だって私じーにあすだもん
安定の日曜深夜……。
「いやー、降ったなぁ」
『悟志! 白いぞ! 外が真っ白だ!』
「寒っ! 足冷たっ! ……今日ブーツにしよ」
悟志たちの住む国、日ノ元を襲った大寒波。
普段雪の降らない悟志の住む街も、今回ばかりは雪がちらつき、少し積もった。
雪の様子を見がてら、井戸水を汲みに行った悟志とゴン太。
学校に忘れ物を取りに行くため制服姿の桃叶も、ひょっこりと顔を出すがあまりの寒さに大声を上げる。
「雪も降ったり止んだりみたいだから、今は降ってないけど一応折りたたみ傘持ってっときな」
「あ、はーい。そうします」
「よし、じゃあ着替えたら散歩行くか」
『おう!』
「私も一緒に出ます~」
悟志の呼びかけにわんと吠えて答えるゴン太。
それに桃叶も続いて家へと戻る。
雪の日でも今のところ通常営業の神代家だった。
「じゃあ、いってきます。お店の営業までには戻ってきますから!」
「怪我とか風邪とかになったら大変だから、ゆっくりでいいよ」
『そうだぞ~、転ぶと痛いんだぞ』
二人と一匹が歩き始めて少し経った頃、ここで進む道が違うため桃叶とは一度お別れ。
挨拶をかわすと交差点の右と左で分かれて歩き始める。
『悟志ー、俺明日乃亜殿と出掛けてくるな?』
「ああ、そっか。異世界行くのって明日か」
帰り道、思い出したように悟志に予定を伝えるゴン太。
ゴン太がこの家に帰ってきてから、プラム様に頼まれてたまに乃亜を連れて出かけることがある。
それはゴン太の力を使って、乃亜にこの世界以外の世界を見せてやってほしいとのことで。
ゴン太は神になる前の修業期間、最後の仕上げとして異世界にいたことがある。
今でもその世界の人間と魔力を繋げたら、行き来ができると知った悟志。
いよいよファンタジー世界の一員になってきたなと内心喜んでいた。
ゴン太たちも悟志を守るという役目は忘れていないが、直接的な暴力に対しては悟志が家にいる限り問題はない。
私服、制服の警邏官が一時間に一回は必ず巡回し、異常がないか確認し、神代家の裏手には神代亭建て替えの際に一緒に何故かできた警邏官の独身寮。
また神代家の前に住むのは工務店と人材派遣会社の会長、が表の顔の日ノ元最大の反社会的勢力神守組組長。
井戸ができ、初代が助けられて以降、ずっと神代家を守り続けてきた男たち。
表裏一体となって神代家を守ることに力を尽くしている。
となると問題となるのは悪霊の類だが、実は三人娘のうち誰か一人かゴン太がついていれば問題ない。
瑠実も桃叶も明日は家にいるとのことで、安全は確保されていた。
先週は異世界からのお客さんが来て、一緒にうなぎを食べに行くはずだったが。
何故か馴染みのうなぎ屋の先代が異世界に興味を持ったため、古い屋台と共にゴン太と乃亜が連れていくことに。
あちらでうなぎを焼いて食べさせると言って、悟志たちは食べれずじまい。
ただ、その分悟志たちも普段あまりしないジャンクフードパーティーをしたのだが。
異世界に行ってお客さんを連れてくる一往復と、お客さんを帰して戻ってくる一往復。
ゴン太の力ではそれが限界だったが、先週は自分たちが行って戻る分しか使わずに済んだ。
そのことからもう一度来てもらえると思ったあちらの人間が、ゴン太と乃亜に助力を頼み、ふたたび異世界に行くのが明日であった。
「気を付けて行くんだぞ」
『おう、なんかあったらシェラタンの家で寝て帰ってくる!』
家に着くと、瑠実も乃亜も起きていた。
ゴン太の足ふきを瑠実に任せて、悟志は二人の朝食作りを始める。
こうして今日も神代亭の営業に向けて準備が始まった。
「観月さん、これお食べ」
「いいんですか? ありがとうございます~」
雪のせいか、本日の神代亭はまったり営業。
こういう日は悟志の悪い癖が出てしまう。
久しぶりの観月の来店、いつものごはんセット。
本日の小鉢はひじき。そこに足したのは刻みネギ入りのしょっぱい玉子焼き。
「わらわーらわらわらわらわらら~」
店内にいる客は観月のみ。
鼻歌交じりに野菜をざく切りにする悟志を瑠実はじっと見ていた。
「ちょっとー! にんじんは入れないでほしいなぁって……」
「一本だけだよ?」
