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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第4章『王国の闇と古(いにしえ)の真実編』

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第58話:狂気の錬金術師と、量産された『勇者』


「私の可愛い『実験場はこにわ』へ、ようこそ」


爬虫類のような笑みを浮かべた白衣の男は、うやうやしく一礼してみせた。

その動作は貴族のように洗練されていたが、漂う空気は、腐った薬品と死臭が混じった、生理的な嫌悪感を催させるものだった。


「貴様、何者だ」


ガレンさんが、私を背に庇いながら、ドスの利いた声で問いただす。


「王家の紋章をつけているが……俺は長く長く王都にいるが、お前のような顔、見たことも聞いたこともないぞ」

「クックック……。光栄ですね」


男は肩をすくめた。


「私の名はメビウス。宮廷魔術師団『特務研究室』の室長を務めております。……もっとも、私の存在を知っているのは、この国でも国王陛下と、一部の『ご理解ある』貴族の方々だけですがね」

「特務、研究室……?」


私が眉をひそめると、メビウスは、水槽の中の『カイトのようなもの』を愛おしそうに撫でた。


「ええ。我が国の『勇者召喚システム』は、偉大だが不安定だ。……精神的に脆かったり、すぐに死んだりする。今回の『カイト君』のようにね」


メビウスは、まるで壊れた玩具の話でもするかのように続けた。


「だから、我々は研究しているのですよ。召喚された勇者の『因子』を培養し、より強靭で、より従順で、より『使い勝手の良い』兵器ゆうしゃを量産する方法を」

「兵器……だと?」


レオが激昂し、双剣を抜いた。


「ふざけんな! カイトは……あいつはクソ野郎だったが、人間だぞ! それを、こんな……!」

「おや、心外ですね」


メビウスは心底不思議そうに首をかしげた。


「Sランクの方々なら理解できるでしょう? 『力』こそが正義だと。……これらは、国を守るための『部品』です。名誉ある再利用リサイクルですよ」

「……吐き気がするわ」


エララさんが、冷たい殺気を放つ。


「アリア、許可を。……ここを更地にするわよ」

「待ってください」


私は、メビウスを睨みつけた。


「……あなたですね。『黒い杭』を作って、大障壁を壊そうとしたのは」

「壊す? 違いますよ」


メビウスは、大げさに手を振った。


「あれは『テスト』です。……我々が作った『人造勇者』のエネルギー効率を試すために、大障壁の無限の魔力を逆流させてみただけです。……まあ、多少の環境汚染は計算外でしたが、データは取れました」

「……テストのために、国を滅ぼしかけたと言うのですか」

「科学の進歩には、多少の犠牲はつきものです」


メビウスは、ニヤリと笑った。


「それに、あなたという予想外の『収穫』もあった。……アリアさん。あなたは『無能』として廃棄されたはずが、独自に進化し、Sランクにまで至った。……素晴らしい! あなたの肉体、脳、そしてその『杖』……! 全て分解して調べたい!」


カチッ。

メビウスが、コンソールのスイッチを押した。


「さあ、見せてください! 英雄『アルテミス』と、私の最高傑作かわいいこたち……どちらが優れているかを!」


ゴボボボボボッ……!!

部屋中に並んでいた数十本の水槽の液体が、一斉に排水された。

ガラスが開き、管に繋がれていた『人造勇者』たちが、ドサドサと床に落ちる。


「……ウ、ア……」


彼らが、ゆらりと立ち上がった。

その目は虚ろで、焦点が合っていない。だが、その体からは、本物の勇者カイトに匹敵する、いや、リミッターの外れた暴走寸前の魔力が溢れ出している。


「殺レ……殺レ……」

「敵……排除……」

「来るぞッ!!」


ガレンさんが叫ぶ。


ドオッ!!!!

