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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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26/30

お疲れ様。

間に合った~!

「今ごろ悟志くんはお経? っての聞いてるんだろうね~」


 座敷のこたつで横になり、スマホを見ながらぽつりと呟く瑠実。


「そうですね~、帰ってくるのは夕方みたいです」


「晩ごはんの買い物してから帰ってくるんだって。今日の夜はなんだろね~」


 そのつぶやきに反応した、同じくこたつでまったりしている桃叶と乃亜。

 本日は悟志の祖母、神代千歳の一周忌法要ということで、礼服姿の悟志は昼前から家を出ていた。

 ゴン太も悟志と離れているからか、どこか寂しそうに瑠実の横で丸くなっている。


「ゴン太ちゃんもそんな寂しそうにしないの~。悟志くんはお出かけ中だけど、私たちはちゃんとそばにいるでしょ~?」


「ゴン太さま、お散歩行きますか? 外の景色見たら少しは気が紛れるかもしれませんよ?」


「ね。お日様浴びてたくさん歩いてお昼寝したら、きっと悟志さんもすぐ帰ってきますよ」


 気落ちしたゴン太を慰めるように瑠実がゴン太の背中を撫で、桃叶と乃亜が散歩に誘うと、ゴン太は目を開けてすくっと立ち上がる。


『そうだな~……、散歩いく』


 てしてしと歩き出すゴン太を見て、三人娘も少しほっとした様子。


「じゃ~あ~、今日はみんなでお散歩いこうね~!」


 そう瑠実が呼びかけると


「あ、私アウター持ってくるね! るーみん、もも。部屋入っていいならついでに取ってくるけど?」


「じゃあ、のあさんお願いします。ももはゴン太さまのハーネスとリード用意しますね」


 と乃亜と桃叶もそれぞれ応えて動き出す。

 こうして瑠実も自室に戻ってアウターを着ると、三人と一匹で普段より長めの散歩に出かけるのであった。





「ふぅ……」


 セレモニーホールの控え室、そこに悟志はいた。

 自分じゃどうすればいいのかわからなかった一周忌も、千歳が亡くなった時と同じように向かいの家に住む田崎さんが段取りをつけてくれた。


「あれからもう一年かぁ」


 千歳が亡くなり、プラム様と出会った晩。

 井戸の光に気付いた田崎が様子を見にきた。

 勝手に玄関先で対応しようとするプラム様を見た瞬間に平伏する田崎。

 ここで神代家のご近所付き合い、を田崎から初めて聞かされたのだった。

 神代家の向かいの田崎も、田崎も下で働く人間も、一度は千歳の井戸水に命を助けられている。

 両隣も、斜向かいの家も命に係わる大病の際、千歳に助けられ、寿命を全うしている。

 国会議員の藤田だっていつか脳梗塞で倒れた際には千歳が「見舞った」

 結果、後遺症も再発の恐れも全くない、年相応に健康な老人として退院した。

 その他、千歳の井戸水に助けられた人間は国内外に数多くいて、恩を返したがっている人間がかなりいる。

 だから、何かあったら頼ってくれ。

 千歳さんに返せなかった恩をお前に返せば、きっと千歳さんも喜んでくれる。

 井戸の水は人生に一度起きた奇跡、そう思えばもう頼れないことにも諦めがつく。

 そう言う田崎にプラム様が放った一言。


「おう、田崎。悟志はどえらいやつじゃぞ。ちーちゃんの力を引き継ぎよった。それだけじゃない。悟志の方が井戸水の力がすごい。ちーちゃんの時はそのまま飲めてた水が、沸かすなりなんなりせんと人の身には強すぎるくらいにはな」


 その一言を聞き、田崎が慌てて色々なところに電話をかける。

 全て神代家に関する大事だ、用事なんてあろうが知らねぇ、すぐ来い。

 相手が電話に出るなりそれだけを言って切り、次の相手へかける。


「悟志、悪いけどここに人を集めさせてもらう」


 普段悟志や千歳には穏やかな田崎が真剣な表情で言った言葉。


「は、はい」


 それに悟志はこう答えるしかなかった。

 あの日から全ては始まった。

 あのあとは……、ソファにもたれかかり、天井を見上げながら振り返ろうとすると声がかかった。


「悟志、もうそろそろ行こうか」


「あ、もうそんな時間ですか。行きましょう」


 田崎の呼びかけに、悟志は身体を起こすと立ち上がり、ホールへと向かう。

 入口には阿蘇、藤田からの供花が。

 翌日に控えた選挙の追い込みで、参加できないことを電話で詫びられたがそれは仕方ないこと。

 田崎含めた、子供のころから世話になってる近しい人だけで一周忌が始まった。


「南無大慈大悲救苦救難……」


 数珠を手に挟み、唱えられた経を聞きながら目を閉じて一心に祈る。

 千歳がどうか、安らかに眠れていますようにと。

 一周忌が終わり、扉が開かれると、そこには色々な人が礼服姿で並んでいた。

 受付をしてくれていた田崎の秘書によると、焼香だけでもと駆けつけてくれたらしい。

 故人のためにありがたい、そう思い受け入れることにした。

 全ての弔問客が帰った後、田崎たちに法要弁当を渡す悟志。

 月曜の昼、店で改めてお斎をしましょうと言葉を添えて。

 こうして神代千歳の一周忌は終わった。

 




