おめでとう
乃亜回です!!
繰り返し読んでくださってる方もいるとのことで、ほんまに嬉しいです。
「いくぞ、ゴン太!」
『おう!』
「いざ!」
『「合体!!」』
「……悟志さん何やってるんですか?」
座敷のこたつに入ってスマホを見ていた悟志と、その横に伏せていたゴン太のやり取り。
朝食のあと、散歩がてら買い物に行く、と言って出て行ったがいつの間にか帰ってきていた。
仰々しい言い方をしているが、悟志の背中に覆いかぶさるようにゴン太が抱き着いているだけ。
熱でもあるんか、こいつ。と若干呆れたように、たまたまキッチンにお菓子と飲み物を取りに来ていた乃亜が問いかけると、お茶をすすった悟志が答える。
「外見てみなよ。くっそ寒いと思ったら雪だし、風強いし、こたつに入っても足は温かいけど背中は寒い。だったらゴン太に温めてもらうしかないじゃないか。……あったけぇ」
『あのな、悟志がちっちゃかった頃はな、こんな寒い日はずっと俺と引っ付いてたんだ』
悟志に言われて窓の外を見ると空から雪が舞っているのが見える。
それに風がビュービューと吹く音が聞こえ、いかにも天気が悪いといった様相。
「いや、でもよかった。早めに買い物行っておいて。おかげで明日までは引きこもっても大丈夫」
ほっとしたように呟く悟志。
確かに、こんな雪の日に外に出たくはない。
瑠実と桃叶は一緒に動画を見ると言っていた。
私も混ぜてもらおうかな~……なんて思っていると悟志が気になることを言う。
「ま、だらだらするのもあれだし普段やらない料理でもしますかね」
「え、普段やらない料理? 何作るんですか?」
雑で大雑把な男飯だなんだと言いながら、すごい料理をさらっと作るように見える悟志。
そんな悟志が普段やらない、と言ってる料理。
それが乃亜の興味を引いた。
「それはお楽しみ。さ、そろそろやりますかね」
悟志は少し名残惜しそうにこたつから出ると、座敷から出て、キッチンを通り過ぎ、神代亭の厨房へと向かう。
その背中を見送ると、乃亜は気になる気持ちを抑えて瑠実の部屋へと向かうのであった。
「……ゴン太、乃亜ちゃんは?」
『大丈夫、気配はない。来たらすぐに言うからな』
「頼む」
小声でのやり取り。
悟志と瑠実、桃叶は乃亜へのサプライズを仕掛けようとしていた。
ことの発端は今年の営業初日であった月曜日のこと。
桃叶もまだ冬休みだったため、三人娘が揃って店に出た日。
営業を終え、乃亜がゴン太と散歩に行った時のことだ。
「おう、悟志。来たぞ~」
といつものノリでやってきたプラム様。
それをいつもの調子で迎える悟志と桃叶。
「あ、いらっしゃい。座敷どうぞ」
「プラム様、ゴン太様あったかいですよ」
「ああ、今日はええんじゃ。すぐ戻るでの。あのな、悟志。来週の頭、ノアールにとってめでたい日なんじゃ。本人には当日伝えるつもりじゃから口外無用ぞ? それでの、なんか祝いの品を作ってくれんか」
そんなプラム様からの頼み。
途中、瑠実も合流して詳しく話を詰める。
瑠実と桃叶が一緒にいる間に、悟志は一人で料理をする。
そして、プラム様が来たらお祝いをする。
今日はそういう流れになっていた。
「まさか俺がお菓子作りに手を出す日が来るなんてねぇ」
感慨深くそういう悟志。
自分は料理はしても、お菓子作りはしないだろう。
そう思っていた。
しかし、祖母の千歳が亡くなり、三人娘と暮らすようになって気持ちに変化が生じた。
今ならできるかもしれない。
