第11話:王都からの通達と「陰湿な足枷」
私たちが持ち込んだ13体分のグリフォンの素材。
Aランクパーティー10人以上で臨むはずの戦果を、たった四人で成し遂げたという事実に、ギルドホールは熱狂していた。
「『天秤の魔女』アリア! 本物だ!」
「ガレンもエララも、Aランクの中でも別格だ!」
私たち『アルテミス』が、この街の新しい「英雄」として認められた瞬間だった。
だが、その熱狂とは裏腹に、カウンターの奥から出てきたギルドマスター、バフジンさんの顔は、苦虫を噛み潰したように歪んでいた。
「……『アルテミス』。よく、戻った」
彼は、私たちの功績を称えるよりも先に、一枚の羊皮紙を叩きつけるようにカウンターに置いた。
そこには、王家の紋章――『金獅子』の蝋印が押されている。
「王都のギルド本部から、お前たちに関する『通達』が、たった今、届いた」
「……通達?」
レオが、怪訝な顔でそれを見た。
バフジンさんは、忌々しげにその内容を読み上げた。
「――パーティー『アルテミス』のAランクへの『特例昇格』について。ギルド本部にて再審査を行う、と」
「「「!?」」」
「な……!」
「どういうことだ、ギルドマスター」
ガレンさんが、低い声で問い詰める。
「王都の『とある貴族』から、ギルド本部に抗議があったそうだ」
バフジンさんは、明らかにマルクス伯爵を指して、吐き捨てるように言った。
「曰く、『蒼き流星』の追放劇は、元メンバー(アリアとレオ)による計画的な乗っ取りの可能性がある、と。曰く、特例昇格の根拠となったB+ランクの討伐も、証拠が不十分である、と」
「ふざけるな!」
レオが激昂し、カウンターを叩いた。
「B+ランクの証拠なら、今ギルドが買い取った素材(ミノタウロスの魔石)があるだろうが!」
「証言も、サラとミナが……!」
私も反論しようとしたが、エララさんが私の肩を制した。
「……無駄よ、アリア。これは、そういう『理屈』の話じゃない」
エララさんが、通達を冷たく見据える。
「陰湿ね。私たちの『実績』そのものではなく、『手続き』にケチをつけてきた。……マルクス伯爵、だったかしら。Aランクに昇格したばかりの私たちに、すぐにこれほどの功績(グリフォン討伐)を上げられるとは思っていなかったのでしょうね」
伯爵の狙いは、私たちがAランクとして名を上げる「前」に、私たちの信用を失墜させ、「Aランクの資格なし」というレッテルを貼ることだったのだ。
「……通達の続きだ」
ギルドマスターが、さらに苦々しい顔で続ける。
「『アルテミス』のAランク資格は、王都から派遣される『監査官』による再審査が完了するまで、一時『保留』とする」
「保留、だと……?」
「ああ。……そして、これが本命だ。再審査が完了するまでの間、『アルテミス』のパーティー活動を『制限』する。……具体的には、ギルドが管理するAランク以上の依頼、特に『国家安全保障に関わる重要討伐』および『王都関連の護衛任務』の受注を、一切禁ずる」
それは、事実上の「Aランク活動停止命令」だった。
私たちがグリフォンを討伐したまさにその日に、私たちはAランクの依頼を受けられなくなったのだ。
「私の……」
私のせいだ。私が、あの時、伯爵の誘いを断ったから。
「私のせいで、みんなに……!」
私が震えていると、ガレンさんが、私の頭にポン、と分厚い手を置いた。
「アリア。お前が謝ることじゃない。これは、お前一人の問題じゃない。『アルテミス』というパーティーが、あの伯爵に『屈しなかった』結果だ」
「そうよ」
エララさんも頷く。
「むしろ、誇るべきだわ。あの小物が、私たちを恐れて、王都の本部まで動かしたのだから」
「だがよ!」
レオが納得いかない、と声を荒らげる。
「これじゃ、俺たちはBランクのゴブリン退治に逆戻りじゃねえか! Aランクの依頼が受けられねえなら、何の意味が……」
その時だった。
「――馬鹿馬鹿しい」
ギルドマスターのバフジンさんが、王家の紋章が入った通達書を、グシャリ、と握り潰した。
「なっ、ギルドマスター!?」
「静かにしろ」
バフジンさんは、私たちを睨みつける。
「いいか、小僧ども。俺は、この街のギルド支部の最高責任者だ。王都の本部が決めた『通達』には、『形式上』従う」
「……」
「お前たちに、Aランク掲示板の依頼は渡せん。これは『決定』だ」
ギルドマスターは、カウンターに積み上げられたばかりの、まだ血の匂いがする『グリフォンの素材』を指さした。
「……だが」
彼は、悪戯っぽく、ドワーフ特有の笑みを浮かべた。
「本部の連中は、現場を知らん。この街の周辺にはな、『難易度設定が間違っている』依頼書が、時々紛れ込む」
「……?」
「例えば、『Bランク』依頼として出されているが、実際はAランク級の化け物が出ると噂の『古い砦の調査』とかな」
バフジンさんは、わざとらしくBランクの掲示板に目をやった。
ガレンさんが、その真意を察し、ニヤリと笑った。
「……なるほど。ギルドマスター。その『難易度設定が間違っているBランク依頼』。我々『アルテミス』が、調査しに行っても?」
「ふん」
ギルドマスターは、顔をそむけた。
「Aランクの『保留』パーティーが、親切心でBランクの依頼を手伝う分には、本部の連中も文句は言えんだろう。……ただし、報酬は、あくまでBランク分しか出せんぞ」
エララさんが「結構よ」と肩をすくめる。
「私たちは、金のために戦っているわけじゃない。あの伯爵の鼻を明かせれば、それでいいわ」
私たちは、顔を見合わせて笑った。
王都の権力は、私たちからAランクの「看板」は奪えても、私たちの「実力」と「絆」は奪えない。
「よし!」
レオが拳を鳴らす。
「いっちょ、その『Bランク』依頼とやらで、大暴れしてやろうぜ!」




