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第4章第5節

お待たせしました。第4章第5節投稿しました。

……正直まったく自信がありません。


 冒険者という職業がある。


 魔獣という脅威があるこのアークミル大陸において、一般人が魔獣の領域に入ることは危険極まりなく、そんな場所に入るのは自殺願望者か街に入ることが出来ないおたずね者くらいだ。

 

 しかし、魔獣の領域の中には手付かずの貴重な材料や希少価値の高い鉱物があることも確かだ。

 そんな危険地帯に命を懸けて挑む者たちが冒険者であり、彼らは騎士とは違うあり方でこの大陸内で一定の地位を持っていた。


 彼らが集う冒険者ギルドでは、そんな冒険者たちが様々なものを売買し、依頼を探しに来る。

 アルカザムのギルドにおいてもそれは変わらないが、冒険者たちに交じって年若い少年少女達の姿も見える。彼らはソルミナティ学園の生徒達であり、彼らもまた、自分達が受ける依頼を探してこの場所に集まっていた。



 そんなギルドの中で壁に背を預けて辺りを見渡している青年がいた。金色の耳と尻尾を持ち、ソルミナティ学園の制服を着た獣人。3学年2階級のフェオ・リシッツァだ。


 

(う~ん、どうやらノゾムの奴はおらんみたいやな~)



 彼が捜しているのは最近興味を持ち始めた同学年の男子生徒、ノゾム・バウンティスだ。

 ノゾムが時々このギルドで雑務系の依頼を受けていることを聞いたフェオ。

 今日の放課後、正門近くで下校するアイリスディーナ達を見かけたがノゾムの姿はなく、恐らくこのギルドで依頼を探しているのだろうと当たりを付けたのだが、どうやら外れたようだ。


 

(う~ん。どこいったんかいな……)



 フェオがノゾムの行先を思案していると、突然彼に話しかけてくる声があった。



「よう。キツネ野郎。今日は他の連中に媚を売らないのか?」



 話しかけてきたのは、同学年でランクAに到達した生徒の1人。ケヴィン・アーディナルだ。フェオは内心小さくため息を吐く。



(はあ、めんどい奴が来おったな~)



 フェオの種族である狐尾族は非常に警戒心が強く、身内などを除けば他人に心を許すことはほとんどない。


 また、意外と気まぐれで知られており、興味のあることに対する執着は凄まじいが、興味のないことに対してはかなりおざなりだ。


 それだけなら他のコミュニティーから孤立してしまう。

 しかし、彼らは非常に交渉力に長けていた。

 たとえ初めは疎まれたとしても、他人の感情を敏感に察知し、巧みな交渉を行い、様々なことを小器用にこなすことで自分達を認めさせてきた。

 それは同じフェオも変わらない。実技の授業でも特定のパーティーを持たず、あちこちのパーティーを渡り歩く。


 しかし、周囲に合わせながら、あちこち渡り歩く狐尾族の在り方は銀狼族のケヴィンにはただ媚を売っているようにしか映らなかった。

 銀狼族は強さを誇りとして重んじる種族であり、日々自らを鍛え、その強さで自分のコミュニティーを支配している。


 同じ銀狼族のケヴィンもまた、強さを誇りとして重視している。

 彼がアイリスディーナに執着しているのも、彼女のもつ強さと誇り高さゆえだった。

 そんな彼にとって、フェオのあり方は認められないものだった。


 

