オードリー春日に至る病
トゥース
朝、起きる。まだ、泥水のような粘着質の眠りの海から完全に抜け出せていない。まるで、団子を背負ったダンゴムシのようなのろさで体を起こす。全身の細胞がまだ睡眠を求めてストライキを起こしているようだ。ちなみに、今作者が卵かけご飯を食べるか悩みながらこの文章を書いていることは、本文に1ミリも関係ない。
12分ほど、カップラーメン4杯分の時間が流れてようやく眠気のボイコットを理性が制圧したようだ。
「へッ!ああ、今日も学校かよ」
とろんと眠気の残った声でと表現できればベストだったのだが、結局ザラザラした野太い濁声で叫ぶ。クセで、特に見たくもないニュース番組をつける。本当にクセで見てるだけで、面白いなんて感情は、ハエのまつ毛に対する敬意より感じちゃいない。ちょうどニュース番組の途中で、映画のCMが流れていた。
「・予告・ 大ヒット映画 /オードリー春日に至る病/街の人々が突然、トゥースとしか言えなくなったら、、、この恐怖からあなたは逃れられるか、、、」
「へッ!くだらなそうだな」
くだらなそうという言葉は厳密には嘘になる。なぜなら、ものすごくくだらなそうだと強く感じたからだ。この世に存在するなかで最も強くくだらないことを形容する言葉が人生で一回しか使えないなら今が使いどきかもしれない。
高校に行く時間ギリギリであるという事実が頭の片隅から消去されていたときに、掛け時計がふと目に入ると、始業時間ギリギリだった。間に合う可能性がある時間の中で最も遅い、つまりギリギリだった。言い換えるなら(走ったら間一髪で間に合う期待値が刻一刻と下がっている)要するにギリギリだった。ギリギリでないことの証明はどうしてもできないしする必要もない。なぜならギリギリだから。ちなみに筆者は、ギリギリという言葉自体は発音が気持ち良くないため嫌いだ。ギリギリの一言で済む描写になぜこのような冗長を極めた文章を書いているかということを深めるには入門哲学書一冊分の文章量で緻密に定義する必要がある。そもそも「ギリギリ」とは何か。これは時間的余裕が限りなくゼロに近い状態を指す。しかし、ゼロではない。ゼロなら間に合わないからだ。では、どの程度ならギリギリなのか。徒歩では間に合わないが、競歩なら間に合う場合はどうか。競歩の定義は...(以下、18万字かけて、ギリギリについてだけ書かれているため省略)
沖縄でないので、ウチナータイムが通じる訳もなく、鬼のように急いでテレビを消して、マッハ8のスピードで動く気持ちで身支度を整え、学校に向かった。身支度に25分かかった。
学校に向かう道中で、すれ違った見知らぬ数人に、「トゥース!」と言われた。本当に本当に赤の他人なのである。(赤の他人の対義語が白い恋人であることは本当にどうでもいい。)
「へッ!くだらない映画が流行ったもんだ」
学校に着いた。始業20秒前、本当にぎりぎりだ。急いで着席する。
「へッ!、、、へッ!、、、すみません、時間ギリギリに来t」
目の前には信じられない光景が広がっていた。全身を、生暖かい牛の舌でなめまわされるような鳥肌が立つ。全員、春日だった。先生、副担任、ゲーム仲間の亮太、幼馴染の雪子まで、すべてが春日だ。たまたま苗字が全員、春日であったとか、そういうわけではない。全員、半袖のワイシャツにピンクのベスト、黄色のネクタイを太く結び、髪型を七三分けとして、胸を張っている。
「トゥース!」
「トゥース!!」
「トゥース!!!」
皆、胸を張って、そう叫びながら、人差し指を胸のまえに出している。間違いない、(春日に至る病)に冒されている。そう理解した直後に、不敵な笑みを浮かべて、雪子が近づいてきた。
「トゥース!トゥース!!」
そう叫びながら、トゥースの手をしたまま、、。つられるように、ほかの生徒も近づいてきた。
「トゥース!」
「トゥース!!」
「トゥース!!!」
「へッ!へッ!!ギャース!ギャース!!」
僕の悲鳴にかまわず。生徒たち、、いや春日達は近づいてくる。私はこの春日になり果てた、化け物達に一人では到底戦えないと悟り、一目散に逃げようとした。そのとき、雪子が言った。
「ハッピーバースデー!!おめでとう!!皆で〇〇君のサプライズ誕生日会を計画していたんだよ。」
僕は、数秒間、困惑と嬉しさと馬鹿馬鹿しさで、動けなくなった。次第に嬉しさが強くこみ上げて、ふいに涙が出た。グスン!、皆ありがとう、本当にありがとう。しかし、口と体が勝手に、
「トゥース!!」
胸を張りながらそう叫ばずにはいられなかった。
「どうしたの、、?シャンプーの一気飲みでもした?」
あれ、本当に、、、どうしたんだろう。シャンプーの一気飲みだけはしていないけど、、、、
「へッ!」
不敵な笑みを浮かべながらそう言ってしまった。そういえば、朝から「へッ!」と言っていたかも、、、、
「トゥース!!!」
心では、そう言っているつもりでも、体と口が勝手にそう言ってしまう。そして僕は、へッ!とトゥース!しか言えなくなった。
その瞬間目が覚めた。
(はっ!何だ夢かあ〜〜〜)
頭ではそう言ってるつもりでも
「へッ! トゥース!」
となっていた。
そばにいた母は悲鳴を上げた。
その悲鳴も、やはり「トゥース!」だった。
トゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥーストゥース




