寒い夜には
仕事がえげつなさ過ぎて、でかけたいところにも行けず泣きそう。
そして、眠れなくて変な時間まで起きてたせいで日中眠くて睡眠時間がったがた。
睡眠は大事!
強く生きような!!
「やあ、お邪魔するよ」
「悟志、この前はありがとな」
「お久しぶりー」
この日、神代亭には神が三柱。
オオガミとプラム様とリステ。
いつものメンバーである。
たまに悟志と酒を酌み交わすべく、こうして夜に神代亭を訪れる。
この日は三人娘もシャットアウト。
好きな飲み物やおやつを抱えさせて、神達の力で声も漏れないようにして時間を過ごす。
座敷で三柱と一人、あとたまにゴン太。
神代亭での色々な神との食事よりも気を遣わない、日ごろの疲れを癒すのんびりとした時間。
ちなみに本日ゴン太は桃叶の部屋。
『俺知ってるぞ、あの短いやつが棒とわっかのところにくるか、棒が二つのところに来たら寝ないといけないって』
「ゴン太様は時計が読めるんですか? すごいです!!」
などともこもこもふもふ。
『悟志が桃叶殿は頑張りすぎるから、俺が眠くなったらベッドに引っ張って一緒に寝ろって。休みだから早く目が覚めても、外が明るくなって空が青くなったのがわかるまで絶対出すなって言われたからな? ちゃんとごろごろしろな?』
「もおー! ちゃんと寝てるのに! 大丈夫ですよ~」
『……桃叶殿の上に乗っかるぞ』
なんてやり取りをしている頃。
下の座敷では準備が進んでいた。
「今日はこんな感じにしてみました」
悟志が皿を並べていく。本日のメニューはどて煮と大根おろしの乗った玉子焼き。
居酒屋メニューである。
「ああ、いいね。ありがとう」
この国の神であるオオガミ、嫌いじゃないが外国の料理よりはこちらの方が好きだ。
プラムやリステは美味ければこだわりはない。
だから、だいたいオオガミに合わせたメニュー選択になる。
「それじゃ、始めるとするかの。お疲れなのじゃ、かんぱーい」
「「「乾杯」」」
悟志が汲みたての井戸水を酒の瓶に詰めて、それっぽくしたものを神々に渡すと、自身は日ノ元酒を取り出して横に置く。猪口に注ぐと米の匂いがふわっと香る。
気を遣うことになるからと、この場は手酌。
自分に渡された井戸水をオオガミは猪口、プラムはゴブレット、リステはワイングラスに注いで乾杯をする。
さあ、始まりだ。
「……それで桃叶はどうだい? ちゃんとやってるかい?」
最近あった出来事を各々が報告しあうと、オオガミが悟志に尋ねる。
「ああ、桃叶ちゃん。ええ、毎朝お風呂でお勤めをした後、お風呂掃除してくれますし。最近はついでに洗濯機も回してくれてます。あと、自分からこれ食べたい、って言ってくれるようになって。今までは俺が仕込みや料理をしてる時じゃないと言わなかったんですけど。この前、後片付けしてる時に。どこか遠慮しちゃう子だから、それが嬉しくて」
「そっかそっか。よかった、よかったよぅ……。あの子はね、とっても優しい子なんだ。わかってると思うけど。寂しくてもずっと我慢してね、気遣って。だから誰から何と言われようと、他に適した人間がいようとも。君が井戸を引き継いで、ゴン太が神に至った時決めたんだ。この子をここに預けるって。どうせ他の神も誰か送り込むだろうから、あの子の寂しさ孤独を吸い込んで、あの子の悪い癖を嚙み砕いて。あの子がいつか欲しかったものを、きっと全部君がなんとかしてくれるって」
すんすんと鼻を鳴らしてそういうオオガミ。泣き上戸。
そして、桃叶のことを両親や悟志にも負けないくらいに気にかけている。
この国の守り神であるオオガミは神社でまつられる全ての神を統べる存在だ。
そんな神がたった一人の人の子を気にかけるなんて、と色々な神が声を上げた。
しかし、異界の管理神であるプラム・ウィータがこの世界の子である神代悟志を愛し子にした。
それに比べたら特級神である私が気にかけるくらい些細なことだろう。
