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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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5/8

過去を夢で振り返ったおっさん

日付変わる前に更新できた~。


 専門学校を卒業し、就職してだいたい15年ちょっと経ったある春の日。

 両親を亡くした俺の、神代悟志の、たった1人の身内であるばあちゃんが亡くなった。

 昔ながらの駄菓子屋に、これまた昔ながらの個人商店、って要素を足した店。

 子供たちが小銭を握りしめてお菓子を買い、大人たちがちょっとしたものを買いに来る。

 そんな古き良き店を1人で切り盛りし、俺を育ててくれたばあちゃん。

 その死はかなりの騒ぎになった。家でやるはずだった葬式は近所のおじさんたちがなにも気にしなくていいから、と市で1番大きな斎場の、1番大きなホールでやったのにも関わらず満員。

 なんでか知らないけど総理大臣に地元の国会議員、市長が通夜から全部終わるまでずっといた。

 極めつけは帝様からのお言葉。この日ノ元でこんな要人から悼まれるばあちゃんって何者だよ。

 さすがにニュースにはならなかったけど、いろんな人にばあちゃんが愛されていたんだとよくわかった。


「困ったことがあったら私や藤田君の事務所に連絡ください。秘書にはすぐ私たちに知らせるように言っておきますので。連絡いただき次第すぐに伺います」


「あ、ありがとうございます」


「それじゃ藤田君、三上市長。神代くんのことよろしくお願いします」


「は、はい!」


「かしこまりました」


 なんてやり取りをして、総理大臣が黒塗りの見るからに高い車に乗って帰っていくのを見届けると、国会議員の藤田さん(8期連続当選のでぇベテラン)とうちの市長もそれぞれ家路につく。

 何日ぶりかの我が家。ばあちゃんがいないだけですごく寒々しい。

 今は何も考えたくない。

 いまだに実感の湧かないふわふわした頭が、現実から一時でも逃れようと意識を奪おうとする。

 俺はふらふらと自室に戻ると、就職して社会人になるんだからとスーツと一緒にばあちゃんが仕立ててくれた礼服を脱いで、適当に投げ捨ててあったジャージを着てベッドに入り込む。

 全部悪い夢だったら、ふと目覚めたらばあちゃんは戻ってきてないだろうか。

 ありえないことを思い浮かべながら、ベッドに倒れこむように寝転がるとすぐに意識が消えていった。





「ん……」


 目を覚ますと、すっかりと暗くなっていた。

 スマホで時間を確認すると19時半。ぼんやりとした頭がだんだんとはっきりしてくる。


「……腹、減ったな」


 悲しくたって腹は減る。ひと段落つくまでは無理やり身体に入れていた食べ物だったが、こうして全部終わってみると少し余裕が出てきたのか、身体は途端に栄養を求め始めた。


「ばあちゃん、入りますよ」


 かつてばあちゃんが寝起きしていた部屋。

 一応空から見ていると思って、一言断ってからその中に入る。

 目当てはカップ麺だ。何故かばあちゃんはあんまり食べないのにカップ麺を集める癖があった。

 定番のものから変わり種まで、幅広く。そして賞味期限が近付いたものは俺の夜食として処理されていったのだ。


「遺品の整理もしないとな……」


 なんて呟きつつカップ麺置き場を漁ると、世界最初のカップ麺が見つかった。

 今日はこれ食べようと手に取って部屋を出ようとすると机に封筒が置いてあるのを見つけてしまった。

 もしかしてこれ遺言状的なやつ? 待ってくれよ。ばあちゃん準備良すぎだろ。

 いつでも見れる位置に置いとくなよ。なんか嫌だよ。

 そんなことを思いながら封筒を手に取ると封筒の真ん中には悟志へ、と書かれていた。

 封を開けて中に入っていた手紙を読む。そこにはこう書いてあった。



 悟志へ


 この手紙をあんたが見てるってことは私は死んだんだろうね。

 どこで死んだんだい? 店に座ってかい? それとも布団の上かい?

