閑話 新種猫誕生記録
ある休日の昼下がり。
ノゾムは、午前中に寮の自室の掃除を終え、昼食にしようと商業区へと繰り出していた。
路肩には多種多様な露店が軒を連ねており、当然ながら食べ物を売る店も多い。
特に今日は休日。並ぶ商売人たちは、休みで財布のひもが緩む時を狙い、いつにも増して勢いよく声を張り上げている。
そんな盛況を見せる繁華街をノゾムが歩いていると、十メートルほど先に、エクロスの制服を着た少女の姿があった。
「あれ? ソミアちゃん?」
肩口まで切りそろえられた綺麗な黒髪は、間違いなく、彼のよく知る少女のもの。
彼女は何かを探すように視線をキョロキョロと動かすと、裏路地の方へと消えていく。
「何やっているんだろう? 近くにアイリスがいる様子もないし……」
周りにアイリスの姿がないところを見ると、どうやらソミア一人のようだ。
ノゾムは彼女の不審な行動に首をかしげながらも、とりあえず彼女の後を追って、裏路地へと足を踏み入れた。
裏路地に入ってみると、周囲に無秩序に立ち並ぶ家や商店のせいで、かなり薄暗く、奥はよく見えない。
また、裏路地はまるで迷路のように入り組んでいて、ちょっと道を見失ったら、たちまち迷子になりそうだった。
路地の奥へと目を凝らすと、十メートルほど先にソミアの姿がある。
「お~い、ソミアちゃ~ん!」
「あれ? ノゾムさんじゃないですか。どうかしたんですか?」
ノゾムがとりあえずソミアに声をかけると、彼女は驚いた様子でノゾムの元に駆け寄ってきた。
よく見ると、彼女は手提げのバックを持っており、そのバックは中に何か入っているのか、結構大きく膨らんでいた。
「俺は昼飯をどこかで食べようかと出歩いていたんだけど……。ソミアちゃんこそ、こんなところで何やっているの? しかも休みなのにエクロスの制服着ているし……」
「私は……。学校でちょっと勉強した帰り……です」
何やら口ごもるソミアに、ノゾムは首を傾げる。
エクロスで自主勉強をしていたというのは本当だろう。制服を着ているし、最近彼女が熱心に勉強しているという話をアイリスディーナから聞いていたからだ。
しかし、彼女の家は街の北部にある行政区の中だ。街の中心部にあるエクロスから帰るにしても、商業区を通る必要はない。
それに寄り道といっても、商店や露店に行くならともかく、こんな裏路地に用がある時点で、怪しさ満点である。
「…………」
「…………」
ノゾムが無言のまま、懐疑の視線をソミアに向ける。彼女も自分の発言に無理があることが分かっているのか、イタズラが見つかった子猫のように視線を逸らしている。
やがて、ノゾムの無言の視線に耐えきれなくなったのか、ソミアがおずおずと口を開いた。
「あ、あの。姉様には黙っていてもらえますか?」
「いや、それは内容次第だけど……」
「お願いします!」
「わ、分かった。分かったよ。アイリスには黙っておく。これでいいかい?」
「よ、よかった……。ノゾムさん、あ、ありがとうございます!」
ソミアがあまりに必死な様子で懇願してくるので、ノゾムはついアイリスには言わないことを約束してしまった。
内心良かったのだろうかと疑問に思うものの、安堵の笑みを浮かべているソミアの様子を見ると、今さらアイリスディーナに話す訳にもいかなくなってしまう。
「それじゃあノゾムさん、ついてきてください。できるだけ、音を立てないでくださいね」
「あ、ああ……」
ノゾムは流されるまま頷くと、ソミアの後を追い、裏路地の奥へと足を向ける。
「なあ、ソミアちゃん。一体何を……」
「シッ! ノゾムさん、静かにしてください」
「は、はい。申し訳ありません……」
ソミアの妙な威圧感に、ノゾムは思わず敬語になってしまう。
彼女は身を屈めると、路地に放置されている木箱や台車の影に身を隠しながら、ササッとまるでスパイか忍びのような動きで、路地裏の奥へと進んでいく。
ノゾムとしては、幼い彼女がそんな行動をとっていることに違和感しか感じない。
だが、ソミアの威圧感に今は亡き師匠を思い出し、今の彼女を止めることは不可能だと判断。黙って彼女の後を追う。
そして路地の曲がり角まで来たソミアが、突然路地の陰に身を寄せ、手招きしてくる。
「ノゾムさん、あれ……」
「一体何?」
ソミアが指し示す先。路地の曲がり角の奥に視線を向けると、一匹の黒猫が悠々と歩いていく様子が見える。
その猫の妙に自尊心に溢れる歩き方に、ノゾムは既視感を覚えた。
