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『無能』と追放された魔法使い、実は『力の天秤』を持つSランク級の逸材でした。~スキル禁止されたので『進化魔法』でSランク武具を手に入れます~  作者: さらん
第1章: 『無能』の烙印と『天秤』の覚醒

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第13話:監査官の到着と「実績」の壁


「――というわけで、ギルドマスター。Bランク依頼『グレイロック砦の調査』、完了しました」


私たちがギルドカウンターに、アンデッドロードが持っていた禍々しい『魔力の杖』と、デスナイトの鎧の破片を置くと、ギルドマスターのバフジンさんは、こめかみを押さえて深いため息をついた。


「……アリアよ。お前さん、『Bランク依頼』で『Aランクのアンデッドロード』を討伐してきた、と。……たった一晩で」

「は、はい。砦の魔力の源だったので……浄化しないと、調査が終わらないかと思いまして……」

「馬鹿者。建前というものを知らんのか」


バフジンさんは、頭をガシガシと掻きながらも、その目は隠しきれない興奮と笑いを帯びていた。


「王都の伯爵様マルクスは、お前たちを『Aランクの器ではない』と貶めようとしとる。だというのに、お前たちは『Aランクの依頼ができない』ならと、Aランクの化け物を『Bランク依頼』で狩ってきた。……あいつの顔が目に浮かぶわい」


周囲の冒険者たちも、遠巻きに私たちとカウンターに置かれた『戦利品』を見て、息を呑んでいる。


「おい……あれ、アンデッドロードの杖じゃねえか?」

「嘘だろ、Aランクモンスターだぞ……」

「『天秤の魔女』、AランクどころかSランクなんじゃ……」


『アルテミス』が、王都の妨害を物ともせず、むしろ嘲笑うかのように実績を積み上げている。その事実に、ギルドホールは異様な熱気に包まれていた。


「さて、この『Bランク』の報告書をどう書いたものか……」


バフジンさんがペンを握った、その時だった。

ギルドの重い扉が、荒々しく開かれた。

入ってきたのは、マルクス伯爵が率いていた騎士たちよりも、さらに格式高い、王都直属の『監査局』の紋章を掲げた一団だった。


先頭に立つ男は、貴族風のタイトな上着をまとい、鼻眼鏡をかけた、神経質そうな男だった。彼は、ギルドの喧騒を一瞥すると、不快そうに眉をひそめた。


「静粛に。私は、王都ギルド本部・監査局より派遣された、首席監査官のヴァレリウスである」


ヴァレリウスと名乗った男は、まっすぐカウンターに歩み寄ると、私たち『アルテミス』の四人を、値踏みするように見据えた。


「君たちが、パーティー『アルテミス』だな。……ふむ。タンクは古強者、剣士も腕は立ちそうだが……。双剣使いと、まだ幼さの残る魔法使いか」


彼は、手にした羊皮紙(通達の写し)を、トン、と指で叩いた。


「通達は聞いているな? 君たちのAランク昇格は『保留』。王都での再審査が完了するまで、Aランクとしての活動を一切禁ずる」

「……それで、監査官殿」


ガレンさんが、一歩前に出た。


「我々はその通達に従い、昨日はAランク依頼を受けていない。……何か、問題でも?」

「問題があるから、私が直々に王都から赴いたのだ」


ヴァレリウスは、粘着質な視線をガレンさんからエララさん、レオ、そして私へと移した。


「昇格『保留』中の身でありながら、推奨10名以上のAランク任務(グリフォン討伐)を強行受注した、という報告が上がっている。これは、本部の決定に対する明確な『反逆』と見なされても仕方ない行為だ」

「待て、監査官」


ヴァレリウスの言葉を遮ったのは、ギルドマスターのバフジンさんだった。


「グリフォン討伐の受注は、王都からの『通達』がこの支部に届く『前』だ。手続き上、何の問題もない。AランクパーティーがAランク依頼を受けた。それだけだ」

「ほう?」


ヴァレリウスは、鼻眼鏡の位置を直した。


「では、こう言おう。君たちの『実力』が、Aランクに見合っているか、私がこの場で見極めさせてもらう。……特に、君だ」


監査官の、冷たい指が、私に向けられた。


「『天秤の魔女』アリア。君のユニークスキル『力の天秤アストラル・バランス』。敵の力を奪い、魔力さえも吸収する……。報告によれば、その力は『危険』かつ『不安定』である、と」

「……!」

「マルクス伯爵からの報告では、君は『蒼き流星』時代、その力を制御できず、パーティーを危機に晒していた、とな」


(……嘘だ!)

カイトに「無能」と言われ、力を使うことすら制限されていたのに。

マルクス伯爵は、私たちがAランクにふさわしくない理由として、私のスキルを「危険で制御不能なもの」として報告していたのだ。


「ヴァレリウス監査官」


私は、震える声を押さえ、一歩前に出た。


「私のスキルは、制御可能です。そして、仲間のために使っています」

「口ではなんとでも言える」


ヴァレリウスは、私を嘲笑った。


「では、その『制御可能な力』とやらで、私を納得させる『証拠』を見せてみたまえ。……まあ、Aランク活動を禁じられた君たちに、そんな機会があるとも思えんがね」


彼は、私たちが反論できないことを確信し、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


Aランク依頼を受けられなければ、私たちがAランクの実力を持つことを「公式に」証明する手段はない。これが、マルクス伯爵が仕掛けた「陰湿な足枷」の正体だった。


私たちは、悔しさに唇を噛んだ。

……だが、その時。


「――証拠、か」


ギルドマスターのバフジンさんが、ボソリと呟いた。

彼は、おもむろに、カウンターの上に置かれていた『アンデッドロードの杖』を掴むと、ヴァレリウス監査官の目の前に、ゴトリ、と突き立てた。


「……!?」


ヴァレリウスは、その杖から放たれる、紛れもないAランクモンスターの禍々しいオーラに、目を見開いた。


「監査官殿。……これは、なんだか分かるか?」


バフジンさんは、邪悪な笑みを浮かべた。


「この『Aランク保留』パーティーはな。……たった今、ギルドが『Bランク』として依頼していた『古い砦の調査』のついでに、そこで勝手に巣くっていた『Aランクのアンデッドロード』を、浄化してきたところだ」

「な……」

「お前さんたちの『通達』とやらのおかげで、こいつらの報酬はBランク分しか払えん。……だが、『実績』は別だ」


バフジンさんは、ギルドホール全体に響き渡る声で言った。


「監査官殿。王都の『ルール』では、この『実績』を、どう処理するおつもりだ?」


ヴァレリウス監査官の、勝ち誇った顔が、驚愕と屈辱に歪んでいく。

私たちは、王都の権力が仕掛けた「ルール」の罠を、「圧倒的な実績」という、誰にも否定できない力で、真正面から打ち破ったのだった。


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