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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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8/8

邪神の覚醒、それでもおっさんは飯を作る(前編)

初の前後編仕様になっております。

「ねーえー! 私よりなんで気合入ってるの、もも! もう振り付けも覚えたし、歌も歌えるでしょ?」


「まだまだですよ、のあさん。キラキラ眩しいくらい輝くために絶対絶対諦めたらダメなのです」


 今日もまた、きゅるきゅるきゃわきゃわと踊る桃叶と乃亜。

 そんな二人を縁側で見守りながら、来栖は日向ぼっこをしていた。

 少し低い気温だが、暖かい日差しと、時折吹く風。

 身体が熱くなってきたころに、それを冷ましてくれる。

 とても過ごしやすい環境。

 足元にはゴン太が丸くなって寝ており、悟志は厨房でひき肉をこねている。

 ああ、たぶん今日の夜も煮込み系のものだ。

 いいんだけど、いいんだけどね?

 そろそろ唐揚げとか食べたいなぁって。

 そんなことを思いながら、深呼吸。

 冷たい空気が来栖の身体を通り抜け、ぽやんとした頭をすっきりさせる。


「はい、これ」


 後ろから声が聞こえて振り向くと、そこには悟志の姿が。

 悟志が手に持ったマグカップを差し出すと、中にはココア。


「ありがとー」


 過ごしやすいとは言っても気温が低いせいかいつの間にか冷えた手。

 来栖はそれを温めるように両手で受け取ると、じんわりと伝わる温かさに顔がほころぶ。


「二人はまた踊ってんのね……。乃亜ちゃんの披露する機会ってなくなったんでしょ?」


「なんかねー、だんだんとももの方が乃亜よりやる気になっちゃって」


 悟志の問いかけに笑って答える来栖。

 やる気があるのはよろしい。

 ただ、最近めっきり日が暮れるのも、寒くなるのも早くなった。

 そろそろ終わりにしないとなぁ。なんて悟志が思った瞬間だった。


『なんかくる!』


 寝ていたゴン太がはっと目を覚ますと、そう言って悟志を守るように立ち上がる。

 ウゥゥと低い声でうなりを上げるゴン太の視線の先、塀の向こうには黒い異形の何か。


「もも!」


「ぴゃいっ!」


 来栖が桃叶に声をかけると、びっくりしたような声を上げるが異形の存在に気付いてすぐに気持ちを切り替える。

 異形の方を向いて九字を切り、祝詞を唱えた。


「……祓い給え、清め給え、守り給え。我が心乱れず、願い揺るがず。我らを守りし神の御名において、来たりし穢れを退け給え」


 水色の光がまるでこの世とあの世を分けるかのように境界線を引く。

 一瞬ひるんだ隙を見て、来栖は乃亜の名前を叫ぶ。


「のあっ!」


「うん! ……我が名はノアール。管理神プラム・ウィータの名の下に、汝を誅すものなり。いけっ、断罪の白線……マセラフィラリオン!」


 乃亜の背後に現れた魔法陣から白い帯が飛びだすと、異形のものを縛り付けようとする。

 それを防ごうと腕を振り回すが、効果はなく異形の身体に張り付く帯。

 帯の色が白から黄色に変わると、暴れていた異形も動けなくなる。

 その瞬間、来栖が飛び出して宙へと浮かぶ。


「我はクルエラ、クルエラ・スヴァンヒルド。邪なる神の名において、悪しきものへと裁きを下す。我が右腕へ宿れ、レヴィアタン。そしてこの手に灯れ、煉獄の炎。左腕に宿れ、ベルゼブブ。この手に宿すは超重力の闇。……甘き死よ、来たれ。ヴァルグラリクラトス!」


