天使の扉
「天正十年六月二日だったかな」
「どうしてそんな事聞くの?」
「あくまで推理だけど、織田信長は天正十年六月二日に死んだ。
これは織田信長の命は天正十年六月二日に滅んだ、と同じ意味となる」
「ああ、そうか!これがヒントだとすれば、10・6・2の扉は命が滅びるというわけか」
「そうとも考えられる。このなかに数字はそれしか書かれていないし」
「とりあえずメモしておこうか」
そう言って、本居さんがメモしようとした瞬間、突然画面から映像が飛び出した。
部屋にいる全員が注目する。
『もう一つ目の謎を解かれたのですか。
簡単すぎましたかね?
では、2・6・10の扉をロックします』
管理人が言うと、扉の鍵が閉まる音が聞こえた。
本当にロックされたようだ。
『ところで、3人以外誰もまだ行動していないようですね。
実は、いくつかのイベントを用意してあります。
イベントは全員強制参加です』
誰もが黙って下を向いている。
関わりたくないという様子だ。
俺達三人ですら下を向いていた。
イベントと言っているが、裏があるに決まっている。
『このゲームから逃げたいとは思いませんか?
逃がしてあげます。
但し、一人だけです』
この言葉に下を向いていた頭が全部上がった。
『天使の扉に入ってください。
そうすれば逃げられるでしょう』
画面から管理人が消えた。
管理人は俺達の中から一人だけ助けると言った。
これは本当なのか?
ただ皆を混乱させて楽しむためのイベントでは……?
「俺が入るんだ!」
「いいや俺だ!」
「俺だ!」
管理人の罠に何人かがはまってしまった。
1の扉の前で、3人の男達が争っている。
「落ち着いて下さい!」
俺の声は誰にも届かない。
ついには殴りあいをはじめた。
部屋中に鈍い音が鳴り響く。
女達は3人知らないもの同士、こんなときでも肩を寄せ合って、誰も入れまいと群れを作っている。
「だからやめて下さい!」
俺の声は結局届かず、男達の中で勝者が一人生まれてしまった。
その男は片方の口角を少し上げて見せて、扉のドアノブに手をかけた。
ゆっくり開くと、次は声を上げて笑いながら中に入って行き、「負け組み共はここで息絶えればいいってことよ」と捨て台詞を残して扉を閉めた。
本当にあの男は助かってくれればいいのだが。
「きっと大丈夫だよ」
愁が俺の肩を叩く。
「そうだといいけど……」
しばらくして閉まっていた天使の扉が開いた。
当然中には誰もいないと皆思っていた。
しかし中にはまだ男が立っていた。
男の顔は蒼白で、生きている感じがしない。
男はふらふらと床に倒れ混み、そのままぴくりとも動かなくなってしまった。
本居さんが男に近づいて行き、呼吸と脈を確認した。
「死んでる……」
「いやーーーーーーーーーー!!!!!!」
女達が悲鳴を上げる。
俺と愁も顔を背けた。
プレイヤー 残り9名
タイムリミット 残り22時間15分