第54話:解析する『理』と、燃え盛る『信頼』
「――散れッ!!」
Sランク聖騎士ライオス様の号令と共に、『紅蓮の獅子』と、レオ、エララが左右に展開した。
その直後、五体の『魔王軍親衛隊』が、無言のまま、人間には不可能な速度で突っ込んできた。
ドガガガガガガッ!!!!
重金属がぶつかり合う轟音が、閉鎖空間の中で反響する。
「クッ……! 重い……!」
レオが、親衛隊の一体と剣を交え、その膂力に顔を歪める。
相手は、腐った肉と機械が融合した異形。剣技などない。ただ、Sランク級の魔力で強化された「暴力」だけを、正確無比に振り下ろしてくる。
「レオ! 受け止めるな! 『流せ』!」
エララさんが、レオの側面から割り込み、親衛隊の斧をパリィで弾く。
「こいつら、ヴォルグより『個』としての戦闘能力は上よ! ……まともにやり合えば、こっちが砕けるわ!」
「分かってる!」
レオとエララさんは、『二重奏』の動きで、一体の親衛隊を翻弄し、なんとかその場に釘付けにする。
一方、ライオス様とシェイド様、バルガス様は、残る四体を相手にしていた。
「……やれやれ。老骨には堪える数じゃのう!」
バルガス様が結界を張り、ライオス様が聖剣で二体を同時に抑え、シェイド様が影から隙を突く。
Sランクパーティーの連携は完璧だが、それでも戦況は拮抗、いや、ジリジリと押されていた。
親衛隊は、痛みを感じず、死をも恐れない「殺戮機械」だからだ。
その激戦の背後で。
私は、元凶である『黒い杭』の目の前に立っていた。
ドクン、ドクン……。
『杭』は、私の接近を拒絶するように、漆黒の波動を放ち続けている。
「……ガレンさん。お願いします」
「ああ。背中どころか、髪の毛一本、触れさせん」
ガレンさんが、『アルテミス・ハート・イグニス』を構え、私の前に仁王立ちになる。
私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』の先端を、ゆっくりと『黒い杭』に向けた。
「『解析開始』――『接続』」
ツゥゥゥン……。
杖の『世界樹の魔核』が共鳴し、私の意識が『杭』の内部へと侵入する。
(……!!)
流れ込んできた情報量に、私の脳が焼き切れそうになる。
これは、ただの「呪い」じゃない。
(……『術式』だ。それも、とてつもなく高度な……)
『大障壁』は、本来、地下深くに流れる『星の光』を吸い上げ、空へ向かって放出し、壁を作るシステムだ。
この『黒い杭』は、その「吸い上げる」プロセスに割り込み、光の性質を、闇の性質へと『反転』させている。
そして、その「反転」したエネルギーを、再び地下へと送り返し、大地そのものを腐らせているのだ。
(……なんて悪質な……!)
このままでは、大障壁が消えるだけでなく、この大陸の地脈そのものが『死』んでしまう。
(解除するには……この『反転術式』を、さらに『反転』させて、『元に戻す』しかない!)
Sランク級の複雑怪奇なパズルを、リアルタイムで解き明かすような作業。
冷や汗が背中を伝う。
通常なら、数人の解析班が数日かけてやる作業だ。
でも、私には『世界樹』がついている。
「……見えた。術式の『核』……!」
その時だった。
『黒い杭』が、私の干渉を「攻撃」と認識した。
ブォンッ!!!!
『杭』の表面から、無数の黒い茨のようなエネルギーが、槍となって私に襲いかかった。
「アリアッ!!」
「『防衛』!!」
ドガガガガガガッ!!
ガレンさんが、私の目の前で、その全ての「黒い槍」を受け止めた。
ジュウウウウウッ!!
Sランクの呪いが、ガレンさんの盾に触れ、激しい白煙を上げて蒸発する。
「ぐ、ゥゥゥ……ッ!!」
ガレンさんが、苦悶の声を漏らす。
「ガレンさん!?」
「気にするな! ……解析を、続けろッ!!」
ガレンさんの足元の地面が、熱と圧力で陥没していく。
『黒い杭』の防衛機能は、あのヴォルグの攻撃すら上回る密度だった。
盾の『ミスリル銀鋼』が悲鳴を上げ、『地竜の逆鱗』が真っ赤に発熱し、ガレンさんの生命力をゴリゴリと削っていく。
(……急げ、私!)
私は、ガレンさんの背中に守られながら、必死に杖を操作した。
(『黒』を『白』へ! 『マイナス』を『プラス』へ! 『変換』!!)
私の魔力が、『杭』の内部に浸透していく。
黒一色だった『杭』に、ピキッ、と白い亀裂が走り始めた。
「――!!?」
その異変を、戦っていた五体の『親衛隊』が感知した。
「「「「――!!」」」」
彼らは、一斉に、目の前のライオス様たちを無視して、踵を返した。
標的変更。
最優先排除対象――『アリア』。
「しまっ……! 奴ら、アリアを狙う気だ!!」
ライオス様が叫ぶ。
「止めろ!!」
五体の親衛隊が、一斉に、私とガレンさんに向かって殺到する。
ライオス様たちが追いかけるが、速い。
間に合わない!
「……来るぞ、アリア!」
ガレンさんが、血を吐くように叫んだ。
前方からは、『黒い杭』の猛攻。
左右からは、五体のSランク級『親衛隊』の突撃。
絶体絶命の挟撃。
「……あと、10秒……!」
私は、杖を握る手に、全ての魂を込めた。
「ガレンさん、あと10秒だけ、私にください!」
「……10秒か」
ガレンさんは、ニヤリと笑った。口元から血が流れている。
「……永遠みてえな時間だな」
ガレンさんは、盾を、地面に叩きつけた。
「『アルテミス・ハート』……。俺の命、くれてやる」
ドクンッ!!
盾が、まるで生き物のように脈打ち、ガレンさんの全身から、青白い生命力のオーラを吸い上げた。
盾の表面温度が、数千度にまで跳ね上がる。
「領域展開――『紅蓮・焦熱地獄』!!!!」
ドオオオオオオオオオオッ!!!!
ガレンさんを中心に、半径10メートルの地面が、一瞬で『溶岩の海』と化した。
迫りくる五体の親衛隊が、その超高熱の結界に踏み込み、足が溶け、体勢を崩す。
「オオオオオオオオオオッ!!!」
ガレンさんは、たった一人で。
『黒い杭』の攻撃と、五体の『親衛隊』の突撃を、その身を焦がす『熱量』だけで、食い止めた。
「……今だァッ、アリアァァァァッ!!!!」
「はいッ!!!!」
私は、その10秒を、無駄にしなかった。
術式の書き換え、完了。
『変換』の準備、完了。
私は、杖を『黒い杭』に突き刺した。
「『進化魔法』――『聖回帰』!!!!」
カッッ!!!!
『黒い杭』の中心から、目もくらむような純白の光が、噴き出した。




