第60話:聖職者の仮面と、暴かれる『青写真』
「……ここは?」
メビウスが目を覚ますと、そこは薄暗い石造りの地下室だった。
先ほどの研究施設ではない。王都のどこかにある、Sランクパーティー『紅蓮の獅子』が管理する隠れ家だ。
「目が覚めたか、マッドサイエンティスト」
鉄格子の向こうで、ガレンさんが腕を組んで見下ろしている。
その横には、シルヴィア様と、外交官レジナルド卿、そして私たちがいた。
「……私は……生きて……」
「アリアが無理やり連れ帰ったのよ。感謝しなさい」
シルヴィア様が冷たく言い放つ。
「あなたを『ゴミ』のように捨てて爆破しようとした雇い主よりも、私たちの方が慈悲深いようね」
メビウスは、ガクリと項垂れた。
自分の研究施設、最高傑作のキメラ、そして雇い主からの信頼。全てを失った男の顔は、あまりにも惨めだった。
「……話していただきます」
私は、メビウスの前に立った。
「『枢機卿』とは誰のことですか? なぜ、大障壁を壊し、偽の勇者を作らせたのですか?」
メビウスは、震える唇を開いた。
「……ラザロ。ラザロ枢機卿だ」
「ラザロ……!?」
レジナルド卿が息を呑んだ。
「まさか、あの聖人ラザロが……? 国民からの支持も厚く、次期教皇と目されている彼が?」
メビウスは、自嘲気味に笑った。
「聖人? ……クックッ。あれほど欲深い男はいませんよ。彼の目的は、この国を『神政国家』に変えることです」
メビウスの口から語られた『計画』は、あまりにも身勝手で、恐ろしいものだった。
* 大障壁の破壊:
古代のシステムである大障壁を、意図的に機能不全にさせる。これにより、国民に「既存の王権では国を守れない」という恐怖を植え付ける。
* 人造勇者の投入:
パニックになった戦場に、教会が管理する「人造勇者」たちを投入し、魔物を撃退する(自作自演)。
* 新体制の樹立:
「教会こそが唯一の救い」と信じ込ませ、王家を傀儡化し、ラザロ枢機卿が実質的な支配者となる。
「……そのための実験だったのです。大障壁の魔力を吸い取り、人造勇者のエネルギーにする……。完璧な『永久機関』になるはずだった」
「ふざけるなッ!!」
ドンッ!!
レオが鉄格子を蹴り飛ばした。
「てめえらの権力争いのために、世界を危険に晒して、カイトたちの命を弄んだってのか!?」
「……自分勝手にも程があるわ」
エララさんも、静かに怒りを燃やしている。
「それが、聖職者のやること?」
「証拠は?」
シルヴィア様が冷静に問う。
「ラザロ枢機卿は、この国の法すら及ばない聖域にいるわ。メビウス、あなたの証言だけでは、『悪魔に魂を売った研究者の戯言』として握りつぶされる」
「……証拠なら、あります」
メビウスは、懐から小さな水晶を取り出した。
「これに……ラザロとの通信記録、資金の流れ、全ての指示書が入っています。……私の『保険』でしたが、今となっては、あいつへの復讐の道具だ」
レジナルド卿が、震える手で水晶を受け取った。
「……これがあれば、ひっくり返せる。……いや、下手に動けば、教会は信者を扇動して暴動を起こしかねない。慎重にやらねば……」
「いいえ」
私は、言った。
「コソコソやるのは、もう終わりにしましょう」
全員の視線が、私に集まる。
「ラザロ枢機卿は、国民を騙しています。なら、国民の目の前で、その化けの皮を剥がすべきです」
「……アリアちゃん。何か考えがあるの?」
シルヴィア様が、面白そうにニヤリと笑った。
「明後日は、何の日でしたっけ?」
私は、壁のカレンダーを見た。
「……『聖光祭』」
レジナルド卿が答える。
「年に一度、大聖堂の広場で、枢機卿が国民に祝福を与える、最大の式典ですが……」
「最高の舞台ですね」
私は、Sランクの杖を強く握りしめた。
「そこに行きましょう。……Sランクパーティー『アルテミス』として。王国の英雄として」
「そして、神の御前で、本物の『断罪』を行いましょう」
私の提案に、ガレンさんが、ニカッと歯を見せて笑った。
「いいねぇ。教会の喧嘩を買いに行くか。……Sランクの初仕事にしちゃ、派手でいい」
「ああ。あの『エセ聖職者』が泡を吹く顔、見てやりたいぜ」
とレオ。
「護衛は任せて。……神罰を下すのは、神様じゃなくて私たちよ」
とエララさん。
作戦は決まった。
明後日、聖光祭。
数万の信者と国民が見守る中、私たちは、王国の巨悪を裁く。
最後の戦い――『王都・聖戦編』が幕を開ける。




