無防備な姿
今回短めです。
「あっ、しまった……」
買い物帰り、買った野菜を冷蔵庫にしまおうと袋から出していた悟志のつぶやき。
「どうしたの?」
座敷からひょっこりと顔を出す瑠実が声をかけると、瑠実の方を向いた悟志が答える。
「薬味ネギ二束買ったつもりがさ、一つニラだった」
くっくっく、と笑って冷蔵庫にしまうとそのまま夕飯の準備に入る悟志。
悟志もたまにはドジをするんだ、なんて思ってそのまま座敷でゴン太をもふる瑠実。
桃叶がやってきて、ずるいと言いながらゴン太を撫でようとし、乃亜は夕飯を作る様子を覗きにキッチンへ。
いつもの夕方、今日も変わらぬ時間が過ぎていく。
そんな出来事が起きて、二日ほど経った本日。
夕飯を終えて、風呂も済ませて、それぞれが思い思いの時間を過ごしていたころ。
悟志はキッチンに立っていた。
理由は単純、小腹がすいたから。
「……おなかにおにくついちゃった」
と恥ずかしそうに告白した瑠実に合わせて、悟志も夜の炭水化物を控えるようになった。
今日は豆腐に茹でた豚と玉ねぎのスライスを乗せて、しょうがと酢と醤油を合わせたものをかけて食べた。
瑠実以外は刻みネギも乗せて、ごま油も少々。
乃亜と桃叶にはちゃんとご飯と味噌汁を。
物足りなそうな桃叶にはごはんの上に肉味噌を乗せて。
ただ、こんなヘルシーメニューだけではおっさんは足りないのだ。
「そろそろ肉味噌とチャーシューも使い切らないとなぁ。あ、ニラあるからニラ玉いいな。米はないから……」
「ラーメンですね」
声に驚いて振り向くとそこには袋めんを持った桃叶が。
「ごはん足らなかった?」
「いえ、夜ごはんはお腹いっぱい食べましたよ? でも時間が経っておなかがすいたのです。そだちざかりだからえいよーがいるのです!」
恐ろしきは十代の食欲。
自分も今の桃叶くらいの頃はとにかく食べていたなぁ。
などと思いながら、悟志は桃叶が手に持った袋めんを見る。
「桃叶ちゃんも食べるなら、手早くさっと作りますかね。座敷で座ってな」
「はい!」
『桃叶殿、寒いからあったかいの着ないとダメなんだぞ』
「えー、ゴン太さまが温めてくださいよ」
『仕方ないな~』
いつの間にかやって来たゴン太と座敷へ向かうのを見送ると、気持ちを切り替えてキッチンへ。
冷蔵庫から玉子とニラ、肉味噌を取り出しておくと鍋に水を入れて沸かし始める。
「さてさて、準備しときますか」
まな板を取り出して、ニラを切ると皿に移しておく。
玉子を二つ割り、かき混ぜていると鍋の水が沸く。
今日のラーメンはしょうゆラーメン。
袋から麺を取り出して、鍋に入れると、スマホで時間を確認する。
ここから三分。しっかり麺を茹でていく。
「今のうちに丼用意しとくか……」
棚から器を出すと、給湯ポットのお湯を注いで温めておく。
これをやっておくことでラーメンがすぐ冷めない。
レンジで肉味噌を温めていたら時間だ。
火を止めると、丼に入っていたお湯を捨てる。
麺だけ先に丼に移して、再び鍋を火にかける。
再び沸騰すると、弱火に変えて溶き卵を入れてかき混ぜる。
その後すぐにニラを入れて混ぜながら火を通していく。
火を止めたら粉末スープを鍋に入れて溶かして、丼に移す。
最後肉味噌を乗せて完成。
「はい、できたよ~」
「わ~、ありがとうございます!」
丼と箸を持って、座敷に行くと横になってこたつにもぐりこんでいた桃叶が身体を起こす。
「いただきます」
「おあがりなさい」
冷えたキッチンにいたせいか少し身体が冷えたみたいだ。
自分の分を作る前に少し休憩を……。
悟志もこたつに入って暖を取り始める。
ゴン太がそれに気付いて悟志の横にてしてし歩くと、身体をすり寄せてから伏せる。
そんな様子を横目に桃叶が早速一口。
「おいしい!」
「そりゃよかった」
悟志に麺類を作ってもらったことはたくさんあれど、袋めんは数えるくらい。
しかも丼に麺を入れて、卵を落としてお湯を注ぎ、三分待って食べるものが多かった。
久しぶりの袋めんでこんなに手の込んだものが食べられるなんて。
桃叶は夢中になって食べ進める。
「……ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わると満足そうにそう言う桃叶。
ふと悟志の方を見ると、そこにはゴン太を枕に眠る悟志の姿があった。
「神代さん、起きてください。風邪をひいてしまいますよ?」
「ん~……」
桃叶の呼びかけに寝がえりで答える悟志。
どうしたもんかと考えていると、一緒に寝ているはずのゴン太の声。
『多分しばらく起きないから、桃叶殿はごはんの皿を洗ったら寝るといい。俺がついてるから大丈夫だぞ』
「あ、じゃあお言葉に甘えて」
ゴン太の言葉通りに食器を洗うべく席を立つ桃叶。
キッチンで洗い物をして、そろそろ寝ようと部屋に戻ろうとしたのだが……。
その前に、と座敷に置いてある衣装ボックスから毛布を取り出して悟志にかける。
「お疲れ様です。また明日」
そう言って、座敷の電気を消して出ていく。
とんとんと階段を上がっていくと気付く。
悟志が今までどれだけ眠くても自分の前で寝ることは一回もなかったことに。
無防備な姿を初めて見せてくれたような気がして、それがなんだか嬉しかった桃叶であった。
あ~あ、明日から本業大変なんだろうなぁ。




