突然な説明回とおっさん
なんだかんだ書いちゃうよね。
楽しみにしてるって声があると。
作品タイトルとあらすじを変更いたしました。
話としてはおっさんが男飯ふるまうだけって筋は変わりませんのでご安心ください。
「お、なんじゃ今はノアールだけか」
「あ、プラム様!」
ある日の営業後、客席の片付けをしていた乃亜。
いつものように厨房裏の扉から入ってくるプラム様の声に反応して顔を上げる。
「もうメシは済ませてしもうたか……、残念無念」
一人で片付けをしている様子から、賄いを食べ終わったのかと残念そうにするプラム様。
乃亜から返ってきた言葉に大喜びする。
「あ、悟志さんが今日はパスタ作ってくれるんですよ! ベーコンブロックないわ! ってくるぴゃんと買いに行ってるだけで、もうそろそろ戻ってきますよ」
「ホントか! やったぞ! 今日の夜は行けそうにないからの。昼は食べたかったんじゃ」
「シーフードがダメならベーコンかウィンナーしかねぇな?! って私を気遣ってくれたんですよ」
「ほー、そうかそうか。よかったの」
穏やかな表情で乃亜を見つめるプラム様。
机を拭く様子を見ていると、悟志たちが帰ってきた。
「乃亜ちゃん、片付けありがと! 今から作るからもうちょっと待っててな~」
「ってプラム様! ねぇ、プラム様来てる!」
「邪魔しとるぞ~。悟志、今日の昼はパスタらしいの! 楽しみにしとるぞ!」
ぱたぱたと悟志の方に向かうプラム様と、それを見送る乃亜。
目の前の机を拭き終わると、手にしていた布巾を洗いに厨房へ。
洗った布巾を干そうと裏口から庭に出ると、日向ぼっこ中の悟志の飼い犬、ゴン太が昼寝をしていた。
穏やかだなぁ、思わず笑みがこぼれると厨房から漂ういい匂い。
あ、悟志くん、私のパスタはシーフードもベーコンもよ~ろぴっぴ~!
なに、そんなことが許されるのか? ならばわっちの分もそれで頼むぞ!
なんて来栖とプラム様の声が聞こえると、乃亜も
「あ、悟志さん! 私の分のパスタはベーコン鬼盛りで、チーズ入れてください!」
とおねだり。チーズ?! え、そんなこと許されるの?!と驚く二人。
「ああ、乃亜ちゃんは魚介類苦手みたいだし、ベーコンは多めにするつもりだったから。チーズもたぶんあった。おっけー!」
「悟志、わっちの分にもチーズを。な?」
「悟志くーん? 従業員は、しっかりたっぷり甘やかさないといけないんですけど~。だから私もチーズ欲しいな~って感じ!」
プラム様と来栖がそれぞれ追加のおねだりをするがそれに悟志は
「悪いね二人とも。このチーズは一人分なんだ」
と髪型が特徴的で嫌味な小学生みたいな言い方でかわす。
乃亜は知っている。実はまだチーズがたくさんあることを。
自分だけのちょっとした特別。プラム様には申し訳ないが、嬉しい。
「それに来栖ちゃんにはシュークリーム三つも買ったでしょ? 我慢しな」
「おい、クルエラ! そんな特別扱いされてさらにチーズまで求めるとは、欲張りすぎてはおらんか?」
「それはそれ、これはこれ! あと、私は瑠実! 悟志くんがつけてくれた来栖瑠実って名前があるんです~。その名前で呼ばないで~!」
シュークリーム三つ?
それは“暗黙の了解”のやつだよね? ね?!
と圧を来栖に送る乃亜。
来栖はその圧に気付いて、一瞬乃亜に視線を向けるとふいっとそらす。
やっか? お、やっか? 甘味のためならやってやんぞ?
