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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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もものおたんじょうび(後編)

一瞬寝落ちして遅れました。

すまへん。

何回かぶりの日曜深夜ってことでひとつ。

「わ、これ神代さんが?」


「そうだよ~。悟志くんね、いそがなきゃいそがなきゃ! とか言いながら作ってたんだ~」


「別にいつもみたいに待ってたらいいだけなのにね~」


 手洗いうがいを済ませた桃叶を待っていたのは、瑠実と乃亜。

 それに桃叶の席の前にだけ置かれた皿たち。


「オムライス、覚えてたんだ……」


 いつか四人で見ていたテレビ番組。

 オムライスの店の特集を見て、そこで紹介されたドレスドオムライス。

 それを見てドレスドオムライスはすごく助かる。

 包むの苦手やねん。

 なんて言ってた悟志に桃叶は


「私はどちらかというとチキンライスを玉子で包む方に憧れちゃいますね」


 と返したことがある。

 悟志はそっかぁ~、確かにオムライスって言ったらそっちのイメージだもんね。

 ドレスドの方が楽だからそっちしがちだけど。

 とだけ言って話を終えた。

 そんな日常のほんの小さなやり取り。

 それを悟志は忘れていなかった。

 チキンライスじゃなくて、ベーコン使ったケチャップライスにはなったけども。

 仕方ない。ちょうどいい鶏肉が今日に限ってなかったんだから。


「ほい、瑠実ちゃんと乃亜ちゃんの分ね~。ちょっと俺は他に作るのあるから先に食べてな」


「神代さん、これ!」


「ああ、お誕生日おめでとう桃叶ちゃん。成人だね。ただあえて今日はお子様ランチを夜に持ってきた。大人だって子供のころの思い出に浸りたい時もある。子供のようにはしゃぎたい時もある。そういう気持ちや時間を我慢しなくていいんだよ。そう思って」


 悟志は桃叶が包むタイプに憧れる理由に、なんとなくだが気付いていた。

 だからそれを叶えるためにどうすればいいか考えた。

 解決したのはたった一つのシンプルな発想。

 今はこれが精いっぱい。

 桃叶にいつか教えて、って言われるまでにはできるようになっておこうとは思うけど。


「……はい。いただきます!」


「うん」


 厨房に戻る悟志を見送ると、そこから始まる三人の食事。

 すると厨房からウィーンという機械音。

 もしかして、もしかすると?

 のあさんの時のように?

 少しそわそわしていると乃亜がこっそり。


「買い物についていったんだけどね。生クリームを悟志さんいっぱい買ってたよ。料理に使うって言ってたけど絶対嘘。もものお誕生日のためだと思う」


 やっぱり!

 乃亜にはタルトだった。

 じゃあ自分には?

 そわそわしながら食べ進めていると、あと一口二口で食べ終わるくらいで悟志がこちらに近付いてくる音が聞こえる。

 私には何を作ってくれたんだろう?

