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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第4章『王国の闇と古(いにしえ)の真実編』

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第70話:女神の選択と、はじまりの朝


YGGDRASILユグドラシル。……私と、混ざりなさい」


私が杖を石碑に突き刺した瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。


私の体から、そして杖の『世界樹の魔核』から、翠色みどりいろの奔流が溢れ出し、古代のシステムコードを飲み込んでいく。


『警告……。システム定義外の干渉……。エラー……いいえ、これは……』


ホログラムの女性の声が、驚きに震えている。


再構築リビルド……? 貴女は、システムを壊すのではなく……「育てよう」としているのですか?』

「はい」


私は、光の中で答えた。


「管理されるだけの『籠』も、無秩序な『野生』もいりません。……人は、もっと強くなれます」


私のイメージが、世界中に伝播していく。


ステータスやスキルという「便利な道具」は残す。でも、それは誰かに与えられたり、数値だけで決まる絶対的なものじゃない。


努力し、願い、行動した分だけ伸びていく、植物のような『可能性の種』へと書き換える。

そして、最も重要なこと。


「もう、異世界からの『生贄(メンテナンス要員)』なんて必要ありません」

「この世界は、この世界に生きる命たちの力だけで……循環させます!」


『……素晴らしい』

ナビゲーターの女性が、穏やかに微笑んだ。彼女の輪郭が光に溶け始める。


『私の役目も、これで終わりですね。……ありがとう、新しい女神様アリア


パリンッ……。

石碑が砕け散り、そこから生まれた無数の光の粒子が、天井を突き抜けて天へと昇っていった。


虚無の塔の外。

世界を覆っていた淀んだ霧が晴れ渡り、見たこともないほど澄み切った青空が広がっていた。


「……おい、見ろよ」


ガレンさんが、自分の手のひらを見つめた。


「ステータス画面が出ねえ。……いや、違うな」


彼の体の奥から、温かい力が湧き上がっていた。

数値で表示される『防御力』ではない。彼が今まで鍛え上げ、戦ってきた経験そのものが、肉体に刻まれた確かな『強さ』として定着している感覚。


「……体が軽い」


レオが、剣を振るう。


「スキル名なんて叫ばなくても、体が勝手に動く。……これが、俺自身の技か」

「魔法も……」


エララさんが、指先に風を纏わせる。


「システムに『申請』して発動するんじゃなくて、私の意思にダイレクトに呼応してくれる。……難しいけど、自由だわ」


私たちは、自分たちの足で立っていた。

誰かの掌の上ではなく、本当の意味での大地の上に。


「……う、うぅ……」


床に倒れていたカイトが、身じろぎした。

彼は、ぼんやりと空を見上げ、そして自分の手を見た。


管理者の権限も、勇者のチート能力も、すべて消えていた。残っているのは、ただのひ弱な一人の少年の肉体だけ。


「……何もない」


カイトが、力なく笑った。


「全部消えた。……俺は、また『無能』に戻ったのか」

「戻ったんじゃないわ」


私は、カイトに手を差し伸べた。


「これから『始める』のよ。……カイト」


カイトは、私の手を呆然と見つめ、そして、震える手でそれを握り返した。

その手は、赤ん坊のように柔らかく、頼りなかったけれど。


温かかった。


「……ああ」


カイトの目から、涙が溢れ出した。


「……ごめん。アリア……。本当に……ごめん……」


虚無の塔が、光の粒子となって崩壊を始める。

役目を終えた古代の遺物は、新しい世界の養分となって消えていく。


「脱出するぞ!」


ガレンさんが叫ぶ。

私たちは、崩れゆく塔から、光の橋を渡って地上へと走った。


大陸の西の果て。

私たちは、息を切らして断崖の上に辿り着いた。

振り返ると、あの巨大な黒い塔は跡形もなく消え去り、そこにはただ、美しい海原が広がっていた。


「……終わったな」


ガレンさんが、潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。


「いや、始まりか」

「ええ」


私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』を空に掲げた。

杖の先端で、世界樹の魔核が、満足げに瞬いている。

世界が変わった。


もう、「Sランク」という格付けも、「勇者」という称号も、過去の遺物になるかもしれない。


でも、私たちは知っている。

大切なのは、肩書きや数値じゃない。

誰と出会い、何を信じ、どう生きるか。


「さあ、帰りましょう」


シルヴィア様やレジナルド卿、そして王都の人たちが待っている。

私たちが見た「真実」と、これからの「未来」を伝えに。


「腹減ったな!」


レオが、いつもの調子で笑った。


「王都に戻ったら、一番高い肉を食おうぜ!」

「賛成」


エララさんも微笑む。


「もちろん、支払いは王家持ちでね」

「……俺は」


カイトが、ぽつりと呟いた。


「俺は……どうすればいい」

「好きにすればいいさ」


ガレンさんが、カイトの背中をバンと叩いた。


「罪を償うもよし、また一から冒険者になるもよし。……今の世界は、お前の『設定』なんて決めてくれねえ。自分で決めるんだよ」


カイトは、痛そうに背中をさすり、そして涙を拭って、小さく頷いた。


「……ああ」


私たちは歩き出した。

朝日が、私たちの背中を押し、長い影を大地に伸ばしている。


Aランクパーティー『アルテミス』の物語――「追放編」は終わりを告げた。


そしてここからは、誰も知らない、名もなき冒険者たちの、新しい旅が始まる。



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