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第4章第3節

第4章第3節投稿しました。

今回はまた新キャラ登場です。

それではどうぞ。

 ノゾム達と別れて、私達は自分達の教室である3学年1階級の教室に向かっていた。隣では、親友がまるで裏切られたかの様な表情で話しかけてくる。



「アイ~~。どうして助けてくれなかったの~~」



 目の前で親友が助けに入らなかった私を涙目で責めてきた。まあ、いつもあのような相手は私が助けに入ることが多かったから仕方ないかもしれない。ちなみに助けに入れない時は、緊張のあまり暴走したティマの魔法が相手の男性を吹き飛ばしていたが、今はどうでもいいだろう。



「まあ、あの時はみんながいたからね。それに一番ティマのために一生懸命になったのはマルス君だよ? ティマとしても内心嬉かったんじゃないかな?」


 私は意地の悪い返答を返す。きっと私の顔も意地悪い笑みを浮かべているだろう。肝心のティマは「えっと、その…………あう」とか言い、真っ赤な顔をして俯いてしまった。

 ティマのこういうところは相変わらず、かわいいと思し、正直羨ましい。



 幼いころからソミアを守ろうとしてきたせいか、私自身、言葉使いが男っぽくて、少し荒い。外見はともかく、内面の女性らしさは皆無だろう。目の前でモジモジしている親友とは比べ物にならなし、天使の様に愛らしいソミアと比べてもまた同じだ。



(彼も……ティマのような女性の方がいいのだろうか?)


 先程別れた“彼”のことを思い出す。彼が隠し事をしていたことを思い出すと、まだ胸がムカムカする。



(まったく、なんで話してくれなかったんだろうか……)


 ムカムカムカムカ。


 言い表すことの出来ない不快感が胸の中で渦巻いている。彼が隠し事をしていたのを思い出したせいか、私の表情も知らず知らずのうちに硬くなっていた。



「アイ、落ち着いて。私もあの時はつい怒っちゃったけど、ノゾム君だって男の子なんだし、自分の所為で友達が嫌な思いをするかもって思ったら、言いづらくのなっちゃうのはしかたないよ?」

 

「……分かっているさ……」



 言葉では分かっていると言っても、実際のところ、私の機嫌はまだ直りそうにない。自分自身も理解できない苛立ちから、自然と教室に向かう足取りも速く、荒いものになっていた。





「よう。アイリスディーナ」


「……ケヴィンか」


 私は教室の前の廊下で突然声を掛けられた。声を掛けてきたのは1人の男子学生。がっしりとした体躯と長身、鍛え上げられた筋肉がきつそうに制服を押し上げておいるが、余計な贅肉は一切ない。

 何より特徴的なのは彼の頭と腰から獣人の証である耳と尻尾が生えていることだ。



 ケヴィン・アーディナル。

 1学年1階級に所属する生徒でランクAに到達した数少ない生徒のうちの1人。

 銀狼族の獣人であり、抜群の格闘センスと身体能力で相手を圧倒する。

 元々銀狼族は獣人の中でも高い身体能力を持っているが、彼の格闘センスはその中でも特に高く、極接近戦において、学園ではSランクのジハード・ラウンデルを除き、敵無しとされている。




「昨日の事は聞いたぜ。なんでもあの“最底辺”の所にいたそうじゃないか。随分と物好きだな、あんな役立たずとの時間なんて無駄以外の何物でもないだろう」



「…………君が彼をどう思おうと私は何も言えないが、それを簡単に口にするのはどうかと思うぞ」



 あまりに失礼なケヴィンの言動に私の表情がさらに硬くなる。

だが、ケヴィンの方はそんな私の感情をまるで無視して、こちらに近づいてきた。男性であることを考えても長身である彼が腰を屈め、顔を近づけてくる。



「へっ、相変わらず怒った顔も綺麗じゃねえか。どうだ、今日森で討伐の依頼を受けたんだが、手貸してくれねえか。お前がいてくれるとかなり助かるんだが」


「……悪いが、今日は他にやることがある。他を当たってくれ」



 あまりに不躾でこちらの事を考えないケヴィンの話を一蹴すると、私は彼の横を通り過ぎて教室に入る。確かに危険な魔獣の討伐は必要なら行うべきだし、そうすることで魔獣達が人里や街に近づかなくなるならば、お互い無用な戦いを避けることができ、結果的に力のない人達の被害が少なくて済むことも分かる。


 しかし、少なくとも私はケヴィンの様に平然と他人を貶める様な言動をする人間と一緒に戦いたいとは思わないし、背中を預けるなど絶対に御免だ。

 少なくとも背中を託す相手は、技量、精神など様々な面で信頼できる相手でなくてはいけない。そうでなくては最悪の場合に陥る可能性も十分にある。


 

(背中を預ける……か。いつか私にもそんな相手ができるかな?)