 わくわくが止まらなくなった瞬間だった。

 ピンポーンとチャイムが鳴る。


「はいは~い」


 悟志が玄関へ向かうと、扉を開けて一言二言やりとりして厨房へと戻る。

 再び鳴る機械音。

 桃叶たちはえっ? と驚きを隠せない。

 疑問が解決したのはそこから十五分ほどあとだった。





「いや~、まさかこのタイミングでこれもらっちゃうとはねぇ」


 笑いながら再び生クリームをホイップする悟志。

 ケーキを持って行こうとしたタイミングで来た客。

 向かいに住む田崎さんだった。


「仕事でもらったんだけど、うちのに配ってもちょっと余ったからお裾分け」


 ということでフルーツミックス缶詰といちごをもらう。

 その瞬間ひらめいたのは二つ目のケーキ。

 末っ子はね、甘やかしちゃうね、仕方ないね。

 と厨房に戻って早速ケーキ作り。

 フルーツミックス缶詰をあけてシロップを切り、残ったクリームをスポンジケーキの下半分側に。

 フルーツミックスをクリームの上に乗せてさらにクリーム。

 上半分を乗せて、ホイップしたてのクリームを塗ると、いちごを切って乗せる。

 真ん中にフルーツミックスの残りを乗せたら完成だ。

 急がないと、桃叶が待ってる。

 ケーキを崩さないように慎重に皿を持つと今度こそ座敷に向かった。


「お待たせ~。誕生日って言ったらやっぱこれだよね。ケーキ」


 悟志が座敷の机にケーキを置く。

 すると待ちきれないといった様子で桃叶がのぞき込む。


「これもものです?」


「もものだよ。桃とベリーのケーキは別であるよ?」


 人生で三回目の製菓にしてはなかなかではないでしょうか?

 そう自分では思ったが喜んでくれるかな?

 少し不安になったが横にある桃叶の笑みを見てほっと胸をなでおろす。


「じゃ、桃叶ちゃんに切ってもらおうかな?」


 ケーキ用の包丁を持ってくると桃叶に手渡す。

 桃叶は少し戸惑いながらも十字に切り込みを入れて四等分に。


「もおー! 神代さんが切ってくれると思ったのに!」


「ああ、ごめん。自分の好きな大きさに切ってほしかったからさ」


 ちゃんと切れたことにほっと一息ついて、桃叶は文句を言うが悟志は笑って流す。


「ね、たべてみてよ!」


 乃亜の声掛けにフォークを手に取り一口。

 うん、何の変哲もないケーキ。

 ただ、どんなケーキよりも甘かった。

 それはきっといつか憧れたものだったから。


「みんなも食べよ?」


「いいの?」


「うん!」


「え~、もも食べなよ」


「だってもう一個ありますから。ね、悟志さん」


「あるけど、お腹いっぱいじゃない? 大丈夫?」


「甘いものは別腹ですから!」


 こうして誕生日の夜は過ぎていく。

 ケーキを食べて、お風呂に入る直前。

 洗い物をしていた悟志に呼び止められた。


「桃叶ちゃん、これ。プレゼント」


 差し出されたのはブラシ。


「え! ありがとうございます!」


 桃叶が来たばかりのころ。

 髪のパヤパヤさに驚いた瑠実。

 悟志にお揃いの何かが欲しいとねだって買ってもらったそれを思い出す。

 流行りのブランドはわからん。

 でも、自分が使っていいものだったからそこのブランドのにした。

 そう言って瑠実にはピンクの。桃叶には水色のハートの形をしたブラシを渡した。

 

 そのあとに乃亜が来たから、乃亜にもいずれ渡さないとなぁ。

 なんて思いつつも今回は悟志が使ってるものとお揃いのブラシをぽちり。

 くせ毛の自分の髪が最初の一回でだいぶ変わった神ブラシ。

 出会った頃よりも綺麗になった髪。

 その黒髪がもっと艶やかになりますように。

 そんな願いも込めて。





「もう終わっちゃうな」


『もう寝る時間だからな』


 風呂を済ませてベッドに入る桃叶。

 今日もゴン太は一緒に寝てくれるらしい。

 人生で一番だった誕生日。

 来年もきっと今日と同じくらい、それ以上に幸せな日でありますように。

 ゴン太を抱きしめて目を閉じる。

 いつしか桃叶は夢の中。

 その日見た夢は何故か瑠実たちとステージで歌って踊っている夢。

 夏目と梓。露羽に莉子。そして三人娘の七人で。

 色とりどりの衣装を着て、デビューする。そんな夢。


「友達が欲しかったんですぅ~」


 夢の中の自分が客席に向かって叫ぶ。

 そんな自分に寄り添ってくれるのは瑠実と乃亜。

 大丈夫だよ、だって今ね……大事なお姉ちゃんでもあり親友、仲間に囲まれて毎日楽しいんだ。

 そう語りかける桃叶の寝顔はとても幸せそう。

 こうして桃叶の誕生日は終わったのであった。


桃叶で始めたので、桃叶で一区切り。

次回からたぶん新章、って感じになるのかな?

といった感じです。

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