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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第1章: 『無能』の烙印と『天秤』の覚醒

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第18話:「足枷」との同行と霧の谷の影


「私には、私が昔から使ってきた、優秀な『支援魔法』がありますから」


私が監査官ヴァレリウスに向かってそう宣言すると、彼は一瞬虚を突かれた顔をし、すぐに、侮蔑と嘲笑が入り混じった表情に戻った。


「……ほう。『支援魔法』、か。カイトやマルクス伯爵の報告通り、『力の天秤』以外の魔法は『無能』だと聞いていたが……。まあ、いいだろう」


ヴァレリウスは、カウンターのバフジンさんに向き直った。


「ギルドマスター。聞こえたかね? 彼らは自ら、Bランクの『調査』依頼――それもAランク級モンスターが関わる危険な任務――を、『スキル禁止』の状態で受けると言った。ギルドとして、これを『許可』するのだな?」

「……ああ」


バフジンさんは、苦々しい顔で頷いた。


依頼クエストの受注は、冒険者の自由意志だ。たとえ、それが無謀な自殺行為だとしてもな」

「結構」


ヴァレリウスは、満足そうに頷いた。彼は、私たちがワイバーンに手も足も出ず、無様に逃げ帰るか、最悪、死ぬことすら望んでいるのだ。


「では、私も『同行』させてもらう」

「「「!?」」」

「監査官殿、本気か」ガレンさんが、さすがに眉をひそめた。「『霧の谷』は、Aランクモンスターの巣窟だ。あなたが来て、安全の保証はできん」

「それこそが『監査』だ、ガレン」


ヴァレリウスは、冷酷に言い放った。


「私は、アリアが『力の天秤』という規約違反のスキルを使わないか、この目で『監視』する義務がある。……そして、王都監査局の私の身を守るのも、任務クエストを受ける君たちの『義務』だ」

「なっ……!」


レオが、思わず剣の柄に手をかけた。


「てめえ、ふざけんのも大概にしろよ! 俺たちは、テメェの護衛シッターをしに行くんじゃねえ!」

「言葉を慎め、双剣使い」


ヴァレリウスは、レオの殺気など意にも介さず、私を見た。


「それとも、何か? 『天秤』を使わなければ、Aランクモンスターから私一人守ることすらできない、と。『アルテミス』の実力はその程度だ、と。自ら認めるかね?」

「…………」


最悪の「こじつけ」であり、最悪の「足枷」だった。

Aランク級のワイバーンと対峙しながら、この監査官を守らなければならない。


そして、ワイバーンを倒すために『天秤』を使えば規約違反。使わなければ、この男(と私たち)が死ぬ。

彼は、私たちを「詰み」の状況に追い込んだのだ。


「……分かりました」


私が答えると、仲間たちが驚いて私を見た。


「監査官殿。あなたも『同行』してください。そして、その目で、しっかり見てください」


私は、自分の杖を強く握りしめた。


「私たちが、Aランクの『看板』がなくても、最強の『スキル』がなくても……。仲間と『支援魔法』さえあれば、どんな困難だって乗り越えられるってことを」

「……アリア」

「フン。面白い。その『支援魔法』とやらで、ワイバーンのクチバシから私の身を守れるか、見せてもらおう」


翌朝。

私たちは、ギルドマスターのバフジンさんだけに見送られ、街の門を出た。


メンバーは、私、ガレンさん、エララさん、レオ。

そして――私たちのすぐ後ろに、これみよがしに監査官用の馬車まで用意させ、ふんぞり返って座っているヴァレリウス監査官。


「……おい、アリア」


馬を並走させるレオが、小声で私に囁いた。


「マジで、どうすんだよ。あの馬車、目立ちすぎるだろ。ワイバーンに『ここを襲ってください』って言ってるようなモンだぞ」

「……うん。分かってる」


『霧の谷』は、その名の通り、一年中深い霧に覆われた渓谷だった。

馬車が谷の入り口に差し掛かった途端、空気が張り詰め、視界が一気に悪くなる。


「……ガレン、エララ、レオ。馬車を中央に。私たちが四方を固めます」

「応」


私たちは、監査官の馬車を守るように、緊密な陣形を組んで、ゆっくりと谷底へ進んだ。

霧のせいで、アリアの索敵も範囲が狭まっている。


「……静かすぎる」


エララさんが、長剣を抜き放った。


「来るわ」


その瞬間。

霧の奥から、甲高い、空気を切り裂くような叫び声が響いた。


「グギィィィィィアアア!!」

「上だ!」


ガレンさんが、馬車の屋根を守るように塔盾を掲げた。

直後、霧を突き破って、巨大な影が馬車に襲いかかった。


ガギィィィィン!!

ガレンさんの盾が、ワイバーンの鋭い爪を真正面から受け止めた。馬車が凄まじい衝撃で軋む。


「ひぃぃぃっ!」


馬車の中から、ヴァレリウスの短い悲鳴が聞こえた。


「グギャアアア!」


ワイバーンは、獲物(馬車)を邪魔されたことに怒り、上空へ舞い上がると、今度は口に炎を溜め始めた。

ブレスだ!


「ガレンさん! 馬車の防御を!」

「レオ、エララさん! 側面から牽制!」

「待て! アリア!」


レオが叫んだ。


「あんなデカブツ、俺たちの剣じゃ牽制にもならねえ! 『天秤』で力を奪うしか――!」

「ダメです!」


私は、馬車の窓から、ヴァレリウスが私たちを監視しているのを、確かに見た。


(今、『天秤』を使えば、規約違反……!)

(でも、使わなければ、あのブレスで馬車ごと焼かれる……!)


「アリア!」


ガレンさんの、悲痛な声が響く。

私は、覚悟を決めた。


(『天秤』じゃない……! 私が、カイトのパーティーで、ずっと研究してきた、『支援魔法』!)

私は杖をワイバーンに向けた。


「『天秤』なんて使いません! これが、私の『支援魔法』です!」

「『脆弱化・ヴァルネラ・カイ』――『吸収ドレイン』!!」

「『鈍足・スロウ・カイ』――『重圧プレッシャー』!!」


私が二つの「進化魔法」を同時に放つと、ブレスを放とうとしていたワイバーンの動きが、ピタリ、と一瞬止まった。


「グ……ギ……?」


ワイバーンは、自分の体に、今まで感じたことのない「重さ」と「倦怠感」が走ったことに、戸惑っている。


「今です! エララさん、レオ!」

「「応!!」」

「『付与エンチャント』!」


私は、二人の剣に、訓練場で編み出した『進化魔法』をかける。

二人の剣が、霧の中でも分かるほど強く輝き、レオとエララさんは、馬車の両脇から、動きが鈍ったワイバーンの翼の付け根に向かって、同時に駆け上がった。


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