ後ろに迫ってきた。

 魔獣がその顎を大きく開く。左右に開いた巨大な口は真っ赤に染まり無数の牙がギチギチと音を立てており、その奥に円形のもう1つの口が出現し、獲物を待ち構えている。

  

 ノゾムは魔獣の咢から逃げ延びようと全力で駆けているが、明らかに逃げきれない。

 そして、魔獣の顎が遂にノゾムを捉えそうになった瞬間。魔獣の視界からノゾムが消え、魔獣の片方の前足に激痛が走り、鮮血が舞い散った。



「ギャン!!!!」


 突然の事にバランスを大きく崩す魔獣。体勢を立て直そうとするが片足に踏ん張りが利かずに地面に倒れ込み、そのまま坂道を転がり落ちていく。


「ぐうう!!」


 ノゾムはバランスを崩し、フラフラと覚束ない足取りではあるが、どうにか体勢を立て直し、転がり落ちた魔獣から離れながら坂を駆け下りていく。


 ノゾムがやったのは、相手が彼の間合いに入った瞬間に“瞬脚-曲舞-”を応用して体勢を低くしながら走る方向を変更。そのまま相手の側面に逃げ、気術“幻無”で相手の前足を斬りつけた。

 体重の掛かる前足の片方を傷つけられた魔獣は自分の体重と勢いを止められず、そのまま坂を転がり落ちてしまったのだ。



「はあ、はあ、はあ…………」



 ただ恐ろしく綱渡りな行動だったのは確かだ。

 タイミングが一歩でも間違えば自分が坂を転げ落ちるか、そのまま食われるかのどちらかだったのだ。


 

 坂を駆け下りたノゾムは魔獣がどうなったのか確認する余裕はなく、そのまま走り続ける。おそらくまだ……。



「ギエエエエエエ!!!!!」


 あの魔獣の咆哮が再びノゾムの耳に入ってきた。

 肩越しに後ろを覗いてみると、あの魔獣が再び追いかけてくる。



(くそ! やっぱりだめだよな!!! もうちょっとなんだから大人しくしてくれよ!!)



 元々あの程度では倒せるなんて思っていなかったが、距離は稼ぐことが出来た。ノゾムはそのまま走り続けると目の前に一本の木が見えてくる。


(あった!! 頼む! 動いてくれ!!)


 ノゾムはその木の傍まで駆け寄ると、幹の近くに置かれていた大きな石を蹴り飛ばした。

 次の瞬間、ビシュ! という音と共に石が横に吹き飛ぶと魔獣とノゾムの間に格子状に編まれたロープが次々と出現した。

ノゾムを追いかけていた魔獣は格子状に編まれたロープに足を取られて転倒。何とか逃れようともがくものの、そのせいでさらにロープがその身に絡まっていく。

 元々のこの罠は、ノゾムが以前シノに森の中に放置された時、襲ってきた魔獣から逃げる為に設置していた物で、足止め用に作っていた物だ。

 一応他の冒険者たちが引っ掛かったら不味いと思ったので、罠自体に殺傷力は無く、要に置いていた石を動かさない限り作動しないようにしていたが、かなり前に作ったもので動くかどうかも不安だったのだ。

 ちなみに余談だが、ノゾムは森のあちこちに、このような足止め用の罠を設置していたりする。

 身体能力に劣るノゾムが生き残る為にはこのような物も使う必要があった。ひとえに生き残るための知恵である。


 とは言っても所詮足止め用の罠。しかも年月が経っており、使っているロープも草を編んだもので決して頑丈なものではない。

 案の定、ロープが魔獣の力に耐えられずにブチブチと切れ始めた。



「やっぱりかーーーー!!」



 元々堪え切れると思っていなかったので、ノゾムは更に走り続ける。

 ノゾムが木々の向こうから僅かに見えるぐらいになったころ、魔獣はようやく自分を戒めていたロープから脱出し、ノゾムの追跡を再開した。



(あと少し、あと少し!!)