「お前、いつも違う連中とパーティーを組んでいただろ、今日は何もせずに悪巧みか?」


「別にええやろ。それに今日は誘われても遠慮するつもりやったんや」


「ん? そりゃどういうことだ?」


 ケヴィンがそう言うと、フェオはある場所を指差した。

 そこにあったのは様々な依頼が書かれた紙を張り付けた掲示板。壁の一画すべてが掲示板として使われており、その中心に大きく何かが書かれていた。



「なになに……キクロプスだと!」


「ああそうや。なんでも昨日ある冒険者のパーティーが森の奥で見かけたそうや。それで周りに周知させようと張り出されたらしいな……」




 キクロプスは三つ目の巨人であり、一つ目の巨人であるサイクロプスの上位種で、サイクロプスと比べても体格が一回り大きい。


 魔獣としては最上位の竜に次ぐ危険性を持っているとされ、ランクAに区分される危険な魔獣だ。

 桁外れの膂力を持っており、その力は木を容易く根っこから引き抜いてしまうほどであり、全身を覆う筋肉の鎧は鋼鉄より硬く、並の攻撃ではビクともしない。


 接近戦を挑むのは危険極まりない魔獣であり、大抵は魔法での遠距離攻撃で仕留めるのが定石とされている。魔法による炎や雷が相手では筋肉の鎧の効果が薄く、接近される前に仕留めることが可能だからだ。


 しかし、この魔獣の危険性はそれだけではない。もっとも警戒すべきなのはサイクロプス、キクロプスが共に持つ“狂鬼の忌眼”と呼ばれる異能だ。

 その異能は自身の本能を暴走させ、全身の筋力を倍加させる。

 発動時、眼球が赤くなり、全身の筋肉が隆起する。

 これが一番危険な状態だ。ただでさえ桁外れの膂力を持つ巨人の力が倍加してしまったら、並の冒険者では到底太刀打ちできない。

 さらに、筋力が倍加するという事は、その筋肉が元である巨人の防御力も倍加し、さらに筋肉で動いている巨人の素早さも倍加するという事だ。



「まあそういうわけで、銀虹騎士団も出張っているらしいで」


 銀虹騎士団。

 アルカザムに常駐している騎士団であり、また各国から選りすぐりを集めて作られた精鋭騎士団である。

 この騎士団は10年前に、フォルスィーナ国が派遣した騎士団が母体となり、侵攻してきた魔獣達と戦ううちに、各国の軍隊を吸収。多くの違う国の人間が所属する騎士団として生まれ変わり、その騎士団が設立されたことで各国の軍隊が纏まり、魔獣を撃退するうえで大きな役割を果たしたことがきっかけとなった。

 その後、再び大侵攻があることを想定して銀虹騎士団はそのまま維持されることとなった。

 現在は大侵攻時と比べて規模は縮小したものの、騎士団を構成する人材の質はさらに高められ、文字通り一騎当千の猛者しか所属することを許されない。

 騎士を目指す人間にとっては、一度は憧れる騎士団であり、また実質最強の騎士団でもある。

 学園に所属する剣士、ジハード・ラウンデルはこの騎士団から出向という形で、ソルミナティ学園で教鞭をとっており、戦闘術の最高顧問として後進の育成にあたっていた。



「まあいいさ。どうやら森の奥での話みたいだし、あまり奥に行かなけりゃあ大丈夫だろ」


 ケヴィンはそう言うと、自分のパーティーと共にギルドを出て行く。

 フェオの方も、そんなケヴィンに対してすぐに興味を失い、ノゾムの事を考え始める。

 


「今あいつ、どこにいるんやろな~」



 今一番気になる男子生徒。あの黒髪姫が気にかけている人間。冒険者たちが行きかう喧騒の中、常に微笑を浮かべたフェオの顔の頬が僅かに吊り上がっていた。





 フェオがギルドでケヴィンと鉢合わせていたころ、ノゾムは街の中を歩いていた。彼はシノの小屋で自主鍛練をするため、森へ向かっている途中だった。

 あの場所なら能力抑圧の解放をしても、周りは森だけなので、人に気付かれる恐れはない。龍殺しの力の隠匿とその力を周囲に気付かれた時の視線と数々の陰謀を恐れているノゾムにとっては、その場所での鍛練は欠かせないものだった。



 ノゾムは街中を歩きながら、自身の考えに没頭していた。

 だが考えれば考えるほど、ノゾムの中に言い表せない不安感が込み上げてくる。

 

 考えていたのはノゾムが周囲から孤立する切っ掛けとなったあの噂。


 以前は学園ではすべての事に目を背けていたノゾムだが、今はシノとの約束やアイリスディーナ達と触れ合うことで少しずつ自分の周りに目を向けることができるようになって来ている。

