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第6章第15節

取り合えず、第6種第15節、投降しました。

……やり過ぎた感があります。

7月22日、少し修正を加えました。

「マジでやらかしやがった……」


 マルスの独白が静寂の中に響く。

 だが、その言葉に答えられる者はいなかった。目の前の名状しがたい光景に誰もが言葉を失っている。

 静寂が支配する中で彼らが見つめるのはアリーナの中央。そこに立つ2人の剣士だけ。

 彼らの足元に無数の金属片が散らばっている。ノゾムの“芯穿ち”によって穿ち砕かれたタワーシールドの破片だ。

 マルスの脳裏に甦るのは先程ノゾムが放った強烈な突き。

 気量の少ないノゾムの事だから、恐らく幻無のように少ない気で効率よくダメージを与えるような技だと思うのだが、それにしたってこれはひどい殺傷力だった。


「アイリスディーナ……。あの技、見たことあるか?」


「いや、無いな。だが、あの構えに見覚えはある……」


 アイリスディーナの脳裏に甦えるのは、ティアマットに惑わされたノゾムが自分達に刃を向けてきた時の事。

 暴走したノゾムの猛攻を防ごうとティマが“砂上の城壁”を発動させた時、彼が似たような構えを見せていた事を思い出した。


「あの時のノゾムは“あの状態”だったから、もし彼が今の技を打ち込んでいたとしたら……」


 抑圧状態でもジハードのタワーシールドを穿つのだ。抑圧解放状態であの技を放たれれば、自分達は肉片すら残らなかったかもしれない。


「今更の話だが、俺達マジで危なかったのな……」


「そ、そうみたいだね……」


 震えた声でそんな言葉を口にしていたマルスとティマ。

 彼ら以外の仲間達もまた何も言わなかったものの、今更ながらに当時の事を思い出して冷や汗を流していた。







 ともすれば自分達が食らっていた芯穿ちの殺傷力に仲間達が戦々恐々としている事も知らず、ノゾムはただ真っ直ぐに前を見据えていた。

 彼の目線の先にあるのは、白銀の鎧を纏った偉丈夫。

 タワーシールドを貫通した芯穿ちの直撃を受けたせいだろうか。彼の手で掲げられた大剣には無数の傷がつけられ、あちこちに皹が見受けられる。

 舞い散る気の残滓の中、大剣を掲げていたジハードがゆっくりとその手を降ろした。

 覗いたのは全く無傷のまま、落ち着き払ったジハードの風貌。


「やっぱりか……」


 傷一つないジハードの顔を眺めながら、ノゾムはそう独りごちた。

 彼はジハードが無傷であること自体は不思議とは思わなかった。確かに意表は突いたようだが、盾と大剣を間に挟まれた時点で相手の守りを貫くことは難しかっただろう。

“芯穿ち”は打ち込んだ気刃が炸裂すると貫通力が減じてしまう。

 実際、ノゾムが打ち込んだ気刃はジハードが掲げた大剣の手前で炸裂してしまっていた。

 とはいえ、大剣が芯穿ちで受けたダメージは深刻だった。至近距離で炸裂した気刃が大剣の刀身を深々と抉っている。あれではもう使い物にならないだろう。


「盾を打ち抜かれ、剣まで砕かれるか。私も耄碌したのかもな」


 ジハードが無残に刀身を抉られた大剣を捨てる。

 地面に落ちた大剣は限界を迎えたように、パリンと甲高い音を立てて真っ二つに折れてしまった。

 砕けてしまった大剣に申し訳なさそうな顔を向けたジハードはふと自分が身に着けている鎧に目を落とした。


「それに、この鎧に傷を入れられたのも随分と久し振りだ」


 口元に苦笑の笑みを浮かべ、ジハードは己の鎧をひと撫でする。カリカリと爪が引っ掛かる音がジハードの耳に届いた。

 よく見ると、ミスリル銀で作られた白亜の鎧にも僅かな傷が刻まれている。ノゾムの芯穿ちが炸裂した際に、拡散した気刃でつけられた傷だ。


「まさか、ここまでやられるとはな……」


 学生相手に得物を砕かれ、自慢の鎧に傷をつけられるなど、ジハード自身も予想しなかったことだろう。

 事実、周りにいる同級生たちは、アイリスディーナ達を除いて全員が心ここにあらずの様である。

 とはいえ、ジハードは感心したような口調でそんな言葉を吐露しているようだが、ノゾムとしては“いや、貴方無傷で何を言っているんですか?”と言いたい気持ちだった。


「理不尽すぎる……」


 ノゾムは苦々しい口調でそう漏らした。

 自分の持つ技の中でも決め技と言える気術。それも異なる種類の技を3連続でたたき込んだのだ。それを無傷で凌がれると、さすがにノゾムとしてもちょっと凹んでしまう。