「あの猫って……」
「はい、クロちゃんです」
ソミアがクロと呼んだ猫は、ノゾムとソミアが出会うきっかけになったメスの黒猫だ。
以前中央公園の見かけた野良猫で、雌なのにソミアに“クロ”という男らしい名前を付けられた猫である。
ちなみ、この名前をソミアは可愛いと思っているらしい。
「最近、クロちゃんを中央公園の辺りで見なくなったので、気になっていたんです。でも、今日学校から帰る途中でクロちゃんを見つけて、何度か追いかけたんですけど、その度に見失ってしまって……」
「つい意固地になって、追いかけ続けていると」
「はい……」
「それで、アイリスに知られるとみっともないから、黙っていてほしいというわけだ」
ノゾムは、最近妹が頑張っている事に、アイリスディーナはかなりご機嫌な様子だった事を思い出した。
多分に、年頃ゆえの背伸びもあるのだろうが、嬉しそうな姉の様子もソミアは気づいているから、姉の期待に水を差したくないと考えてしまったのだろう。
「ううう、その通りです……。それに、下手してメーナに知られたら“フランシルト家の令嬢としてみっともないです!”って叱られちゃいます……」
「野良猫を尾行する令嬢……。まあ、見ていて首をかしげる光景ではあるな」
メーナに叱られる方が嫌そうな声色だったので、ソミアの本音をややそっちに修正しながら、ノゾムは目標の黒猫を観察する。
クロはノゾム達に気づく様子はなく、スタスタと路地の奥へと向かっていく。
「わかった。アイリスやメーナさんには黙っておくよ。それより、見失いそうだから、早く追いかけた方がいいよ」
「わわ! ノゾムさん、行きましょう」
慌てた様子でソミアが駆け出す。
クロを見失いそうになった事に焦ったのか、ソミアは先ほどまでの忍者のような動作のことはすっかり忘れ、パタパタと急いだ様子で黒猫の後を追う。
「ソミアちゃん。足音足音」
「あっ!」
自分の足音に気付いた彼女は、慌てて腰を屈めて忍者行動。
ノゾムは“これで大丈夫なのかな”と苦笑を浮かべながらも、彼女の後を追った。
一方、クロはソミア達の事などまるで気づかず、スタスタと優雅に路地をすすんでいく。
とはいえ、その道筋は猫らしく自由奔放。
商店の裏に置いてある台車の下を潜り、屋根の上を歩き、塀に開いた穴の中を通っていく。
そしてソミアもまた、クロの後を果敢に追い掛けた。
「ノゾムさん、その台車、押さえておいてください!」
「はいはい」
障害物の除去にノゾムという名の助手を使い。
「ノゾムさん、速く走ってください。見失っちゃいます!」
「ええっと、足音はいいの?」
屋根の上を歩く目標を見失わないように駆け足で追いかけ。
「ノゾムさん、踏み台になってください。飛び越えます!」
「え? ソミアちゃん飛び越えられるの?」
「大丈夫です。ノゾムさんと力を合わせればできます!」
助手を踏み台にして、3メートル近い塀を飛び越える。
しかも、妙に手際が良くなってきている。
塀を飛び越えるときなど、踏み台になったノゾムに手を組ませて、その上に足をかけて力を合わせて飛び上がる、なんて事もしている。
もちろん、着地も完璧。
はっきり言って、いつの間にか尾行というより、犯人の追走劇といった方がいいような雰囲気になってきている。
「クロちゃん、今度こそ逃がしませんよ!」
訂正、ソミアにとっては完全に追走劇になっていた。
隠形などすっかり忘れ、少女は黒猫をダダダッ! と全力で追いかける。
そんな風に足音を立てて追いかければ、当然クロも自分を尾行しているソミアに気づく。
件の黒猫は後ろを向いて猛追してくるソミアを一瞥するが、特に気にした様子もなく、再び屋根に上がり、悠々と歩いていく。
「っ、随分と余裕ですね! いいでしょう。その余裕、崩して見せます!」
その姿が、さらにソミアの対抗心を呷ったらしく、彼女のテンションが天元突破した。
ノゾムはそんなソミアの意外な一面に目を白黒させながら、そういえば、彼女は齢五歳にして、家出の経験がある立派なヤンチャ娘さんだった事を思い出していた。
「ノゾムさん、急いでください。クロちゃん屋根から降りました! 多分あそこが目的地です! 今度こそ逃がしません!」
「いや、だから、なんで発言が一々そんなに物々しいのよ……」
どう見ても真犯人を追いかける憲兵のセリフですよ? いくら意固地になったからってちょっと過激すぎはしませんか?