 しかし、周りを見ることが出来るようになったが故に、最近は今まで感じていなかった違和感を感じるようになってきていた。


 それは自分の殻に籠っていた時は絶対に気付かなかったこと……いや、無意識に気付こうとしなかったことであり、それを知ってしまったらノゾムの中の何かが致命的に壊れてしまうことを恐れていたからだ。



 あの日の朝、ノゾムはリサと学園の正門前で待ち合わせをしていた。だが現れた彼女は突然ノゾムの頬を引っ叩いた。

 訳が分からず呆然としているノゾムに、冷たい憎悪と嫌悪に満ちた眼で“さようなら”と一方的に別れを告げて立ち去るリサ。ノゾムが訳を聞いても振り返ることなく、彼女は校舎の中に消えて行った。

 それからノゾムの周りのすべてが変わってしまった。

クラスメート達はノゾムを相手にしなくなり、彼は完全に孤立した。

 片や成績優秀で将来有望な冒険者の卵。片や成績の振るわない劣等生。


 男女問わず人気があったリサを傷つけた人間として、ノゾムは上級生、下級生、男女問わず生徒達から心と体に制裁を受け、結果的に自身の夢や希望を完全にへし折られた。

 


 だが、今になって考えてみれば、あの噂が立った時の事はあまりに不自然だった。


 リサは確かに有名人だ。それを考えれば、噂自体の拡散速度はまだ分かるが、妙だったのはリサがノゾムの浮気を信じたこと。

 もともとあの噂を他の生徒達が信じたのは、リサがノゾムの浮気を否定しなかったからだ。


 しかし、そもそもノゾム自身浮気をしていない。そしてノゾムとリサは幼馴染であり、数少ない同郷出身の人間だ。

 そんな彼女がノゾムの浮気を信じるには、それに足るだけの証拠が必要であり、かつ、それを吹き込める人間が必要だ。

 また、それが可能な人間は、リサにそう信じさせるだけの信頼関係を持った人間でなくてはいけない。

 そして、当時それに該当する人間はこの学園で一人しかいなかった。



(…………まさか……あいつが?)


 ノゾムの頭によぎったのは同じ同郷出身の幼馴染、ケン・ノーティス。

 確かに彼ならノゾムの考えていた条件に合致する。

 リサとの信頼関係において、当時彼女がノゾムと同じくらい信頼していたのはケンだ。

 


(っ! そんなことあるわけが……あいつがあの噂を広めたっていうなら、その後も俺も変わらず付き合うはずが…………)


 

 ノゾムは“もしケンが犯人なら、そもそも陥れたノゾムと変わらず話などをするはずがない”と自身の考えを振り払うように首を振るが、すでにノゾムにはその理由すらも頭に思い浮かんでいた。



(…………まさか、俺を監視するため?)



 この噂において、一番違和感を感じ、なおかつ一番解決に奔走するのはリサに振られた本人であるノゾムだ。

 だからこそケンはノゾムの動きを封じ、彼に違和感を感じさせないためにノゾムとの態度を変えなかった。

 当時、周囲から完全に孤立していたノゾムは必死で逃げ場所を探していた。

 学園の外ではシノの修行という逃げ場があったが、学園の中にそれは無かった。

 人間は精神が限界まで追い詰められ、辛いことに直面し続けると安易な道に走り、どうにか自分の精神を守ろうとする。

 ケンは、必死に自身を守ろうとしていたノゾムに漬け込み、ノゾムが噂の払拭に奔走しないよう監視するために態度を変えなかった。



 ここまで来たら、ノゾムは逃げる訳にはいかない。少なくとも彼はシノと“たとえ逃げたとしても、逃げた事実からは目を逸らさない”と約束してしまっている。今更気付いた、自身が逃げた事実を無かったことにすることはノゾムには出来なかった。


(…………確かめるしか……ないよ……な)


「やあ、ノゾム。こんなところで何しているんだい?」


 その時、横合いからノゾムに話しかけてくる声があった。

 今し方考えていた人物の声。

 幼い時から信頼し、信用していた幼馴染の声。


「……ケン」


 ケン・ノーティス。

 金髪をなびかせた美丈夫がそこに立っていた。





「こんなところで何しているんだい?」


 ケンは笑顔でノゾムに話しかけてくる。傍から見てもその顔を見る限り、ノゾムを陥れた人間であることは窺えない。


「い、いや。ちょっとな……」


 突然のことで動揺してしまうノゾム。

 どうやらリサの姿はなく、彼一人のようだ。

 