 おまけにノゾムはこれまでの戦闘で相当の気を消費していせいか、少しずつ体に影響が出始めており、身体に倦怠感を覚えるようになってきていた。

 せめて顔に一筋の傷くらいあってもいいじゃないか! と心の中で悪態をついてみたが、これが師匠クラスの化け物かと思って諦める。


「これで抑えられぬなら、私もそれなりの対応をする必要があるか……」


 そんな言葉と共に、ジハードがチラリと視線を脇に泳がせた。その目線の先にある物に気付いた瞬間、ノゾムの身体に戦慄が走る。


「っ!?」


 ノゾムは自分が抱いた危機感に急かされるまま、身体に感じる怠さを押し殺して、ジハードめがけて一気に踏み込んだ。

 今のジハードは武器となるようなものを何も持っていない。だが、この場に彼の武器がないわけではないのだ。


「はあああっ!」


 裂帛の気合いを籠めたノゾムの斬撃がジハードに襲いかかる。

 ジハードの視線の先にあったのは、彼本来の相棒である巨剣“顎落し”だった。

 相手に得物を拾わせまいと刀を薙ぎ払うノゾム。

 だが彼の刀がジハードの身体を捉えるかと思われた瞬間、ノゾムの視界からジハードの姿が描き消えた。


「なっ!?」


 ノゾムは空を切った己の斬撃に、思わず動揺の声を漏らす。

 一瞬ジハードの姿を見失ったノゾム。彼がすぐさまジハードの気配を探ろうとした時、彼の視界が暗い影に覆われた。


「っ! 上!?」


 すぐさまジハードの行先を見抜いたノゾムがバッと顔を上げる。

 そこにいたのは文字通り天に向かって跳ぶジハードの姿。

 彼はノゾムの頭上を跳び越え、そのまま一直線に自らの相棒の元へと向かって行く。


「くっ! マズイ!?」


 全身鎧を着こんでいるはずの人間が見せたありえない跳躍に、一瞬目を奪われてしまったノゾム。

 だが彼はすぐさま気を持ち直すと、振り向きざまに刀を薙ぎ払い、ジハードの着地点めがけて気刃を放つ。

 大気を切り裂きながら飛翔していく刃は、ジハードが着地するその瞬間、絶妙のタイミングで着弾した。


「……ダメ、か」


 だが、ノゾムの気刃がジハードの身体を捉えることはなかった。

 確かに気刃のタイミングはジハードの着地と完全に一致していた。

 しかし彼は着地する前に顎落しの柄を掴み、そのまま巨剣に気を流しながら、身体を顎落しの陰に潜り込ませていたのだ。

 ジハードが気を籠めたタワーシールドをも斬り裂くノゾムの幻無。しかし、ジハード専用に作られた巨剣の前に、彼の気刃は空しく四散してしまった。


「ふむ、やはり対応も早いな」


 感心した口調で無造作に顎落しを地面から引き抜くジハード。

 彼は掲げた巨剣の調子を確かめるように、軽く一振りする。

それだけで体を押されるような風圧がノゾムの身体に圧し掛かってきた。


「……うむ」


 ただ一言、ジハードがそう呟くだけで、巨剣の切っ先にまで気が行き渡る。

 まるで見物人のように地面に突き立てられていた顎落しは、その瞬間、この戦いの確かな参戦者となった。

 スッとノゾムに向けられるジハードの視線。

 猛禽を思わせる鋭い眼差しとその手に携えた顎落しが、先程よりも遥かに強烈な威圧感を持ってノゾムに叩きつけられる。

 今のジハードの剣気は先程とは比較にならない。ノゾムの背筋に冷たい汗が流れる。

 ジハードがおもむろにその手に持つ大剣を持ち上げた。

 腕力自慢のサイクロプスですら持ち上げられそうにない巨塊が、たった一人に人間の手で振り上げられる。

 その光景は、一番近くで見せつけられたノゾムですら、一瞬呆けてしまう様な光景だった。


「……ぬん!」


 ジハードは小さく息を吐くと、瞬脚を発動した。

 真っ直ぐにノゾムに向かってくるジハードの速度は、あれほどの巨剣を抱えているとは思えないほど素早い。


「っ!?」


 ノゾムを間合いに捉えたジハードは、その巨剣を頭上から振り下ろしてくる。

 背筋に走る危機感に促されるまま、ノゾムは咄嗟に横に跳んで顎落しの軌道から離脱した。

 幸い、ノゾムの回避は間一髪間に合った。

 空を切ったジハードの巨剣が、地面に打ち付けられる。

 次の瞬間、ズドンという衝撃が轟音と共にアリーナ中に伝搬した。


「うわ!?」


 衝撃で巻き上げられた土煙がノゾムを呑み込み、視界を塞いでしまう。


「や、やばい……」


 ジハードの姿を見失ったノゾムは焦りに呑まれそうになる自分の心を必死に落ちつけながら、相手の気配を探る。

 今あの巨剣で攻撃されたら危険極まりない。


「ふう……」


 周りがほとんど見えなくなったノゾムは静かに息を吐きながら、周囲の些細な変化に気を配る。