そう思った瞬間、店の扉が勢いよく開く。
「間に合ったのです!」
厨房にいた四人が何事かと扉の方を見ると、少し息を切らせた制服姿の桃叶の姿があった。
「まったく、何やら嫌な予感がすると思って急いで帰ってきたら。やっぱりそうだったのですよ。今日の賄いはいつもと違う特別なやつ! そうですよね、神代さん! そんなおいしいごはんをこっそり食べるなんて! これだから大人はよ……」
ぷりぷりとまくしたてながら店内に入るとみんなのいる厨房へ向かい、手を洗う桃叶。
呆気に取られて、行動停止している四人を尻目にハンカチで手を拭いて、従業員用の座敷に座ると
「そだちざかりだからえいよーがいるのです! ももにも今日の賄いを作ってほしいのです!」
と笑顔で言うのであった。
「それではみなさん手を合わせてください、いただきます」
「「「いただきます」」」
乃亜の先導に従っていただきますを言う女性陣。
悟志は稀にある夕方の貸し切り営業のために仕込みをしていた。
普段なら断っているが、相手が相手のため断れない。
何かと便宜を図ってくれる人からの頼みなのだ。
さらには言い値でよいとのことで、正直ぼったくる。
幸いにも料理は任せるとのことで、手間のかからないチョイスができた。
「それ食って少し休んだらテーブルにコップと箸置いてってくれな」
厨房から声をかける悟志。
ほとんどが食べるのに夢中で聞いていない。
そんな中、一人だけ返事をしたのは乃亜だった。
「はい! 確か今日十名様でしたよね?」
「うん、十七時半に来てだいたい十九時ごろに解散になるって。そのあと入れ替わりで神様が軽く食べに来るから」
神様、の言葉に反応したのがプラム様で、軽く食べにくる、に反応したのが来栖と桃叶だった。
「なに?! 悟志、その神ってのはどいつじゃ? 何時くらいになるかの?」
「神が軽く食べにくるってことは!」
「ちょっといいお夜食なのです!!」
基本的に神代亭の営業日である平日は、学生である桃叶以外一日二食。
朝と夜だけで、昼は営業終わりに軽くつまめる程度のものを食べるくらいだ。
これは学生である桃叶に合わせた。
朝は悟志と二人で食べることが多いが、起きることができたら全員で食べる。
夜はなるべくみんなで食べよう、難しいならせめて誰か一人は一緒に食べよう。
桃叶が一人で寂しく食事をすることがないように。
桃叶が神代家に来た時、来栖と話してそう決めたのだ。
夕方営業がある場合、営業後に遅めの昼食を摂って、夜に軽く食べることになるのだが。
一人は昼食を摂らずに、桃叶と一緒にしっかりと食事をする。
今回は悟志がその番だった。
「へい、腹ペコガール。いくら神様がおおらかだからって毎回ごはんをたかるんじゃあないよ! うちが食べさせてないみたいじゃないか」
悟志が喜ぶ二人をたしなめる。
貸し切り営業後の夜二十一時から二十二時頃、神がこっそりとやってくることがある。
悟志の許しがないと口にできない水を求めて。
その際、人の食事に触れるのもよいと何かを食べていくのだが。
神様相手のお供え物、と意識をしてしまうとメニューも作り方も丁寧さを意識してしまう。
そんなメニューを私も食べたい、とわがままを言った邪神。
そいつは置いといて、神様の姿をこっそりと見ていた巫女の桃叶に、数百年前のことを思い出した神は優しく声をかけ、同席させて自分の食べているものと同じものを出すように悟志に言った。
その時の様子が神様のネットワークで伝わったのか、神たちが桃叶を孫のようにかわいがるようになった。
無論、桃叶も巫女である以上それが恐れ多いことだとわかってはいる。
わかってはいるが、やめられない。だっておいしいんだもの。
何故か身体の調子がよくなるんだもの。
なんてやり取りをしていると全員の食事も終わり、貸し切り営業の準備へ。
「桃叶ちゃんも今しっかり食ったし、晩メシは軽くでいいかな?」
