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第1章終幕・前編

第1章終幕・前編投稿です。

2、3日投稿できないはずでしたが投稿できました。


 マルスとの再度の模擬戦から数日が経った。

 この日、俺は師匠から授業が終わったら小屋まで来るように言われていたので、放課後すぐに寮に帰ると師匠のところへ向かっていた。


 実は学年末試験が近く、試験まで残り2日と迫っていた。

 いくら多少能力が上がったとしてもソルミナティ学園の試験は難解だ。それが学年末試験ともなれば難しい試験がさらに難しくなる。

 特に俺は筆記試験でどうにか進級してきたので、正直に言えば試験勉強に集中したかった。


 いつもなら試験の直前には修行は控え、試験に集中するのだが、今回はどういうわけか師匠が今日絶対に来るよう念を押していた。


「絶対に来いだなんて、師匠どうしたんだろう」


 いつもと違い真剣な表情で「いいか。絶対にくるのじゃぞ!」と念を押していた師匠の様子に少し不安になる。


 師匠の小屋に到着すると、彼女は普通に小屋でお茶を飲んでいた。


「お~お~、ノゾム来たか」


 そのあまりにいつもと変わらない様子に脱力してしまう。


「師匠、どうしたんです今日は。俺、そろそろ試験が近いので追い込みかけないとさすがに不味いんですけど」


 はっきり言って切実な問題である。今は多少だが身体能力が上がり、以前は修練ならともかく戦いでは使えない技が使えるようになったことで、戦いの選択肢が広がったがそれでも厳しいのは変わらない。


「まあまあそういうな。今日ぐらいわしに付き合え。こんな美女のお誘い、受けねば男でないぞ~。」


 …………何言ってるんだろうかこの人は…………


「…………師匠。昼間から酒でも飲んでるんですか?」


「そんなわけなかろう!お前はもっと師を敬わかんか」


「敬ってますよ。師匠が悪質な詐欺師まがいなこと言わなければ」


「誰が詐欺師か!それにわしが何時そんなこと言った!!!」


 師匠、詐欺師はみんなそう言いますよ。


「美女ってあたりウソでしょう!よく言って元・美女です!!」


「…………ソコニナオレ」


 師匠が鬼の形相で刀に手を掛ける。彼女の体から目で見えるほどの殺気が立ち上る。小屋の周りの野鳥たちが一斉に飛び立ち、少しでも場から離れようと羽ばたく。


 ……メチャクチャこわい。師匠の髪は逆立ち、まさしくオーガ・・・彼女の故郷を考えれば夜叉というべきか。

 でも俺だって負けられない。いつもちょっとした冗談でボコボコにされ、ツッコミにすら高ランクに相当する技を放ってくるのだ。

 彼女は殺す殺さないの力加減はできても、その場に合わせた力加減が全くできない(と思われる)。

いい加減この等価交換の法則にケンカを売っている人に力加減というものを教えなくてはならない。

 …………でないといつまでも日常生活で日常的に気絶なんてアホな状態から抜け出せない!!!


「お、おれだっていつまでもこんな理不尽「(キンッ!)ナニカイッタカエ」イエナニモイッテイマセン、イツモシショウキョウモオキレイデスネー」



 ……できませんでした。

 ……師匠、殺気と一緒に刀を首筋に当てるのは勘弁してください……。





 それから師匠は特に取り留めのないことを話しはじめた。故郷の国の事。家族の事。この大陸に来てからの事。


 彼女は俺の話も聞きたがったので、これまでのことを話した。故郷の村の事。両親の事。リサの事。学園での出来事、師匠と出会った時の事、その後の地獄のような修行の事。


 師匠も既に知っていることもあったけど、彼女はそれでも聞きたがった。


 一度話したことも、彼女は何度もうなずき、嬉しそうに聞いていた

 …………まるでもう2度と忘れないように自分自身に刻み込むように。


 話をしていると、景色は紅く色づいていた。いつの間にか夕方になっていたらしい。


 師匠はその景色を一瞥して呟いた。


「じゃあ、最後の修練を始めるかのう」








 ノゾムとだた言葉を交わす。内容はごくありふれたもの。故郷はどこだ。家族はどうだ。好きなものは。



 そんなごく普通の会話。今までそんな会話はあまり交わさなかった。教えるのは刀で、語るのも刀。



 刀、刀、刀。



 そんなことしか教えてこなかったし、それが一番わしらしかった。



 だから今、彼が話すごく普通の話がすごく新鮮で、わしの話を聞いて彼がコロコロ表情を変えることが、すごく嬉しい。



 こんな風に人と言葉を交わすことなど、もうないと思っていた。



 …………いや、意図的に避けていたのだろう。ノゾムが“恋人に振られた”という事実から無意識に逃げていたように、わしも“家族に裏切られた”という事実から逃げ、人を避け、立ち止まっていたのだ。