 肌の産毛が感じる風の流れ、踏みしめる土の音、視界に映る土煙の微細な変化。あの森の中で培ってきた術を全て使い、ジハードの気配を探っていた。


「…………」


 ノゾムは刀を構えたまま、ピクリとも動かない。

自分の重心を全く動かさず、その腕に徐々に重く感じるようになってきた自分の刀を感じながらも、じっと相手が動くその瞬間を待つ。

 互いに全く動かぬまま、時間だけが流れていく。

 そして地面を踏みしめたノゾムの足が砂利を僅かに鳴らした瞬間、風が動いた。

 ジャラリという金属が触れ合う音が背後からノゾムの耳に届いてくる。

 次の瞬間、後ろで発生した強大な気。そして何かが唸りを上げて横合いから迫ってくる気配。


「っ!?」


 咄嗟にノゾムは地面に体がつくほど低くしゃがみ込むと、直後に巨大な鉄塊がノゾムの頭上を通過していった。

 引き千切られた大気がノゾムの髪を巻き上げ、激しくかき乱す。


「この!」


 押しつぶすほどの重圧感を前にして、ノゾムの額に冷や汗が流れる。

 巨大な質量を持って振るわれる巨剣の一撃。それはもはや能力抑圧の影響下にあるノゾムには打ち合うことすら許されなかった。

 ならば……。


「はあああ!」


 ノゾムはすぐさまジハードの裂撃を前にしてさらに一歩踏み込んでいった。否、反撃しなければ呑み込まれることを即座に理解したのだ。

 自らの刀に研ぎ澄ませた気刃を付与し、ジハードめがけて斬りかかる。

 身体能力で劣る以上、ノゾムがジハードの刃圏から逃れることは難しい。しかし、先の打ち合いのように相手の剣撃を攻撃的に受け流すことも、もはや不可能だ。

 ならば、ただでさえ少ない気を消費することになろうとも、ジハードの勢いに呑まれないよう反撃に打って出るしかなかった。


「ほう!」


 自分本来の剣撃を前にしても前に踏み込んできたノゾムに、ジハードが感心したように声を漏らす。

 大抵の相手は顎落しの威圧感の前に尻込みし、その威力を目の当たりにすれば戦意喪失するものがほとんどだ。

 だが、ノゾムは僅かな迷いもなく反撃に打って出た。たとえそれしか方法がないと分かっていても。それを実際に実行できる人間がどれだけいるだろうか。

 口元に笑みを浮かべながらも、ジハードは今しがた振り抜いた巨剣を引き戻し、盾のように掲げる。

 次の瞬間、ノゾムの気刃を纏った斬撃をジハードの顎落としが受け止めた。

 鋼鉄すらも両断するノゾムの“幻無-纏-”。しかし、振り抜いた彼の刃は、甲高い音を鳴らしながら弾かれる。

 斬撃を受け止めた巨剣には傷一つ付いていない。


「くそっ!」


 ノゾムは理不尽な頑丈さを誇る顎落としに悪態をつきながらも、刀を振るい続ける。

 気を付されたノゾムの刃が光の軌跡を描きながら、2度3度とジハードの巨剣を斬りつけた。

 だが桁外れの重量と硬さを持ち、さらにジハードの膨大な量の気を送り込まれた顎落しの前に、ノゾムの斬撃はただ空しく弾かれ続ける。

 それでもノゾムはジハードの動きを抑えるために刀を振るう。振るい続けるしかなかった。


「ふむ、集中力も桁違いだな。これほどの気刃を長時間維持できるとは……」


 掲げた巨剣越しにノゾムの様子を覗きながら、ジハードは口元に笑みを浮かべていた。

 だが、ジハードはすぐさま緩んだ表情を締め直す。


「むん!」


「なっ!?」


 ジハードはノゾムの斬撃の中から一撃を選び取り、振り下ろされた刀身を、気を込めた小手で弾き返してきた。

 普通に考えれば鉄すら容易く両断する刃を素手で弾こうとは思わない。

 少しでもタイミングを間違えば腕を両断されてしまうかもしれないのだ。

 だがジハードの持つ膨大な気と、的確な判断がそれを可能とする。

 ジハードが打ったのはノゾムの刀の側面。刃物はその特性上、刃筋を立てなければ対象を切り裂くことは難しい。

 目の前で起きた信じられない出来事にノゾムの動きが一瞬鈍る。

 次の瞬間、ジハードの拳がノゾムの顔に打ち込まれていた。


「がっ!?」


 殴り飛ばされるノゾム。まるで雷に打たれたような痛みが頬に走り、目の前が真っ白に塗りつぶされる。

 同時にノゾムは自分に迫りくる巨大な威圧感に、背筋が凍りつくようだった。


「くっ!」


 痛みでぼやけるノゾムの視界に黒い巨塊が一杯に広がっている。

 ノゾムは頭の中で警鐘のように鳴り続ける危機感に急かされるまま、足で地面を蹴ってその場から後ろに跳び退いた。

 直後、目の前をジハードの巨剣が唸りを上げて通過する。僅かでも跳び退くのが遅かったらノゾムの体は顎落としで地面に潰され、無残にサンドイッチになってしまっていたかもしれない。


