第45話:「試練」の踏破と『Sランク』への約束
「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
地底のドーム全体を揺るがした、A+ランク(規格外)の魔獣、『地竜“ガイア”』の、断末魔の絶叫。
レオくんとエララさん二人の「剣」が、Sランク暗殺者シェイド様から伝授された『竜顎の十字架』となり、ライオス様が半年前につけた「傷」の入った『逆鱗』を、完璧に『貫通』した。
『地竜』の巨大な瞳から、光が消える。
山のような巨体が、ゆっくりと傾ぎ、縛り付けられていた溶岩の海へと、轟音と共に、再び、沈んでいった。
……今度は、Sランクの『聖なる鎖』の封印ではなく、永遠の『死』として。
「……はぁ……はぁ……っ」
「……やった、のか……?」
レオくんが、溶岩の熱波で汗だくになりながら、双剣を握りしめたまま、呆然と呟いた。
「……ええ」
エララさんも、肩で息をしながら、長剣を鞘に戻した。
「Sランクの『型』……シェイド様の……。私たちの『剣』が、初めて……『竜』に、届いた」
Sランクですら、倒せなかった相手。
ボルカン師が、私たちに課した、あまりにも無茶で、理不尽な、最後の『試練』。
私たちは、それを、成し遂げたのだ。
「……ガレンさん! アリア!」
レオくんが、私たちを振り返った。
私は、全魔力を『熱変換』に使ったことで、その場に膝をついていた。
だが、『大森林』で『エメラルド・ジャガー』と戦った時のように、意識を失うほどの「魔力切れ(マナ・バーン)」ではない。
「……大丈夫だ、レオ」
ガレンさんが、漆黒の盾『アルテミス・ハート』を、構えたまま、しっかりと、立っていた。
「……アリア。すごいぞ、この『盾』は……」
ガレンさんは、驚愕と、歓喜に満ちた目で、自分の腕の中の『盾』を見つめていた。
(……!)
私も、自分の体の状態を見て、驚いていた。
『地竜』の、あのSランク級の『溶岩ブレス』を、真正面から『吸収』し、『変換』したというのに。
私の魔力は、確かに、ほとんど空になった。
だが、『世界樹の魔核』が、その『変換』のプロセスを、完璧に『制御』し、私の魔力回路が、焼き切れるのを、防いでくれたのだ。
そして、ガレンさん。
彼も、あの『タンク・ブレイカー』戦のように、生命力を『盾』に吸い取られ、青白い顔で倒れ込む、ということはなかった。
『ミスリル銀鋼』の『核』が、私から『変換』された『冷気』を、ガレンさんの『負担』にならないよう、効率的に、盾の『防御力』へと『再変換』していた。
「……ボルカン師……」
ガレンさんは、その『中間進化』の盾を、愛おしそうに撫でた。
「あの人は、分かっていたんだ。俺とアリアの『力』が、こうして『循環』すれば、『竜』のブレスさえも、『力』にできる、と……」
ボルカン師は、ただ、私たちを『試した』のではなかった。
私たち『アルテミス』の『連携』こそが、Sランクの『個』をも超える『武器』になることを、見抜いていたのだ。
「……さて」
エララさんが、熱気が冷めやらぬ、地竜の『亡骸』に近づいた。
「目的のものを、回収しましょう。……ボルカン師の、最後の『試練』の、答えを」
レオくんとエララさんが、協力し、A+ランクの『地竜“ガイア”』の、あの『砕けた逆鱗』を、回収する。
ボルカン師の『試練』、三つの素材(ミスリル、魔核、逆鱗)が、今、全て、私たちの手に、揃った。
王都ギルド本部。
私たちが、その『地竜の逆鱗』と、討伐完了の報告書を、Aランクのカウンターに、静かに提出した時。
あの日、私たちを「怪物」と呼んだ、ギルド職員は、もはや、声も出なかった。
彼は、鑑定用の魔道具を持つ手が、ガタガタと震え、カウンターに、カタン、と音を立てて、落としてしまった。
「……じ、地竜……『ガイア』の、逆鱗……?」
「……A+ランク、討伐、完了……?」
その、職員の、絞り出すような声が、ギルドホール全体に、響き渡った。
シン……
Aランクの猛者たちが、集う、王都のギルド本部が、水を打ったように、静まり返った。