『……悟志だ!』


 散歩を済ませたゴン太は昼寝をしていた。

 その間、瑠実たちはかわるがわるお供えを届けに来た人たちの対応をする。

 そろそろ日が暮れようかという頃、車がバックする音が聞こえるとゴン太が目を覚ましてそう言った。


「あっ、本当だ! 悟志さん帰ってきた!」


 乃亜が窓から駐車場を覗くと、悟志の車が停まり、ちょうどエンジンが止まる。


『悟志!』


 玄関へと走るゴン太。

 ちょうど玄関に着いた頃に、扉が開く。


「ただいま~。おお、ゴン太。わざわざ出迎えに来てくれたのか」


『おかえり! おかえり!』


「おっと、ゴン太。飛びつく前にちょっと待て。清めの塩をかけないとな」


 飛びつこうとするゴン太を手で制し、悟志は玄関先に置いておいた塩を身体にふりかける。


『あっ、悟志! ちょっと待ってろ!』


 ゴン太がそう言うと家の奥に引っ込む。

 すぐに戻ってくると口にくわえていたのは守り刀の脇差。

 それを悟志に渡すと、お座りをする。


「これ守り刀じゃないか、どうすんだ?」


『しのびまんのけん! 抜いたらりーんて鳴ってどんよりがなくなるだろ?』


 どうやら正月に守り刀を抜いた時に起きた浄化めいた何かをさせたいみたいだ。

 ゴン太の言う通り、鞘から抜くとあの日と同じように空気が変わる。

 そして、どこか爽やかな感じがした。


「悟志くんおかえり~」


「ただいま。腹減ったろ、すぐメシ作るから」


「うん、ももがおなかぺこー! って」


「そりゃ大変だ。着替えたらさっと作るわ」


 瑠実の出迎えを受けるとすぐに自室に戻って着替える悟志。

 自室に持ってきていた買い物袋と共にキッチンに戻ると早速調理を開始する。

 今日のメニューはキーマカレー。

 ひき肉と玉ねぎがあればいい、スピードメニューだ。

 まずはフライパンで玉ねぎを炒めていく。

 炒めた玉ねぎがパウチで売られているが、あえてみじん切りされているものを買ってきて炒める。

 その後ひき肉を加えてさらに炒めると、ルーの箱にはトマトを入れるように書いてあるがそれを無視。

 代わりにトマトジュースをルーの箱に書いてあったトマトの分量より少し多めに入れる。

 軽く混ぜ合わせたらルーも入れて混ぜ合わせる。

 器にごはんと一緒に盛りつけると、急いで目玉焼きも作ってごはんの上に。

 

「ごはんだよ~」


「はーい!」


 待ってましたと言わんばかりの元気よさでやってくる桃叶。

 それに続いて瑠実と乃亜もやってくるとそれぞれ皿とスプーンを受け取り、座敷へ向かう。


「それじゃ、いただきます」


「「「いただきます」」」


 誰かと食べる食事。

 思えば千歳がいなくなって、一人で食事をしたのは建て替えの間に引っ越していた間だけだった。

 もし、一人だったらこんなにちゃんと料理をすることはなかっただろう。

 わいわいと話しながら美味しそうに自分の作った料理を食べてくれる三人娘。

 新しくなった家に戻ってきた次の日に瑠実がやってきて、そこから桃叶、乃亜と続いて。

 誰かがいる、それだけでこんなにも違う。

 そのことに感謝しながら悟志は先に食事を済ませると、自室へと戻る。

 今日は疲れた、風呂までゆっくりしよう。

 明日もゆっくり寝て過ごそう。

 そんなことを思いながら座椅子に座っているといつの間にか眠っていた。


「悟志くん、入るね?」


 とんとんと悟志の部屋のドアをノックした瑠実。

 何も反応がないことに心配になって一言断りを入れて悟志の部屋に入る。

 するとそこには座椅子のリクライニングを倒してスマホを手に持ちながら眠る悟志の姿。


「……もう、いつも頑張りすぎなんだよ~。いつもありがとね。お疲れ様、ゆっくり寝てね」

次回は時事ネタ拾っていきます!

なので14日にちゃんと更新しないとな~笑

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