「はあ、はあ、はあ……」


 何とか回避に成功したノゾムだが、彼の息は既にかなり荒い。

 限界に近付きつつある彼の気量。能力抑圧による彼の持久力の低さが表れ始めてきたのだ。


「そろそろか。よく保ったというべきだろうが、限界が近いようだな」


「くうっ……!」


 そんな隙を歴戦の戦士が見逃すはずもない。

 身の丈以上の巨大さを誇る顎落としが、ノゾムめがけて立て続けに襲いかかる。

 連撃には到底向かない大きさの顎落としを、持ち前の桁外れの筋力と気量、そして戦場で培ってきた膨大な経験で可能としたジハード。

 巨大な巨剣の質量と慣性を利用し、自分自身の体すら剣の一部として扱う。

 たとえ地面に剣を叩きつけてしまったとしても、地面ごと抉り飛ばして強引に連撃へと持っていく。

 全身の筋肉を捩じり、時に獣のように、時に流麗な舞踏のようにジハードは顎落としを振い続けていた。

 一方ノゾムの動きは前半と比べて明らかに鈍っていた。

 減少し続ける気とそれに伴う倦怠感、自由に動かなくなってくる己の身体。

 それでもノゾムはありえないほど強力な一撃が、ありえないほどの速度で振るわれ続ける中、必死に致命の一撃をかわし続ける。


「くそ! がっ!?」


 そして、ジハードの巨剣が地面を抉り飛ばすたびに、飛び散る礫石がノゾムの体に叩きつけられる。


「はあ、はあ……くっ!?」


 痛みに歪むノゾムの表情。それでもノゾムは目の前の巨剣に全神経を集中させていた。

 苦悶の声を漏らしながらも、がむしゃらに体を動かし続ける。

 ノゾムの限界は間近だった。


「はあ、はあ、はあ……」


 急激な気の消費が一気にノゾムを限界に近付けていく。

 荒れていくノゾムの呼吸。彼の刀に付与された気刃もまた陽炎のようにユラユラと乱れている。

 身体強化を行う気すら無くなり始めたノゾムは、まさしく風前の灯だった。

 そして、ついに限界が訪れる。


「なっ!?」


 突然膝の力が抜け、体勢を崩してしまう。

 よろめくノゾムの体。そして気づいた時には、ノゾムの眼前に黒い巨塊が迫っていた。


「くう!?」


 ノゾムは咄嗟に崩れかけていた体勢を自分から崩し、地面を転がって巨剣の下をくぐり抜ける。

 次の瞬間、唸りを上げてノゾムの頭上をジハードの顎落としが通り過ぎた。

 振り抜かれた巨剣が巻き起こす突風を全身で感じながらも、ノゾムは何とか立ち上がって刀を振り上げようとする。

 しかし、地面に転がったノゾムが顔を上げた瞬間、彼の腹部にジハードの拳が深々とめり込んでいた。


「っ! があ!?」


 ノゾムの目が見開かれ、声のない叫びが彼の口から漏れ出した。

 腹部に打ち込まれた衝撃でノゾムの体が一瞬浮き上がる。さらに続けて、ジハードが打ち込んだ拳に気を叩き込んで開放した。

 密着状態で炸裂した気がノゾムの体を吹き飛ばす。

 宙を舞ったノゾムは何度も地面に叩き付けられながら、フィールド端の魔法障壁にぶつかってようやく止まった。


「が、あ、ぐう……」


 うつ伏せのまま倒れ伏したノゾム。

 うめき声を上げながらも、ノゾムは何とか体を起こそうと両腕に力を入れる。

 だが、生まれたての小鹿のように震える腕は彼の意思に反して中々言うことを聞いてくれない。


「はあ、はあ、はあ……」


 それでも何とかその身を起こしたノゾムだが、次の瞬間、フィールド内で今までにないほど気の奔流が噴出した。


「なっ!?」


 驚愕の表情を顔に貼り付けたノゾムが見たものは、巨剣を振り上げてこちらを睨みつけているジハードの姿。

 大地に打ち込まれた両足が地面を砕き、盛り上がった全身の筋肉がミスリル製の鎧の中でミシミシと音を立てている。

 そして、ノゾムの気が芥子粒と思えるような膨大な気が掲げた顎落としに注がれ、眩いばかりの光を放っていた。


「っ!?」


 その光景を見た瞬間、ノゾムの本能が喧しいほどの警鐘を鳴らした。

 緊張感でバクバクと早鐘を打ち続けるノゾムの心臓。掲げたジハードの巨剣に収束された気は今にも爆発しそうなほど高まっている。

 明らかに異常を思える光景を前にして、ノゾムは自らの両足にありったけの力を篭めてその場から跳び退こうとする。


「あっ……」


 しかし、ノゾムの脚は彼の意思に反して動いてくれず、ノゾムはその場に蹲るように倒れ込んでしまう。

 そして、ジハードが顎落としを振り下ろす。


 気術“一刀”


