最終話:エピローグ『それぞれの道、そして永遠の絆』
魔王ヴェルムートとの和解から、一年が過ぎた。
世界は、驚くほどの速さで変わり続けている。
「ステータス」や「スキル」という安易な指標が消えたことで、最初こそ混乱はあったものの、人々はすぐに「自分で考え、自分で鍛える」ことの喜びに目覚めた。
努力した分だけ強くなれる。数値に縛られない可能性。それは、かつてのゲーム的な世界よりも、ずっと生き生きとした活気を生んでいた。
そして、王都の冒険者ギルド。
かつて私が「無能」と罵られ、追放されたあの場所は、今や新しい時代の象徴となっていた。
「おい、新人! 剣の握りが甘いぞ! ステータス補正がないんだから、体幹で支えろ!」
「はいッ! ガレンさん!」
ギルドの訓練場では、Sランク冒険者ガレンさんが、若い冒険者たちを熱心に指導している。
彼の『最強の盾』は、今や国中のタンク(盾役)たちの憧れの的だ。
「あらあら、また怪我したの? ……ほら、風の加護をイメージして」
「ありがとう、エララ姉さん!」
エララさんも、教官として人気者だ。彼女の剣舞のような動きを学ぼうと、女性冒険者たちが列を作っている。
「へっ。肉の焼き加減も冒険者のスキルだぞ。食わなきゃ強くなれねえ!」
レオくんは……なぜかギルドの酒場で、豪快にステーキを焼いて振る舞っている。相変わらずだけど、その周りにはいつも笑顔が絶えない。
そして、私は。
「……アリアさん、この古代語の翻訳、お願いします!」
「アリア様! 北の大障壁跡地の緑化計画について、シルヴィア様が相談したいと……」
私は、書類の山と格闘していた。
Sランクパーティー『アルテミス』のリーダー兼、王国の特別魔法顧問。
忙しさは以前の倍以上だけど、不思議と嫌じゃなかった。必要とされていることが、嬉しいから。
昼下がり。
私は休憩がてら、王都の路地裏にある小さな定食屋に向かった。
そこで、皿洗いのアルバイトをしている「彼」に会うために。
「……いらっしゃい、アリア」
店の裏口で、エプロン姿の少年が、恥ずかしそうに手巾で手を拭っていた。
カイトだ。
かつての勇者、そして世界の管理者を名乗った彼は今、Fランク冒険者として登録し直し、こうして下積みの生活を送っていた。
「調子はどう? カイト」
「……まあまあだよ。昨日は、スライム退治で銅貨3枚稼いだ」
カイトは、少し誇らしげに笑った。
かつては「スライムなんて経験値にもならねえ」と見向きもしなかった彼が、今は自分の力で稼いだ銅貨を大切にしている。
「みんなには内緒だけど……魔法のコツ、少し分かってきたんだ」
「ふふ。私の『進化魔法』の理論、少しは役に立った?」
「ああ。……ありがとうな、アリア」
カイトは、憑き物が落ちたような、穏やかな顔をしていた。
罪は消えない。でも、彼はもう一度、自分の人生を歩き始めている。いつかきっと、本当の意味での「勇者」になれる日が来るかもしれない。
夕暮れ時。
私たち『アルテミス』の四人は、王都を見下ろす丘の上に集まっていた。
ここから見る夕日は、一年前に見た時よりも、ずっと綺麗に見えた。
「……平和になったな」
ガレンさんが、感慨深げに呟く。
「ああ。退屈で死にそうだぜ」
レオが欠伸をする。
「そうね。……だから」
エララさんが、ニヤリと笑って、一枚の地図を広げた。
「新しい仕事、取ってきたわよ」
その地図には、大陸のさらに向こう側。魔王ヴェルムートが統治する『魔界』、そしてその先にある『未踏の大陸』が記されていた。
「ヴェルムートからの依頼よ。『魔界の奥地に、誰も見たことがない遺跡がある。……調査に来ないか?』だって」
「面白そうじゃねえか!」
レオが飛び上がった。
「魔界のドラゴンか! 腕が鳴るぜ!」
「また面倒なことになりそうだが……。ま、俺たちの『盾』が必要なら、行くしかねえな」
ガレンさんも、満更でもなさそうだ。
三人が、私を見た。
「どうする? アリア」
「もちろん、リーダーが決めることよ」
私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』を握りしめた。
この杖の中の『世界樹』も、未知の冒険を求めてうずうずしているのが分かる。
かつて、私は「無能」だった。
何もできない、誰のお荷物にもなりたくない、ただの弱虫だった。
でも今は違う。
私には、背中を預けられる仲間がいる。
世界を変える力がある。
そして何より、この広い世界を知りたいという「好奇心」がある。
「……行きましょう」
私は、仲間たちに向かって、最高の笑顔で答えた。
「私たちの冒険は、まだ始まったばかりですから!」
風が吹き抜ける。
Sランクパーティー『アルテミス』。
彼らの新しい旅路は、きっと歴史書にも載らない、自由で、最高に楽しいものになるだろう。
(全編・完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
皆様の応援のおかげで、アリアと『アルテミス』の仲間たちの物語を完結まで書き切ることができました。
さて……感傷に浸る間もなく、皆様に重大発表があります!
明日【1月2日 12:00】より、完全新作を投稿開始します!
タイトルは――
『最強勇者と陰キャ秀才が入れ替わったら ~現代日本を「軍事知識」で制圧する元勇者と、異世界を「物理演算」で攻略する新勇者~』
(タイトルは変更の可能性がありますが、中身はガチです!)
今度の主人公は二人!
「性格最悪の最強勇者」が現代日本の高校生に、
「偏差値高めの陰キャ秀才」が異世界の勇者に、
神様のいたずらで入れ替わってしまいます。
★日本の高校を「軍事作戦」で支配していく元勇者(ただし勘違い)。
★異世界の魔王軍を「物理法則」でねじ伏せる秀才。
アリアの『進化魔法』とはまた違った、二人の主人公による「知識」と「勘違い」の無双劇。
これまでの作品で培った要素をすべて詰め込んだ、私の集大成となるエンタメ作品です!




