第46話:「杖」の限界と『アルテミス』の「真の心臓」
「――お前たちは、『Sランク』への『資格』を、その手で、掴み取った!」
王都鍛冶区、『ボルカン工房』。
伝説の鍛冶師、ボルカン師の、地響きのような『合格』の雄叫びが、炉の炎と共に、工房中に響き渡っていた。
私たちの足元には、『地竜“ガイア”』の、Sランクのライオス様ですら傷つけられなかった、禍々しい『逆鱗』が転がっている。
ガレンさん、レオくん、エララさん。
仲間たちが、ついに成し遂げた「試練」の踏破に、安堵と、興奮と、誇りが入り混じった、最高の笑顔を浮かべていた。
ボルカン師も、三つのSランク級の素材(ミスリル、魔核、逆鱗)を、愛おしそうに並べ、「これこそが、俺の『最高傑作』の材料だ!」と、高らかに笑っている。
……だが、私だけは、その歓喜の中心で、一人、自分の『手元』を見て、震えていた。
「……アリア?」
レオくんが、私の異変に、最初に気づいた。
「どうした? 終わったんだぞ? 喜べよ!」
「……アリア」
ガレンさんも、私の視線の先に気づき、息を呑んだ。
私の手には、あの、カイトのパーティーにいた頃から、ずっと使っている、古い、古い『杖』が、握られていた。
そして、その杖に刻まれていた、『三日月』の紋様。
その『紋様』の、中心に、一本の、小さな、小さな『ヒビ(クラック)』が、入っていた。
「……ボルカン師」
私は、震える声で、その杖を、差し出した。
「ガレンさんの『盾』は、Sランクになります。レオくんとエララさんの『剣』も、Sランクの『型』を、学びました」
「……ああ」
「でも……。私たちの『心臓』は……。私が、Sランク級の『力』を、Sランクの『敵』に、使うための、『この杖』は……」
ボルカン師の、歓喜に満ちていた顔が、一瞬で、消えた。
「……なんだ、それは」
彼は、私が差し出した『杖』を、まるで、汚物でも掴むかのように、ひったくった。
「……アリア」
ボルカン師は、杖を、ギロリと睨みつけ、地獄の底から響くような、低い声を出した。
「……お前……。あの『地竜』の、Sランク級の『溶岩ブレス』を……。この、『薪』同然の、『木の枝』で、受け止めて、『変換』したのか?」
「は、はい……」
「――馬鹿者が!!!!」
工房中に、先ほどの『歓喜』とは、比べ物にならない、純粋な『激怒』の、雷鳴が、轟いた。
ガレンさんたち三人が、その『殺気』に、思わず、武器に手をかけたほどだった。
「お前たちは、全員、死んでいたぞ!!!!」
ボルカン師は、私たち四人を、一人ずつ、睨みつけた。
「お前たち、『アルテミス・ハート』の『構造』を、何も、理解していなかったのか!」
「え……?」
「ガレン!」
ボルカン師は、ガレンさんを指さした。
「お前の中間進化の『盾』が、なぜ、『地竜』のブレスを防げたか、分かるか!」
「そ、それは、アリアの『支援』と、俺の『盾』が、『世界樹の魔核』を通して、『循環』したからでは……」
「違う!!!!」
ボルカン師は、私の、その『古い杖』を、ガレンさんの目の前に、叩きつけた。
「この『杖』が、アリアの、Sランク級の『魔力』の、99%を、『封印』していたからだ!」
「「「「!?」」」」
「この『三日月』は、ただの『紋様』じゃねえ! 『アルテミス』の『神聖印』! 古代の『封印』だ!」
ボルカン師は、その『ヒビ』が入った紋様を、指さした。
「この『杖』は、アリアの『力』を、無理やり、押さえつけていた! 『黒曜の心臓(呪われた盾)』が、ヒビが入ったのも、『タンク・ブレイカー』のドリルのせいじゃねえ!」