 ジハードが唯一自ら名をつけた気術。

 重戦士としても特に大柄な彼の体をすっぽり覆ってしまうほどの巨大な気刃が、ノゾムめがけて放たれた。

 単純に気を剣に篭めて振り下ろすだけの一撃。しかし、ジハードの異常とも言える量の気を篭めた一撃は、そんな単純な斬撃を至高の一太刀へと変える。

 余計な小細工は不要といわんばかりに、進路上の存在を粉微塵に粉砕しながら、一直線に疾走する気刃。

 その気刃はティマの全力魔法すら上回る威力を秘めていた。


「マズイ!?」


 気刃が放たれた瞬間、ノゾムは完全に回避することが無理だと分かってしまった。

 もっとも、たとえ動けたとしても無傷で凌ぐことは不可能だったかもしれない。

 直進してくる“一刀”の周囲には気刃本体から漏れ出した余剰の気と、巨剣を振りぬいたときの真空刃が張り付いている。

 たとえ気刃本体を紙一重で避けることが出来ても、気刃の周囲を渦巻く気と真空刃に切り裂かれてしまうだろう。


「くっ!?」


 それでもノゾムは何とか“一刀”の効果範囲から逃れようとする。

 もはや後先など考えてはいられなかった。ノゾムは残り少ない気を両足に収束させていく。


「ぐっ、があ……」


 少なくなった気をさらに搾り出す行為が、ノゾムの体に負担をかけていく。

 突然襲ってくる眩暈を必死に歯を食いしばって耐える。

 だがもう間に合わない。眼前まで迫った気刃はノゾムの視界いっぱいに広がっている。

 そして次の瞬間、せめて少しでも気刃から離れようと、地面に身を投げ出したノゾムに衝撃波が襲いかかり、彼の身体を宙に吹き飛ばしていた。







 誰もが目の前の光景を信じられないものを見るような眼で見つめていた。

 フィールドに深々と刻まれた一筋の傷痕。

 極大の気刃はフィールドに張られていた魔法障壁を貫通し、そのままアリーナの魔法障壁に着弾。

 アリーナの魔法障壁によって怪我人こそ出なかったものの、観客席にはまるで地震に見舞われたかのような衝撃が走った。

 武技園の観客席の一部には無数の罅が入っている。

 そして、地面に刻まれた傷痕の傍に、弾き飛ばされ、地面に叩き付けられたノゾムの姿があった。


「あっ……」


 倒れ伏した彼の体はピクリとも動かない。

 その姿を目の当たりにしたリサの口から乾いた声が漏れた。

 これでもかと見開かれた瞳と蒼白となった顔。

 リサはどうしようもなく自分の体が冷えていくのを感じながらも、彼女の心臓だけは信じられないほど早く鼓動を打っていた。

 やがて、ノゾムが倒れている場所の地面に赤い染みが広がっていく。それが彼の体から流れ出している血であることは誰もがすぐに分かった。


「あ、ああ……」


 リサの脳裏に蘇る父親の死。頭の中が真っ白になる中、彼女の体はまるで蝋人形のように固まってしまっていた。


「た、助けないと!」


「リサ!?」


 突然慌てふためき始めたリサに、カミラが驚きの声を上げる。

 だがリサはそんな彼女の声は耳には入っていなかった。

 今まで自分がノゾムに対してどんな思いを抱いていたかなどをすっかり忘れていたリサは、慌てた様子で駆け出そうとしている。

 早く行かないと死んでしまう!