「…………ケン、少し話があるんだけど、いいか?」


「?これからリサと会う約束をしてるけど、少しなら時間取れるよ。……なに?」


「ここだと話し難い。ついて来てくれ……」


 ノゾムはケンに背を向けて歩きはじめる。向かう先は街の外縁部。

 最近マルス達と鍛練している場所は、彼らと鉢合わせる可能性があるので良くないと思い、その場所とは違う場所にノゾムは向かう。

 ケンも何も言わずにノゾムについてくる。


“ケン、違うよな…………”


 祈るように心の中でケンに話しかけながらノゾムは歩き続ける。






「それで、話ってなんだい?」


 ケンがノゾムに向かって尋ねてくる。

 2人は外縁部で向かい合っていた。

 夕焼けが空を紅く照らし、その光で2人の姿も紅く染まる。

 地平線に沈む太陽の光はノゾムとケンの影を長く延ばし、薄暗くなりつつある野原に向かい合う2人の姿を映し出していた。

 


「ケン……俺とリサの噂が学園に広まった時。なんでお前は変わらなかったんだ?」


「…………え?」


 ノゾムは一瞬躊躇いを見せるが、意を決してケンに自身の問いをぶつけた。


「噂の内容は俺が浮気をしたって話だったけど、俺はそんなことはしていない。でもリサは俺が浮気をしたことを疑わなかった」


 ノゾムは内心信じたくはなかったが、確かめないわけにもいかない。


“そんなわけないよな”“俺の考え違いだよな”


 心の中でそう願いながらも、ノゾムの口は今まで押し込まれていた、彼の疑念を吐き出し続ける。



「今になって考えてみれば、余りにおかしな話なんだ。あの時のリサが俺の浮気を信じるには、それについての十分な根拠が必要で、かつそれをリサに信じさせられる人間が必要だ」


 ノゾムは一瞬視線を逸らしてしまうが、もう一度ケンを見つめると意を決して口を開いた。


「…………そして、それが出来る奴はお前しかいないんだよ」


「何言ってるんだよ! もしそうなら変わらずノゾムと話をするはずないじゃないか!」


 “心外な”とばかりにノゾムに詰め寄るケン。でもノゾムは構わず言葉を紡ぎ続ける。


「……ああ、俺も信じたくないよ……でもな、それも十分に説明できるんだ。お前があの噂を広めて、その後一番懸念していたのは、俺自身が噂を払拭しようとすることだ。あの噂が完全に定着してしまった今はともかく、まだ日にちが経っていない段階ならリサに詰めよって噂を払拭することも可能だっただろうからな。だからお前は必死に現実から逃げようとしていた俺に逃げ場所を用意したんだ。変わらない態度で俺に接するお前という逃げ場所を……」


 ついに言い切った。ノゾムは緊張した面持ちでケンの言葉を待つ。

 ノゾムが言葉を紡ぎ終えてから数秒。しかし彼にとっては数時間にも感じられた。

ノゾムにとっては今まで感じたこともないくらい長い時間だった。心臓はバクバクと音をたて、彼の耳奥で騒音をまき散らしている。

 

 そして、ケンが口を開く。その後に紡がれた言葉は、やはりノゾムが予想していた通りだった。


「…………なんだ。バレちゃったのか……」


「……それじゃあケン。やっぱりお前が……」


「ああ、僕があの噂を流した」


 あの噂は自分が流布したものだと言い放つケン。彼の顔はノゾムが今まで見たこともないくらい醜く歪んでいた。


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最初から予想してはいたけど、ガチクズいな。気持ちわりぃ
単純ビッチとクソヤロー、実にお似合いだよ。 どうか遠くでイチャコラしててくれ(ハナホジ
[良い点] このクソ幼馴染同士が付き合っている事がお似合いでしょうがない。 クソ男に抱かれて喜んでるであろうクソ女の事を考えると最高に笑えます。
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