「それでも嫌なの~」
嫌いなにんじんを入れないように見張ってた瑠実が、にんじんを手にした悟志に声をかける。
その様子を見ていた観月がぽつり。
「えっ……、来栖さんってにんじんダメなんですね。好き嫌いなさそうなのに意外」
「悟志さん含めてみんな割と好き嫌いありますよ」
「へぇ~、そうなんだ」
桃叶が観月にそう答えると、瑠実の強硬手段、にんじんを奪おうと悟志に近付く。
そうはさせまいとにんじんを持つ腕を高く上げて、背の低い瑠実が取れないようにする。
そんな二人の攻防を見守りながら食事を済ませた観月が店から出ると、ラストオーダーの時間。
現在ノーゲス、営業終了。
そのまま後片付けに入って、その週の営業を終えたのであった。
日付変わって翌日の朝、乃亜がゴン太を連れて異世界へ向かうと、残されたのは悟志と瑠実だけ。
桃叶は腕が鈍らないようにと、近郊の同業の手伝いをしに出掛けていった。
「こうして二人だけってのも珍しくなったよね」
「ねー、ゴン太ちゃんが来るまではずっと二人だったのにね」
座敷のこたつに入って緑茶を飲む二人。
しみじみと思い出を語り出す。
「あのさ、あれ覚えてる? 初めて外食に行った時のこと」
「本格カレー屋さんに行った時のこと? 覚えてるよぉ、思ったより辛くて甘酸っぱい牛乳みたいなやつたくさん飲んじゃった」
「そうそう、あの店さ。この前みんなが出かけてる時にゴン太の散歩で前通ったの。そしたら中華料理屋に変わってた」
「え~、潰れちゃったの~? えーん、悲しいんだけど~」
「俺もそうだと思ったの。寂しいな~なんて思って歩いてたらさ。普通に移転してただけだった。駐車場のある前よりもでかい店になってた」
「よかった~、大きくなってたってことはたくさんお客さんがいるってことだもんね」
そんなやり取りをしているとふと瑠実が思い出す。
「ねぇ、悟志くん! 私、あれ食べたい! ももが来る前の日の晩御飯! ごはんの上に野菜とやわらかいお肉乗ってた丼!」
「あ~、焼肉丼ね? あれやるなら直売所いかないとなぁ。今何時だっけ?」
「全然朝だよ! ね、食べたい~」
瑠実のおねだりに少し考える悟志。
しかし、答えは考えるまでもなく出ている。
「じゃ、買いに行きますか」
「やった~! じゃあ早く行こ!」
悟志がそう言った瞬間にこたつから出て喜ぶ瑠実。
悟志の腕を引っ張って外出を促すと、苦笑いで悟志も立ち上がって車へと向かうのだった。
「はい、じゃあ作っていきたいと思いまーす」
「わー!」
もう昼近いからと直売所の帰りに昼食を摂り、家に戻るとお互い昼寝をしたり、動画を見たり思い思いに過ごす。
夕飯の時間が近付き、なんとなく一階に降りると夕飯の準備を始めようとした悟志を見かけたため、瑠実は近くで見ていることにした。
「まずは味噌汁~」
小鍋をコンロの上に置くと、スーパーで買ってきたざく切り白菜をその中に入れる。
しめじと刻みあげも入れたらひたひたになるまで計量カップで水を入れて、火にかける。
だしの素を小さじで五杯、だしをしっかり効かせるのが悟志のこだわりだ。
時折かき混ぜつつ沸騰するのを待つと、鍋がぐつぐつ言い出した。
頃合いだと悟志が火を止めると、味噌を溶かす。
最後に乾燥わかめを入れたらざっくりと混ざるようにお玉を動かしてふたをする。
これで味噌汁の完成だ。
「シンプルに肉焼いて、野菜入れて、炒めてタレにからめるだけなんだよね」
コンロの上にフライパンを乗せて熱し始めると、そこにサラダ油を入れる。
油を引き終わると国産牛炒め物用と書かれたパックの封を破り、肉を炒め始める。
少し遅れて野菜を肉の入ったフライパンに入れて炒めると、塩コショウを振ってそこに焼き肉のタレ。
絡めるように炒めていくと完成だ。
丼にごはんを盛ると、その上に炒めた肉たちを乗せて、いりごまをぱらり。
「よっし、いい感じ。あとは~……」
冷蔵庫から半熟煮玉子を取り出すと半分にカットして、丼へ。これにて完成。
「できたよ~! 焼肉丼!」
「わ~! 久しぶりの丼だ~!」
瑠実が拍手をして喜ぶと
「じゃ、座敷に持ってくね」
と手際よく丼二つを座敷に持っていく。
