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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第1章: 『無能』の烙印と『天秤』の覚醒

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第7話:勇者の末路と新しい道


ミノタウロスが倒れた最深部の広間には、奇妙な静けさが漂っていた。


私たちが討伐の疲労を癒す間、縛り上げられたカイトはまだ何かをわめき、ルナは「ありえない、ありえない……」と虚ろに呟いている。サラとミナは、ただ黙ってうずくまっていた。


「さて」


ガレンさんが、私たちが塞がれた入り口――今は巨大な岩の山と化している――を見上げた。


「ボスは倒したが、最大の難関が残ったな。アリア、お前の氷結牢は解いたが、ルナが起こした土砂崩れは、どうにもならんぞ」


エララさんが、縛られたルナを冷たく一瞥した。


「ねえ、そこの魔法使い。あなた、どうやってここから出るつもりだったの? 私たちを閉じ込めたはいいけれど、あなたたちも一緒に生き埋めよ」

「そ、それは……」


ルナが顔を青くする。


「カイトが、何とかするって……」

「俺に振るな!」


カイトが怒鳴る。


「お前が勝手にやったんだろ!」


仲間割れを始める二人を、レオが冷ややかに見下ろした。


「……どっちでもいい。お前らの計画性のなさは、今に始まったことじゃない」


レオは瓦礫の一つを蹴った。


「どうする、ガレンさん。こいつらをここに置いていくわけにもいかないだろ」

「うむ。殺人未遂の犯罪者を、ギルドに引き渡す義務がある」


ガレンさんは、塔盾を背負い直すと、瓦礫の中で最も大きな岩の前に立った。


「……アリア。俺に『力の天秤アストラル・バランス』を。対象は、この岩だ」

「え? 岩、ですか?」

「ああ。もし、この岩の『重さ』か『硬さ』を奪い、俺の『力』に上乗せできれば……道が開けるかもしれん」


(岩の、重さを……!)

ガレンさんの発想に驚きながらも、私は集中した。


「やってみます! 『力の天秤アストラル・バランス』!」


私がスキルを発動すると、巨大な岩がわずかに震え、ガレンさんの全身の筋肉が、魔力によって膨れ上がった。


「おお……! いけるぞ!」


ガレンさんは雄叫びを上げると、その巨大な岩に肩からぶつかった。


「うおおおおおおっ!!」


ゴゴゴゴゴ……!

B+ランクボスの部屋を塞いでいた岩が、信じられない力で押し動かされ、人間一人が通れるほどの隙間が生まれた。


「す……すごい……」

「これが、本物のSランク(※)タンクの力……」(※ギルド未認定)