ノゾムの心の叫びは、当然ソミアに届くわけもなく、テンションマックスな彼女は目標に向けて全力疾走していく。
そして彼女の行先には、今までにないくらいの障害物の山があった。
台車や木箱だけでなく、家庭で使う鍋や椅子、机に本棚。さらにはベッドなどの大型家具がまるで城壁のように積まれており、完全に路地を塞いでいる。
「この程度で、今の私は止められません!」
妙にかっこいいセリフと共に、ソミアが果敢にその障害物の山に飛び掛かる。
何度も言うようだが、彼女が追い掛けているのはごく普通の黒猫……のはずだ。
「てい、てい、てい!」
「は、早!」
ソミアは、放置されて横倒しになった椅子の背に足を乗せて跳躍。積まれた机の角に手をかけ、体を上へと押し上げる。
そして、もう一度足を机の角にかけると、再度跳躍し、障害物の山の頂上に手をかけて、そのまま側転の要領で乗り越える。
そして、制服のヒラヒラのスカートを靡かせながら、綺麗に着地を決めた。
ソミアの溢れる才能の一端を垣間見た気分だが、もはやどっちが猫かわからなくなるような動きだ。
ノゾムも慌ててソミアの後を追う。
「クロちゃん、今度こそお縄です! 覚悟しな……さい?」
そして、ついにクロを追い詰めたソミアが、降伏勧告の口上を述べようとするが、突然、そのセリフが尻すぼみになる。
一体何事かと、追いついたノゾムが彼女の瞳が見つめる先に視線を移すと、そこには家一軒分ほどの空き地があった。
そしてそこには……。
「猫の集会かよ……」
十数匹の猫達が、ぽっかりと空いた空き地に集まっていた。
ぶち猫、三毛猫、こげ茶等、多種多様な猫たちは、皆思い思いの場所に座ったり、寝転んだり、じゃれあったりしている。
その中でも異彩を放っているのは、空き地の奥に設けられた一画。
おそらく、放置されていた敷物を広げたと思われるスペースの真ん中に、件の黒猫が優雅に寝転んでいた。
よく見ると、空き地にいる猫のほとんどがクロの周りに集まっている。そして、この黒猫の周りを固める親衛隊の内、数匹がクロの体を丹念になめ、毛づくろいをしていた。
この集会の中心猫が、誰だかよくわかる構図である。
「は、ハーレム……。いや、雌猫だから逆ハーレムか?」
「クロちゃん、こんな所にいたんだ……」
ソミアがテクテクと、気軽にクロに近づいていく。
すると、クロの毛づくろいをしていた白猫の一匹が、ソミアの前に立ちふさがり、喉を鳴らして威嚇し始めた。
他の猫も白猫の後ろで付き従うように、ソミアを威嚇している。この猫が、クロ親衛隊のリーダーのようだ。
しかし、クロが一声「にゃ~」と鳴くと、 白猫は素直にソミアに道を譲った。クロは部下の躾もしっかりしているらしい。
「えへへ、ありがと! あ、この子可愛い。あ、この子も!」
クロのお許しが出たソミアは、さっそく周りの猫達を撫でようとする。
ところが、クロ親衛隊の猫達は、突然の闖入者をあまりよく思っていないのか、ソミアが撫でようとすると、すぐさま彼女の手をすり抜けて、距離を取ってしまう。
「なかなか強敵ぞろいですね……」
ソミアは、親衛隊リーダーの白猫が特に気になるのか、ちょいちょいと手招きをしたり、クルクルと目の前で指を回したりして、気を引こうとしている。
一方、ノゾムはクロハーレムに近づくこともできなかった。
近づこうとすると、クロ親衛隊が先ほどのソミアと同じように邪魔してくるのである。
仕方なくとその場に座り、ソミアの真似をして手招きをするが、いきなりバシン! と猫パンチを食らう有様だった。
「な、なぜに……」
引っかかれた手を撫でながら、渋々空き地の端まで下がり、腰を下ろす。
