第51話:魔王軍の「本気」と、規格外の「共闘」
「……よく耐えたな、ルーキーども。……いや、『アルテミス』」
白銀の聖騎士ライオス様が、ヴォルグと私たちの間に降り立ち、ニヤリと笑った。
その背中からは、連戦の疲労が滲み出ていたが、その瞳は、頼もしい援軍を得て、再び力強く輝き始めていた。
「ライオス様!」
「ここは俺たちが引き受ける。お前たちは少し下がって……」
「――誰が、休んでよいと言ったァァァッ!!!」
ドォォォォォンッ!!!!
ヴォルグの咆哮が、空気を震わせた。
彼がまとっていた漆黒の鎧が、内側から膨れ上がり、弾け飛ぶ。
中から現れたのは、もはや人の形をしていなかった。
体長20メートルを超える、巨大な黒い獣。
全身が、あの『影』と同じタールのような物質で構成され、背中からは六本の禍々しい腕が生え、その全てが違う種類の魔剣や魔槍を握っている。
頭部には、憤怒に燃える六つの赤い瞳。
これが、魔王軍幹部『憤怒』のヴォルグの、真の姿。
「……チッ。本気を出したか」
ライオス様が、聖剣を構え直す。
「奴の周囲の瘴気濃度が跳ね上がった。……並の結界じゃ、近づくだけで腐食するぞ!」
「させません!」
城壁の上から、シルヴィア様の声が響く。
「『広域聖結界』展開! ……バルガス! 間に合いなさい!」
ヒュンッ!
戦場に、もう一人、白い神官服をまとった初老の男性が現れた。『紅蓮の獅子』の治癒術師兼、結界師のバルガス様だ。
彼が杖を地面に突き刺すと、私たちの周囲に、強力な光のドームが展開された。
「……ふぅ。間に合ったのう。しかし、この瘴気……ワシの結界でも、長くは持たんぞ」
バルガス様が、脂汗を流す。Sランクの結界師が、維持するだけで精一杯のプレッシャー。
「……シャァァァッ!!」
ヴォルグの六本の腕が、結界に襲いかかる。
ガギギギギギッ!
光のドームに亀裂が走り、嫌な音が響き渡る。
「……くっ! 押されている……!」
ライオス様が、聖剣で迎撃するが、六本の腕による同時攻撃は、一人では捌ききれない。
影から現れたシェイド様も、巨大すぎる敵の懐に飛び込めず、攻めあぐねている。
疲弊したSランクパーティー(紅蓮の獅子)と、全開の魔王軍幹部。
戦況は、ジリ貧だった。
(……違う)
私は、杖『アルテミス・ロッド・アイギス』を通して、戦場全体を俯瞰していた。
(ライオス様たちが弱いんじゃない。……彼らは、『瘴気』という『毒』の中で、息を止めて戦っている状態だから、力が出せないんだ)
「……ガレンさん、レオくん、エララさん」
私は、仲間に呼びかけた。
「私たちの『仕事』は、先輩たちの『交代』じゃありません。……先輩たちが、全力を出せる『環境』を、作ることです!」
「「「応ッ!!!」」」
私は、杖を高く掲げた。
私の魔力回路と、世界樹の魔核が、完全に同調する。
「『聖域展開』――『接続』・『紅蓮の獅子』!!」
私の杖から放たれた翠色の波紋が、ライオス様、シェイド様、バルガス様、そして遠くのシルヴィア様を包み込んだ。
「……な!?」
ライオス様が、目を見開いた。
「体が……軽い? 瘴気の重圧が消えて……魔力が、底なしに湧いてくる!?」
バルガス様の結界の亀裂が、瞬時に修復され、以前より強く輝き始めた。
「こ、これは……! ワシの魔力が、若返ったようじゃ! いや、それ以上か!?」
私の『進化魔法』は、味方の「状態」を最適化し、魔力を「供給」し続ける。
Sランクの彼らが、万全の状態に戻ったのだ。
「……ハッ! なるほどな!」
シェイド様が、影の中で笑った気配がした。
「アリア。お前の支援は、とんでもない『劇薬』だ」
「反撃開始だ!」
ライオス様が叫ぶ。
「ガレン! お前は俺の左をカバーしろ! その『盾』なら、奴の腕を止められる!」
「承知!」
ガレンさんが、ライオス様と並び立つ。二人の『盾』と『剣』が、最前線の壁となる。
「レオ! エララ! 俺の『影』についてこい! 奴の懐に飛び込むぞ!」
「「了解!」」
シェイド様が作り出した影の道に、レオくんとエララさんが飛び込む。三人の連携攻撃が、ヴォルグの巨体を撹乱する。
「シルヴィア! バルガス! アリアの魔力を借りて、最大火力の『浄化砲撃』を準備しろ!」
「ええ、任せて!」
「グォォォォォッ!! 小癪なァッ!!」
ヴォルグが激昂し、六本の腕全てで、ライオス様とガレンさんを叩き潰そうとする。
「来るぞ、ガレン!」
「おうッ!」
ドゴォォォォォンッ!!!!
ライオス様の聖剣が、右側の三本を受け流す。
そして、ガレンさんの『アルテミス・ハート・イグニス』が、左側の三本を、真っ向から受け止めた。
ジュワァァァァッ!!
「グッ、熱い!? 貴様の盾は、何でできているゥッ!?」
ヴォルグの影の腕が、ガレンさんの盾に触れた瞬間、溶解し、蒸発していく。
「言っただろう! ボルカン師の最高傑作だと!」
ガレンさんは、一歩も引かない。
私の魔力供給を受けた彼の盾は、もはや鉄壁の要塞だった。
「今だァッ!!」
最前線が支えきった一瞬の隙。
後方から、シルヴィア様と、バルガス様、そして私の魔力が融合した、極大の魔法陣が展開された。
「アリア! 合わせなさい!」
「はい!」
シルヴィア様の『紅蓮』。
バルガス様の『聖光』。
私の『進化(変換)』。
三つの異なる属性のSランク魔力が、私の『杖』の制御下で、奇跡の融合を果たす。
「合同大魔法――『トリニティ・バースト(三位一体の浄化砲)』!!!!」
三色の極光が、ヴォルグの巨体を、真正面から飲み込んだ。