「……!」
「アリアの『進化魔法』が、強すぎて、この『封印(杖)』が、耐えきれなくなった! 押さえきれなくなった『力』が、漏れ出して、あの『失敗作(呪われた盾)』を、内側から、ブチ壊したんだ!」
私たちは、戦慄した。
あの『タンク・ブレイカー』戦で、私たちは、Sランクの『試練』を、クリアしたと思っていた。
だが、事実は、違った。
あれは、私の『力』の暴走による、ただの『事故』だったのだ。
「そして、『地竜』戦」
ボルカン師の目は、血走っていた。
「お前は、Sランク級の『ブレス』を、『変換』しようとして、この『封印(杖)』に、Sランク級の『負荷』を、かけた。……その結果」
彼は、杖に入った『ヒビ』を、私たちに見せつけた。
「……『封印』は、壊れた」
「……」
「今、この『杖』は、ただの『木の枝』だ。そして、アリア(おまえ)は、Sランク級の『力』が、ダダ漏れの、『生の魔力炉心』だ」
ボルKAN師は、私を、指さした。
「……アリア。お前が、今、もう一度、あの『地竜』戦クラスの『進化魔法』を使ったら、どうなるか、分かるか?」
「……」
「この『木の枝(杖)』は、瞬時に、蒸発する。そして、行き場を失った、お前の『変換』の力は、暴走する。……お前を中心に、半径1キロは、全てが、瘴気になるか、聖域になるか、分からんが……。確実なのは、お前たち四人は、跡形もなく、消滅する」
「そん……な……」
レオが、顔面蒼白になって、後ずさった。
私たちの『心臓』は、今、この瞬間も、いつ爆発するか分からない、『不発弾』になっていたのだ。
「……ボルカン師」
ガレンさんが、震える声で、尋ねた。
「……どう、すれば……」
「……『Sランクの盾』は、作れん」
ボルカン師は、金床の上に並べた、三つの『Sランク素材』を、悔しそうに、見つめた。
「……今の、アリアの『暴走(ダダ漏れ)』の魔力を、受け止められる『盾』など、この世に、存在しねえからだ。俺の『最高傑作』も、装備した瞬間に、内側から、爆発四散する」
「……!」
絶望。
私たちは、『地竜』を倒した、その『勝利』の瞬間に、パーティー『解散』の危機に、直面していた。
「……だが」
ボルカン師は、ニイッ、と、歯を剥き出しにして、笑った。
「……俺は、ドワーフだ。伝説の鍛冶師、ボルカンだ。『不可能』な『武器』を、『可能』にするのが、俺の『仕事』だ」
彼は、私に向き直った。
「アリア。お前、『エルフの森』で、『世界樹の魔核』を、手に入れた時。……それ、何に、くっついてた?」
「え……?」
「『実』だけ、持って帰ってきたんじゃ、あるまいな?」
私は、ハッとした。
(……あの時。フィン様が、枝を、差し出して……)
私は、慌てて、背中の『素材袋』を、漁った。
『魔核』は、Sランク素材として、ボルカン師に渡した。
だが、その『魔核』が、くっついていた、あの、白く輝く、小さな『枝』。
私は、それを、Sランク任務の『記念』として、こっそり、持ち帰っていたのだ。
「……これ、ですか……?」
私が、その『世界樹の枝』を、おずおずと、差し出すと、ボルカン師は、それを、私から、ひったくった。
「――ガハハハハハハハハ!!!!」
工房中に、三度、今日一番の、最大の『歓喜』の、爆笑が、響き渡った。
「……あるじゃねえか! 『Sランク』の『杖』の、素材が!!!!」
「え……?」
「小娘! お前は、Sランクの『宝』を、二つも、持ち帰ってやがったんだ!」
ボルカン師は、その『枝』を、高々と、掲げた。