 …………つくづく愚か者だ。



 これでは弟子の事をとやかく言う資格などないのう……。



 そんな不出来の師を此奴は慕ってくれた。口では何だかんだ言うが、私を信用し、信頼してくれているのはとてもよく感じ取れた。

 


 もし、わしが生まれるのがもう数十年遅かったなら……きっとわしはおぬしと共に生きていきたいと願ったじゃろう。



 しかしわしらの間にある絆は恋人ではなく師弟の絆。それが少し残念じゃが、それでも最後におぬしの心に残せるものがある。



 わしはそれでええ。それで十分じゃ。おぬしの隣は………………おぬしと共に歩めるものに譲ろう。

 


「じゃあ。最後の修練を始めるかの」






 師匠はまるで散歩に行くかのようにその言葉を言った。



「あ、あの師匠。最後って…………」



「言った通りじゃ。これが、わしのつけてやれる最後の修練じゃよ」



 師匠の様子は変わらない。いつもの飄々とした師匠だ。そんな雰囲気で次に彼女が言った言葉は…………



「だ、だから! 最後ってどういう「最後の修練は…………わしと本気で殺し合うことじゃ」


「……………………え」



 俺は師匠が何を言っているのか理解できなかった。


 殺し合う?俺が?師匠と?


「な、なにをいってるんですか!どういうことですか!!」



 師匠は庭に立つと鞘に収めた刀を構える。彼女はすでに戦いの準備を終えていた。



「師匠!! 答えてくださ「何も言う気はない。それともおぬし、自分を本気で殺そうとする者に一々理由を訪ねる意味はあるのか?」師匠!!!!」



 師匠の目の色が変わり、彼女の身体からは重い覇気を感じ取れる。明らかに本気の師匠だ。



 俺はそれでも師匠に問いかける。



「当たり前です! 最後ってどういうことですか!! それに殺し合えって…………何考えてるんですか!!!」


 「………………………………」


 彼女は何も言わない。代わりにその行動で示してきた。


 師匠の身体が一瞬ぶれたかと思うと、猛烈な殺気が俺に叩きつけられる。


 次の瞬間には彼女は既に俺の目の前に迫っていた。抜き打ちの構えから鞘に納められていた刀が俺の首めがけて抜刀される。


 俺はその殺気から逃げるように地面を転がる。師匠の刀は俺の直ぐ上を薙ぐが、そのまま彼女は回し蹴りを放つ。


 俺は咄嗟に掲げた右腕でその蹴りを受けるが、気で強化された蹴りはあまりに重く、そのまま吹き飛ばされて木に叩きつけらた。


 「クハッツウ……」


 痛みに顔を顰めるが、修練で身に染みついた動きですぐに起き上がり、体勢を立て直す。本能的に刀を抜刀、次の攻撃に備える。


 

 「師匠! いったい何がしたいんですか!」



 師匠は何も言わず、刀をこちらに向けている。


 その眼は“何も語る気はない”と宣言している。


 …………師匠はいつもそうだ。他の修練のときもこちらに質問など許さず、一方的に宣言して何か言えば倍の修練をやらせるなど理不尽極まりないことを言ってきた。

どうやら闘わないと何も教えてくれないらしい。


 でも今回の師匠は明らかにおかしい。

 今までの修練でも、模擬戦でも彼女は“死にかねない”事はやっても“殺そう”とはしなかった。

 でも今の彼女からは濃密な殺気が俺に突き刺さってくるし、先ほど抜き打ちも狙いは俺の首。明らかに俺を殺しに来ている。


 師匠の姿が再びぶれる。そして側面から放たれる殺気。


 俺は咄嗟に気術で身体強化をかけて刀を掲げる。掲げた刀は奇跡的に師匠の斬撃を防ぐが、彼女はそのまま連撃を放つ。


 袈裟切り、左薙ぎ、右切り上げ、左切り上げ、流れるような無駄のない動きと、精密極まりない斬撃の嵐が撃ち込まれる。


 俺はその斬撃を僅かに下がりながら迎撃する。膝、腰、腕、すべてを無駄なく連動させて、師匠の刀を受け流す。


 それでもやはり圧倒される。同じ流派の刀術であるが、技量、身体能力、経験、どれも師匠が上だ!  


