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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第1章: 『無能』の烙印と『天秤』の覚醒

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第17話:進化する魔法と「監視下」の依頼


「やった……! これなら……!」


私が『脆弱化・ヴァルネラ・カイ』――『吸収ドレイン』を成功させたのを見て、レオが目を見開いた。


「すげえ……! 敵のスタミナを吸い取るなんて、それこそ『天秤』じゃねえか!」

「いいえ、違うわ」


エララさんが、冷静に分析する。


「『力の天秤』は、敵の『力』そのものを奪い、味方に『付与』する複合スキル。……でも、今アリアがやったのは、敵を『弱体化』させ、副次効果としてアリアの魔力が『回復』しただけ。……これは、高位の『弱体魔法デバフ』の範疇よ」

「その通りだ」


ガレンさんも頷く。


「監査官(クソ眼鏡)がケチをつけようにも、『魔力吸収マナ・ドレイン系の魔法だ』と言い張れば、それまでだ」

「じゃあ……!」


私は、今度はエララさんに向き直った。


「今度は、『強化魔法バフ』を試してみます!」


私は、先ほどエララさんの剣に使った『鋭化シャープネス』をイメージした。

(今度は『吸収』じゃない。『付与』の理屈……。アンデッドロードの闇魔力を、ガレンさんの盾に『聖域転換ホーリー・コンバート』した、あの感覚……!)


(私の魔力を、『力』に変えて、仲間に『渡す』……!)


「エララさん、いきます!」


私は、自分の魔力マナの一部を、明確な「力」のイメージに変換し、エララさんの剣に向かって放った。


「『鋭化・シャープネス・カイ』――『付与エンチャント』!」


ジュワッ、と音がするほど、エララさんの剣が眩い光を放った。


「なっ……!?」


エララさんは、驚愕の顔で自分の剣を見つめた。


「ただの『鋭化』じゃない……! 剣そのものに、魔力の刃が『構築』されている……!?」

「アリア、俺にも!」


レオが叫ぶ。私は、同じようにレオの双剣にも『付与エンチャント』をかけた。

レオは、光り輝く双剣を数回振るうと、訓練場の壁(魔力吸収壁)に向かって軽く振り抜いた。


ズバァァァン!!

Bランクですら傷一つつけられないはずの壁に、深い切り傷が刻まれた。


「……うそだろ」


レオが、自分の双剣を信じられないという顔で見ている。


「俺の剣が、まるで伝説の武器レジェンダリーみたいだ……」

「……すごい」


私は、魔力を使って少しふらついたが、心が奮い立つのを感じた。

『力の天秤』は、確かに強力な「スキル」だった。

でも、今、私たちが手に入れたのは、スキルに頼らない、純粋な「魔法技術」だ。


• 敵から力を吸い取る、高位の『弱体魔法デバフ

• 味方に力を与える、高位の『強化魔法バフ


私たちは、『力の天秤』という心臓を失った代わりに、「進化した心臓」を二つ、手に入れたのだ。


「――というわけだ」


訓練場で成果を確認した私たちは、再びギルドマスターのバフジンさんの前にいた。

個室には、ギルドマスターと私たち四人だけだ。


「……アホか、お前たちは」


私たちの報告を聞いたバフジンさんは、頭痛をこらえるように額を押さえた。


監査官あいつが『危険なスキル』の使用を禁じたら、今度は『それと同等の威力を持つ、別の魔法』を開発した、だと? ……火に油を注ぐとは、このことだぞ」

「ですが、ギルドマスター」


ガレンさんが冷静に言った。


「これは『力の天秤』ではありません。規約違反にはあたらない」

「理屈の上ではな!」


バフジンさんが吠える。


「だが、あの監査官(クソ眼鏡)が、その『理屈』を認めると思うか? 『それは天秤の力を偽装したものだ!』と、さらに『こじつけ』てくるに決まっとる!」

「だから、試すんです」


私は、バフジンさんの目をまっすぐに見据えた。


「私たちが、監査官の目の前で、この『進化魔法』を使って、Aランク級の任務を達成します」

「……なに?」

「ヴァレリウス監査官は、『力の天秤』を『制御不能で危険なスキル』と決めつけました。……でも、この『進化魔法』は、私が完全に『制御』できる技術です。それを、彼に見せつけるんです」

「……面白い」


バフジンさんは、ニヤリとドワーフらしい笑みを浮かべた。


「あの監査官の目の前で、Aランク級の化け物を、お前たちの『新しい力』で倒してみせると。……奴の『こじつけ』が、いかに的外れだったか、ギルド中の冒険者の前で証明する、と」

「そういうことだ」エララさんが頷く。「私たちには、Aランクの『看板』を取り戻す必要がある」

「……よかろう」


バフジンさんは立ち上がった。


「お前たちの『こじつけ』が、王都の『こじつけ』に勝てるか、勝負だ」


私たちは、個室を出て、ギルドホールに戻った。

案の定、首席監査官ヴァレリウスは、酒場の隅のテーブルで、私たちを監視するように座っていた。

私たちがBランクの掲示板に向かうと、彼がわざとらしく声をかけてきた。


「おや、『アルテミス』の諸君。スキルを禁じられた『元・天秤の魔女』殿は、ゴブリン退治でもするのかな?」


周囲の冒険者たちが、息を詰めて私たちを見ている。

レオがカッとなって言い返そうとするのを、ガレンさんが手で制した。


「ギルドマスター」


ガレンさんは、監査官を無視し、カウンターのバフジンさんに声をかけた。


「Bランク依頼を一つ、受注したい」


ガレンさんは、掲示板から一枚の依頼書を剥がし、カウンターに置いた。

それを見たヴァレリウス監査官は、飲んでいた茶を噴き出しそうになった。


「な……! 馬鹿か、貴様ら!」


そこに書かれていた依頼は、こうだった。

『Bランク依頼:“霧の谷”のワイバーン調査』

『内容:谷に住み着いたワイバーン(成体)の生態調査。巣の場所の特定』

『備考:非常に凶暴な個体のため、戦闘は極力回避すること。……あくまで『調査』である』


「ワイバーンだと!?」


ヴァレリウスが立ち上がった。


「Aランク級のモンスターだぞ! 『力の天秤』も使わずに、どうするつもりだ! 死にに行く気か!」

「お言葉ですが、監査官殿」


私は、監査官に向き直り、静かに、だがはっきりと告げた。


「これは『Bランク』の『調査』依頼です。戦闘依頼ではありません」

「ぐ……」

「私たちは、Aランクの『戦闘』は禁じられました。ですが、Bランクの『調査』は禁じられていませんよね?」


私は、かつてのカイトのパーティーでは見せたこともない、不敵な笑みを浮かべてみせた。


「それに……」


私は、自分の杖を握りしめた。


「私には、私が昔から使ってきた、優秀な『支援魔法』がありますから」


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