サラとミナが呆然と呟く。


「よし、道は開けた!」


ガレンさんが汗を拭う。


「レオ、エララ、こいつらを運ぶぞ。アリアは周囲の警戒を」


迷宮からの帰還は、行きとは比べ物にならないほど過酷だった。

私たちは、討伐したミノタウロスの素材(主に魔石と戦斧)を運びつつ、二人の捕虜カイトとルナを引きずり、二人の証人サラとミナを連れていかなければならない。


「離せ! 俺は勇者だぞ!」

「足が痛いのよ! 歩けない!」


わめき続けるカイトとルナに、エララさんの我慢が限界に達した。


「……黙りなさい」


エララさんは、カイトの目の前に剣を突きつけた。


「あなたたちは、今やB+ランクの依頼を妨害し、我々を殺害しようとした『犯罪者』よ。それ以上騒ぐなら、ここで脚の一本でも斬り落として、荷物として運んであげるわ」


その本気の殺気に、カイトとルナは顔面蒼白になり、ようやく静かになった。

長い時間をかけ、私たちはようやく迷宮の入り口にたどり着いた。夕日が、疲れ切った私たちを照らしていた。


冒険者ギルドの扉が開いた瞬間、いつもの喧騒がピタリと止んだ。

全ての冒険者の視線が、私たちに集まる。


それもそのはずだ。

Bランクに昇格したばかりの『アルテミス』が、B+ランクの素材を運び込み、

その背後には、この街の「勇者」であったはずの『蒼き流星』のリーダーと魔法使いが、ロープで縛られて連行されている。


そして、残りのメンバー二人が、幽霊のように青い顔で続いているのだ。


「……おい、あれ」

「『蒼き流星』が、『アルテミス』に捕まったのか……?」

「一体、何があったんだ……」


私たちは、その視線を無視してカウンターに向かった。

ガレンさんが、重々しく報告する。


「B+ランク『ミノタウロスの迷宮調査』、完了した。ボスも討伐済みだ。……それと、この二名の身柄を引き渡したい」


受付の女性が、困惑した顔で私たちとカイトたちを交互に見た。


「これは……一体……?」

「ギルドマスター、もしくば懲罰委員会の責任者をお願いしたい」


エララさんが冷静に告げた。


「ダンジョン内における、意図的なパーティー妨害、及び殺人未遂の現行犯だ」

「さ、殺人未遂!?」


その言葉に、ギルドホール全体が爆発したような騒ぎになった。

私たちは、ギルドの奥にある査問室に通された。

呼び出されたギルドマスター――厳ついドワーフの男性――が、重い溜息をついた。


「……ガレン、エララ。お前たちの報告だ。何があったか、全て話せ」


ガレンさんとエララさんが、迷宮での出来事を淡々と説明した。

ルナが退路を塞いだこと。

カイトが「復讐だ」「ミノタウロスに殺させろ」と指示したこと。

私たちが、ボスとカイトたちの二正面作戦を強いられたこと。


「……嘘だ! こいつらが俺たちを陥れようとしてるんだ!」


カイトが最後まで往生際悪く叫ぶ。


「では」


ギルドマスターが、部屋の隅で震えていたサラとミナに目を向けた。


「弓使いのサラ、盗賊のミナ。お前たちの証言を聞こう。……嘘偽りなく、全てをだ」


二人は、お互いの顔を見合わせ、やがて、サラが顔を上げた。


「……カイトさんに、誘われました」


彼女は、涙ながらに全てを語った。

ギルドで私たちがカイトの誘いを断った日の夜、カイトとルナが「あいつらに復讐する」「迷宮で事故に見せかけて殺す」と計画していたこと。

自分たちは怖くて逆らえなかったこと。

そして、実際に退路を塞ぎ、私たちを殺そうとしたこと。


「……そうか」


ギルドマスターは、静かにカイトを見た。


「カイト。ルナ。言い渡す」


ギルドマスターの、地響きのような声が響いた。


「両名の冒険者資格を、これより『永久剥奪』とする。また、迷宮内での殺人未遂、傷害、ギルド規約違反の罪で、両名の身柄を拘束し、街の衛兵団に引き渡す」

「そ、そんな……! 永久剥奪!?」

「いやだ! 私は悪くない! カイトが! カイトが全部悪いのよ!」


ルナがカイトに掴みかかる。


「うるさい!」


衛兵に取り押さえられながら、カイトは最後に、私を睨みつけた。


「アリアァァ! お前のせいだ! お前さえいなければ、俺は勇者のままだったんだァァ!」


その叫び声も、重い扉が閉まると共に聞こえなくなった。


「……さて」


ギルドマスターは、残されたサラとミナに向き直った。


「お前たち二人も、主犯に加担した罪は重い。本来なら、お前たちも同罪だ」

「「……っ」」

「だが、情状酌量の余地はある。お前たちは、どうしたい?」


ミナが、土下座する勢いで頭を下げた。


「私たちは……もう、冒険者を辞めます。……でも、もし、もし許されるなら、アリアさんたちに、謝罪がしたいです……!」


私は、三人の仲間たちと顔を見合わせた。

ガレンさんが、エララさんが、レオが、私に頷いてくれる。

私は、ゆっくりと立ち上がった。


「ギルドマスター。彼女たちの処遇は、ギルドの判断にお任せします。……でも、私たちは、彼女たちをこれ以上罰することは望みません」


カイトの時代は、終わった。

そして、私たち『アルテミス』の本当の冒険は、まだ始まったばかりだった。


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