数十体の『人造勇者』が、一斉に地面を蹴った。

その速度は、Aランク冒険者を軽く凌駕している。


「『旋風斬』!!」


レオが、先頭の一体を斬り伏せる。

だが、斬られた腕の断面から、機械のコードと肉腫が飛び出し、レオの剣に絡みついた。


「なっ!? こいつら、死なねえぞ!?」

「痛みを感じないように改造してあるんですよ」

安全圏にいるメビウスが高笑いする。「頭を潰さない限り、動き続けます!」

「キリがないわね!」


エララさんが、三体の首を同時に刎ね飛ばすが、その背後から次々と新しい個体が湧いてくる。

数が多い。そして何より、顔が「カイト」と同じであるため、レオたちの剣に、ほんの一瞬だが、無意識の躊躇ためらいが生まれてしまう。


「クックック……。さあ、どうします? あなたも『実験体』になりましょう、アリアさん」


メビウスが、私に向かって、ねっとりとした視線を送る。

戦場の後方で、私は杖を握りしめた。


「……かわいそうに」


私は、襲い来る『人造勇者』たちを見た。

彼らに魂はない。ただの肉塊と機械だ。

でも、かつてカイトだった「何か」を、こんな風に弄ばれるのは、見ていられない。


「ガレンさん、皆さん! 下がってください!」


私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』を床に突き立てた。


「『聖域展開サンクチュアリ』――モード『鎮魂レクイエム』」


私の杖から、悲しげな、しかし温かい黄金色の波紋が広がった。

それは、敵を傷つける攻撃魔法ではない。

強制的に、生物としての機能を「停止」させ、土へと還す、慈悲の魔法。


「……ア、アァ……」


波紋に触れた人造勇者たちが、動きを止めた。

彼らの体から、狂暴な魔力が抜け落ちていく。


「……楽ニ、ナッタ……」


そんな声が聞こえた気がした。

彼らは、糸が切れた人形のように倒れ込み、そして光の粒子となって崩れ去っていった。


「な……!?」


メビウスの余裕の表情が、凍りついた。


「馬鹿な……! 私の最高傑作たちが……『機能停止』させられただと!? 外部からの強制アクセスで!?」

「命を、弄ばないでください」


私は、静かに、しかし明確な怒りを込めて、メビウスを見据えた。


「あなたの研究は、ここで終わりです」

「……おのれ、おのれぇぇぇッ!!」


メビウスが、激昂してコンソールを叩いた。


「『サンプル』風情が、創造主わたしに意見するなど……! 許さん、許さんぞ!!」


ズズズズズ……。

部屋の奥、巨大な鉄扉が開き始めた。

そこから、今までとは桁違いのプレッシャーが漏れ出してくる。


「見せてやる! これこそが、Sランクを超える『神』に至る研究の成果だ!!」


ドシィィィィン……!

現れたのは、全身が黒い金属と、ドラゴンの素材、そして人間のパーツで継ぎ接ぎされた、体長5メートルほどの異形の巨人だった。


その胸には、以前私たちが倒した魔王軍幹部『ヴォルグ』のコアらしきものが埋め込まれている。


「魔族と人類、そして機械の融合体キメラ……『ネオ・バーサーカー』!!」


メビウスが叫んだ。


「行け! あの生意気な小娘を、ぐちゃぐちゃにすり潰してしまえ!!」

「■■■■■■■■■ッ!!!!」


巨人が、言葉にならない咆哮を上げた。

その衝撃波だけで、培養室のガラスが全て割れ飛ぶ。


「……Sランク級か」


ガレンさんが、盾を構え直し、獰猛に笑った。


「上等だ。……胸糞悪いもん見せられた鬱憤うっぷん、全部あいつにぶつけてやるぞ」

「ああ!」


レオが剣を構える。


「研究施設ごと、瓦礫に変えてあげるわ」


エララさんが殺気を放つ。

Sランクパーティー『アルテミス』対、狂気のキメラ。

東の禁足地で、倫理なき科学との決戦が始まる。


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