すると、引っかかれた彼を慰めるように、玉模様の三毛猫がノゾムの傍にやってくる。
この猫は、クロハーレムのメンバーではないらしい。
しかたなく、ノゾムは三毛猫の頭を撫でながら、ソミアの様子を見守ることにした。
白猫の方は、最初はソミアを警戒していたが、クロがソミアを許しているからか、徐々に彼女との距離を詰めると、クンクンと差し出されたソミアの指の匂いを嗅ぎ始めた。
しかし、白猫はプイッとそっぽを向くと、スタスタとソミアの元から離れていった。
「むう、これでもダメですか、だったら……」
おもむろにソミアがバックの中に手を突っ込むと、何かを取り出した。
黒色の三角形のを二つ繋げた髪飾りと。同じく黒い紐状の物体。
「猫耳と尻尾です! これで私も猫ちゃんの仲間入りです!」
取り出したのは黒色の猫耳と尻尾。しかも、妙に仕立てがいい。
ソミアは猫耳の髪飾りを頭にのせ、尻尾をスカートの奥に入れてお尻に取り付けると自信満々な笑みを浮かべた。
「この猫耳は、魔力を流すと持ち主の心に反応して、本物の猫耳や尻尾のように動くんです。これなら、きっと私の事を猫として認めてもらえるはず!」
「いや、無理だろ。いくら猫耳と尻尾をつけようが、体の9割以上は人間のでしょうが!?」
ノゾムのツッコミもよそに、ソミアは白猫に近づく。魔力を流して動かせるというのも本当らしく、ソミアが付けた猫耳と尻尾は可愛らしくピョコピョコ動いていた。
しかし、猫にソミアの可愛らしさが理解できるはずもなく、逆に白猫はより警戒心を深め、尚の事ソミアに寄り付かなくなってしまった。
「むう、フェオさんとトムさんの特製の猫耳なのに……。変ですね」
「……あいつら何やってんの?」
この猫耳と尻尾の製作者は、いったい何を考えてこんなものを作ったのだろうか?
ノゾムは思わず、狐耳のトラブルメーカーとショタコン受けしそうな友人の顔を思い浮かべる。
「仕方ありません。奥の手です!」
再びソミアが再びバックの中に手を突っ込む。すると、その場にいた猫達が、突然色めき立った。
「じゃじゃ~ん。マタタビ! これでどんな猫ちゃんもイチコロです!」
ソミアが取り出したのは、まごうことなきマタタビ。猫に対する最終兵器である。
彼女はそれを自分の前の地面に置く。
案の定、マタタビにつられて先ほどの白猫が戻ってきた。
白猫がクンクンと地面に置かれたマタタビの匂いを嗅いでいる間に、ソミアが触ろうと手を伸ばす。
しかし、彼女の手が白猫に触れる直前に、後ろからやってきたクロがマタタビを横取りしてしまった。
押しのけた白猫の事などお構いなしに、クロはゴロゴロとマタタビを堪能する。
後ろの白猫は、しゃんと背筋を伸ばして、クロがマタタビを楽しみ終わるのを待っている。
流石親衛隊のリーダー。しかし、白猫の尻尾は正直で、羨ましそうにタンタンと地面を叩いていた。
「むう、クロちゃんが釣れてしまいました……」
目標が釣れなかった事に、ソミアも残念そうな表情を浮かべる。
その心情に反応してか、彼女が付けた猫耳や尻尾も、力なくペタンと垂れ下がっていた。妙なところで完成度が高い猫耳セットである。
「仕方ありません! 奥の手その2です!」
ソミアは仕方なくパンパンとスカートを手で叩いてその場から立ち上がると、再びバックに手を突っ込む。取り出したのは、二本の猫じゃらし。
彼女はそれを両手で持つと、マタタビを楽しむクロを迂回し、白猫の前に移動して、目の前でちょいちょいと動かし始めた。
猫の動物的本能からか、白猫の視線もピョンピョンと動く。そして、ついに白猫が猫じゃらしに飛びついた。
「やった、白猫ちゃんゲットです……ってふわああ! 他の猫ちゃんまで!」