「エルフの『フィン』とか言ったな! あいつ、分かってやがった! 『調整弁』だけじゃなく、その『制御棒』まで、お前に、託してやがったんだ!」
ボルカン師は、工房の、設計図が、散乱する、作業台に、向かった。
「……計画、変更だ! 全面変更だ!」
彼は、私たちが持ってきた、三つのSランク素材と、今、手に入れた『世界樹の枝』を、並べた。
『地竜の逆鱗』
『ミスリル銀鋼』
『世界樹の魔核』
『世界樹の枝』
「……ガレン!」
「は、はい!」
「お前の『盾』は、作る! だが、Sランクの『完成品』じゃねえ! あの『中間進化』の、改修に、留める!」
「え?」
「『地竜の逆鱗』を、あの『ヒビ』が入った『黒曜の心臓』の『表面』に、貼り付けてやる! これで、Sランクの『物理防御』は、完璧だ!」
「そして、アリア!」
ボルカン師は、『世界樹の枝』と、『世界樹の魔核』を、掴んだ。
「……お前の、その『壊れた封印(木の枝)』は、もう、捨てる!」
「この『世界樹の枝』を、お前の、新しい『Sランクの杖』として、俺が、削り出してやる!」
「だが」
ボルカン師は、『ミスリル銀鋼』を指さした。
「Sランクの『核』は、一つしかねえ。……『盾』に入れるか、『杖』に入れるか。……選べ」
「……!」
「『盾』に入れれば、ガレンの『負担』は、ゼロになる。だが、アリア(おまえ)は、Sランクの魔力を、自力で、制御し続けなきゃならん」
「『杖』に入れれば、アリア(おまえ)の『制御』は、完璧になる。だが、ガレンは、Sランクの『盾』を、自力で(生命力を削って)、使い続けなきゃならん」
「……」
それは、Sランクの『試練』より、Sランクの『外交』より、
最も、残酷な、「仲間」としての、『選択』だった。
ガレンさんが、私を見た。
私は、ガレンさんを見た。
私たちは、同時に、頷いた。
「「――『杖』に、入れてください」」
「……ガレンさん!?」
「……アリア!?」
私たちは、お互いが、自分を「犠牲」にしようとしたことに、驚いた。
「……ガレンさん」
私が、言った。
「ガレンさんが、Sランクの『盾』として、立ってくれなきゃ、レオくんも、エララさんも、私も、戦えません。だから、ガレンさんの『負担』を、ゼロに……」
「違う、アリア!」
ガレンさんが、私の言葉を、遮った。
「『心臓』が、暴走したら、俺たちが、いくら『Sランクの盾』を持っていても、全滅するんだ! ……俺の『生命力』なんざ、お前の『ヒール』で、いくらでも、回復できる! だが、お前の『制御』は、お前にしか、できない!」
「……ガレンさん……」
「ボルカン師!」
ガレンさんが、叫んだ。
「『世界樹の魔核』は、アリアの『杖』に! 『ミスリル銀鋼』は、俺の『盾』の『核』のままで、結構だ! ……Sランクの『竜』のブレスを受けた、A+ランクの『消耗』なんざ、俺が、耐えきってやる!」
「……ケッ」
ボルカン師は、心底、嬉しそうに、歯を剥き出しにして、笑った。
「……Sランクの『盾』が、何を言うかと思えば」
「……それこそが、『Sランク』の『覚悟』だ、タンク!」
ボルカン師は、ハンマーを、振り上げた。
「――決まりだ! 『盾(アルテミス・ハート改)』と、『杖』! 『アルテミス』の『真の心臓』を、今から、打ち始める!」
「三日だ! ……いや、五日だ! 五日間、王都で、首を洗って、待ってやがれ!」
「『紅蓮の獅子』が、戦っている、『本物の戦場(大障壁)』に、お前たちを、送り出す、『Sランクの武具』を、必ず、完成させてやる!!!!」