そう感じた悟志は、めでたい日に挑戦をすることにする。
「材料は~……大丈夫」
厨房の冷蔵庫にはクリームチーズと生クリームとヨーグルト。
買い忘れに気付いたゼラチンも朝買って、調理台の上に置いてある。
材料を取り出すと、調理台の上に並べておく。
棚に隠しておいたクッキートルテ、いわゆるタルト生地も忘れずに。
ここからお菓子作りが始まるかと言えばそうではない。
先にやっておきたいことがある。
こんな寒い日でよかった。下手すれば冷蔵庫くらいに冷えた厨房。
だからこそ調理台の上に冷蔵が必要なものを置いたままにできる。
視線を少し横にずらすと白い塊。
キッチンペーパーに包まれた牛もも肉だ。
フライパンをコンロに置いて、火にかけて温め始める。
サラダ油を引いて、キッチンペーパーを剥がすとゆっくり置く。
二分ほど焼いたらトングで挟んで、次の面も同じく二分。
全部の面を同じように焼いたら、アルミホイルで包む。
一度フライパンを洗って、少し水を張って再び火にかける。
中の水が沸騰し始めた段階で、アルミホイルに包んだままの肉をフライパンの真ん中へ。
火を弱火にして、ふたをして二分。
火を止めたら、しばらく放置。
これであとはカットして、ソースをかければローストビーフができる。
一品完成。
さあ、メインに入ろうか。
悟志は気合を入れ直した。一方その頃三人娘はというと……。
「悟志さんが普段作らない料理するんだって」
と動画鑑賞をしつつも、乃亜が先ほどあった出来事を瑠実と桃叶にも共有していた。
「普段やらない料理? もしかしたら皿うどんってうどんがあるみたいなんだけど、それかな?」
「いいえ、るーさん。きっと牛すじの煮込みとか時間がかかるやつなのですよ。神代さんは意外とめんどくさがりですから」
悟志が何を作るのか、予想をする瑠実と桃叶を見て、乃亜がぽつりと一言。
「料理じゃないかもだけど、悟志さんお菓子作らないかなぁ……お菓子だといいなぁ」
そんな乃亜を見た瑠実と桃叶は
「ケーキとか意外と作ってたりするかもね~」
「そうだったらいいですね、のあさん」
と話を合わせるのであった。
場面を悟志に戻そう。
ローストビーフの仕込みを終えた悟志はお菓子作りを始める。
今回作るのはレアチーズタルト。
混ぜて固めるだけという手軽さが、製菓初挑戦の悟志の心を射抜いた。
さらに言えば、悟志はチーズケーキが好きだ。
だから自分でも作れるのなら、作りたい。
そんな気持ちが悟志を動かした。
まずは耐熱ボウルにクリームチーズを入れて、ラップをかけて電子レンジで一分。
取り出したチーズをひたすら泡だて器でかき混ぜて滑らかにしていく。
見たレシピにはしっかり混ぜること、と書いてあった。
素人の悟志にはよくわからないが、きっとこれが味を左右するんだろう。
ひたすらかき混ぜていく。
腕が疲れた頃にようやく満足のいく状態になった。
休憩がてらゼラチンを水でふやかしておく。
耐熱ボウルに、生クリーム、ヨーグルト、砂糖、レモン汁を入れて再びかき混ぜると、するすると混ざっていく。
ふやかしたゼラチンを電子レンジで溶かすと、これもまた耐熱ボウルに入れて、チーズたちと混ぜる。
これで準備は完了。
最後にクッキートルテに流し込んで、あとは冷蔵庫に入れて三時間以上冷やして固める。
「あれ? 余った?」
固まった後のことを考えて気持ち少なめに入れた生地。
なんということか、余ってしまった。
カップに移して、冷やして。ゼリーやプリンみたいな感じでいただこうか?