ただ気にかけているだけなのだから、と返すと何も言えなくなった。
「全く……、オオガミくんは飲むとすぐ泣くんじゃから。悟志、ノアールはどうじゃ?」
いつものように泣きじゃくって井戸水を飲むオオガミを横目に、今度はプラム様が悟志に乃亜の様子を尋ねた。
「乃亜ちゃんも変わらず頑張ってくれてますよ。なんて言ったらいいんですかね。この世界で色々なものに触れて、この世界での暮らしを楽しんでると思います。あとは、桃叶ちゃんのいいお姉ちゃんになってますね。さっき話した、この前桃叶ちゃんが後片付けをしてる時におねだりしてきたってやつ。あの時もどうしてもうちょっと早く言わないの? 後片付けやり直しになっちゃうでしょ? って。ねだることを叱るというより、それに対する手間が余計にかかることを考えた? って感じで俺のことを考えて言ってくれました。まぁ、甘いものが欲しいってことだったんで、冷蔵庫に入ってたクレープ出してそれで終わりでしたから。後片付けもなにも、ごみ捨てといてね、で済むんですけどね」
「ほう、なかなか馴染んどるようじゃの。ええことじゃ。思えばちーちゃんが死んで。お主が井戸の水を強くして。そろそろ一年か。リステ坊に頼んでこの国以外のこっちの神にも悟志を守ってもらおうと来栖を呼んで。わっちの元からも使いを出そう、そう思ったときにわっちのところに来たのがノアールじゃった。あの子はな、本来じゃったら落ちこぼれ、みたいなもんだったんじゃ。もしかしたら今なお精霊として、ひっそりと神に至るために何かしらを修行などして生きていったかもしれん。悟志にわかるように例えると、専門的な技術を学んだ学校を卒業するけどその分野での就職先がない。別の学校に入りなおすか、他のところで働きながらチャンスを待つか、みたいな感じじゃの。ま、元々神に至るというのは狭き門じゃ。簡単にはなれん。落ちこぼれ、というのは例えじゃぞ? それでもあやつは諦めんかった。たとえ失意の中にいたとしても自分にできることを探して、一歩踏み出した。その勇気は、最初の一歩はどんなことより尊く、気高いものじゃ。わっちはそれを高く評価し、その一点において、わっちはノアールに敬意をもっておる。その結果、わっちという自分で言うのもなんじゃが最強のカードを手に入れて、大逆転じゃ」
どこか誇らしげにそう語るプラム様。
その様子を見て、リステがしみじみと語り出す。
「それを言うと、あの子はさ。本当は僕がもっとちゃんと見てないといけなかったんだ。僕の名前を使ったクズどもが、思うままにあの子を利用して。都合が悪くなったら、必要なくなったら封印って。馬鹿じゃないか。だからね、プラムちゃんが話を持ち掛けてくれた時嬉しかったんだぁ。あの子を誰も知らない場所で、名前を変えて、力は人の身体で扱えるだけまでに落とさざるを得なかったけど。最初からやり直せる。あの子が本来享受するはずだった幸せを千年越しに受け取れるって。ありがとうね、あの子とは一度食事をしたいなと思って声をかけたことがあるんだ。この国にある教会に神託を授けて、場所を借りて、食事を置いといてもらって、って思った。でも、乃亜やももと出掛けて、外で食べるとか。みんなでご飯食べるとかならあったかいけど、それ以外は冷たいから嫌。悟志くんのごはんよりもあったかいごはんなんて存在しないし、って断られたよ。よっぽど君の作るごはんが、君たちと食べるごはんが好きなんだろうね。そんな場所ができてほんとに嬉しいんだ。封じた力も必要ならさ。いつか、闇に飲まれないだけの強さが宿った時に返したいって思ってる。そうしてリステとは関係ないところで正しく力を扱って、今度こそ幸せに生きてくれたらそれでいいんだぁ……」
「安心してください。瑠実ちゃんは乃亜ちゃん、桃叶ちゃんのお姉ちゃんで二人を見守ってくれてます。普段はあんまり口出ししないですけど、本当に辛いときや大変な時にはそっと寄り添ってくれてます。もちろん、俺の力にもなってくれてますよ。店は瑠実ちゃんがいないとまともに回る気がしませんから」