 戦いで背中を預けるということは、自分の命を預けるということであり、また相手の命を預かるということだ。

 


(ノゾムなら、どうなのかな?)


 思い出すのは東方の刀を携えた1人の男の子。

 自分の背中を預ける人を考えたら、一番初めに思いついたのは彼だった。

 今私が一番気になる少年。

 最低の人間として罵られてきた男子生徒。

 彼が何を思い、どうやってその強さを得たのかは未だに分からない。

 ルガトの事件の翌日に聞いたときの彼の様子を考えるに、相当の事があったのは予想できたが、あれから彼がその胸の内を明かす様子はない。

 それは仕方ないことだとは分かっている。誰しも人に話せないことは持っているし、私自身それを無理に人から聞き出したいとは思わない。

 


(でも、もし彼が私の背中を守ってくれたら……。そして私もノゾムの背中を守れたら……)



 互いに守り、守られる。戦場という命が散る場所での背中合わせの抱擁。互いに揺ぎ無い信頼で結ばれ、目の前の困難を乗り切る。そして、たとえ死ぬことになっても最後の一瞬まで同じ時を共有する。

 もし最後に一瞬まで彼とそんな関係でいられたら、それはどんなに…………。 


(……な、何を考えていたんだ私は…………)


 自分の顔が自然に紅くなり、体が火照ってくる。白い制服を押し上げる豊かな胸の奥で小さな灯火が“トクン、トクン”と鳴り始め、私は自然とあの日デートで彼と繋いでいた手を胸に当てていた。



「ん?」


 ふと視線を感じてそちらの方を見てみると、赤毛の女子生徒がこちらを見ている。


「彼女は……」


 こちらを見ていた女子生徒は私と目が合うと、スッと目線を逸らし、カバンの中から教科書等を取り出して、授業の準備をし始めていた。






 昼休みの保健室。ここでノゾムとマルスはアイリスディーナ達を待っていた。

 以前アイリスディーナが10階級の教室に来て大騒ぎになったため、これからは人の少ないここで昼食を取ろうという話になっていたのだが。



「アイリス達、ちょっと遅いな。」


「……そうだな。昼休みも残り半分位だってのに、どうしたんだ?」


「……もしかしたら先生に何か頼まれたのかもしれないな。あの2人、先生からの評価は高いし」


「まあ、ありえない話じゃないな……でもあんまり遅いのもどうかと思うし、もう少し待ってこなかったら先に食っちまうか?」


「まあ、そうだな。時間も限られるし、仕方ないんじゃないかな」


「そうね~。アイリスディーナさんもティマさんも頼りになるいい子だから、つい頼っちゃうのよね~~。私も以前担任の先生が病気で休んだ時、臨時で1階級の授業を受け持ったけど~、いろいろ手伝ってもらっちゃったもの~。」


「アンリ。いくら2人が優等生だからって頼りすぎていないだろうね」


「大丈夫よ~。私だって先生だもの~~。その辺はちゃんとしてますよ~~」


「……ならいいけどね(本当に大丈夫だったのかな?)」



 アンリ先生は大丈夫だと言っても内心かなり心配なノルン先生。

 保健室にはアンリ先生とノルン先生もいる。親友同士の2人は昼食をよくここで食べる。2人とも主に弁当であり、時にはおかずを交換したりするらしい。


 保健室のベットに座って、足をブラブラさせていたアンリ先生が、“あっ”と言って思い出したようにノゾムに話しかけてきた。


 

「そういえばノゾム君~~。午前中なんだかあまり集中できていなかったみたいだけど~、どうかしたの~~」


「えっ」



 アンリのその言葉に、ノルンも少し意外そうな顔をして話しに加わってくる。



「珍しいな。ノゾム君が授業に集中しないなんて、マルス君なら分からなくもないんだが「ちょっと待てよ! そりゃどういう意味だ!」」


「ノルン~~、そんなことないよ。マルス君最近はちゃんと私の授業聞いてくれるもの~~」


「そうなのかい!? ……すまないマルス君、つい先入観から失礼なことを言ってしまった」


「い、いや。あ、謝ってくれるなら別にいいんだけどよ……」



 さすがに少し言い過ぎたと思ったのだろう。マルスに向かってノルンはきちんと頭を下げて謝罪をした。

 最近ようやく授業をまじめに聞くようになったマルスとしてはノルンの一言に文句を言いたくなるのも無理はないが、きちんとアンリがフォローしたし、ノルンもきちんと謝ったので、それ以上マルスも声を上げなかった。