 宙に浮かんだまま両手を前に出して、呪文を唱えると来栖の右手に赤い球、左手に黒い球が現れる。

 二つの球が合わさり、ピンク色の一つの球となって異形のものへと放たれる。

 それが当たった瞬間、異形のものは黒い炎に包まれながらも潰されていく。

 メキメキと音を立てて、異形のものは形を変える。

 ゴキン、と大きな音がした時、異形のものは霧となって消えていった。


「……来たの久しぶりだよね~。ゴン太ちゃん、よく気付いたね、すごいね!」


『やな匂いがしたんだ』


 少しの間警戒していたが、もう脅威はないと判断した来栖は宙から地面へと降りる。

 真っ先に気付いたゴン太を褒めて、頭をなでようとしたがふいっとよけられる。


「ちょっと! せっかく褒めてあげたのに!」


『褒めてくれるのは嬉しいけど、なでられるのはなぁ。……悟志~、大丈夫か』


 そう言ってゴン太は飼い主の元へと向かう。


「ああ、俺は大丈夫。ありがとな、ゴン太」


 悟志が頭をなでるときゅーんと甘える声を出すゴン太。

 それをうらやましそうに見つめる来栖と桃叶。


「いいないいな~」


「神代さんだけずるいのです。私もゴン太様をもふもふしたいのです」


 ゴン太はサモエドの父と秋田犬の母を持つもふもふボディ。

 神になった影響なのか、毛はいつもさらさらつやつや。

 やわらかい毛は温かく、人々の眠りを誘う。

 しかし、触れられるのは飼い主である悟志だけ。


「みんな、ありがとう! じゃあちょっと早いけどメシの用意するわ。何か食べたいものあれば、材料あれば作る」


 悟志の一言にわっと喜ぶ三人娘。


「私、男飯弁当ってやつを食べてみたいのです!」


「ニンニク入れますか? それは明日の弁当にするね!」


 と桃叶とやり取りをすれば


「はーい! 私ハロウィンの時に食べたプリンをもう一回食べたいです!」


「じゃあ今日のデザートね!」


 なんて乃亜と話す悟志。


「来栖ちゃんは?」


「決まってるでしょ! 私が食べたいのはうーどーん!」


「今日鍋だから締めでいい?」


「うん!」


 来栖にも答えはわかり切っていた質問をして、三人娘とおっさん、ゴン太は家の中へと入っていった。





「さぁて、やっていきますかね」


 夕飯の準備で最初に悟志が行ったのは大根をすり下ろす作業

 適当な大きさに切って、皮をむいておろし金で削っていく。

 一本分削ったら水気をきって、別皿へ。

 残ったおろし汁を鍋に入れて、水と酒、みりん、醤油にだしの素と合わせて沸かしていく。

 軽くかき混ぜて、沸くのを待っている間に土鍋にスーパーで買ってきた千切りキャベツを三袋。

 先ほどこねていたひき肉。鳥ミンチで、細かく刻んだ蓮根と一緒に捏ね上げた鳥団子となる。

 そろそろ沸こうかという時に静かに鳥団子を鍋の中に落として火を通していく。

 鳥団子の色が変わり、鍋の中の出汁がぐつぐつ煮えたら火を止めて土鍋に鳥団子ごと入れる。

 上に先ほどおろした大根おろしを乗せたら準備完了。

 座敷にカセットコンロを置いて、その上に土鍋を乗せる。

 つまみをひねって点火した後、弱火でじっくり温めていく。


 次は乃亜のリクエストに応えるべく、プリンを作っていく。


「ぷっちんぱぽぺ、らーららららんらん♪」


 昔のCМに使われた曲を歌うと、皿にプリンをプッチンする。

 その横にホイップクリームを添えると、くるみ、桃、乃亜の真名を関したお菓子を乗せて完成。


「メシ、できたよ~!」


 こうしていつも通りの食事風景が繰り広げられるのであった。

 




「あなた様、夕方のあれなんだけど」


「ああ、あの黒いやつ。なんかあった?」


 夕食後、テンポよく風呂と歯磨き、スキンケアを済ませて夢の世界へと飛び立った桃叶と乃亜。

 人ならざるものとの戦いはいつも疲れる。

 いつもなら遅くまで起きていたがる二人も今日はさすがに睡眠を優先したようだ。

 神代亭開店、というより悟志が井戸の水を超強化してしまった影響で人ならざるものが神代家へとやってくるようになった。

 人にいい影響を与えるものも、人を呪うものも。

 目には見えない闇の住人、それが悟志の井戸の水を飲んでしまうと位階があがる。

 悪い意味でだ。人をより呪う、たちの悪いものにも力を与えてしまう。

 そんな奴らから悟志を守るためにやってきたのが来栖たち三人娘なのだ。


 来栖も寝ようとしていたが、悟志が料理の試作をするので試食という名のお手伝い。

 就寝直前に起きたイレギュラー。

 うどんという大好物の試食に大喜びだが、具材のきくらげの色。

 そいつが食事前に祓った異形のものにどこか似ていて。

 邪神として封じされていた間に忘れていたことを思い出させた。


「あれって一体倒すと、五匹六匹近いところに出てくるんだよね。結構厄介だから、しばらくは外に出るのは私たちの誰かかゴン太ちゃんと一緒にいる時だけにしてくれるかな?」


「そんなにヤバいんだ。……わかった。しばらくは誰かと一緒にいることにするよ」


「あいつはね、夢と現実の間の世界に人を引きずり込んじゃうの。夕方の逢魔が時、日が暮れるちょっと前くらいにしかやってこないと思うけど。……念のためお願いね? それにあれが井戸の水を飲んだら、私と同じ邪神になるかも。だから井戸の管理も絶対だからね」


 真剣な顔でそう告げる来栖に、真剣な顔で頷く悟志。

 しかし、来栖の願いもむなしく某国の陰謀のせいで悟志は異形のものが作り出した空間に閉じ込められてしまうのである。


次回更新は9日あたりまでにはもう1回しておこうと思います。


お読みいただきありがとうございました。

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