甘いものって、好き?
ギリギリ間に合った!!
「わ~、チョコがいっぱい! 私チョコ好きなんだよね~」
三人娘で訪れたショッピングモール。
その一角にあった特設コーナーに瑠実が目を奪われる。
「ああ、そういえばもうそんな時期ですか」
什器に貼られたPOP広告の文字を見て納得する桃叶。
しかし、この国に来て、この世界に来てそろそろ一年といった瑠実と乃亜には何のことだかわからない。
きょとんとする二人に桃叶が少しお姉さんぶって説明する。
「毎年二月十四日は愛と感謝を伝える日で、好きな人やお友達にチョコレートをお渡しするんです。だから……」
ピンクの包装がされたチョコと、黄色の包装がされたチョコを手に取ってレジに向かって会計をする桃叶。
「はい、るーさん、のあさん。ちょっと早いですけどハッピーな一日を」
買ったばかりのそれを手渡す桃叶。
少しぽかんとしてそれを受け取る二人。
次の瞬間、桃叶をぎゅっと抱きしめる。
「もも、ありがとう!」
「私、こういうのはじめて!」
「神代亭三人娘の長女ですから? 妹のお世話くらい余裕ですよ」
ストレートに喜びの感情をぶつけられて、少し照れたように瑠実と乃亜の礼に返事する桃叶。
お返しといった様子で二人もそれぞれにチョコを買って交換会めいたことになったのだが。
帰り道、ふと乃亜が思いつく。
「ねぇ、悟志さんにもチョコわたそうよ! できたら手作りで。そんで悟志さんびっくりさせよ!」
「乃亜、それいい! じーにあす!」
「神代さんもきっと泣いて喜びますよ!」
「確か当日は悟志くんはゴン太ちゃん連れて、近くの保育園で子ども食堂やるみたいだからおやつの時間まではいないはず。その時に作ろう!」
「「さんせー!」」
そんなやり取りを経て、迎えた当日。
三人娘はキッチンにいた。
「さ、やっていこ!」
「うん!」
気合十分の瑠実と乃亜に対して、桃叶は少し申し訳なさそうな顔をしている。
「ちょっともも、そんな顔しないの。誰にだって怖いものはあるから気にしないでいいんだよ?」
もも、実は火が怖いんです。
色々なチョコのレシピを調べている中、湯煎などの工程が必要だと知る三人。
おずおずと桃叶が切り出したのが、火が怖いということ。
熱いものが苦手なこと。それは猫舌、という意味ではなく、過去に親の手伝いをしようとして火傷をした結果火にかけられたものに恐怖を感じることとなった。
男飯で育ったせいか分量を量るのが苦手な乃亜と瑠実。
どっちにしろちゃんとした製菓には向かないね~と、何かできることを動画サイトで探していた結果。
見つかったのだ。
大喜びでこれにしようと決めて、早速材料を買いに行った三人。
包丁でカットするだけで準備完了のため、瑠実がそれを担当することに。
「まさかお菓子のパイでミルフィーユができるなんて思ってなかった」
乃亜のつぶやきに、頷く二人。
そう、今回三人が作るのはホイップ済の生クリームといちごとお菓子のパイで作るミルフィーユ。
パイの上に生クリームとカットしたいちごを乗せたものを三段積む。
手軽にできる、特別なこともないのにちょっといい感じ。
これが三人の心を掴んだ。
「悟志くんにさ、私たちが一個ずつ作ったの渡してさ。あとは食べちゃお。どうせ余るし」
「さんせー!」
「いいですね、甘めのココアでお菓子パーティーしましょ!」
きゃあきゃあと騒ぎながらミルフィーユを作っていく三人娘。
一方その頃悟志はというと……
「はーい、うどんだよ~」
「おじさん、ありがとー!」
保育園の園庭に用意されたテントで料理をしていた。
ことの発端は保育園の保護者会。
色々な事情から子供への食育ができない家庭がある。
何かできることはないだろうか。と常連の一人経由で相談を受けた悟志。
そんなものは家で何とかしろよと思ったのだが、その話を聞いたゴン太がそわそわし始める。
子供好きなゴン太が堂々と子供と遊ぶには何か誰もが納得する理由がないとできない。
世知辛い世の中だが仕方ない。
ゴン太のためだと思って一肌脱ぐことにした。
なぜ自分の店を使わないのか。
これを当たり前だと思ってほしくないからだ。
阿蘇に水買ってよ、と言えば今回の経費も全てペイできる。
しかし、与えられるのが当然だと勘違いしてほしくない。
あくまでこれは今回限りの特別だ。
それを知らしめるために言い出しっぺの保育園に場所と機材を提供させる。
一家庭当たり子供のお菓子代程度は負担するが、それ以上に関しては悟志が地域貢献と割り切って出す。
そういう約束だった。
「わー、ゴン太はやーい!」
『かけっこ楽しいな!』
ゴン太は喜び、子供と庭駆け回り、大人は平日の昼限定営業の神代亭の料理が食べられて大喜び。
土日はぐーたらしていたい、特別営業以外に動きたくない。
そんな悟志だったが、家族の笑顔を見て、たまにはいいかとふっと笑った。
「ただいま~」
『楽しかった~!』
片付けも保育園に任せて、食事の提供を終えると家路につく悟志たち。
少し車を走らせて、愛すべき我が家に戻ると三人娘が出迎えてくれる。
「おつかれさま~」
「悟志さんに見せたいものがあるんです」
「キッチンに来てください」
そう言って悟志の背中を押してキッチンへと向かう四人。
キッチンにある小さな机、そこに置いてあったのはお菓子。
「今日はあの日ですから。私たちから神代さんへ」
「悟志くんへのささやかな気持ち」
「手作りだけど、受け取ってくださいねっ!」
桃叶、瑠実、乃亜。三人娘の手作り。
そうか、そういえばそんな日もあったなぁ。
縁がないから記憶から消していた。
「ありがとう。めっちゃ嬉しい」
「私たちが一個ずつ作ったんだよ。誰がどれ作ったかわかるかな~?」
「この一番デカいのは桃叶ちゃん。それだけはわかる」
「えっ、なんでわかるんですか?」
「ももはいっつもたっぷり乗せがちじゃん」
三人娘と悟志。
笑顔が、贈られた菓子のように積み重なっていく。
悟志は久しぶりにこの日を大好きな特撮の最終回を見る以外の楽しい記憶で埋めた。
夕食後、悟志は一人キッチンに立つ。
子ども食堂の際に保護者の方に聞いたレシピを試すために。
チョコとバターをレンジで溶かして混ぜて、卵を入れて混ぜて、薄力粉を入れて混ぜて。
またレンジにかけるとサクサクの食感がするラスクとケーキの中間みたいなものができるよ。
乃亜のおかげというべきか、乃亜のせいというべきか。
製菓に興味を持った悟志はすぐやってみようと行動に移す。
手早く作業をして、最後粉砂糖をかけていると三人娘が集まった。
「チョコの匂い! これは私たちへのお返し!」
「まったく、神代さん来月のお返しの前にもこんなサプライズをするなんて!」
「こんな時間に甘いものなんて、悟志さんは何て罪深いことを! でも私たちが許します。さあ、早くそれを!」
「サクサクなんだって。味見してないけどそれでもいいならどーぞ。生クリームもたっぷりかけちゃいな」
わかる人にはわかるネタをぶち込んでますw