『タンク・ブレイカー』をクリアした時。
『Sランク外交任務』を成功させた時。
それらの「どよめき」や「畏怖」とは、全く違う。
それは、純粋な、「理解不能」なものに対する、「沈黙」だった。
Sランクパーティー『紅蓮の獅子』ですら、「討伐」を諦め、『封印』するしかなかった、あの『地竜“ガイア”』を。
Aランクに、昇格したばかりの、あの『アルテミス』が。
倒した。
「……おい」
誰かが、呟いた。
「……『Aランク』の、間違いだろ? 『Sランク』の、間違いじゃなくて?」
「……『天秤の魔女』……。あいつは、本当に、『魔王の瘴気』を『癒し』に変え、『地竜』を、殺したのか……?」
私たち『アルテミス』は、もはや、王都の「Aランク」という『枠』では、測れない、絶対的な『特異点』として、その名を、轟かせた瞬間だった。
私たちは、その、ありえないほどの『注目』を背中に受けながら、ギルドを後にし、最後の『報告』へと、向かった。
王都鍛冶区。『ボルカン工房』。
ガレンさんが、鉄の扉を、静かに、三回、叩いた。
「……ボルカン師。『試練』の、最後の『素材』を、持ってきた」
工房の中から、あの怒声は、聞こえなかった。
ただ、静かに、扉が、ギイ、と開いた。
ボルカン師が、立っていた。
その顔は、炉の炎よりも、真っ赤に、興奮で、高揚していた。
「……ギルド本部からの、速報で、聞いた」
ボルカン師は、震える声で、言った。
「……『地竜“ガイア”』、討伐完了、だと」
「……ああ」
ガレンさんが、袋から、あの『砕けた逆鱗』を、取り出し、ボルカン師の、巨大な手のひらに、置いた。
「……」
ボルカン師は、その『逆鱗』を見た。
その『逆鱗』に刻まれた、二条の『十字架』の傷跡を。
そして、ガレンさんが構える、私たちの『中間進化』の盾、『アルテミス・ハート』を。
盾は、ヒビ一つ、入っていなかった。
「……カッカッカ……」
ボルカン師の肩が、震え始めた。
「……カッカッカッカッカ!!!! ガハハハハハハハハ!!!!」
工房中に、地響きのような、今までに聞いたこともない、最大の『歓喜』の、笑い声が、響き渡った。
「――合格だ!!!!」
ボルカン師は、天に向かって、叫んだ。
「『地竜』を倒しただと!? Sランクの『紅蓮の獅子』ですら、殺しきれなかった、あの『竜』を! この俺が打った『中間品』の盾と、お前たちの『連携』で、殺ってきただと!?」
「……ああ」
ガレンさんが、誇らしげに、頷いた。
「……見事だ、『アルテミス』!」
ボルカン師は、私たち四人を、一人ずつ、その巨大なハンマーで、肩を、ゴン! ゴン! と、叩いて回った。(※痛くなかった。彼の、最大の『祝福』だった)
「エララ! レオ! お前たちの『剣』は、『竜殺し』の『牙』となった!」
「ガレン! お前の『器』は、アリアの『力』と、俺の『盾』を、受け止める『Sランク』の『核』となった!」
「そして、アリア!」
ボルカン師は、私を、まっすぐに見据えた。
「お前の『力』は、もはや、『Sランク級の支援』などという、生易しいもんじゃねえ。……『仲間』を、『Sランク』そのものに、引きずり上げる、『規格外』の『心臓』だ!」
ボルカン師は、工房の奥、彼が、Sランクの武具を打つためだけの、神聖な『大金床』の前に、立った。
彼は、私たちが持ってきた、三つの『試練』の素材――
『ミスリル銀鋼』
『世界樹の魔核』
『地竜の逆鱗』
――を、金床の上に、恭しく、並べた。
「『試練』は、終わった」
ボルカン師は、炉の炎を、最大に、燃え上がらせた。
「……約束通り、お前たち『アルテミス』専用の、『Sランク』の『最高傑作』を、打ってやる」
「この『盾』が、完成した時」
ボルカン師は、私たちを、Sランクの『仲間』として、見据えた。
「お前たちは、『紅蓮の獅子』のシルヴィア(あいつ)が待つ、本当の『戦場(Sランク)』へと、旅立つことになる」
私たちの、王都での「成長」は、一つの『最高傑作』の誕生と共に、その、第一段階を、終えようとしていた。




