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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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4/8

プラム様の眷属、下級神(本当は上級神)とおっさん

早く寝ようと思ったのにw

「オオガミくん、リステ坊! 久しぶりじゃのう!」


「ああ、プラムさんご無沙汰してます」


「プラムちゃん久しぶり~!」


 などと神代亭と深く関わる神がテーブルでもりもりと生姜焼きを食べていれば。


「ああ、助かった……。まだ勤めは果たせるようだ」


「そうですね~、世界のバランスのためにもまだまだ元気でいなくちゃ」


「店主、もう一杯こいつをくれんじゃろうか」


「これ結構強いから気を付けないとダメだからね?」


 と異界の神と店主である悟志に、同僚の来栖がカウンター越しでやり取りをしている。

 ちらりと横を見れば同僚である桃叶が


「これ、おいしいのです! さすが神代さんなのです! えべっさん、ありがとうございます!!」


「ええよええよ~、たくさんお食べ」


 と餌付けされている。

 今日の神代亭は特別営業。

 神様がいらっしゃる日だった。

 仲良く話す光景を見て、乃亜は思い出す。

 まだ眷属として神の末席に身を置く前のことを。





「ねぇねぇ、最終試験どうなるかな?」


「合格して、上級神さまの眷属になれるんだもんね」


「それでそれで頑張って中級神、上級神になって。目指すは特級神!」


「特級神なんてプラム様直属じゃん! 無理だよ~」


「夢見るくらいいいじゃない」


 精霊がスクールと呼ばれる場所で経験を積み、知識を付け、成長をすると力の壁が訪れる。

 それがスクールの最終試験。その壁を超えることができたらスクールの卒業はできる。

 試験を通過し、上級神が自らの元へ迎え入れた時。

 その神の眷属として精霊から神に至る。

 まずは誰か上級神の眷属になること、それが精霊たちの目標だった。


「ノアールはできたら何を担当したい?」


 同期の一人にそう尋ねられたノアールは少し考えてこう答えた。


「歌とか踊りとか、お芝居とか。芸術の担当したいかも!」


「ノアールはよく見てるもんね、そういうの」


「そういうサクラは何担当になりたいの?」


「私はね……」


 夢を語り合った同期も、試験を越えた先からは椅子を取り合うライバルで。

 上級神の勧誘期限が終わるまで、あれほど仲の良かった同期とも顔を合わせることもなく。

 ノアールは祈りの日々を過ごしていたが、現実は残酷だった。


「あ~あ、どうしよ」


 上級神から勧誘が来ることもなく、期限を迎えたノアール。

 上級神の元へお願いに行くか、それともスクールの特別枠でもう1年経験を積むか。

 そんな時に見かけたのは同期が上級神に連れられて歩く光景。

 上級神は芝居を司る神で、一緒にいるのは……サクラだった。

 仲のいい同期に奪われたような気がしたノアール。

 いいようのないショックに襲われ、さ迷い歩く。

 ふと気づいたとき、目の前にあったのは求人板だった。

 中級神が主に使うもので、精霊に経験を積ませる目的で手伝ってほしいことを貼り出す板。

 ぼーっと見つめていると一つ気になる求人を見つける。


 人の子の見守り

 期限:人の子が死ぬまで(最大百年)