 彼女の心を占めるのはその想いだけだった。

 しかし、リサが踏み出そうとした足は一歩踏み出した瞬間に止められる事になる。


「ノゾム!」


「ミムル! 急いでノルン先生を!」


 アイリスディーナとシーナの悲鳴にも似た叫びがリサの耳に突き刺さった。

 リサの目にはノゾムに向かって一目散に駆け出していくアイリスディーナ達の姿が映し出されている。


「あっ……」


 思わずリサの口から漏れ出した声。その響きはどことなく寂しさと空虚感を漂わせていた。








 一方、倒れたノゾムに駆け寄ろうとするアイリスディーナ達はフィールドに展開されていた魔法障壁に行く手を阻まれていた。


「インダ先生! 早く障壁を!」


「分かっています。少し待ちなさい」


 アイリスディーナに急かされながらも、インダはすばやく魔法障壁の操作盤に指を走らせ、障壁を解除しようとする。

 今すぐにでもノゾムに駆け寄りたいアイリスディーナとシーナがフィールド障壁のすぐ傍で障壁が解除されるのを今か今かと落ち着かない表情で待ち続けていた。

 彼女達の傍にはミムル達を伴ったノルン先生もいる。

 彼は大丈夫なのだろうか。緊張感に顔を強張らせているアイリスディーナ達に耳にノゾムの呻き声が聞こえてきた。

 そして彼女達が見たのは、血塗れになりながらも起き上がろうとするノゾムの姿だった。


「痛っうう!」


「……な!?」


 フラフラしながらも、しっかりと自分の足で立ち上がるノゾムの姿に、アリーナ中の誰もが目を離せなかった。

 ノゾムが身につけている服は体のあちこちからの出血で所々赤く染まっている。

 特に額はかなり深く切ったのか、いまだにドクドクと赤い血液が止め処なく流れていた。


「外したとはいえ、すぐには動けぬはずなのだが……」


 ジハードの呟きが静寂に満ちたアリーナに響き渡る。

 彼は気術“一刀”の極大気刃をノゾムに当てなかった。流石に一人の人間に向かって放つには強力すぎる気術だからだ。

 気刃はノゾムの脇を駆け抜け、彼の身体を吹き飛ばすだけに止まった。

 もっとも、これだけの気術ならば余波だけでも十分すぎるほどのダメージを与える。気刃に纏わりついた真空刃も、相手にそれなりの傷を負わせるだろう。 

 普通に考えれば、学生程度が受けて意識を保っていられるはずがなかった。

 だが、もはや本能と呼べるまでに鍛え抜かれたノゾムの危機察知能力は、思考の余地が入らない反射の領域ですら的確に体を動かす。

 ノゾムはあの僅かな間で、ジハードの一刀に纏わりついた真空刃の隙間に、自分の身体を無理矢理ねじ込んでいたのだ。

 そして骨の髄まで染みついた受け身の動きが、吹き飛ばされて叩きつけられた際の衝撃を最小限に留める。

 