 ノゾムの目的地が近づいてきているが、一度離した魔獣も再び距離を詰めてきている。

 やがてノゾムの視界に、生い茂る木々の隙間から目的地が見えてきた。


 そこには緑色の肌の小人がいた。木と葉っぱと皮で作ったテントが立ち並び、棒の先に刺した獲物の頭蓋骨が並べられ。あちこちに火が焚かれて、狩ってきた獲物が丸焼きにされている。

 そこはゴブリン達の集落だった。

 この集落は以前ノゾムが森の中で見つけたものだが、見つけた時は彼がシノと修業を始めたばかりの頃だったので、当時はゴブリン達に見つかっては不味いと思い、放置していた集落だ。



 集落の入口で見張りをしていたゴブリンが走ってくるノゾムを見つけた。

 

「ギャギャ!!!」


 ゴブリンは初めこちらに向かってくるのが人間1人だと思い、ニヤニヤ笑いながら仲間を呼んだ。1人で自分達の集落にやって来た愚かな人間を今日の晩餐に出そうとでも考えたのだろうが、後ろにいた巨大な魔獣を見た瞬間、顔色が真っ青になって狼狽え始めた。

 見張りのゴブリンに呼ばれた他のゴブリン達もこちらに向かってくる黒い魔獣を見た瞬間、血相を変えて逃げ惑い始めた。

 ノゾムはそんなゴブリン達には一切構わず、魔獣を後ろに引きつれたままゴブリン達の集落に突っこんだ。

 


 ゴブリン達の集落は、案の定大混乱となった。

 武器を手に駆け出してくる者、一目散に逃げ出す者、どうしていいか分からず慌てふためく者。

 とにかく、あちらこちらからゴブリン達の泣き叫ぶ声が聞こえてきて、凄まじい騒音となっている。

 そんな中、肝心のノゾムと黒い魔獣はゴブリン達の集落の中を行ったり来たりしており、混乱に拍車をかけていた。

 ノゾムはゴブリンの集落に魔獣を引き連れたまま突っ込んで、パニックを発生させて、その混乱に乗じて逃げようと考えたのだ。

 しかし肝心の魔獣は未だにノゾムの後ろから巨大な口を全開にして追いかけてくる。



(あれだ!)


 ノゾムの目の前に一際大きなテントが見える。おそらく集落の主の住処だろう。そのテントの入口から、周りのゴブリン達と比べても一際大きなゴブリンが姿を現す。この集落の主、ゴブリンロードだ。

 何事かと言うような顔で出てきたゴブリンロードだが、自分の所に突っ込んでくるノゾムと黒い魔獣に気付くと口をあんぐりと開け、次の瞬間、大声を上げていた。



「ギャアアアアアアアアアア!!」


「うおおおおおおおお!!!!」


「ゴアアアアアアアアアアア!!!」



 ノゾムとゴブリンロードと黒い魔獣はそのまま族長のテントになだれ込んだ。

 テントの中になだれ込んだ1人と2匹だが、ノゾムは中に入った瞬間に瞬脚-曲舞-でテントの端に逃げる。黒い魔獣はテントの中が薄暗いせいで再びノゾムの姿を見失ってしまい、目の前にいたゴブリンロードをノゾムと勘違いして襲い掛かった。

 ゴブリンロードの絶叫が響く中、ノゾムはすぐさま外に出てテントを支えている縄を切り、テントを崩して魔獣を覆う。


 元々ノゾムは大きなテントで魔獣の視界を塞いでその間に逃げるつもりだったのだが、たまたま目の前にいたゴブリンロードが巻き込まれてしまい、哀れゴブリンロードは魔獣の八つ当たりを受ける羽目になってしまった。


 崩れたテントの下で魔獣が暴れている間に、ノゾムは一目散に逃げる。


「ハア! ハア! ハア!!」


 もはやノゾムの体力はとっくに限界だった。おまけに逃げる途中で怒り狂ったゴブリン達がノゾムに気付いて矢を射かけてきたが、彼は気力を振り絞って逃げに徹する。

 ゴブリン達の追撃を躱し、ノゾムが森の中にどうにか逃げ込んだ後、テントの下敷きになっていた黒い魔獣が這い出てきた。

 ノゾムの姿を見失ったことに気付いた魔獣はその怒りをぶつける様にゴブリン達に襲い掛かる。

 再び響いたゴブリン達の絶叫を背中に受けながら、ノゾムはただひたすらに走り続けた。




いかがだったでしょうか。ゴブリン達涙目な回。

この節一番の被害者は彼らでしょう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >テントの中になだれ込んだ1人と2匹だが、 第15節でゴブリンの数え方は”人”でしたが、数え方を変えたのですか?
[一言] ごぶりん、、
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