 内容:傍で悪しきものから守ること


 人の子のそばで一回ゆっくり過ごした方がいいのかも。

 そう思ったノアールはその求人が書かれた紙をはがし、依頼人の元へと向かう。

 そこは特級神の上、管理神であるプラム様の居城だった。


「おうおう、ようきてくれた。わっちはプラムじゃ。お主の名は?」


「は、はい! ノアールと申します!」


 まさか依頼主がこの神界のトップ、プラム様だなんて……。

 と緊張しっぱなしのノアール、依頼内容について詳細が明かされると、とんでもない依頼だということに気付く。


「わっちの愛し子である異界の人間、そやつの元に行って、守ってほしいのよ」


「い、愛し子ですか?!」


 プラムの愛し子を見守る。

 それはどういうことか。

 簡単に言うと出世コースの王道である。

 本来なら上級神からじゃないと受けられないものだったが


「出世欲のために受けられても困るでの。あやつをちゃんと守れるやつがよかったのじゃ」


 とのことで幅広く門戸を開いていたのだった。


「よし、気に入った。お主に悟志を任すぞ。お主は精霊じゃな。ついてくるのじゃ。お主をわっちの眷属にする」


「えっ?! 眷属! いいんですか?!」


「わっちの眷属、その肩書がお主を色々な邪魔から守るじゃろ。なに、ほんの百年じゃ。でも、しっかり頼むぞ」


 という流れでプラム様に連れてこられた異界だったが。

 最初こそ緊張もした。しかし今では毎日が楽しい。

 足繁く上司であるプラム様が様子を見に来てくれて。

 異種族の友人もできた。何故か覚えてしまった夜更かしを怒られることもあるが、毎日が充実していた。


「すまない、遅れてしまった」


 その声に我に返る乃亜。

 声のした方へ顔を向けるとそこには美丈夫。

 いけないいけない、と仕事に戻る。

 そろそろお開きの時間で、待ちに待った夜食の時間だ。





「悟志さん、これ……」


「すげぇだろ? たっけぇ肉だ、これが。こいつを使って作るぜ」


 ――ハヤシライス


 慣れた様子で玉ねぎを切っていく悟志。

 さすがだなぁ、なんて乃亜が関心して見ていると悟志の手が止まる。


「あー! 目が、目が!!」


 玉ねぎの成分で目がやられたようで目をぎゅっと閉じている悟志。

 どうにもしまらないなぁ、なんて苦笑する乃亜。

 どうにか立ち直った悟志がなんとか玉ねぎを切り終えると、次は鍋に水を張って沸かし始める。

 その横でマッシュルームを刻むと、準備完了。

 鍋の水がお湯になるのを待つ。

 ぷくぷくと少し泡が浮き始めたら、フライパンを熱してマッシュルームと玉ねぎを炒める。

 ある程度フライパンの野菜に火を通したら、その頃には沸いているであろう鍋の火を止めて、ハヤシライスのルーを溶かす。

 最後、牛肉をフライパンに入れて混ぜ合わせるように炒めたら、それをルーの入った鍋へ。

 お玉で混ぜ合わせたら完成だ。


「これが俺のハヤシライスの作り方。鍋で全部炒めて水入れて、ってやってもいいんだけど。そうすると玉ねぎのシャキシャキ感が減っちゃうから俺はこっち。あと、今回はルーを使ったけどデミグラスソースの缶使ってもできるから。それはまたいつか見せるよ」


「はい、ありがとうございます!」


 何か簡単な料理はないか?

 乃亜にそう尋ねられた悟志は、最初たまごかけごはんを述べた。

 すると、この国じゃないと鶏卵って生で食べられないの知ってます?