「しかし、本当にしぶといな。外したとはいえ、私はそれなりに本気で剣を振りぬいたのだが……」


「はあ、はあ……」


 驚きを通り越して呆れたようなジハードの言葉だが、ノゾムはそれに答えている余裕はなかった。

 それは気を急激に消耗したことによる体への影響。

 いくら深い傷は負っていないとはいえ、体内の血は徐々に失われている。視界も暗く、狭くなり始め、耳もよく聞こえない。

 事実、ノゾムには先程ジハードが言った言葉がよく聞き取れなかった。


「模擬戦はそこまでです。ジハード殿、それからノゾム・バウンティス、剣を納めてください」


 模擬戦はここまでだと告げるインダに、周りでこの模擬戦に目を奪われていた下級生達が大きく息を吐いた。

 完全に2人の戦いに見入っていたのだろう。それほど激しい戦いだった。


「…………」


 だがインダの宣告を聞いても、ジハードは未だに顎落しを納めずにノゾムを見つめている。

 ノゾムもまたジハードから目を逸らさない。

 血に塗れた鞘を握り締めながら、おもむろに右手に持っていた刀を納めて腰を落とした。


「ノゾム・バウンティス! 模擬戦は終わりです、退きなさい!」


 叱り付ける様なインダの声がアリーナに響くが、ノゾムは彼女の声が聞こえていなかった。

 元々突出した集中力を持つノゾムの全神経が、今は目の前に佇む強者に向けられているのだ。

 さらに今のノゾムは急激な気の消費で極限状態となっている。彼がインダの声を聞き逃すことも無理はなかった。

 もっとも、聞こえていたとしてもノゾムは剣を引かなかったかもしれない。

 いま負った怪我の事ではない。師との鍛錬ではタコ殴りにされるのが当たり前だったのだ。

 関節を外されたり、魔獣の跋扈する森に放置されたりと、命の危機にさらされたことも一度や二度ではない。

 だが何よりも、ノゾムは今ここで逃げることはしたくなかった。

 彼自身が目を背けていたのは、リサやケンだけじゃない。この学園そのものからも目を背けてきた。

 その事が無意識のうちに、彼に自分の気術を使うことを躊躇わせていたのかもしれない。

 例え模擬戦で使わなくとも、案山子などの的に向かって放てば、ノゾムの技がどれほどのレベルかは窺い知れたのだから。

 だが、リサたちと向き合うと決めた以上、この学園とも再び向き合わなければならない。

 ならば、最後まで胸を張って立ち上がるべきだろう。

 ノゾムの目に自分の体に巻きついた不可視の鎖が映る。

 彼は一度その鎖を握りしめたが、ゆっくりとその手を離した。

 確かに能力抑圧を開放すればジハードとも闘えるだろう。だがノゾムは、今この場でこの力を解放する気はなかった。

 フィールドの外ではアイリスディーナ達が心配そうに見つめている。

 心配させてしまっていることを申し訳ないと思いつつも、ノゾムの心は晴れやかだった。

 ティアマットに操られたとはいえ、刃を向けた自分を今でも受け入れてくれている。

 それだけでノゾムは体の奥から力が湧きあがってくる。

 自分が培ってきた技と、支えてくれた人達から受け取った想い。

 それに応える事は、自分の内に秘めた暴力的な力を使う事ではない。少なくとも今は。

 一振りの刀にすべての想いを乗せる気持ちで、ノゾムはジハードを見つめる。


「なるほど、戦意は衰えていないようだ……」


 ノゾムの意思を汲み取ったのか、ジハードがおもむろに巨剣を構える。それを合図にノゾムは一気にジハードめがけて駆け出していた。


「ちょっ!? 待ちなさい!」


 インダの制止を振り切り、一直線にジハードに突っ込んでいくノゾム。

 その速度は先ほどと比べてもさらに遅い。気による強化が行われていないからだ。

 もはや一滴の水ほどの気ですら無駄にできない。せめて最後の一手を放つその時まで、これ以上気を使うわけにはいかなかった。

 そんなフラフラのノゾムを振り払うように、ジハードが構えた巨剣を薙ぎ払う。 


「むん!」


 ノゾムの突進にあわせて打ち込まれた巨剣は、完全にノゾムの体を捉えていた。

 すでに限界のノゾム。ただ単に走っているだけなのに体の軸がぶれ、ふらついてしまいそうになる。

 おまけに気が使えないような状態では“瞬脚‐曲舞‐”でジハードの一撃を避けられるはずもなく、そしてノゾムにはジハードの顎落しを受け流すことは出来ない。

 誰もがノゾムが吹き飛ばされる未来を垣間見る中、彼は思いっきり上体を前に倒して、突進の勢いのまま身を投げ出した。

 迫りくる巨剣の刃がノゾムの髪をなでる。

 薙ぎ払われた顎落しの下側をぎりぎりのタイミングで滑り込むことに成功したノゾムは、まるでジハードに見せ付けるように刀の鯉口を切った。

 同時に気を刀に叩き込み、極限まで圧縮する。

 わずかに覗くノゾムの刃が光を帯びた瞬間、ジハードはすぐさま振りぬいた巨剣を引き戻して盾のように掲げた。

 先の打ち合いで桁違いの切れ味を誇るノゾムの気刃も、ジハードの膨大な気を注ぎ込まれたタングラール製の巨剣の前に弾かれている。

 そしてノゾムの気量も最早限界であることはジハードも見抜いていた。

 これが最後。せめて全力を出し切らせてやろうと、ジハードはノゾムの攻撃すべてを受け止める気で腰を落とす。


「さあ、来い! お前の全てを出し切って見せろ!」


 響き渡るジハードの声。ノゾムは滑り込んだ勢いを利用して体を起こしていた。

 自らの間合いにジハードを捉えたノゾム。そしてノゾムの刃が抜き放たれると思われたその瞬間。


「むっ!?」


 ノゾムが気を込めた刀ではなく、自らの拳を巨剣に叩き付けていた。

 予想外の光景に、ジハードも含めたこの武技園にいるすべての人が目を見開く。

 刀の柄に添えられていた右手を叩き込み、今度は左手で打ち上げるように振り抜く。

 さらにその勢いのまま体を捻り、回し蹴りを叩き込んだ。

 それだけではなく、肘打ちや掌底等、体のあらゆる部位を武器のように扱いながら、流れるような動きでノゾムはジハードを攻め立てる。


「ほう、見事なものだな」


 この戦いを見守る者達の目には、それは一つの舞のように映った。

 円を基本とした動きを上下左右に繋げながら、風のように繰り出されていくノゾムの拳。

 その動きに停滞はなく、その舞に迷いはない。

 数多の戦士達を見てきたジハードの目にも、ノゾムの舞は卓越したものに見えた。


「だが、あまりに非力すぎるな」


 ノゾムの体術そのものには感心したジハードだが、この場でのノゾムの判断は下策だと断じた。

 確かにこれほど密着した間合いなら、顎落しのような巨大な超重量武器を振るうことは難しい。

 だからこそ、彼は僅かに残った気を刀に籠め、その刃を繰り出してくるとジハードは判断していた。

 しかし、実際彼が繰り出してきたのは己の拳。

 ノゾム本来の得物が刀だということを考えれば、より確実な一撃を加えるために接近したと考えても、明らかに近寄りすぎだった。


「判断を誤ったか。まあ若いのだ。それも仕方ないか……何?」


 ノゾムの拳を受け止めながらも嘆息していたジハードだが、自分の手が伝えてくる違和感に首を傾げた。

 先程から掲げた巨剣越しに感じていた衝撃。未だに弱々しいながらも、その衝撃が段々と増しつつあるようなのだ。

 考えられるのはノゾムの攻勢が徐々に威力を増しつつあること。

 だがこの攻撃は、あれほど気を消耗したノゾムが繰り出すには不自然だった。

 一体どういうことかと思いながらジハードがノゾムの様子を覗ってみると、そこには渦巻く光の尾を纏ったノゾムの姿があった。


「これは魔力光……。まさか、儀式体術か!?」


 儀式体術。

 この大陸で主流となる詠唱式と陣式、そのどちらにも属さない特殊な魔法術式であり、己の動きそのものを術式として成立させて大規模な魔法の発現を可能とする技法だ。


 儀式体術“輪廻回天”