 まあ、マルスが真面目に授業を受け始めたのはここ数日のことだし、今までのマルスの授業態度を見ていれば仕方がないのかもしれないが。

 マルスに謝ったアンリ先生は、今度はノゾムの方を見つめている。ノゾムは顎に手を当てて、少し考えるような仕草をした後、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、ちょっと考え事がありまして……ノルン先生。フェオ・リシッツアって生徒の事、知っていますか?」


「フェオ・リシッツア? ああ、知っているよ。ノゾム君と同じ学年の男子生徒だ。」



 フェオ・リシッツア

 3学年2階級に属する男子生徒で、狐尾族の少年。

 狐尾族とは獣人の種族のひとつで、文字どおり狐のような尻尾と耳を持った種族だ。

 他の獣人族と違って大きなコミュニティーを持たず、家族単位の小さな集まりで大陸各地に住み着いている。

 かなり個人主義が強い種族の様で、それが大きなコミュニティーを持たないことにつながっているらしい。


 フェオ・リシッツア個人としても、やはり自由奔放な性格らしく、授業をサボる時もあるらしい。

 しかし、成績自体は2階級に属していることから分かるとおり、かなり優秀らしい。

 学園でのランクはC。筆記試験、実技試験ともに満遍なくこなせ、苦手分野と呼べるような科目もないそうだ。



「あの、その生徒は符術を使えますか?」


「符術? また珍しい術の事を聞いてきたね。彼がそれを使えるかどうかは分からないけど、狐尾族は数こそ少ないとはいえ大陸中に住んでいる種族だ。何らかの形で符術のことを知っていてもおかしくはないけど…………」



 ノルンの言葉を聴いたとき、ノゾムの中で感じていた既知感が、はっきりとした形となってきた。フェオの視線はノゾムが校舎裏で感じた視線と全く同じだった。



(やっぱり。おそらくあの時俺を覗いていたのはフェオだ。……でもなんでそんな事をする必要がある? 校舎裏での出来事を覗かれていた時も視線の方向からは敵意は感じなかったし、今日見たフェオの様子からは俺に対する敵意はやはり感じなかった)


 ノゾムが彼の視線から感じたのは憎悪や悪意ではなく、覗くような視線だった。


 ノゾムは魔獣の生息する森の中で、そこに住む魔獣相手に半ば死にかけるまで(無理矢理)鍛錬を繰り返し、味方のいない学園で多くの敵意に晒されてきたため、自分に向けられた視線に対してはかなり鋭敏な感覚を持っている。

 もし、フェオがノゾムに敵意を持っていたのだとしたら校舎裏の時点でノゾムはもっと早く彼の視線に気づいていたはずだ。


(とは言っても証拠があるわけじゃない。この符にしたって“関係ない”といって惚けられたら終わりだ……)


「はあ…………」


 犯人ついては目星がついたものの、決定的な証拠がなく、ノゾムはため息を吐いてうなだれるしかなかった。






 時間を少しさかのぼって、昼休みになったばかりの1階級の教室。ここでは私、アイリスディーナと友人のティマは先ほど午前中の授業が終わり、自分達の教科書などの道具を片付けていた。

 ノゾム達とは朝に保健室で食べることを約束していたので、私達は片付け終わると弁当を持って教室を出ようとしが、一人の女子生徒に呼び止められた。




「アイリスディーナさん、ちょっといいかな?」


(あっ)



 声をかけてきたのは朝、教室に入ってきた私達を見ていた赤髪の女子生徒。私も、彼も彼女のことはよく知っている。

 彼女は私達の傍まで来ると、真剣な顔をして話し始めた。



「リサ君か……」


「…………聞きたいことがあるの、ちょっとでいいから時間……取れないかな?」


 リサ・ハウンズ。


 以前の彼の恋人であり、幼馴染。

 彼が一番好いていた女性。

 今私が一番気になる人の一人が、そこに立っていた。





いかがだったでしょうか。

この章ではかなり新キャラが出ますが、登場人物の紹介はおそらく第4章の末になります。

それではまた。

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