 と真顔で返されて、次の料理を求められる。

 理由を聞くと、今度の土日に一度里帰りをする際に料理をふるまいたいとのことで。

 プラム様もこっちで日ノ元の料理が食べられるならと悟志に頼む。

 こうして選ばれたのがハヤシライスだった。

 ちなみにカレーライスは辛いのが苦手な人がいた場合、嫌な思い出を植え付けてしまうことになるので諦めた。


「じゃあ食べてみようか。パンとごはんどっちも合うと思うけど、どっちにする?」


 悟志の問いかけに少し考えると乃亜は


「パンで!」


 と返す。

 右手の親指を立てて了承の意を示した悟志は、バゲットを棚から取り出すとパン切り包丁で切って、オーブントースターへ。


「俺はやっぱり米だよな~」


 皿にご飯をよそって、ルーをかける。

 深皿に乃亜用のルーを盛りつけようとした時。

 やはりやってきたのは桃叶だった。


「ずるいのです! ……でも、えべっさんのおごりでチャーシュー丼食べてお腹いっぱいなのです。明日の朝ごはんで食べたいので、ももの分は残しておいてください」


 そう言うと桃叶は自室へと戻っていく。

 ちなみに来栖がなぜ来ないのかというと、賄いでうどんを作って食べさせていたからだ。

 本日のうどんは味噌煮込みうどん。

 半熟卵が味噌とうどんと絡んで心も身体もあったまる一品となっている。


「もも、何がしたかったんでしょうね?」


「さあ?」


 座敷に移動して、向かいあう形で座ると気を取り直して実食。

 乃亜がスプーンでルーをすくって口へと運ぶ。


「いただきます。はむ……」


 口に入れた瞬間、ルーが前に食べた時とは違う。

 おそらく牛の脂だろう。少しこってりしている気がした。

 具材を嚙み始める。

 牛肉は高いだけあって、やわらかく甘い。

 玉ねぎは、煮込んでいないせいか、シャキシャキとした歯ごたえがある。


「おいしい」


「……よかった~。失敗はしてないみたいだ。じゃあ俺もいただきます」


 そう言って、自分の分を食べ始める悟志。

 食べっぷりの良さに乃亜も触発されてどんどん食べるペースが上がっていく。


「ごちそうさまでした」


 あっという間に食べ終えた二人は疲れのせいか何も話さない。

 無言の時間、しかしそこに気まずさはなく、穏やかな時間が流れていた。


「くぅん」


 いつの間にか飼い犬のゴン太がやってきて、悟志に甘えだす。


「ゴン太~。今日も疲れたわ~。眠いわ~」


『でも、今日は俺の風呂の日だぞ? ちょっと休んだら風呂行こうな?』


「ゴン太、俺ちょっと寝るから少し経ったら起こして」


『おう』


 悟志の飼い犬、ゴン太は一度死んでいる。

 そして、犬としてのゴン太はもういない。

 なのになぜここに存在しているのか。それはゴン太もまた神だからだ。

 子供の悟志に看取られたゴン太。悟志の役に立ちたいと、犬神となった。

 修行の末、神となったゴン太は、神代亭の開店に合わせて子犬の姿で愛しい飼い主との再会を果たしたのである。


「あ、悟志さん寝ちゃったんですね。仕方ないなぁ、洗い物やりますか」


『悪いな、乃亜殿』


「いえいえ、いいんですよ」


 ゴン太の腹に顔をうずめている悟志を見て、全て察した乃亜は皿洗いを買って出る。

 ゴン太が悟志の代わりに感謝を伝えると、笑顔で返す乃亜。

 かちゃかちゃと皿を洗って、水切り場に置いておくと手を拭いて今日の仕事は終わり。

 このあとはお風呂入って、ちょっと調べものして寝るかなぁ。

 あくびを一つした乃亜も実は限界。悟志を起こさないように風呂場へと向かうのであった。





 そして翌日。


「おはようございます! わやー、まだ眠そうなご様子ですね? そんなに昨日って大変でしたっけ?」


 いつもの時間に目が覚めた店主。

 いつもの時間に桃叶が下りてくると二人で食事を始める。


「ん~、なんでだろ。そこまで大変な気はしなかったと思うけど」


「ちゃんと寝てくださいね? ホントに神代さんが元気じゃないと私が怒られちゃうんで」


 昨日のハヤシライスを無事朝食にできて、ご機嫌な桃叶。

 少し食べながら話していると、階段を下りる音が聞こえる。


「あ、おはようございまーす」


 座敷に入って声をかけてきたのは乃亜。

 すでに出かける準備は整っているらしい。


「朝ごはんは? 食べてくだろ? あいにくハヤシライスは品切れだけどささっと作って出そうか」


「いただきます!」


「了解、じゃあすぐ作るわ」


 そう言って食事を終えた悟志が厨房へ向かい、手慣れた様子で朝食を作り出す。

 冷蔵庫から焼くだけのハンバーグを取り出したのを桃叶は見逃さなかった。


「のあさんだけハンバーグずるいです! 私も食べます!!」


 土曜の朝、桃叶の声が家に響き渡り神代家の休みが始まった。


ハヤシライスってうまいですよね。

また今度作ってみようと思います。

デミグラスソースで。

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