 まぁどうだっていいさ。これを書いてる今はわかりゃしないし、伝える手段もないんだ。

 私のたった1人の孫、悟志。あんたに私の全てを譲るよ。

 全部好きにするといい。といっても土地と井戸だけは何があっても手放すんじゃないよ。

 遺した金を使って今風の家に建て替えるのもいい。そのまま残して使うのもいい。

 ただ、井戸だけはそのまま残しといておくれ。じいさんとの思い出。

 いろんな人との思い出、なによりあの井戸があんたを助けてくれる。

 1日1回、朝にでも井戸から水を汲んで供えてくれると嬉しいね。

 あの井戸の水が私は大好きなんだ。頼んだよ。

 ああ、その時に昔一緒に歌った歌があったろう。

 それを歌いながら汲んでおくれ。

 あの世にその歌が届いたら、仏壇まで下りていくよ。

 最後に。あんたの父ちゃん母ちゃん、じいさんに私。4人の唯一の願いを言うよ。

 あんたは幸せにおなりなさい。



 あんたのばあちゃん、神代千歳より



 ……いつの間にか泣いていた。

 父さん母さん、じいちゃんばあちゃんと過ごした時間を思い出して。

 気が付いたら骨だけになったばあちゃんの前に来ていた。


「手紙読んだよ。ばあちゃんの好きだった水、汲んでくるから待っててな」


 そういって俺は縁側から庭に出て、隅にある井戸へと向かう。

 爺さんがこだわって作った神様の休憩所、と称した小さな庵。

 その隣にある井戸。人感センサーに反応したのかパッと明かりがつくと、井戸の周りは白い光に包まれる。

 時代劇に出てくるような昔ながらの井戸。俺は井戸のふたを開けて、釣瓶を落とす。

 縄の重みで水が十分に入ったことを確認すると、縄を引っ張って釣瓶を上げていく。


「飲んだら元気になるんだよ~神様だって大好きな~お水~お水~いらんかね~」


 水売りの歌、と教えられて小さなころからじいちゃんばあちゃんと歌った歌。

 それを歌いながら釣瓶を上げて、水用のポリタンクに移し替えようとした時、突然周りが金色の光に包まれた。


「なんじゃなんじゃ、どうした! 無理やりわっちを呼び出すなんぞ無理しおって! これだけの力を注がれたら扉もしばらく繋ぎっぱなし、水も完全に変わってしまうぞちーちゃん!! ……って誰じゃお主」

 

 金色の光が収まった瞬間、何故か俺の目の前にいた女性が慌ててそう言うが、俺と目が合った瞬間きょとんとした顔をする。

 誰じゃお主、は俺のセリフなんですがね。


「俺は神代悟志。この家のもんだけど。君は?」


「おお! お主がちーちゃんの孫か! ちーちゃんから聞いとるぞ。食道楽に走っとる孫がおると」


 ばあちゃん、よくわからん子になに話しとるんですか。

 食道楽って、ただバイト代や給料をうまいもん食うのに使ってるだけじゃないか。

 ばあちゃんにもいい肉とかカニとか食わせてやったろうに。


「わっちはプラム。プラム・ウィータ。この世界とは異なる世界の神じゃ。よろしくな」


「ああ、これはどうも。改めまして神代悟志、神代千歳の孫です。よろしく」


 ……え? 神? 異世界? なんてなろうだ!!





「……なるほどのう。ちーちゃん、惜しい人間を亡くしたもんじゃ。どれ手を合わせるとするかの」


 とりあえずプラム様を居間に迎え入れ、お茶を出してばあちゃんが亡くなったことを伝えた。

 するとプラム様は慣れた感じで仏壇に向かい、線香を焚いてばあちゃんの遺影、遺骨に手を合わせる。


「お主のな、じいさんが死んだときもな。こうして手を合わせたんじゃ」


 しみじみとそう語るプラム様。ってことは長い付き合いなんだろうか。

 そう思っていたらプラム様が色々話を聞かせてくれた。


「あのな。庭に井戸があるじゃろ。あそこはこの世界の龍脈と呼ばれる、不思議な力の流れる場所の真上にあるんじゃ。それをお主のじいさんが井戸を掘るときにな、うっかり開いてしもうたんよ。ほんの少しの穴じゃったが、運がいいのか悪いのかわっちの世界と繋がってしもうてのう。わっちが慌てて来てみればわっちの世界の魔力と、それに触れたことで覚醒したじいさんとちーちゃんの魔力がうまいこと混ざっての。水が少しわっちら神々寄りになったんじゃ。どうやらそれが二人の異能じゃったのか、こっちの人間のケガや病を良くする力があるようでの。……まぁ、わっちらにとっては甘くておいしい水なんじゃが。あの、栄養ドリンク? とかいうやつに近いの。それ以来歌を歌って井戸に魔力を注げば水の力を維持できるし、わっちの世界とも繋がるからわっちに供物を捧げることで、わっちの加護とわっちの世界のものを与えることができるように……ってそうじゃ! 悟志! 井戸に魔力を注いだのはお主か! どえらいことをしてくれたのう。水が完全にわっちら神にとってのごちそうに変わってしまったぞ」


 んん? もしかして俺がさっき歌ったのって?

