第3話:新星の台頭と凋落の影
ゴブリンチャンピオンの討伐依頼を終え、私たち四人は冒険者ギルドに戻ってきた。
報告を済ませると、受付の女性は驚いたように目を丸くした。
「四人だけで、ゴブリンチャンピオンを……。しかも、ほとんど無傷ですか?」
「ああ。優秀な魔法使いと双剣使いがいてくれたおかげでな」
ガレンが私の肩を叩く。その言葉に、エララも
「まあ、足手まといではなかったわね」
と、彼女なりの賛辞をくれた。
ギルドのカウンターから離れ、私たちは酒場のテーブルを囲んでいた。
「さて、と」
ガレンが切り出す。
「お試しは終わりだ。俺たちは正式なパーティーとして活動していくわけだが……。まずは、名前を決めないとな」
「名前、ですか?」
「そうだ。俺とエララは固定のパーティー名を持っていなかった。この四人で、新しい名前を考えよう」
レオが「うーん」と唸る。
「『蒼き流星』みたいな、派手なやつがいいか?」
「いいえ」
エララが首を振る。
「あの名前は、もうカイトのものよ。私たちは、私たち自身の名前を持つべきだわ」
私は、自分の杖に刻まれた三日月の紋様を撫でた。
「あの……『アルテミス』というのは、どうでしょう」
「アルテミス?」
「月の女神の名前です。私たちが洞窟で戦っていた時、外は月夜だったかな、と思って。それに、女神は狩猟の神でもあるので、冒険者パーティーに合うかと……」
「アルテミス……」
ガレンがその名を反芻する。
「悪くない。むしろ、かなり良い響きだ」
エララも
「ふん。まあ、変な名前よりはマシね」
と、口元をわずかに緩めた。
こうして、私たちの新しいパーティー『アルテミス』が正式に結成された。
『アルテミス』の快進撃は、そこから始まった。
私たちはまず、Cランクの依頼を片っ端から受注していった。
「オークの群れが街道を塞いでいる? ガレン、正面を頼む!」
「任せろ!」
「エララさん、左翼から! レオは右翼!」
「「応!!」」
私の役割は、戦場全体を俯瞰することだった。
「ガレンさんに『防御強化』! オークたちの足元に『鈍足』! エララさんの剣に『鋭化』!」
カイトのパーティーにいた頃は、カイトの派手な攻撃(と彼の手柄)を邪魔しないよう、敵の妨害に徹していた。だが、ガレンとエララは違う。
「アリア、支援を寄越せ! もっとだ!」
「アリア、俺の防御が破られる前に、あいつの詠唱を止めろ!」
彼らは、私の支援魔法を前提として戦術を組み立ててくれる。レオも、カイトの影に隠れる必要がなくなり、本来の機動力と双剣の技術を存分に発揮していた。
そして、あの日覚醒した謎のスキル。
「『力の天秤』!」
この魔法は、対象とした敵一体の「力」を奪い、味方一人に「上乗せ」する、とんでもないスキルだったことが判明した。
強大なボスモンスターであればあるほど、効果は絶大だ。敵の攻撃力を奪ってガレンの防御力に上乗せすれば、ガレンは文字通りの鉄壁となり、敵は赤子同然に弱体化する。
このスキルの覚醒 により、私たちの戦闘効率は爆発的に上がった。
『アルテミス』は、結成からわずか一ヶ月でCランクの依頼を全て踏破し、Bランクへの昇格試験に挑むことになった。
試験内容は「ワイバーンの討伐」。『蒼き流星』が、私とレオがいた頃にギリギリで倒した相手だ。
「ガレン、飛んだわ!」
「くそっ、挑発が届かん!」
「レオ、エララさん、ブレスが来ます!」
上空から滑空し、炎のブレスを吐き出すワイバーン。
カイトの時は、レオが囮になってブレスを引きつけ、私が必死で防御結界を張り、カイトが隙だらけで突っ込んでいた。
「アリア!」
「はい! 『力の天秤』!」
私は、空を舞うワイバーンにスキルを発動。対象は、ガレン。
ワイバーンの飛行速度がガクンと落ち、同時にガレンの全身が魔力で光り輝く。
「今だ、ガレン!」
「おおおおっ!」
ガレンは、その重厚な鎧からは信じられない速度で突進すると、低空飛行になったワイバーンの真下まで走り込み、その巨大な塔盾を地面に突き立てた。
「『城壁』!!」
ワイバーンの滑空進路上に、突如として巨大な光の壁が出現する。
「グギャアアア!?」
ワイバーンは光の壁に激突し、バランスを崩して地面に墜落した。
「「そこだ!!」」
エララとレオが、動けなくなったワイバーンの翼の付け根と首筋に、寸分違わず剣と双剣を突き立てる。
Bランク昇格試験官は、その連携を呆然と見つめていた。
私たち『アルテミス』は、カイトたちがあれだけ苦戦したワイバーンを、ほぼ一方的に討伐して見せたのだ。
私たちがBランクパーティーとして名を上げ始めた頃。
ギルド内では、対照的な噂が流れ始めていた。
「おい、聞いたか? 『蒼き流星』が、また依頼に失敗したらしいぞ」
「ああ。なんでも、新しく入ったルナとかいう魔法使いの魔法が暴発して、依頼主の倉庫まで半壊させたとか」
「カイトの奴、最近じゃCランクの依頼まで断られ始めてるらしい。双剣使いと支援魔法使いが抜けた穴が、よっぽど大きかったんだな」
『蒼き流星』の凋落 は、私たちが思っていたよりも早かった。
レオの的確な状況判断と、敵の攻撃を引き受ける遊撃能力。そして、私の支援魔法によるパーティー全体の底上げ。それら全てを「自分一人の手柄」と信じ込んでいたカイトは、私たち二人という屋台骨を失い、今やただの「火力の高い剣士」でしかなかった。
サラ(弓使い)とミナ(盗賊)も、前線が崩壊したパーティーでは力を発揮できず、ルナの派手だが制御不能な攻撃魔法が、さらに状況を悪化させているようだった。
ギルドの掲示板の前で、Bランクの依頼書を眺めていると、背後から荒々しい声が聞こえた。
「……アリア。レオ」
振り返ると、そこには、憔悴しきった顔のカイトと、不機嫌そうに腕を組むルナが立っていた。
「よお、二人とも。息災そうじゃねえか」
カイトは、作り笑いを浮かべていた。
「Bランクに上がったんだってな。……その、『アルテミス』とかいうパーティーで」
「カイト……」
「なあ、アリア。レオ。もういいだろ? 俺も、あの時はルナに言われて、ちょっと頭に血が上ってたんだ。……戻ってこいよ、『蒼き流星』に」
その言葉は、私とレオを唖然とさせた。
この男は、まだ、私たちがいないとパーティーが機能しないことに気づいていない。ただ、「Bランクに上がった俺たち」が、もう一度欲しくなっただけなのだ。