いやいやいやいや、レシピには余るって書いてあった。
その対策をしていないわけがない。
棚から取り出したのは小さいタルト生地。
せっかくだからと冷凍のブルーベリーも混ぜてタルト生地に注ぐ。
人に食わせるもんじゃないから、適当でいいやと、特に成形することはない。
これも同じく冷蔵庫で冷やしていく。
さて、用意は終わった。
一寝入りして、固まるのを待とう。
大きなあくびを一つ入れて、悟志はゴン太の待つ座敷へと戻っていった。
「ふぁあ~……」
しっかり寝直した悟志はスマホで時間を確認すると、すでに三時間以上経っていた。
よし、仕上げだ。
冷蔵庫のタルトはしっかりと固まって、どうやら無事に終えられたみたい。
真っ白な表面、そこに最後の手入れをする。
シロップ漬けの白桃と黄桃、しっかりシロップを切って、上に乗せていく。
これで完成。再びラップをかけて冷蔵庫で保存しておく。
次にローストビーフのソースだ。
大根の上の部分をすり下ろして、大根おろしを作る。
それを薄くスライスして皿に並べたローストビーフの上に乗せる。
フライパンで醤油、酒、みりんを混ぜたものに火を通すと、移し替えて、そこに酢を入れる。
ローストビーフもこれでおっけー。
あとは夜が来るのを待つだけとなった。
「ノアール・シロップサワー、おめでとう。今日がお主の立柱日じゃ。わっちの世界でお主は完全に神の一柱と認められた」
「うそ……。こんなに早くていいんですか?」
座敷で繰り広げられるプラム様と乃亜のやり取り。
立柱日というのは神としての誕生日。
世界が精霊から新しく神になったものを真に神として認めた日。
だから生まれた日と、神としての誕生日、神には二つ祝いの日がある。
精霊から下級神になって、少なくとも三年はなれない。
暗黙の了解でそういうものだと思っていた。
私は精霊から上級神になったから、もっとかかる。
と覚悟していた憧れを乃亜は掴んだ。
「おめでとー!」
「おめでとうございます」
「乃亜ちゃん、おめでとう。お祝いのごはん、作ったから食べよう?」
それぞれがそれぞれの形で乃亜におめでとうと伝えると食事の時間。
本日のメニューはピラフとローストビーフとスープだった。
「まだよくわかってないですけどありがとうございます!」
「これ、ローストビーフ。このソースに付けて食べてみて」
悟志に言われるままに、乃亜はローストビーフを一切れ。
程よい酸味がいいアクセント。美味しい。
ピラフもバターがしっかり効いているのに、重くない。
ただ、いつも食べてるチャーハンと似たような見た目なのはいただけないが。
こうして、プラム様を含めた神代家での夕食を終えた頃。
悟志が厨房からタルトを持ち込む。
「乃亜ちゃん、おめでとう。お祝いのタルト。作ってみた」
「えっ、悟志さんお菓子は作らないはずじゃ……」
「いや、まあね。せっかくだし作ってみようかと……」
照れくさそうにそういう悟志。
タルトに視線を落とすと悟志らしからぬ綺麗さ。
これを私のために……。
「え、悟志くんがお菓子作ったの?! だから雪なの?」
「ちょっとそれ俺に失礼じゃない? まあでも製菓は避けてたからなぁ。めんどくさいし」
「やっぱり神代さんはめんどくさがりですねー」
横から見ていた瑠実と桃叶が悟志を茶化す。
自分のためにやりたくなかったことをやってくれたのが嬉しかった。
少しうるんだ瞳で乃亜が悟志に問いかける。
「これ、なんのタルトですか?」
「ああ、これはね。レアチーズタルトって言うんだけど。シロップサワーのシロ、から色の白、を連想して。あと乃亜ちゃんの食器とかが黄色だから、俺の中で黄色担当でもあるんだよね。その黄色、を黄桃で回収したのあちゃんだけの仕様。名付けるなら、のあちぃずたるとじゃい!」
一瞬の沈黙。これが親父ギャグってやつか……。
「のあさんのあさん、早速食べましょうよ」
「ねえのあ! 私も食べていい?」
悟志のカバーで場の空気を変えようとする瑠実と桃叶の問いかけに、
「もっちろん! みんなで食べよ!」
と笑顔で答える乃亜。
賑やかな夕食の時間はあっという間に過ぎていった。
「悟志さん、ありがとうございました」
後片付けをしている悟志の後ろ姿に声をかける乃亜。
「いいよいいよ~。お礼ならプラム様に言ってあげて。プラム様が言ってくれなきゃこうして用意することもできなかったからさ」
「それでも、こうしてごはん作ってくれたのは悟志さんですから」
しんしんと降る雪。静かなこの夜。
それを破るのはやっぱりこの子。
「神代さーん、さっきのタルトって余ってないですか? そだちざかりだからえいよーがいるのです。甘いのがいいのです」
「ちょっともも! 悟志さんにわがまま言わないの!」
「ひえっ、のあさん! 違うんです、神代さんがいいって言ってくれたんです!」
お姉ちゃん……、桃叶を叱る乃亜に姉みを感じ、思わず笑みがこぼれた悟志だった。
ひとことだけ。
Happy Birthday.
マジで俺も製菓初挑戦でした笑
ついに製菓に手を出して、クッキング〇パ化が止まらないですねぇ。
いや、まぁそもそも料理のきっかけがクッキン〇パパなので望むところではありますが。
次回更新は週末、18日。
次回もお楽しみに。
読んでいただきありがとうございました!!