それを見届けた悟志は味噌汁をお椀に盛ると、小鉢にひじきの煮物を入れて、お盆に乗せて持っていく。
まだまだ二人は帰ってこない。
久しぶりの二人での夕食だった。
「いただきます」
待ちきれないといった様子で、手を合わせてそう言った瑠実が箸を取って早速一口。
「ん~、……おいしい!」
「焼肉のタレで炒めたら絶対外れないよね」
笑顔でもぐもぐ食べる瑠実の姿に笑みを浮かべる悟志。
あのころとは違う、ぎこちなさもない温かい空気が座敷を満たした。
珍しくテレビを見ながらの食事。
グルメ番組の料理に感心する悟志と、どこにあるのかを調べる瑠実。
そんなこんなで食べ終わり、デザートのプリンを食べていると乃亜とゴン太が帰ってきた。
「……ただいま。疲れた……」
座敷に入ってくるなりそう言って、こたつに入って机に伏せる乃亜。
普段元気いっぱいなのに珍しい。
「お疲れ様~。ねぇ、大丈夫?」
「るーみんありがと。ねぇ、ホント疲れた! ……お腹すいた!」
「お帰り乃亜ちゃん。ごはん食べるでしょ、ちょっと待っててね」
「悟志さん、ただいまです。私すっごくお腹すいてるので超特急でお願いしますね!」
「はいよ~」
キッチンで洗い物をしていた悟志が、乃亜の夕食の準備を始める。
フライパンをコンロの上に置いたところで
「ただいま~」
と桃叶も帰ってきた。
これは急ぐ必要があるな。ひとまずお帰りと声をかけた悟志はペースを上げていく。
「るーさん、のあさん大丈夫です?」
あまりの疲れに今にも寝そうな乃亜。
それを見た桃叶は心配のあまり瑠実に尋ねると返ってきたのはあっけらかんとした言葉。
「大丈夫大丈夫、疲れすぎちゃって寝そうなだけだから」
「だったらいいんですけど」
「おかえりもも。お腹すいてるでしょ。ちょっと待ってね~」
こたつから出て悟志の元へ向かう瑠実。
予想していたとおり少しバタついていた。
「悟志くん、手伝うよ~。お肉と野菜炒めればいいんだよね?」
「えっ、大丈夫?」
手伝おうと声をかけた瑠実に対して、どこか心配そうな悟志。
心配ご無用と言わんばかりに胸を張って、瑠実はこう言った。
「大丈夫! 封印される前は料理もしてたし、お料理はできる方なんですよ~。だって私じーにあすだもん」
その言葉に嘘はなく、手際よく料理をする瑠実。
それを見て悟志は能ある鷹は爪を隠す、ということわざを思い出した。
「瑠実ちゃん料理できるじゃん! え~、じゃあ厨房の手伝いもしてもらおっかな」
「それは嫌かな~? だって、みんな悟志くんのごはんを楽しみにしてるわけだし~」
キッチンで並んで料理する二人。
三口コンロの真ん中で味噌汁を温め直し、左右のコンロで肉と野菜を炒める。
その様子を後ろから見ている桃叶。
「もも、もうすぐできるからね! 今のうちにごはん食べれるだけ丼によそっとくんだよ~?」
「ぴゃっ! は、はい!」
目の前のフライパンに視線を向けているから自分のことは見えていないはずなのに。
いきなり声をかけられて驚くが、素直に桃叶はその言葉に従って、自分の分のごはんを丼によそい、調理スペースに置いた。
「悟志くん」
「わかってる」
悟志が名前を呼ばれると、一度コンロの前から離れて、お椀を二つ。
真ん中のコンロで温めていた味噌汁がいい感じに温まっていたため、盛り付けたかったのだ。
ついでに乃亜の分のごはんも丼によそっておく。
そして、桃叶の丼の横に置いた。
「瑠実ちゃん」
「うん」
悟志と場所を変わると、瑠実は冷蔵庫からタッパーを取り出してふたを開ける。
棚から小鉢を持ってくると、そこに先ほど自分も食べた中身、ひじきの煮物を盛りつける。
それを座敷のこたつ机の上に。
キッチンへ戻ると、味噌汁が二杯。それも桃叶、乃亜の箸と一緒に座敷へ持っていく。
その後ろには丼を持った悟志が続く。
乃亜と桃叶のいつもの場所に丼たちを並べると、
「さ、ごはんできたよ~! 召し上がれ!」
どこかお姉さんのような温かい声色で、瑠実は二人に声をかけるのだった。
乃亜が疲れてた理由は「神代亭のおまけ/とある子爵令嬢の大逆転(前編/後編」をご覧ください。
次回は31日、もしくは2月1日です。
お楽しみに!