 武の型そのものが儀式魔法として成立し、周囲の魔力をかき集めながら彼の体に際限なく強化魔法を付与していく。


「……なるほど、嵌められたか」


 ノゾムはこの技を使うためにあえて刀の間合いからさらに一歩踏み込んだのだろうとジハードは判断した。相手の攻撃を封じ、儀式体術が成立するまでの時間稼ぎをするために。

 キラキラと粉雪のように輝く魔力の光はとても幻想的で、アリーナ中の魔力が渦を巻きながら、ノゾムに収束していく光景はまるでダイヤモンドダストのようだった。

 巨剣越しに感じるノゾムの打撃は、やがてジハードでも無視できないほどに高まりつつある。

 初めは石礫をぶつけられるような軽い打撃音が、今ではズシン! ズシン! と体の芯に響くような音を立てていた。


「だが、惜しかったな」


 しかし、ジハードの表情は至極冷静なものだった。

 確かにかなりの威力を秘めた打撃ではあるが、ジハードの守りを突破するには至らない。

 ノゾムの舞自体に問題があるわけではない。今彼の体が収束している魔力は、一流の魔法使い達の魔力と比べても遜色ないものだ。

 だが、やはり能力抑圧の影響が大きいのか、集まった魔力に対して強化魔法の効果があまりに低かった。

 そして、いつまでも続くかと思われたノゾムの舞も終わりを迎える。


「ああああああああ!」


 裂帛の気合を籠めながらノゾムが大きく上体を捻り、全ての力を乗せるように回し蹴りを振りぬいた。

 これがノゾムの最後の攻撃。これを受け止めれば終わる。

 そう考えたジハードはノゾムが体を捻ると同時に全身の気を一気に高め、衝撃に備えた。

 振り抜かれたノゾムの足がジハードに迫る。

 だが、ノゾムの足が打ち込まれたのはジハードの巨剣ではなく、足元の地面だった。


「何!?」


 眼前で巻き上げられた土煙がジハードの視界を覆う。

 ジハードの意識が乱された瞬間、ノゾムは地面に打ち込んだ足からさらに一歩前へ踏み出した。

 至近距離で交差する2人の視線。

 儀式体術でかき集めた魔力。ノゾムはそれをすべて左手に乗せていた。

 桁外れの制御を可能とする気に比べて、ノゾムは魔力の制御をそれほど得意としていない。

 制御しきれなかった余剰魔力でノゾムの腕の皮が裂け、筋肉が千切れていく。

 それでもノゾムは腕に走る痛みを無視して全力で左手をジハードが掲げた顎落しに叩きつけ、同時に溜め込んでいた魔力を解放した。

 解き放たれた濁流のような魔力がジハードの顎落しを呑み込み、ついに岩のような巨剣を跳ね上げた。


「ぬうう!?」


 無防備な上体をさらすジハード。ノゾムは今度こそ必殺の一撃を叩き込もうと鯉口を切る。


「おおおおおおお!」


 これが本当の最後。ノゾムは残った気を全て開放し、全力で刀を抜き放とうとする。

 上体が完全に浮いたジハードに避けるすべはない。そのはずだった。


「なっ!?」


 ノゾムが抜刀しようとしたその瞬間、ドン! という轟音と共にジハードの体が跳ね飛んでいた。

 ジハードはノゾムが叩きつけた魔力流の勢いを逆利用し、高めていた気を足元から開放。ノゾムの刃圏から逃れるように、その巨体を一気に斜め後方に押し飛ばしたのだ。

 戦士鎧を着こみ、あれほどの超重量武器を携えた人間が見せたあり得ない跳躍にノゾムの目が見開かれる。


「むううう!」


 さらにジハードは空中で体を捻りながら、膨大な気を顎落としに叩き込む。

 さらに自らの体が重力の楔にしたがって落ち始めると同時に、ジハードはノゾムに向かって顎落しを振り下ろす。

 裂光を纏いながら、ノゾムの頭上から彗星のように落ちてくる巨剣。

 既に前に踏み込んでしまい、限界のノゾムにはもはや“一刀”を凌ぐだけの余力は残されていない。


「くっ!? おおおおおおおおおおおおお!!」


 防ぐことなど初めから出来ない。避けることも不可能。

 ならば……迎え撃つしか手はなかった。

 踏み込んだ右足と刀に極圧縮した気を叩き込み、極限まで強化する。

 さらに膝、腰へと動きが連動していく全身の筋肉に、気による極強化を完全に同調させる。

 まるで天から落ちる雷のように迫りくる巨剣。

 あらゆる存在を屈服させるその一撃を睨み付けながら、ノゾムは負けじと一気に刀を抜き放った。


 気術“幻無-閃-”


 抜き放たれた刃は刹那で迫りくる巨剣と激突。解き放たれた“一刀”と“幻無-閃-”が閃光を放ち、辺りを真っ白に染め上げる。

 次の瞬間、暗転した視界と共にノゾムの意識は暗闇に呑まれていった。





 



“幻無-閃-”はやり過ぎたかも知れません。

それに戦闘が長すぎたかも……。

放出系の気術も消費が激しくなるので控え、一応刀身に込めた気を再利用したり、儀式体術で周囲の魔力も利用していますが……。

それにしても、感想で儀式体術を当てられた時は焦りました。

まあ、悩みましたがそのまま行こうと決めて押し通しましたけど。

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― 新着の感想 ―
ええな、
[一言] ものすごく面白かったです。厨二心をくすぐられますねぇ〜
[一言] ストーリーもバトルもめちゃくちゃ面白い
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