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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第4章『王国の闇と古(いにしえ)の真実編』

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第71話:脚本なき世界と、最後の来訪者


虚無の塔での決戦から、数週間が経った。


世界中の「ステータス」や「スキル」の表記が消え、人々は最初こそ混乱したが、アリア(私)が植え付けた『進化の種』のおかげで、徐々に新しい力の使い方に順応し始めていた。


そんなある日。

北の『大障壁』――今はもう、光の壁ではなく、美しいオーロラのような境界線となっている場所から、緊急の魔法通信が入った。


『――緊急事態! 障壁の向こう側から、単騎で接近する影あり!』

『測定不能の高エネルギー反応! これは……!!』

私たちは、シルヴィア様と共に、再び北の地へと転移した。


大障壁の境界線。

かつては瘴気にまみれた死の大地だった場所も、私の『進化魔法』の影響で、少しずつ緑が芽吹き始めていた。


その草原の真ん中に、「彼」は立っていた。


護衛も連れず、武器も構えず。

ただ、漆黒のローブを纏い、そこにあるだけで空間が歪むほどの、圧倒的な魔力を放つ存在。

ヴォルグのような禍々しさはない。むしろ、静謐せいひつで、深海のような底知れぬプレッシャー。


「……ようこそ、人間たち」


彼が振り向いた。

透き通るような銀髪に、血のように赤い瞳。その顔立ちは美しく、そして悲しげだった。


「……あなたが、魔王ですか」


私は、杖を構えずに問うた。直感で、彼に戦意がないことが分かったからだ。


「イエスであり、ノーだ」


男は静かに答えた。


「私は魔族の王、ヴェルムート。……かつて『システム』によって、『魔王』という役割ロールを演じさせられていた者だ」

「演じさせられていた……?」


ガレンさんが眉をひそめる。


「ああ。この世界を維持するために、定期的に『勇者』と戦い、適度に人類を減らし、適度に魔族を殺させる……。それが私の『仕事』だった」


魔王ヴェルムートは、自嘲気味に笑った。


「だが、数週間前。私の脳内にあった『破壊衝動コマンド』が消えた。……システムが書き換えられたからだな?」


彼は、アリアを真っ直ぐに見つめた。


「お前か? 新しい管理者……いや、『進化の女神』は」

「私は女神じゃありません」


私は一歩前に出た。


「Sランク冒険者、アリアです。……あのふざけたシステムは、私が終わらせました」

「そうか」


ヴェルムートは、ふぅ、と長く息を吐いた。それは、数百年分の重荷を下ろしたような、安堵のため息だった。


「礼を言う。……これでようやく、無意味な殺し合いを終わりにできる」

「じゃあ……戦争は終わりか?」


レオが拍子抜けしたように言う。


「ラスボス戦なしかよ」

「……だが」


ヴェルムートの瞳が、鋭く光った。


ドォォォォォンッ!!

彼から放たれた魔力が、物理的な突風となって私たちを襲った。


「くっ!?」


ガレンさんが咄嗟に盾を構え、私たちを守る。


「……戦意がないんじゃなかったのか!?」

「戦争は終わりだ。だが、『外交』はこれからだ」


ヴェルムートは、右手をゆっくりと上げた。その掌に、極大の黒い魔力球が生成される。


「システムという『かせ』が外れた今、魔族は自由だ。……もし、人間が我々にとって『害』であると判断すれば、私は自分の意志で、人類を滅ぼすこともできる」


彼は、試すような目で私を見た。


「見せてみろ、アリア。……システム(補助輪)を外した人類が、我々魔族と対等に渡り合えるだけの『強さ』と『覚悟』を持っているのかを!」

「……上等だ!」


ガレンさんが吼えた。


「やっぱり、最後は拳で語り合うしかねえってか!」

「アリア、指示を!」


エララさんが剣を抜く。

私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』を構えた。


これは殺し合いじゃない。

これからの世界で、人間と魔族が対等な隣人としてやっていくための、最初で最後の『力比べ(デモンストレーション)』。


「行きます! 『アルテミス』!」

「全力で、魔王様に認めさせましょう!」


戦いは、熾烈を極めた。

魔王ヴェルムートの魔法は、今まで戦ったどの敵よりも洗練されていた。


無詠唱で放たれる極大魔法。空間転移による神出鬼没の移動。

だが、私たちも負けていない。


「『イグニス・バースト』!」


ガレンさんが、魔王の闇魔法を炎の盾で相殺する。


「そこだッ!」


レオとエララさんが、転移の出現位置を予測し、左右から斬り込む。


「ほう。……システムに頼らずとも、ここまで連携できるか」


ヴェルムートが感心し、防御障壁を展開する。


「終わりです!」


私は、上空から杖を振り下ろした。

カイトの時のようなシステム干渉ではない。純粋な、私の魔力。


「『進化魔法』――『光輝・一閃シャイン・インパクト』!!」


カッッ!!!!

私の魔法と、魔王の障壁が激突し、大障壁の荒野が白一色に染まった。


土煙が晴れると、そこには、膝をついた魔王ヴェルムートと、肩で息をする私たちがいた。


魔王の障壁は砕け、彼のローブは少し焦げていた。

私たちも満身創痍だったが、誰も倒れてはいなかった。


「……見事だ」


ヴェルムートが、立ち上がった。

彼は、埃を払い、穏やかな顔で私たちを見た。


「補助輪なしで、私を膝つかせるとはな。……これなら、魔族の荒くれ者たちも、人間に手出しはできまい」


彼は、右手を差し出した。

攻撃のためではない。握手のために。


「認めよう、アリア。そして人類よ」

「今日この日をもって、魔族は『魔王軍』を解散し、人類との『不可侵条約』……いや、いずれは『通商条約』を結ぶことを提案する」


私は、杖を収め、彼の手をしっかりと握り返した。


「はい。……これからは、剣ではなく、言葉で語り合いましょう。ヴェルムートさん」

「フッ……。魔王に説教するとは、生意気な小娘だ」


ヴェルムートは初めて、声を上げて笑った。

その様子を、遠くから見ていたシルヴィア様や『紅蓮の獅子』のメンバー、そして国境警備兵たちが、割れんばかりの歓声を上げた。


長きにわたる「勇者と魔王の戦争」。

その歴史に、本当の意味で終止符が打たれた瞬間だった。


「……へっ。これで本当に、俺たちは失業だな

レオが、大の字になって草原に寝転がった。

「バカね」


エララさんが、空を見上げて微笑む。


「世界が広くなったのよ。……魔界への冒険なんて、ワクワクしない?」

「違いない」


ガレンさんが、ニカッと笑った。

こうして、最後の脅威は去った。

世界はシステムから解放され、魔王との和解を果たし、完全に新しい時代へと足を踏み出した。


物語は、エピローグへと向かう。

(第71話・完)


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