しかし、ソミアの行動は他の猫までをも誘惑してしまっていた。
一斉にソミアめがけて飛び掛かる、十数匹の猫軍団。
先ほどスカートを叩いた時に、マタタビの匂いが彼女の服にでも移ったのだろうか。飛びついた猫達は皆一斉に鼻先や体を擦り付けていく。
わずか二メートル四方の空間に、猫達が過密状態になり、たちまち毛玉まみれになっていく少女。しかし、その顔はどこか幸せそうだ。
モフモフと全身を包み込む心地よい猫毛の感触。人より高い体温がもたらす、体の芯まで届く温もり。
ソミアが付けた猫耳や尻尾も、彼女が感じている歓喜に反応し、ピョンピョンと激しく動いている。
今この時、商業区の空き地の一画は、猫による、猫の為の、猫の空間。さながら猫時空とも呼べる存在と成り果てていた。
「にゃんにゃんにゃ~ん。にゃんにゃんにゃ~ん」
ソミアもまた、猫時空に囚われてしまったのか、発言まで猫化してきた。ついでに、じゃれ方も猫っぽい。
熊手のように丸めた手でじゃれてくる猫を捕まえ、お腹の上で転がす。このまま本物の猫耳と尻尾が生えてしまってもおかしくない猫っぷりである。
一方、ノゾムは一匹の三毛猫と一緒に完全に蚊帳の外。いつの間にか撫でていた三毛猫は“撫でろ!”と言わんばかりに腹這いになっていた。
それでいいのか野良猫、と思いつつ、ノゾムは三毛猫の腹を撫でながら、猫になりかけているソミアを眺めていた。
「ソミア猫誕生?」
新種の猫族といわれても納得できるソミアの姿に、ノゾムに口から思わずそんな言葉が漏れた。
ソミア猫。
確かに可愛い。黒の尻尾と耳は、彼女の黒髪と非常にマッチし、いたずらっぽい笑みを浮かべながらじゃれ合う様子は、まさしく猫のような愛くるしさに満ちている。
制服というオプションもグッドだ。キリッとした雰囲気を漂わせる制服に、奔放さを思わせる猫の衣装は、まるで神が定めたこの世の定理のように、人々に受け入れられるだろう。
ごく一部の人には崇拝の対象になるかもしれない。主にアイリスディーナとかヴィクトルとか……。
「にゃんにゃん……。あ、この子女の子だ。あ、この子も……。ノゾムさん、ここにいる子達、みんな女の子です」
「逆ハーレムじゃなくて、百合ハーレムでしたか、そうですか……」
ノゾムがはじき出されるのも当たり前である。そもそも、雄という種族が絶対に存在できない空間だったのだから。
何とも不健全なハーレムである。いや、そもそもハーレムに健全という言葉が適切なのか疑問なのだが……。
思わず、溜息を吐いたノゾムの脇では、先ほどの三毛猫が“もっと撫でろ!”というように、仰向けになってへそを出している。どう見ても、初対面の相手にする格好ではない。
「お前、野生の本能とかプライドとかないの?」
その見事なへそ天。
野生の欠片もない姿にノゾムは思わず突っ込む。
しかし、そんな彼の言葉を三毛猫が理解しているはずもなく、ノゾムは昼食もとれないまま、ソミア猫が満足するまで、三毛猫専用の全自動ネコナデ機械と成す羽目になってしまった。
「……あ、こいつ雄だ」
ついでに言うと、この三毛猫、見事な雄でした。
登場猫紹介
クロ
商業区の空き地で百合ハーレムを築いている黒猫。
ノゾムとソミアが出合う切っ掛けとなり、同時にそれがアイリスディーナ達との縁の始まりともなった。カリスマ抜群の猫だが、かなりの女王様気質。
雄嫌いかつ、雌好き野良猫。
白猫
クロハーレムの一員で、クロ親衛隊リーダー。
クロに忠誠を誓い、日々、彼女を雄の魔の手から守っている。
しかし、本質はやっぱり猫だったりする。
三毛猫
空地のクロハーレムとは間を置いている野良猫。
野良の癖に野生を捨てている姿が目立つ。
男としての象徴は、かなりのご立派様。