 でも確かに歌を歌って水を汲みはしたけど、それ以外に何か変なことをした覚えはないぞ?

 そう思っていたのが顔に出ていたのか、プラム様は一瞬なんじゃこいつ、といったような顔をしたが、すぐにはっとして俺に話しかける。


「悟志、お主井戸から水を汲むときになんかしたか?」


「ああ、ばあちゃんと昔井戸から水を汲むときに歌ってた歌を歌ったけど。それがなにか? ばあちゃんの遺言なんだ。無視できるわけないだろう」


「それじゃ! ああ~、そうかそうか。悟志、お主の魔力はよう見たらかなり質が高い。それこそわっちの世界でも3人くらいしかおらんくらいにはな。量は人よりちょっと多いくらいじゃが質が段違いじゃ。だからこんなにいいごちそうになったんじゃの」


「え? ごちそう?」


「おうよ! ……あ、悟志やっちまったの。人にとってもとんでもない水になっとるぞ。ちーちゃんの水でもほとんどのケガや病は治っておったのに。もしかしたら寿命を延ばしたり、若返ったりするかもしれんの」


 ……俺、なんかやっちまいました?





『おーい、悟志ー。はらへった』


 飼い犬のゴン太の声ではっと目が覚める。

 久しぶりにあの日のことを夢に見たなぁ。


「ああ、ちょっと待ってくれ。すぐ用意するから」


 ゴン太の頭を軽く撫でて、俺は寝ていた座敷から移動してドッグフードのある庵へ行く。

 きゃん、と鳴いてゴン太がついてくるのがわかる。


「あっ、悟志さん! ゴン太様のお散歩終わりましたよ~」


「ありがとうね、乃亜ちゃん。そうだ、井戸から水汲むから飲むかい? いっつも散歩行ってくれるから汲みたての冷たくておいしいやつ」


「プラム様にもあんまり出さない原液?! いいんですか? やったー!!」


 原液ってなんだね、のあちぃ。井戸水だよ井戸水。

 俺の力で? すごい効果をもたらすようになった水。

 最初は俺が病気になった時か、いつか家族ができた時にその家族のためだけに使おうと思ってた。

 でも、この井戸水に助けられた近所の人たちの懇願で、必要な時はこの水を使った料理をふるまうことになった。

 どうやら一回沸騰させると俺が触る前とおんなじくらいの効果になるみたいで。

 ひっそりとやっていこうと思ったんだ。

 でも、この話を聞きつけた藤田さんや政治家の重鎮で子供のころから俺に優しい阿蘇さん。

 政治家で井戸水に助けられた人たちがこぞってやってきてこう言ったんだ。


「悟志くん! 金なら出す! 税金かかったりしないようにうまいことやるし、絶対潰さないようにこまめに顔出す。なんなら貸し切りだってするから、店をやってくれ!!」


「お願いします!!」


 阿蘇さんの言葉に合わせてまあまあの年齢の政治家さんが頭を下げる。

 話を聞くと、実は大昔に帝様の病気も井戸水で治したらしい。

 そして、外国の政府関係者に恩を売るとか外交でも活躍していたそうな。

 色々な話を経て、井戸周り以外を建て替えて。

 男飯食堂、神代亭を開店することになったんだが。


「クルエラ・スヴァンヒルド、よろしく」


「雪村桃叶なのです、幾久しくよろしくお願いいたします」


「わ、私はプラム様の眷属として、あなたをお守りすることになったノアール・シロップサワーです! これからお願いしますね愛し子さん!」


 おばちゃんの一人でも雇おうかと思ったところでやってきた従業員たち。

 一癖も二癖もあるこの子たちとの日常は今までと違って刺激的。

 どこか退屈だった毎日は、色鮮やかに変わっていく。

 さあ、今日は何を作ろうか。

神代亭の執筆楽しいけど、睡眠時間ゴリ削りすぎて笑うw

今日はゆっくり寝れるぞ~。

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