「あ、神様といただくので大丈夫ですよ」
「神様にたかる前提じゃん……」
そうぼやく悟志だったが、仕事は仕事。
貸し切り営業の準備を進めて、客を迎える。
今日の客は政治家先生。大きな党の党首や重鎮たちが集まる場を用意するのだ。
「それでは、本日も始めていきますか。生きる屍会、本日の幹事は私、阿蘇次郎でございます」
風格のある男性が席を立ち、周りに向けて軽く頭を下げると、着席した面々も着座で礼をする。
「我々を救ってくださった神代千歳さんが亡くなられてしばらく経ちますが、お孫さんの悟志くんが、井戸を守ってくださることとなりました。隣にいる武市香苗くんはこの場が初めてということで、他の皆さんはご存じかと思いますが、改めてこの生きる屍会と井戸について説明させていただきます」
そう言って阿蘇が語り出すのは何故悟志の元に巫女の女子高生や邪神と呼ばれたもの、神の眷属がいるのか。
その理由でもあるものだった。
「今から六十年ほど前。この土地を買われて家を建てようとした神代夫妻は、井戸が作れそうだということで土を掘っておりました。井戸は無事作れたのですがその時、土地の下にあった龍脈に触れたことで異界の神さまとの繋がりができてしまったのです。また、それは神代夫妻にも異能への覚醒をもたらすこととなりました。その結果、掘った井戸の水は決して尽きることがない、味はただの澄んだ水ですが、神代夫妻が認めた相手にのみ人々のケガや病を治す万能薬へと変わる特別な水となったのです。そこからはひっそりと異界の神さまやこの世界の神さまとの関わりをもっておられました。先々代の帝様が一度大きく体調を崩された折、我が国の守り神であり、初代帝様の祖先でもあるアマツキオオカミ様からのご神託で、神代夫妻のお力を借りて快癒されたのです」
阿蘇の話を聞きながら盛り付けをしていた悟志だったが、帝様のくだりは全く知らなかった。
えっ、マジで? と思いつつ、話を聞く方に集中する。
「それ以降、神代夫妻は政府の要人となられました。ご列席の皆様も私も命を助けていただいたと思います。助けられたということは、我々は国をよくするために生きるべき人だと認められたということ。本来ならもう屍となっていた年寄りではありますが、恩に報いるため、この国のために全ての垣根を越えて力を合わせようと皆様のお力も借りて生きる屍会結成となったわけです」
驚く武市とは対照的に神妙な顔をして頷く老人たち。
「最後になりましたが神代源蔵さんが亡くなられ、この度千歳さんも亡くなられ。この国を守るための大切な力が失われようとしておりました。ですが、先ほど申し上げたようにお孫さんである悟志くん。彼が井戸に触れたことで千歳さんたちと同じく覚醒され、井戸の水が神代夫妻以上のものとなり、引き継がれました。独断ではございますが、日ノ元最大の反社会的勢力、広域指定暴力団神守組。全国の警邏本部と連携し、現在直接的な暴力について表裏両面から彼を守っております。また、日ノ元の妖関連については代々神主や巫女でありながら陰陽師の家系でもある雪村家より次女の桃叶さんが、外国、異世界についてはバティーカ市国より、クルエラさん、異界よりノアールさんにお越しいただいて対応しております。この国ではクルエラさんが来栖瑠実、ノアールさんが澤城乃亜と名乗り戸籍も作っております。ご了承ください。この国のため、彼については超法規的措置で対応いたします」
おう、と野太い声が店内に響く。
その声を聞いた阿蘇はにこりと笑い、こう言った。
「ありがとうございます。それでは食事にしましょう。本日の食事は“井戸水”にだしの素と酒、みりん、醤油少々をぶちこんだだけの雑なつゆで食べるしゃぶしゃぶです」
三人娘の名前が全部出そろったところで次は乃亜回になります。
多分すぐ書いて更新されるよ!!




