第6話:決着、そして背負う罪
「これが、私の本当の力。あなたが『無能』と呼んだ、魔法使いの力です!」
私が放った『氷結牢』は、カイト、ルナ、サラ、ミナの四人を完璧に閉じ込めていた。ルナから吸収した魔力を上乗せした私の氷は、並大抵の炎では溶かせない。
「アリア、お前……!」
レオが驚愕の声を上げるが、今は感心している場合ではなかった。
「グオオオオオオッ!!」
私たちの背後で、本命のミノタウロスが、邪魔者がいなくなった(と判断した)ことで再びガレンさんに猛攻を仕掛けていた。
「集中します!」
私はカイトたちに背を向け、仲間たちに向き直った。
「ガレンさん、エララさん、レオ! ボスを倒します!」
「ああ!」
「言われなくても!」
ガレンさんが盾で攻撃を受け流し、エララさんとレオが隙を突いて斬りかかる。
だが、B+ランクのボスはしぶとい。
「アリア、さっきのスキルをもう一度!」
「はい! 『力の天秤』!」
私は再びスキルを発動。ミノタウロスの「力」を奪い、今度は前線で戦うエララさんに「上乗せ」する。
「なっ……!?」
エララさんの剣が、淡い光を帯びた。
「軽い……! 力がみなぎる……!」
ミノタウロスの動きが鈍化し、エララさんの剣速が倍加する。
「今よ、ガレン! レオ!」
「「応!!」」
ガレンさんがミノタウロスの戦斧を盾で絡め取り、動きを封じる。
レオが弱体化した脚部に双剣を叩き込み、体勢を崩させた。
そして、力が強化されたエララさんが、がら空きになったミノタウロスの首筋に、光の軌跡を描くように剣を突き立てた。
「グ……オ……ァ……」
巨体が、ゆっくりと傾き、地響きを立てて倒れた。
広間に、荒い息遣いだけが響く。
私たちは、B+ランクのボスを、そしてカイトたちの妨害を、乗り越えたのだ。
「……やった」
「ああ……。アリア、お前、とんでもないスキルを隠してたな」
レオが肩で息をしながら、私を見た。
「隠してたわけじゃ……私も、今日まで魔力を吸収できるなんて知らなかった……」
「フン。結果的に助かったわ」
エララさんが剣を鞘に戻し、ガレンさんも盾を下ろした。
私たちは、ゆっくりと『氷結牢』に向き直った。
氷の中で、カイトは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。
「アリアァァ! 出せ! ここから出せ! この裏切り者がァァ!」
「ちょっと! なんなのよこの氷! 私の炎が効かないじゃない!」
ルナも必死で魔法を放っているが、氷はびくともしない。
対照的に、サラとミナは、氷の壁に背中を預け、膝を抱えて座り込んでいた。顔は真っ青で、震えている。
「……さて」
ガレンさんが、重々しく口を開いた。
「どうする? こいつら」
「決まってる」
レオが、冷たい目でカイトを睨みつけた。
「ギルドに突き出す。ダンジョン内での仲間への意図的な妨害、殺人未遂だ。冒険者資格の剥奪だけじゃ済まない」
「ま、待て!」
氷越しに、カイトの声がくぐもって聞こえる。
「殺人未遂!? 冗談じゃない! 俺はただ、ちょっと脅してやろうと思っただけだ!」
「退路を塞いでおいて、それを言うか」
エララさんが吐き捨てる。
「アリア!」
カイトが、今度は私に懇願の目を向けた。
「頼む! 幼なじみのよしみだろ!? 俺たち、一緒に育った仲じゃないか! 見逃してくれ!」
「…………」
私は、黙ってカイトを見つめた。
幼なじみ。その言葉が、私の胸を抉る。
私たちが手柄を差し出し、カイトが「勇者」として輝いていた、あの頃。あの頃の彼は、少なくとも、こんな卑劣な目はしていなかった。
「アリアさん」
私は、おもむろに氷の牢に近づくと、震えているサラとミナに視線を合わせた。
「サラさん、ミナさん」
「……っ!」
二人がビクリと肩を震わせる。
「あなたたちも、私たちを殺そうと思ったんですか?」
「ち、違う!」
サラが泣きじゃくりながら首を振った。
「私たちは……私たちは、カイトさんに逆らえなくて……! ルナさんが『B+ランクのボスにぶつければ、あいつらも少しは反省する』って……こんな、退路を塞いで殺そうとするなんて、聞いてなかった!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
ミナも泣き崩れた。
「……そう、ですか」
私は、仲間たちを振り返った。
「ガレンさん、エララさん、レオ。……お願いがあります」
数分後。
私は『氷結牢』を解いた。
「っし!」
氷が消えた瞬間、カイトとルナが、残っていた武器を手に、私たちに襲いかかろうとした。
だが――
ガキン!
「遅い」
「甘い」
エララさんの剣がカイトの剣を弾き飛ばし、レオの双剣がルナの杖を切り裂いていた。あまりにも圧倒的な、実力差だった。
ガレンさんが、抵抗する二人を片手で押さえつけ、ロープで厳重に縛り上げる。
「離せ! なにするんだ!」
「クソッ! このゴリラタンク!」
「サラさん、ミナさん」
私は、動けずにいる二人に手を差し伸べた。
「あなたたちは、縛りません」
「え……?」
「代わりに、ギルドに戻ったら、審査会で『全て』を話してください。カイトさんとルナさんに何を言われ、何を思い、何をしたのか。全てです」
「……」
「もし、あなたたちの言葉が真実だと認められれば、罪は軽くなるかもしれません。でも、嘘をついたり、私たちを裏切ったりすれば……その時は、容赦しません」
二人は、お互いの顔を見合わせ、そして、震える声で答えた。
「……わかった」
「わかります……。全部、話します」
「アリア! お前、優しいんだな!」
縛り上げられたカイトが叫ぶ。
「そうだ! サラとミナがやったことにすればいい! 俺とルナは悪くない! こいつらが勝手に――」
「黙れ」
レオが、カイトの顎を掴んだ。
「お前は、まだ分かってないのか。アリアがこいつらを縛らないのは、『優しさ』じゃない。『信頼』でもない」
「……?」
「お前ら二人が『主犯』で、こいつら二人が『共犯』だっていう『証拠』を、ギルドに分かりやすく提示するためだ。……違うか? アリア」
私は、黙って頷いた。
私は、もうカイトに手柄を差し出す、内気な女の子ではない。
仲間を守るためなら、非情な選択もする。『アルテミス』の魔法使いなのだから。
「さて、と」
ガレンさんが、崩れた入り口を見上げた。
「最大の難関が残っているな。この瓦礫をどうやって撤去して、この大荷物を運ぶか……」
私たちの、長く、困難なダンジョンからの帰還が始まろうとしていた。