少し悲しそうに笑って話すリステに、力強く答える悟志。
場がしんみりしてきた……、空気を変えなきゃ。
そう思った瞬間、頭の中で閃く。
「まだ、お三方食えますよね? もう一品作りますよ」
そう言って悟志は厨房へ向かった。
「……別に厨房使うこともなかったか?」
寒い厨房に立つ悟志。
そう、そうなのだ。
厨房、神代亭の料理スペースでやらなくてもいい。
神代家の調理場であるキッチンでも事足りた。
さらに言えば、居間があるのに何故か神代家の面々は神代亭の従業員用の座敷にいることが多い。
むしろ座敷が居間になりつつある。
これはキッチン、厨房どちらとも繋がっている利便性と、こたつと毛布があることであったかいし寝れる快適性の結果なのだが。
神代家の面々はどれだけ神代亭を好きなのか。
「ま、厨房の方が火力高いから早くできるし。うん、待たせるわけにはいかないからな」
そう呟いて納得させると早速調理へ。
土鍋をコンロの上に置いて、野菜とベーコン、ウィンナーを入れておく。
冷蔵庫の中にあったタッパーから中身を取り出して、上に乗せる。
昨日の夜に作ったカレーの残り。
今日の昼にカレーうどん! と騒ぐ瑠実に作って、食べさせて。
鍋からタッパーに移した、残り一人分あるかないかのそれを鍋に使うのだ。
横のコンロを使って、湯を沸かし、そこにはコンソメ。
ぐつぐつと沸騰したら、火を止めて、コンソメスープを土鍋に移す。
そして土鍋を火にかけて、ぐつぐつ言うまで温めると完成だ。
鍋掴みを両手に付けて、あつあつの土鍋を持ち座敷へと運ぶ。
「お待たせしました。カレー鍋です」
「ほー! これはなかなかうまそうじゃ! 悟志はすごいの。すぐにうまそうなメシを作る」
「鍋か、確かに温まるにはちょうどいいね。スープじゃなくて鍋なのがいい」
「オオガミさん、カレーは大丈夫なの?」
「カレーはもはやこの国の料理だよ。本格的なカレーは苦手だけど、この国のカレーなら私も好きさ」
悟志が鍋を持っていくと口々にそういう神たち。
確かにカレーはもはや独自進化を遂げた料理になりつつある、と悟志は思った。
「じゃ、わけていきますね~」
カレーの注意点は白い服につくと目立つということ。
唯一黒いシャツを着た悟志が取り分け役をかって出た。
「ありがとうの。それじゃいただきます」
取り分けてもらった器を受け取ると早速食べ始めるプラム様。
ちゃんと手を合わせていただきます言えてえらい!
「「いただきます」」
オオガミとリステも受け取ると二人そろっていただきます。
そして、ぱくりと一口。
「うん、おいしいね」
「辛いと思ってたけど、そんなに辛くないや。おいしい」
「辛くないからわっちもたくさん食べれるのじゃ。嬉しいのじゃ」
「ってかプラムちゃん、箸使えるの?!」
「練習したからの。リステ坊も使えるようになっとくと楽じゃぞ」
神々のやり取りを見ながら自分も一口食べる悟志。
うん、いい出来だ。
こうして神たちとの時間は過ぎていった。
「なるほど、そのあとに眠くなってみんな泊ってけよ~って雑魚寝をしたと。ゴン太様と寝るのとはわけが違うんですよ? せめてちゃんとお布団を敷いてあげてくださいよ」
翌朝、ゴン太から解放された桃叶が座敷で見たのは神々と悟志がぐぅぐぅと寝ている姿。
なにやってんのと悟志を起こして説教を始めると、神たちも起きて同じく説教。
「神様方も風邪ひかないからって無頓着すぎますよ? あと泊まる時はちゃんとお泊りセットを持ってきてください」
寒い冬にこたつと毛布、ファンヒーターだけで寝たことを咎められたと思えばどこかずれたことを言う桃叶。
そんな桃叶が面白く、一人オオガミはくすりと笑った。
なんか書きたくなったので神様回!
次は瑠実回になる予定!
更新は週末の土日どちらか、日曜濃厚!




