表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/22

閑話:おねつがでたひ

昼休み全部使った突貫仕様。

それでも書かずにはいられなかった。

「……まぁ、いつかの来栖ちゃんのパターンだな」


「ももー、なんかあったらすぐ呼ぶんだよ?」


「もも! これ、おでこに貼るやつ!」


 桃叶が風邪を引いた。

 学校と巫女の仕事の両立、環境の変化。

 暑い夏から秋、冬と季節が移ろいゆく中で、そのダメージがついに表面化したのだった。

 苦しそうな桃叶を来栖が病院に連れていき、その間に乃亜がドラッグストアで色々買い込む。


「申し訳ないのです……」


 熱で苦しそうな桃叶がそう言うと、逆に悟志が申し訳なさそうに答える。


「いや、こっちこそごめんな? 井戸水飲んだらすぐ治るんだけど、身体を休ませないといけない時には飲ませないんだ」


 そう、病気だったら井戸水を飲めば解決する。

 しかし、来栖がきたばかりの時もそうだったように、しっかりと休ませたい場合は井戸水を出さない。

 風邪は病院の薬とあったかくして寝るに限る。

 うちは体調悪くても薬飲ませて無理矢理働かせるような、ブラック企業じゃないんだよぉ!!

 生きていくだけなら、たまに阿蘇さん相手に井戸水を売れば問題ないんだから。

 そう悟志は思っていた。


「あのお水はホントにすごいお水ですから……、風邪くらいで使ってはバチがあたるのです」


「とにかく、ゆっくり寝てなね? 学校にも遅刻のつもりで病院連れてったけど、やっぱり休むって言っとくから。……乃亜ちゃんが」


「えっ、私ですか?!」


「いや、来栖ちゃんでもいいけど」


「悟志くん、自分で電話したらいいじゃーん」


「前に電話した時に対応してくれた先生がどうにも苦手でさ……、頼むよ」


「もう、しょうがないなぁ。悟志くんは私がいないとダメなんだから」


「もも、また様子見に来るからね。ちゃんと寝てるんだよ?」


 乃亜がそう言うと桃叶の部屋から出ていく三人。

 賑やかだった部屋が、途端にしんと静まる。

 ……寂しい。

 桃叶はそう思いながらも大人しく横になる。

 今日は金曜日、神代亭の営業がある。

 忙しい中、邪魔になってはいけない。

 迷惑をかけちゃいけない。

 今自分にできること、それは大人しくしていること。

 弱った身体とココロ。

 頭ではわかっているが、どうしようもない気持ち。

 涙がこぼれそうな目をぐっと閉じて、桃叶は眠ることにした。





「ももー、調子はどう?」


 来栖の声が聞こえ、目を覚ます桃叶。

 どれくらい眠ったのか、でもくーさんがいるってことは営業終わり……。

 うつらうつらした頭でそう考えていると、聞こえてきたのはお昼の時報。

 普段この時間はお客さんでてんてこ舞いのはずなのに。

 意識がはっと覚醒して飛び起きる。


「えっ?! お店は?」


 開口一番、そう尋ねてきた桃叶に苦笑しながらも来栖は優しく答える。


「神代亭は本日臨時休業みたいなもんなんだって」


「臨時休業?」


「もものことが心配だから店は開けたくないけど、お金ない子たちがお腹空かせるのはかわいそうだから。のれんと営業中の看板は出さないけど、入ってきた若い子とかには簡単なもの出して帰すって悟志さんが」


 乃亜もそう言って桃叶のところにやってきた。

 鍋掴みをつけた手に、小さな土鍋を持って。

 つけてるエプロンにお玉やらなんやらを詰め込んで。

 店は現在悟志のワンオペ。

 だってしょうがないじゃない、桃叶が心配なんだもの。


「これ、悟志さんが食べれそうならって。あ、くるぴゃん。ポケットに鍋敷きとか、お椀とか、れんげあるから取ってそこの机に置いて」


「うん」


 普段から店に立って、接客をしている二人。

 連携のよさに感心しながらその光景を見ていると、何やらいい匂い。


「はい、おかゆだよー。たまごのやつ」


 土鍋を使って作ったおかゆ。

 塩のみで味付けされた白がゆに溶き玉子を回し入れ、少し蒸らした玉子がゆ。

 