 たまらず瞬脚で離脱するが、師匠はすぐさま追いつき、追撃してくる。



 互いに高速移動しながらぶつかり合う。



 黄昏は去り、周囲を闇が包むなか、満月に照らされた刀の軌跡だけが二人の存在を映していた。



 2人の動きは直線的な瞬脚とは違い、互いに曲線を描きながら互いの周囲を纏わりつくように移動している。



 気術“瞬脚-曲舞-”



 気術“瞬脚”の発展系。膝の動きとそれに伴う重心移動、さらに体幹の動きと肩の動きを全て連動させて、本来直線にしか動けない瞬脚に複雑な曲線移動を可能にした技。

 言うのは簡単だが、実際は瞬脚の勢いを完全に御しきれるだけの強靭な足腰と、全身の動きを無駄なく連動させる繊細さを要求される。

 強靭な足腰がなければ瞬脚の勢いに体勢を崩して地面にたたきつけられるし、全身の動きが連動していなければバランスを崩し、これもまた地面にたたきつけられる。

 強靭さと繊細さが要求される、極めて難易度の高い高等技術なのだ。



 瞬脚-曲舞-での打ち合いはやはり師匠が上だ。瞬脚-曲舞-は瞬脚の発展系だがその移動速度はやはり使用する者の能力がかかわってくる。

 師匠の瞬脚-曲舞-は明らかに俺のそれを上回っていた。俺は徐々に後手に回らざる負えなくなり、遂に移動先に先回りされた師匠に足を止められてしまう。


「クソ!!」


 再び師匠と足を止めて打ち合いになるが状況は先ほどと変わらず圧倒されていた。


 しかも師匠の攻撃は刀だけではない。


「くっ!!」


 斬撃を捌いた後に師匠が片手で鞘を振り抜いてくる。気術で強化された鞘は人の骨など容易くへし折ってしまう。

 いつの間にか刀と鞘の二刀流になった師匠の攻撃は、威力は落ちるものの先ほどよりさらに濃密な攻撃を可能とし、その顎で俺を喰らい尽くさんとする。


 彼女の戦い方はこのように刀術だけでなく鞘、さらに体術を織り交ぜた総合戦闘技術であり、これが本来の俺たちの戦い方。


 俺も戦い方を鞘による二刀流に変更。さらに激しくなった師匠の攻撃を裁く。

しかし元々の能力、技量差により押される一方となり、そのうち迎撃が間に合わず、鞘による打撃が俺を捉えた。


「グアッッ!!」


 ズドンッと言う鈍い音とともに鞘を持つ方の二の腕に師匠の鞘が当たる。幸い骨は折れず、鞘は保持できている。

 一瞬動きの鈍った俺の隙を逃さず、師匠はもう一方の刀を一閃する。

刀での迎撃は間に合わず、やむを得ず体を逸らすことでどうにか躱すが、再び師匠の蹴りがとんできた。

 俺は避け切れないと判断し、後ろに跳び、彼女の蹴りの威力を殺す。

後ろに跳んだことで大きく飛ばされ、間合いが開く。


 まるで以前の打ち合いの焼き直しの様だが実際は違う。俺は飛ばされながら痛む腕に鞭を打ち、刀を鞘に納める。

 地面にたたきつけられる瞬間、受け身を取り、後方に跳ねるようにして起き上がりながら刀に気を送り、極圧縮。


 生半可な技では師匠には通じない。気量の都合上、使える回数は限られるが自分の最も信頼できる技に望みをかける!



 気術“幻無”



 極圧縮された気の刃が高速で飛翔。瞬きするまもなく師匠に着弾する・・・そのはずだったが、現実はその上を行った。





「なっ!!」


 突然俺と師匠のちょうど中間地点で炸裂音がした。極圧縮された気が拡散し、周囲に散っていく。


 師匠を見ると同じように抜刀術の体勢で刀を振り抜いていた。信じられない事態に呆然となる。そんな隙を師匠が逃すはずはなかった。


 師匠が瞬脚でこちらに吶喊してくる。あわてて迎撃しようとするが明らかに間に合わない。咄嗟に鞘を刀の軌跡に入れるが、彼女はその鞘を無視して刀を振り抜いた。


 気術“幻無―回帰―”


 先ほどの抜き打ちとは逆の軌道を描き、俺の身体を袈裟懸けに切り裂いた。


第1章の終幕・前編いかかでしたか。

尺の都合で後編はまた後日投稿します。


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