「自分で食べれる? 食べさせてあげよっか?」


 笑いながらそう言ってお椀におかゆをよそう乃亜。


「もう! 子供扱いしないでください!」


 そうは言うものの、心配してくれていることが嬉しくて。

 笑みを浮かべてそう返す桃叶。

 そこでくぅ~、と桃叶のお腹が鳴った。


「……食欲はありそうだね。乃亜、早くももに渡してあげて」


「うん、熱いから気をつけてね」


 お椀とれんげをそっと手渡すと桃叶を見つめる乃亜と来栖。

 そんなに見ないでよ、これから食べるんだから。

 なんて思いつつ、おかゆを一口。

 汗をかいた身体にちょうどいい塩気。

 とろりとしたおかゆは少し噛むだけで飲み込めそうで、身体にとても優しかった。

 するするとお椀に盛られたおかゆを平らげると程よくお腹が膨れる。


「おかわりあるよ? もっと食べる?」


「大丈夫なのです、ありがとうのあさん」


「はい、これお水。しっかり水分とって、お薬もちゃんと飲むんだよ?」


「わかったのです、くーさん」


 そんなやり取りをしているとてしてしと聞こえる足音。


『桃叶殿、大丈夫か?』


「ゴン太様……」


『悟志がな、桃叶殿のこと心配してたからな? 俺がそばについててやるから大丈夫だぞって。桃叶殿、今弱ってるからな。俺にひっついてるといい』


 そう言って、桃叶に身体を擦り寄せるゴン太。

 おずおずと桃叶が腕を回して抱きしめると、ぺろりと桃叶の頬をなめる。


『悟志がなー、桃叶殿よりちっちゃかった頃なー。同じように弱って寝てたんだ。そん時にな? 俺をぎゅってして寝たらすぐ治ってな? だから、桃叶殿もすぐ治るぞ』


「ありがとう……」


『お、おい! なんで泣く?! なんかしたか?!』


「あーあ、ゴン太ちゃん。もものこと泣かしちゃったー」


「あーあ、これは抱き枕の刑だー!」


 何故か溢れる涙。

 慌てるゴン太に、囃し立てる来栖と乃亜。

 きゅんきゅんと鳴いて、涙をなめるゴン太が妙に愛おしくて。


「大丈夫です、大丈夫ですよゴン太様」


 もう一度桃叶はしっかりとゴン太のことを抱きしめるのであった。





「ん……」


『お、起きたか桃叶殿』


 あれからゴン太を抱きしめて来栖たちと話していると、薬を飲む時間に。

 桃叶がしっかりと薬を飲むのを見届けると、来栖と乃亜は部屋から出ていき、残されたのはゴン太だけ。

 ゴン太の言うまま、抱きしめて横になっているといつしか訪れた眠気に誘われ、桃叶は眠りについていた。

 しばらく眠り続け、日もすっかり暮れた頃、桃叶が目を覚まして現在に至る。


「ゴン太様、いてくださったんですか?」


『今弱ってるからな、俺が守ってやる。悟志もな、空が赤い時に来て、ちょっと桃叶殿の顔を見てたんだ。おでこになんかやったら、俺に今日は桃叶殿と一緒に寝ろって言って出てった』


 額を触ると、食事の時にはがれてきて、とったままだったはずの冷えピタ。

 きっと悟志が貼ってくれたんだ。女の子の部屋に勝手に入るのはどうかと思うけど、心配してくれたのは嬉しい。


「そっか、そうなんですね」


『それでな? たぶんもうちょっとしたらごはん持ってくるぞ。さっきからごはんの匂いがする』


 ゴン太が嬉しそうに話すと、とんとんと階段を上がる音が聞こえる。

 少しして部屋のドアがノックする音が響いた。


「ももー、起きてるー?」


「はーい、くーさん、起きてますよ」


「じゃあ、開けるね~」


 来栖の声に返事をすると、乃亜もいたらしくドアが開いた先に二人の姿があった。

 来栖が大きな土鍋を持って。

 乃亜がお椀と箸を数人分持って。


「悟志さんがね、ももが寂しくないように今日は上でご飯を食べなさいって」


「今日はね、うどんなの!」


 来栖が鍋を机に置き、ふたを開けると漂う出汁の匂い。

 乃亜から箸とお椀を受け取ると、慣れた手つきで取り分ける。


「はーい、どうぞー」


 ベッドに腰かけ、差し出されたお椀と箸を受け取ると背もたれのように背後でゴン太が伏せる。

 お椀によそわれたうどんを見ると、刻みあげとしいたけにかまぼこ。

 一口すすってみると、普段悟志が作るものとは違う味。

 少し驚いて目を見開くと、乃亜が説明をしてくれた。


「あのね、普段のつゆだとちょっと濃いかもしれないからって、干ししいたけってやつを水で戻してね。その戻したときの水と昆布ってやつでおだし取ってたの。そこにお酒とかみりんとかお醤油入れて、もものためだけに作ったんだよ」


「これ私がね、ここに来たばっかりの時に体調崩したときも作ってくれたんだ~」


「そうなんですね……」


 大雑把で雑な味、それでも美味いならそれでええやん!

 なんて言っている人の精一杯の手間暇。

 つゆを一口飲んでみる。味に気持ちはないはずなのに、早く良くなりますように。

 悟志がそう思っているのが伝わった。


「もも、おねつをだしてこんなに寂しくなかったのは初めてです」


 ぽつりと呟く声。


「悟志くんがあったかい、からね~」


「神様二柱もいつも見守ってるからね~」


『俺もいるからな』


 微笑んで桃叶を見つめる二人。

 後ろで小さくわんと鳴くゴン太。

 幸せに包まれて、桃叶はたまには体調を崩してもいいのかも。

 そう思った。

 翌日には熱も下がり、念のためにもう一日ベッドの中で過ごすと完全回復。

 元気な声で


「そだちざかりだからえいよーがいるのです!」


 と朝食をぱくぱく食べるように。

 その様子に若いっていいなぁ。と少しうらやましくなる悟志だった。

第9話は土日どっちかで更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